2-3 王宮へ
「サヤ、準備は出来たか?」
いつもとは雰囲気が違って、なんか輝くような感じの『正装』に身を固めたリュールさんがいた。
いつもの格好とは違って、儀礼的というか瀟洒というか。
こりゃあ完全に、金銀を贅沢にあしらった王子様装備だね。
ビラっとした装飾の他に、おそらくは公爵家の跡取りとしての地位を示す色や線も入っている感じだ。
ああ、イケメンが更に輝いていて、御尊顔が眩し過ぎる。
「はい、朝からご褒美ですね!」
私はマリエールに貰った神官服を着込んだ状態で、くるりんっと回ってみせた。
「ああ、そっちの格好だったか」
「そっちかって。
私が王宮なんてところへ来て行けそうな服は、これ以外では普段着と、あの全身鎖帷子みたいな回復魔士法仕様の戦闘装備しかないのですが?
なんたって王の御前ですからね」
「ああ、お前のためのドレスの一着くらい用意しておくのだった」
うん、この人って見かけはいいけど、自分が気の利かない朴念仁みたいな人だという自覚は持っていないのがいいところだよね。
この小夜様は、そんな細かいところまで心が行き届く嫌みな完璧イケメンなんかに用はないので。
そういう話をベロニカさんが聞いたら、また頭を抱えるのかもしれないが。
まさか、王宮から招集がかかったのに、公爵家が預かっている娘にドレスの一つも用意していないなんてと。
「後は、学校の制服しかありませんよ。
最初に着ていた奴です。
日本では、葬儀なんかも含めて、そういう表彰褒賞のような公的な出席の時でも高校生までは制服でOKですから。
というか、それが子供の場合は公式の場での正装なんです。
生徒だけで遊びに行く時などは、それを着ていないといけないと校則で決まってたりしますね。
みんな、特に守ってないですけど」
「そ、そうか。
まあ王宮へ行くので、あれもちょっと違和感があるなあ」
「何が王宮ですか。
初めて行った王宮なる場所で、あれだけの死闘を演じたのですから今更じゃないですか。
というか、私には単なる全体石造りのハードコアなダンジョンにしか見えませんよ。
いきなり背後からダンジョンの天井を突き破って、数十人いる騎士団が太刀打ちできないような怪物が降ってくる場所じゃないですか」
さすがに、現役副騎士団長にして、以前は王宮の住人である元第三王子様が苦笑していらした。
「まあ、そういうな。
父も、お前に会いたがっている」
「お父上はイケメンですか?」
そこが一番肝心ですからね。
子供達が皆イケメンなので十分期待がもてます。
自分、おじさん趣味はないのですが、一国の王にしてイケメンとなるとまた話は別ですから。
本日は、私のイケメンの年齢許容度についての考察が出来そうなので、少しワクワクしている自分がいますよ。
「本当に、お前はブレないな」
「聖女(暫定)ですから」
「それが何か関係があるのか?」
「いや、特にはないですけど。
それよりも副団長閣下、本日は私をきちっとエスコートするのです。
私はただの異世界人の少女で、王様の前での作法なんて何も知らないのですからね。
あなたがエスコートしてくれないというなら、軍属でガチガチの教育を受けて来たチャックにエスコートさせますからね」
「それだけはやめてくれ。
さすがに、今の破壊された王宮にアレを連れていくのは厳しい」
「あっはっは。
そういえば、そうでしたね。
あの子の名誉のために言うと、ブレスなんて殆ど吐いていませんよ。
あの子、誰も殺してませんし。
まあ敵以外誰も死んでませんしね」
「死ぬよりも酷い事になっていたような気もするが……」
「聖女の国には、こんなパワーワードがありましてよ。
『生きてこそ』
実にいい言葉です。
他にこんな言葉もあります。
『人は二度死なない』
まあ死んでも生き返ってきた不屈の副騎士団長が、私の目の前にいらっしゃるのですが」
「まあいい、行くぞ」
「チュールは連れていってもいいですか?」
「今日はアメリを連れていくからチュールは置いていってくれ。
今、王宮では魔物に対する風当たりが強くてな」
「そうか、残念ですね。
王宮は物騒なところだと摺り込まれてしまっていますので、あの子を連れていかないと、スカート姿でパンツを履いていないくらい心許ない気分です」
「まあそう言うな。
アメリはああ見えて凄い手練れだぞ」
「それは知っていますがね」
精神的には、少なくともあなたなんかよりも豪胆なタイプですからね。
どれだけ修羅場を潜ったら、ああいう人間が出来るものやら。
チャックと知り合ってからは、あの人は軍関係者ではないなと余計に思うようになった。
奴みたいな軍隊臭がまったくしないから。
騎士団なんかと比べても、やはり異質な感じのする強面だ。
やっぱり冒険者系なのかなあ。
あと、元犯罪者みたいな臭いはしない。
あれはなんというか、表の世界を歩いてきた強者のような匂いだ。
王道を生きてきた真っ当な人間だけが、あのように修羅場を前にしても私のような子供のために笑ってくれるような気がする。
「さあ、行くぞ」
「じゃあ、チュール。行ってきます。
おやつのシュークリームは部屋の戸棚に置いてありますから。
ああ、そういえばチャックは?」
『庭で趣味の夜間警備の続きじゃない?
彼、特殊なタイプの魔物で脳が幾つもあるから夜間でもずっと活動出来るんだってさ。
お蔭で夜が暇過ぎるからって、そういう事をして暇潰しをしているみたい』
「なんて不毛な。
あれだけ有能な従者もそうそういないものを。
そんな風にあの子を遊ばせておいたら、主である私の才覚が疑われてしまうような事象ですね」
『まあいいんじゃない。
アレ、本人が好きでやっているみたいだから。
じゃ、いってらしゃい』
「はーい、いってきます」




