1-57 帰宅
そして、私はチャックに命じリュールさんの傍に降ろさせて、訊いてみた。
「リュール、大丈夫?」
「ああ、よくわからん。
なんというか、妙に記憶がはっきりしないというか、真っ白な感じというか……なんだこれは」
あはははは。そりゃあ、あなた。
一回見事に死んでいますからね。
体内時計とかそういう物が完全にリセットされてしまっているか何かだな。
夜中に呼吸が止まってしまって仮死状態になっていて、朝に蘇った人なんかがこうなるのよね。
しかも呪いのアイテムで魂を砕かれるか何かの、異常な出来事を体験して。
一回確実に死んでいるから、もう完全に臨死体験だな。
まだその呪いのアイテムが効果を発揮するようだと危ないので、誰も触らぬようにそのアイテムは私が収納に没収しておいた。
「任務達成おめでとう、リュール。
他のみんなもご苦労様でした。
頑張ったわね~」
だがその聖女直々の優しい労いは皆から大変不評だった。
特に私の事をまったく知らない近衛兵の人とかには。
「頑張ったわね、じゃないすよ。
サヤ、鬼畜ですか、あんたって人は」
「いや、人じゃない。
きっとサヤはもう悪魔に魂を売ってしまったんだ」
「そういえば、さっきあの王子もそんな感じだったよな」
「やっぱり悪魔聖女になったのだ」
こいつら、なんという事を! よし。
「チャック」
私は、軽く自分の首を手でキュっと締めるような仕草をしてみせた。
この子はわかってる。
伊達に人に使役されていた訳じゃないようだった。
何かテレパシーのような物で、従魔関係にある主との間でニュアンスを感じ取っているのではないだろうか。
次の瞬間には、そいつら全員がチャックの触手に持ち上げられていた。
まあ首は絞められていないけど。
軽いお仕置きをね、というニュアンスを伝えてあるので。
なんて賢い子。
あんた達、その触手に刺されていないだけ、ありがたく思いなさいな。
「うわあ、ごめんなさいー」
「許して、聖女様~」
「ひゃああ、お助けー」
しかも、その中の一人はさっきもチャックに吊るされていた人じゃあないですか。
世の中には学習しない奴っているものです。
「ははは、そうか。
任務は達成したか」
そして、彼は私に助けられながら身を起こし、その傍らにて物言わぬ骸と化した兄を見た。
「フランク、馬鹿な奴。
どうせ逃れられない宿命なのだ。
もっと上手く立ち回ればよかったものを……いやそれは言っても仕方がないか。
俺とて日陰者のようなものなのだからな。
そういう意味では奴と似たようなものよ」
「でも彼はああなって、あなたは今生きている。
さあ、帰ってゆっくり休もう。
明日は王様、あなたのパパから褒めてもらえるんじゃない?」
「まあな。
それくらいはしてもらわないと割に合わない。
それにしてもサヤ……そいつはどうするのだ?」
「ん? ああ、チャックの事?
一緒に連れて帰るのに決まっているじゃない。
もう私の家族なのよ。
チュールも凄いけど、この子も最高よ。
あれだけの騎士団との戦闘でビクともしてないんだし。
でもちょっと図体がでかいかな。
今日はどうやって屋敷まで連れて帰ろうかしら。
この子ってあなたの馬車に収まらないわよねー」
「そうか、まあいいけどなあ。
うーむ、後で大商会で使っている大型馬車でも呼ぶか?」
だが、彼は触手で私を軽く引っ張ると、通路へと連れていってくれた。
リュールも他の騎士に支えられながら見に来た。
「あら、どうしたの、チャック」
そして彼は見事なオリンピック級のスピードで突き当りの壁まで走り抜けて、触手を頭の上でタコ踊らせていた。
「きゃああ、チャック。
あんたって見かけによらず足が速いわねー」
彼はまたこっちまで同じくらいの速さで走ってくると、何かこうドヤ顔であった。
私は再度彼を称え、撫で撫でしてやった。
うん、こいつって不思議な感触。
一見すると冷たい魔法金属で全身を覆っているかに見えるのだが、触るとなんか暖かくて少し柔らかい感じなのだ。
強いて言うのなら巨大なゴムっぽい感触かなあ。
これは面白い。
ところで、この子は何を食べるのかな。
まさか人間なんて言わないよね。
それはまあ、本人とあれこれ相談しながらやっていくとしようか。
彼はもう私の家族になったのだから。
「ハッサン小隊長」
「はい、なんでしょうか。悪魔聖女殿」
「もう!
とりあえず、私とリュールは屋敷へ帰りますので各種報告はお願いします。
ああ、わかっていると思うけど、あのリュールを蘇らせた魔法に関しては」
「心得ております。
陛下や王太子殿下へは、リュール様から報告なさると思いますので、本日の件に関しては全員に緘口令を敷くという事で」
「よろしくね」
こうして、今回の散々だった騒動は静かに幕を下ろしたのでした。
私の新しい家族を一人増やして。




