2-19 男おいどん
一心にタルトを味わっている、その方に私はお尋ねしてみた。
「ところで、あなたはどなた?」
「おいどんはサラスールでごんす」
「それはあなたのお名前?」
「さようでごんす」
「お種族は?」
「さあ、おいどんは一介の精霊獣でごんす」
「そう。して何故いきなり、ごんす?」
「さあ、もう忘れもうした」
一応、いかなる者かは(本人も含めて)知らないが、彼が精霊獣なる物なのは判明したし、さして問題にはならなさそうだ。
そして、一番大事な事は私と意思の疎通が出来て、なおかつモフモフな奴だという事である。
また一つ困った事は、彼は騎士にはあまり向いていなそうなので、いかなる理由をもってして我が家(公爵家)に連れ込むかだ。
この私自身だって、なし崩しに居候を決め込んでいるだけなのだから。
せいぜい、おやつ仲間がいいところだしなあ。
「ねえ、あなた何か特技は?」
「おいどんは男でごわす」
はいはい、彼的には男らしい男である事は特技なわけね。
言葉は通じても話は通じない系だったか。
ガルさんなんか、まだ話は通じていた方だからな。
これはどうしたもんかな。
「やや、サヤ様。そ、そやつは?」
「あらハッサンさん。
さあ、少なくとも今までわかった事は、彼の名はサラスール。
プリンとタルトは大好きよ。
あとは、うちの元軍属で感覚の鋭敏な護衛騎士が、彼を敵とは認めずに客人として私のサロンに通したっていう事くらいかしら」
「そ、そうでありましたか」
彼もそんなものを一体どうしようかと思ったらしいが、ハッサンさんは部下を二名置いて自分が一人を連れて上司を呼びにいったらしい。
彼らもあっけにとられていたのだが、私から訊いてみた。
「ねえ、あなた達。
どうやら問題はほぼ解決したらしいのだけれど、今夜の慰労会はやれそうなのかしら。
今ってもう夕方の四時くらいよねえ。
開催可否の判断が微妙に難しいわ」
「さ、さあ。
我々にはなんとも」
「白金貨五枚分のいいお酒を用意したんだけどな」
「白金貨五枚分⁉」
「たぶん団長的には、この有様なら一発で開催決定だと思うんだけどな。
公爵家の料理人の人達ってもう帰ってしまったかしらね。
そのあたりが問題だわ」
「そうか。その酒を無駄にするのはもったいないな。
それでは、我が騎士団は撤収を開始する。
サヤは今すぐ騎士団本部へと戻り、公爵家の料理人を確保してくれ」
「団長、いつからいたの⁉
というか、お酒は腐らないと思うけど。
エールも収納に入れておけば大丈夫だと思うし」
「サヤ。
日頃、苛酷な訓練に明け暮れる騎士団に、慰労会などという楽しみを与えてくれたことには団長として多大な感謝の意を示したい。
その反面、開催出来ないとなった反動は非常に厳しい。
というか、昨日ちょっと扱き過ぎてしまった上に本日がこれだからな。
可能ならば是非、本日中に部下の慰労はしておきたい」
「ああ、最後の部分が本音の偽らざる思いって奴ですね。
団長は正直で助かります」
「あとなあ、かなり強引に冒険者どもを動員してしまったのでな。
前回、冒険者が間に合わなくて悲惨な事になったので、そこは無理押しせざるを得なくてな。
無理やりに引っ張り出してきたので、彼らもこの有様を見たら怒るだろうな。
出来れば、彼らも呼びたいものだ。
食材に余裕はあるか。
あと、この前に不幸な巻き添えを食わせた近衛兵も呼ばんと後がなあ」
「うわあ、あれこれ前回から尾を引いていたんですね。
まあ追加の食材は仕入れておいたので足りるかもですが、それだけウワバミな方々を追加してお酒が足りるかしら。
高級酒が二百二十本にエールが十樽しかないんですけど」
それを聞いて団長が難しい顔をした。
やっぱりなあ~。
ここいら界隈のウワバミ御三家などと呼ばれる方々が勢揃いなんだもの。
それだと、騎士団の分しかないんだ。
「わ、わかりました。
じゃあ、私は今から追加分のお酒を買いに行ってきますから、その子の事をお願いします。
必ず騎士団本部まで連れてきてください」
それから草漢君に向かって言った。
「今から御馳走を食べに行きますから、その人と一緒に会場に来てください。
美味しいお菓子もありますからね。
わかりましたか?」
「おいどんに任せるでごわす」
本当に大丈夫なのかどうか、若干不安であったが、私にはお酒を買い集めるという重大な使命があるので。




