女神様降臨
◆ ◆ ◆
サンサンと降り注ぐ陽光に、瞳をゆっくりと開ける。
あれっ、ボクは何をしていたんだっけ?
上半身を起き上がらせ辺りを見回すと、ボクは知らない草原の真ん中で大の字に寝っ転がっていた。
……そうだ、ボクはルシータとキスをしていたはず。
「初めまして竜崎司さん——」
声がした方を向く。すると確かに先程は何も無かった空間に、抜ける様な透き通った白肌で金と銀の碧眼である美しい女性がいた。また扇子で口元を隠しながら目尻を笑みの形にした状態で顔を覗かせてきている彼女は、赤味を帯びた長髪と同色である赤を基調とした豪奢なドレスに身を包んでいた。因みに歳は二十代前半ぐらいのようだ。
「ご機嫌ようございますわ。わたくしはマリアレーゼ=ベルフェッシモ。こう見えても女神をしてますのよ」
めっ、女神、様?
そして女神様の傍、いつの間にかなだらかな起伏がある草原の頭頂部には、大きなパラソルが立てられておりその下には丸テーブルと椅子が二脚用意されていた。そして女神様は優雅な所作で奥側の椅子に座ると、自身でテーブル上のポットから飲み物をティーカップに注いだのち口にしていく。
「竜崎司さん、こちらへどうぞ。紅茶を淹れましてよ」
そうしてボクは案内されるまま、女神様の対面にある椅子に座る事に。席に着くと、女神様が紅茶を淹れてくれる。そして勧められるまま紅茶を口にすると、女神様がその柔らかそうな口を開く。
「疑問に思っているでしょうけど、ここは夢の中になりましてよ」
えっ、夢の中。つまりボクは今寝ている?
「そしてこれから毎晩、眠るとこの夢の世界に貴女は呼ばれる事になりますの」
「えっ、それってどう言う事ですか? 」
「睡眠病、聞いた事はありますか? 」
睡眠病、最近ニュースでよく取り上げられているその病にかかると、眠ったまま起きる事なく死んでしまうと言う、何も解明されていない原因不明の恐ろしい病気だ。
「ありますけど、それが何か? 」
「この夢の中で死んでしまうと、現実世界では眠ったまま起き上がれなくなります。つまり睡眠病の原因とはこの夢世界での殺人になります。そしてこの夢世界を創造して、また殺人を行なっているのは藤堂怜と藤堂心愛の兄妹になりましてよ」
つまりその二人は殺人鬼って事? それより——
「要はボクは何をしたら良いのですか? 」
「竜崎司さん、貴女にはこの二人を止めて頂きたいのです」
うーん、急展開すぎて頭が。と言うかそもそも、ボクにそんな事が出来るだろうか?
「もちろん無償でやってと言っている訳ではありません。二人を止めたならば好きな望みを一つだけ叶えてあげましょう。そして一人では不安でしょうから、この世界の先輩、先にわたくしと契約しましたルシータ=ウィンボルドさんと共に頑張って頂きます」
「やぁ、ツカサ。ついさっきぶり、だね」
その呼びかけに後ろを振り向けば、ボクのすぐ後ろにルシータが佇んでいた。
「ルッ——」
思わずその場に立ち上がり、ルシータの名前を呼ぼうとして思い出す。先程ボク達はキスをしていた事を、先程ボク達は求め合っていた事を。
そんな感じで立ったまま固まっていると、ルシータはそんな事は関係なしでボクに近寄って来てボクを背後からハグして来た。
「ちょっ、ルシータ」
「ここは夢の中だからね。誰も見ていない、かな」
いや、絶賛女神様がこちらを見ているんですけど!
恥ずかしい、人前で抱きつかれるのって。匂いも嗅がれているし。
……いや、まさか、わざとルシータは人前で抱きついているのでは? わざと抱きついてボクの羞恥心を刺激しているのでは?
「御二方、時間が無くなってきましたわ。こうして人前に出るのは力を使いましてよ。ですからそのままで良いので竜崎司さん、聞いて下さい。ルシータ=ウィンボルドさんのように貴女にも、夢世界を冒険するための力を与えます。貴女はどんな力をお望みですか? 」
「えっ、それって、好きな能力を与えてくれるのですか? 」
「えぇ。その代わり自身に見合った能力しか習得出来ませんし、見合った能力でもすぎたる力はその力をセーブした形に落ち着きます」
「へぇー」
「その感じだと、なにかめぼしい能力がお有りのようで」
こんな事がいつか来るだろうと思ってずっと前から考えていたボクが望む能力。それは——
「はい、ボクが望む能力は、とある作家のキャラクター達を召喚して自身と同化させる能力です! 」
すると私を見据えている女神様の瞳が、七色に移り行く。
「なるほど面白い能力ですね、わかりましたわ。その能力を貴女に授けましょう。ただし能力的に多くの力を使い分けるようですので、一つ一つの能力はそこまで強くないかもしれませんので悪しからず」
「えっ、そうなんですね。原作通りの強さじゃないって事なんですね」
そこでルシータが顔をボクの隣に移動させる。
「ツカサ、ここで一つなにか、試しに召喚してみる? 」
「うん、そしたら回復魔法のスペシャリスト、『アルド=モードレッド』にしようかな」
「そしたら念じてみて下さい。さすれば召喚合体が出来るはずですので」
「わかりました」
ルシータがボクから離れてから、アルドの名前を頭の中で念じてみた。しかし何も起こらなかった。どうして? ボクには見合わない能力だった?
「竜崎司さん、どうやら男性キャラクターは性別が違うため出来ないようですね」
「そ、そうなんですね」
「えぇ、女性キャラクターでお願いします」
「わかりました」
お願いだから、成功して!
ボクは同じ女子高校生のボクっ子であり神気を操る『五条橋真琴』の名を強く念じる。すると斜め上方の空間にキラキラと輝く光の粒子が溢れ始め、そこからセーラー服に身を包むボクっ子真琴が現れた。そして降りて来た真琴がボクに重なると、溶けるようにしてボクと一体化する。
また一体化すると、ボクの服が真琴のセーラー服とショートパンツに変わり、髪の毛が胸の位置まで伸びた。
「へぇー、ツカサ凄いね。変身しちゃったね」
「うん、素直に嬉しい。あとコスプレしているみたいだよ」
そこで扇子で口元を隠している女神様が目に入る。女神様は瞳の色を七色に変えながらボクを見つめている。
「女神様、やりました! 」
「……えぇ、凄いですわね。この感じだと原作通りの強さですし、召喚合体していられる時間は一時間と言ったところですわね」
「えっ、原作通りの強さ、ですか? 」
そのボクの問いに女神様は首肯で応じた。
「ツカサ、キミの潜在能力が予想より凄かったって事のよう、だね」
そう言ってルシータがまたボクに、後ろから抱きついて来た。
「えっ、ボクってごく一般的な女子高生だよ。そんな凄い才能の持ち主ではないよ」
そこで女神様が開いていた扇子をピシャリと閉じる。
「そろそろ時間切れのようですわね。ルシータ=ウィンボルドさん、後はお任せしても宜しいですか? 」
「わかりました。夢世界の説明はこれから実際に探検しながらツカサに説明していきます」
「それではわたくしはこれで」
その女神様の声で、突然景色に一本の亀裂が走る。その亀裂は時間と共に増えていき、まるでガラスが砕け散るようにして景色が剥がれ落ちていく。するとルシータの部屋が現れた。しかしその空間は青やピンクの原色が使われたカラフルな物であり、ルシータの元の部屋とは異質な事を教えてくれる。ここが夢世界。
そこでルシータが抱きしめる力を緩めたかと思ったら、ボクの両肩に手を置きボクはルシータの方を向かされる。
「ツカサ、ここから先は危険だけど安心して欲しいかな。命に代えても守るから」
そうしてボク達は、これから広大な夢世界を探検する事になる。




