第十四話
試験終了の合図が鳴った。
「――以上で、第三試験を終了する」
闘技場にいた受験生たちが、ようやく張り詰めていた空気を吐き出す。
だが、視線は一つに集まっていた。
そう。俺にだ。思わず苦笑してしまう。
(……めんどくさ)
小さく息を吐く。
さっきの戦いで、完全に目立った。
隠すつもりもなかったが、ここまでとは思っていなかった。
「全員、その場で待機」
試験官の声。
しばらくして、上段の観覧席に数人の人物が現れる。
ローブを纏った大人たち。
「……あれが教師陣か」
バイロンもその中にいた。
その一人である白髪の男が前に出る。
「諸君。まずは試験、ご苦労だった」
落ち着いた声。
だが、その一言で場が静まり返る。
「これより、結果を発表する」
空気が凍る。この結果発表で、将来が決まると言っても過言では無いからだ。
そして、名前が一人ずつ呼ばれていく。
「――合格だ」
「――不合格」
明暗が、容赦なく分かれていく。
泣き崩れる者や安堵する者。
そのどちらでもない者。
そして、あの少年の番がやってくる。
「アレクシス=ヴァルディア」
一瞬の間。
「……合格」
どよめきが起きる。
当然だ。あれだけの実力があれば流石にな。
だが、本人は不満そうだ。
俺に負けても合格したんだから、複雑な気持ちになるのも頷けはする。
「……」
立ち上がり、何も言わずにその場を離れる。
一瞬だけ、俺を見る。
悔しさと怒り。そして、僅かな執着。
(……あいつは"来るな")
直感で分かる。
「……次」
試験官の声が響く。
「ハレ」
一瞬の静寂が訪れる。
「――合格」
それだけだった。
だが、その一言で空気が爆発する。
「当たり前だろ!」
「魔石壊したやつだぞ!?」
「あの魔法なんなんだよ!」
ざわめきが止まらない。
しかし、次の言葉で、そのざわめきも遮られる。
「……だが」
その一言で、再び静まる。
白髪の男が、俺を見下ろす。
「君は――“例外”だ」
空気が、また変わる。
「測定不能の魔力量に加えて無属性系統の未訣階位魔法。そして、あの剣技」
一つ一つ、言葉が重い。
「通常のクラスには入れられん」
ざわっ、と揺れる。
「よって君は、特別編成クラスへ編入とする」
どよめきが、さらに大きくなる。
「特別……?」
「なんだそれ……」
「聞いたことねえぞ……」
俺は、少しだけ眉をひそめた。
(……なんだそのクラス)
バイロンが、観覧席から口元を歪める。
(やっぱり、そうなるよね)
白髪の男が続ける。
「このクラスは、学校の物差しでは測れない者のみが集められる」
その言葉は、静かだった。
だが、重かった。
「君のような存在を、通常の枠で扱うのは危険だ」
はっきりと言い切る。
「力を誤れば、周囲を壊す。だが、正しく導ければ……」
一瞬だけ、目が細まる。
「“世界を変える”可能性もある」
その言葉に、空気が凍る。
俺は、黙って聞いていた。
(……大げさだな。まあ、あながち間違いでは無いがな)
「以上だ」
試験官が手を下ろす。
「合格者は、明日より正式に入学となる。速やかに解散しろ」
その一言で、人が動き出す。
だが、俺の周りだけ、誰も近づかない。
そう、大事なとこだからもう一度言う。誰も近づかない。
(……あー、そうなるか)
思わず苦笑する。自嘲の感慨に浸ろうとした、その時だった。
「ハレ」
声がする。
振り向くと、バイロンが歩いてきていた。
「正式に、生徒だね」
「……そう、みたいですね」
バイロンは少しだけ笑う。
「君はもう、“普通”じゃいられない」
その言葉は、重くも無いし、軽くもない。
「自覚はあるかい?」
少しだけ考える。
そして、
「……まあ、なんとなくは」
正直に答える。
バイロンは満足そうに頷いた。
「いいね。その程度でいい」
そして、少しだけ声を落とす。
「特別編成クラス……通称“異端クラス”君みたいなのが集められる場所だ」
異端。
その言葉に、少しだけ笑う。
(……上等だ)
その方が、やりやすい。
「楽しみかい?」
バイロンが聞く。
俺は少しだけ考えて――
答えた。
「……まあ、退屈しなければ、なんでも構いませんよ」
バイロンは笑った。
「くくく……ははっ!……退屈はさせないさ。それは保証するよ」
すると、遠くからあの声が聞こえてくる。
「……おい」
振り向く。
アレクシスだった。
まだ、少しふらついている。
だが、その目は、死んではいない。
「……次は」
息を整えながら言う。
「次は負けねえ!」
俺は、少しだけ目を細める。
(やっぱり来たか)
そして、
「……そうか」
それだけ答える。
アレクシスは舌打ちし、そのまま去っていった。
バイロンが俺の頭を撫でながら言う。
「いいライバルになりそうだね」
俺は肩をすくめた。
「……めんどくさそうですけどね」
だが。
少しだけ。
ほんの少しだけ、悪くないと思ったのは少し驚きだった。
王立統合魔法学園。
その中でも最も異質な場所である“異端クラス”。
俺の新しい居場所は、どうやら普通じゃなさそうだった。




