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2-20 ブラッディ・アメリ

「ふう、なんとか買えて良かったなあ」


 あれから、先に騎士団本部へ行き、今まさに公爵邸の夕食準備の手伝いのために帰らんとしていた調理人達を引き留める事に成功した。


 その足で酒屋まで行って、手持ちと同じだけの白金貨五枚分の酒とビヤ樽を冷やす魔道具をもう十セット無事に仕入れたのであった。


「ねえ、アメリ。

 一回の宴会の酒代だけで白金貨十枚、私の世界のお金でたぶん一億円ほどを使うって何なんだろうね」


「まあ滅多にない豪快な飲み会になりましたね」


「あのモフモフゲスト、ちゃんと宴会に来ているかしら」


「それよりも、あの大捜索の結末が気になるのですが。

 王族まで退避させられて、王宮が封鎖されていましたしね」


「もうそれはいいわよ。

 渦中の彼があれだけ人畜無害なんだから」


「それもそうですね。

 それよりも、私的にはあの高級酒の味が気になります。

 もちろん、サヤ様の故郷のお料理も」


「アメリ、今日はもう無礼講で好きにやってていいからね。

 飲み放題食い放題よ」


「では、御言葉に甘えさせていただきます」


「そうそう。

 あんたも慰労されるメンバーの数に入っているんだからね~」


 何しろ、前線にて私の回収係を務めていた、私の命綱でしたので。


 もし、チャックが本気であったなら、間違いなくこの方の御世話になる破目になってしまっていたはず。


 そして、辿り着いたその場では。


「おいどんは漢でごわす!」


 何故か、件のそいつが『腹芸』をお見せして踊っていた。

 元々、お腹は丸出しなんだけど。


「あ、サヤさん、来てくれましたか。

 なんかもう、『勝手に始めた方』がいらっしゃいまして。

 料理とお酒と材料をお願いします。

 今、騎士団の手持ちの酒と食料で凌いでいたところで」


 もちろん、それはモフモフなお腹にアートを展開されて、そこで踊っていらっしゃるアイツの事だよな。


「貴様らあ、ほんのちょっとも待てんのかあっ。

 いきなりだったんで、こっちにも準備とか段取りとかがあるんですからねっ」


「おう、サヤ。

 遅かったじゃないか。

 もう始めているぞ」


「おい、そこの酔っ払い(きしだんちょう)

 ゲストを連れていけとは言ったけど、誰が肩組んで先に出来上がっていろと言ったかあっ」


 だが、そこにもう一人、本当はいてはいけない男が反対の肩を組んで出来上がっていた。


「なあ、そこの王太子殿下。

 あんたは、そこで何をやっているんだああああ」


「そう固い事を言うな。

 サヤ、さっさと酒と料理を出せっ」


「もうっ」


 さては、このイケメンが騎士団長と組んで、この事態を招いたな。


 仕方がないので、まず宴会場と既に取っ払われている仕切りを挟んで地続きの、魔法演習場のような場所に『チャック』を据えて、エールを注ぐ係に命じた。


「悪いけど、ちょっとこっちをお願いね」


『イエスマム。

 国は変われども、宴の楽しさは変わらないようですね』


「そうだったか。

 とりあえず、ここを本作戦におけるエール陣地に制定する。

 聖女サヤの名において、ここの管理を君に任せる」


『イエスマム。本官から聖女マムの本日の健闘を祈らせていただきます』


「いや、酔っ払いどもが猛烈に突撃してくるだろうから、マジで頼んだわよ」


『お任せを。

 軍属ならばこの手の争乱に対する手管は心得ておりますれば』


 いずこも一緒か!

 もう頭が痛くなるな。


 そして空になったテーブルに、次々と暖かい料理を並べていく。


「サヤ、早くー」


 叫んでいるのはマリエールだ。

 何故、彼女が。


 だが、そんな事に構ってはいられない。

 客が押し寄せている。


 なんか冒険者らしき方の数が凄い!


「マリエール、これは一体?」


「どうもこうもないわ。

 実はたいした事じゃないのに大騒ぎになってしまった感じなので、あちこちの部署が困った挙句、ここへすべての始末を押し付けられたって感じよ」


「ええっ、マジでえええ」


 つまり、飲んですべてを水に流すと?


「だから、王太子殿下がここに来て弾けてるんじゃないの。

 誰か王家から来て慰労しないといけないムードだったから。


 まあ適材適所の配役ですけどね。

 あの人もいろいろあったからなあ。

 あの謎精霊獣と息ピッタリみたいだし」


「なんなの、その展開。

 そっちの方が謎だわ」


「とにかく、騎士団の冷蔵庫が完璧に空ッケツだから、早く材料出して。

 本来なら慰労される側にいるはずの回復魔法士も、何故か料理を作る側に回ってるし」


「お、おおっ」


 大慌てで材料を出しまくり、まだ食われずに無事だった冷蔵庫の中のプリンを、スペースを開けるために回収した。


 そして宴会場に戻って、残りの料理を出しまくり、それからフルーツポンチやサンドイッチなんかを出して会場で並べまくったが、それらが出す端から消えていく。


 まさに数の暴力であった。

 こんな経験は初めてだった。


 さっそくウインナーも焼きまくりだ。

 ウインナー用に用意しておいた各種ソースも、卓上調理器と一緒に人海戦術にて大慌てで並べていった。


「おいおいおい、これ全部で五百人くらいいねえ?

 あるいはもっと?

 これ絶対に料理とか足りなくね?」


 そして、アメリといえば冒険者に混じって楽しく弾けていた。


「よお、アメリ。

 何、またそんな格好をしているんだよ。

 また冒険者に返り咲きなのかあ」


「例の件で公爵家に引き取られたって聞いたんだがな。

 復帰したのか?」


「ああ、聞いてよ。

 そうじゃないんだけど、今度来た聖女様が楽しい人でさあ。

 あたし、その人の御世話をしているんだけど、それがもう楽しくてさ。

 今日もサイコー。

 愛してるわよ、あんたら」


 弾けてる。

 彼女が弾けている。

 やっぱり、元冒険者だったのか。


「ほお、鮮血のアメリがねえ。

 きっと、その聖女様がとてつもなく弾けた方なのに違いねえ!」


 アメリ、あんた……。

 でもまあ、そこの連中と来た日には、なんと迂闊な。

 この私の悪魔聖女の悪名を知らんとみえる。


 あんた達って、この前の騒ぎにうっかりと間に合っていたりしたら、私を別の意味で崇拝する羽目になっていたんだからね?


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