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ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
第2章 -平穏と鳴動ー
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淑女(レディ)の集い

 今回は、アキバの街に滞在しているレイネシア姫の下へお邪魔します。

 その後も、アンジェロは1日の半分をダンジョンで過ごし、残りをアキバで過ごしていた。最初にアキバの街を素顔でうろついた時に比べると、幾分かは注目度も薄れた様だが、相変わらず人目を引くので少しばかりうっとおしく思っていた。

「全く、ゆっくり外で食事も出来やしない」

 そう言ってアンジェロがぼやいていたので、ある日アカツキが言い出した。

「アンジェロも、良かったらレイネシアの所に来るか?」

 意外な提案だった。

「だけど、あたしは男だぞ?」

 変な話だが、そうである。肉体は確かに女性だが、心は男性なのだ。ある意味、男子禁制で女の園みたいなレイネシアの館へ、男性が招かれてお茶をしに行くというのは大丈夫なのだろうか(まあ、中には「西風の旅団」の「ドルチェ」の様に、「体は男でも心はオンナ」と言う者も居るが)。

「問題無い。ただお茶をしながら、みんなでだべるだけだ」

 アカツキは、相変わらず無愛想な表情でそう言った。

 しかし、これは考えてみると悪く無い提案では無いのだろうか。

「そうだね。差し使えが無ければ、一度お邪魔してみようかな」

 アカツキの好意を無駄にしたくは無いし、レイネシア姫とお近づきになれる良い機会かも知れない。アンジェロは、アカツキの申し出を受ける事にした。

「うむ、それがいい」

 アカツキはそう言ってうなづいた。

「ところで、アカツキ」

「何だ?」

 アンジェロの言葉に、アカツキが「ん?」と言う様な顔をした。

「レイネシア姫の好きな物って、何か解る?」

「好きな物……か?そう言えば特に聞いた事が無かったが。それがどうかしたのか?」

 アカツキに言われて、

「いや、お邪魔するなら、手土産が要るかなと思って」

 アンジェロがそう答えると、

「そうだな。あんパンなんてどうだろう」

 アカツキが少しうれしそうに言ったが、

「いや、それはアカツキが好きな物じゃないの?」

 アンジェロがそう言えば、

「私もだが、レイネシアも好きだぞ。あれはあんこが程良く甘いし、それとは別に、生地の甘くていい匂いもする」

 と、アカツキが少し真顔になって言うので、

「私はさ、残念ながらあんパンは作れないんだよね。洋菓子限定になるけど、アカツキが他に食べたい物があれば作るよ?」

 アンジェロはそう答えた。すると、

「……なるほど。それでは、1つ良いだろうか」

 アカツキが遠慮がちに言うので、

「何かな?」

 と、アンジェロが聞くと、

「……そ、その……私は……、チーズケーキが食べたい」

 アカツキが、少し顔を赤くして言った。

「オッケー、任せといて!」

 アンジェロは、快く了承した。

「それと、私が言ったのは他言無用に願う」

「ん?どうして?」

「は、恥ずかしいからだ」

 少しうつむき加減にアカツキが言うので、

「別に普通だと思うけどな」

 と、アンジェロが言った。


 やがて、アンジェロがアカツキと共に、レイネシアの館へ訪問する日がやって来た。アンジェロは、アカツキのリクエストであるチーズケーキの材料を買い込むと、チーズケーキの製作準備にかかった。

「参加人数はっと、レイネシア姫と侍女のエリッサさんと、マリ姐にヘンリエッタさんと、セララさんと、あとリーゼさん、だっけ?」

 アンジェロは、指折って数えた。

「そうだ」

 アカツキが短く答える。

「それに、あたしとアカツキだから、8人か。ケーキ1ホールを8等分……では、足りないかな。ま、いいや。その分大きく作れば」

 パティシエの腕を振るって、やがてアンジェロは見事なチーズケーキをこしらえた。

「凄いな、本当に作り方を知っているとは」

 アカツキが感心して言った。

「まあね。本来ならば、男性には無駄知識かも知れないけどね」

 アンジェロはそう言ったが、女性であってもそういう事を知らないアカツキにして見たら、十分うらやましく思えた。

「それじゃあ、行こうか。先導よろしくね、アカツキ」

「承知した」

 アンジェロとアカツキは、揃ってレイネシアの館へ向かった。出迎えた侍女のエリッサに案内されて、レイネシアの執務室へ入ると、そこではレイネシアの修羅場が展開していた。

 レイネシアをコスプレでいじり倒すマリエールと、それをいさめるヘンリエッタ、おろおろするセララ、傍観ぼうかんするリーゼという、アカツキにして見たらいつも通りの事だが、アンジェロはしばらく呆気あっけに取られていた。

「だから、ここはもうちょっとこうやねん」

「それは少し行き過ぎです、マリエ」

「あわわ、これはどうすれば……」

 大騒ぎしている3人に対して、黙って座ったまま紅茶を飲んでいるリーゼが対照的だった。

「何してるん……ですか?」

 アンジェロは、辛うじてそう言った。

「ああ、アンジェロやん。今な、お姫様に新しい服をな、ちょっと来てもらおう思て」

 マリエールが、振り向いてそう言った。

「あら、アンジェロさん。お久しぶりですわ」

 涼しい声でそう言ったのは、ヘンリエッタである。

「はわわ、こんにちはです、アンジェロさん」

 あたふたしながらアンジェロに挨拶したのは、セララである。

「まあ、一応だけど初めまして。あなたが噂のアンジェロさんね」

 澄ました顔でリーゼが言った。

「アンジェロ、こっちがレイネシアだ」

 アカツキに言われた方を見ると、ピンク色をしたバニーガールの衣装を着て、黒い蝶ネクタイとウサ耳を付けられそうになっている、アカツキやリーゼとは違うタイプの美少女が、ソファに鎮座していた。

 アカツキに言われると、アンジェロは背中の魔剣を外して自分の手前に置き、ひざまいてこうべを垂れた。

「お初にお目にかかります、レイネシア姫殿下。そのご尊顔を拝謁はいえつ出来ました事、誠に恐悦至極に存じます。私は冒険者のアンジェロと申します。以後お見知り置きの程を」

 アンジェロは、まるでどこかの騎士の様に、見事な口上と礼儀作法で挨拶をして見せた。しかし、挨拶をされた当の本人であるレイネシア姫は、何とも言い難い格好の最中であり、そのギャップがまるで寸劇コント喜劇コメディーの様であった。

「ご丁寧な挨拶痛み入ります。私はレイネシア=エルアルテ=コーウェンと申します。「自由都市同盟イースタル」の筆頭領主セルジアッド=コーウェン公爵の孫娘であり、このアキバとの交渉及び仲介の役を務めております」

 言葉だけだと、あくまでもりんとして毅然きぜんとした態度に思えるのだが、前述した姿が何ともミスマッチである。

「さあ、もう顔を上げて下さい。堅苦しい挨拶はこれで終わりにしましょう」

 レイネシアに言われると、アンジェロは立ち上がって顔を上げた。その姿を見てレイネシアは、

(何て綺麗な人……。私が知っている貴族の中にも、こんなに美しい人は滅多に居ないわ……)

 と、思わず少し見とれてしまった。

 レイネシアは、「イースタルの冬薔薇ふゆばら」ともてはやされる問答無用の美少女であるし、その母であるサラリヤも「イースタルの真珠」とうたわれた美女であるが、アンジェロのそれとはまた違う美しさに、同じ女性ながら少し目を奪われてしまう。

 しかし、そのほんのわずかな無抵抗の時間に、あっさりと着替えを完了させられてしまったのだった。


「わあ、ほんまによう似合うわあ。やっぱり別嬪べっぴんはんは何を着せてもええわあ」

 すっかりバニーガールに着替えさせられたレイネシアを見て、胸の前で両手を合わせながら満足げにマリエールが言った。

「それにしても、今回のは少し品が悪いのではありませんか?仮にも高貴な身分のレイネシア姫を、この様なお姿にさせては」

 ヘンリエッタが言うと、

「あの……これは一体どういう服なのでしょうか」

 レイネシアが困惑気味に聞いて来た。

「ええと、そうそう、これは給仕に使う制服の一種やのん」

 マリエールがそう言ったが、まあ確かに酒場やカジノのバニーガールは、そうかも知れない。

「でしたら、今回はエリッサの方が良かったのでは?」

 レイネシアがそう言うと、エリッサがそれを聞いてびくっとした。レイネシアの侍女だけあって、エリッサも決して不美人では無く、むしろ水準としてはやや上なのだが、マリエールがいじるターゲットとしては、やはりレイネシアの方が良いのであった。

(ちょっと、毎回こんな事をやってんの?)

 アンジェロが、アカツキに小声で聞いた。

(ああ、マリエールが来ると、毎回こうなる)

 アカツキがそれに答える。

(仮にも、お姫様に対して良いのだろうか)

 アンジェロはそう思ったが、レイネシアはアカツキと違って逃げる事が出来無いので、かなり気の毒な気がした。

「さてと、では皆さん。挨拶代わりに手土産をお持ちいたしました」

 アンジェロはそう言うと、魔法の鞄マジックバッグに魔剣をしまって、代わりにお手製のチーズケーキが入った箱を取り出した。

「みんなで一緒に食べようと思って」

 アンジェロがテーブルの上に置いた白い箱のふたを開けると、中にはチーズケーキが8ピース入っていた。ケーキ1ホールを8等分したものだ。

「まあ、何ておいしそうなんでしょう。エリッサ、お皿と新しいお茶をお願いね」

 それを見たレイネシアが、文字通り目を輝かせながら言った。そしてエリッサが、用意した皿にチーズケーキを乗せると、ティーカップに新しく紅茶を淹れた。

「なあなあ、これ、もしかしてアンジェロやんが作ったんか?」

 マリエールがアンジェロに聞いた。

「その通りだよ、マリ姐」

 アンジェロが答えると、

「うっわ~、アンジェロやんって器用なんやねえ」

 マリエールが驚いて言った。

「でも、アンジェロさん、スキルはどうなさったんですか?」

 ヘンリエッタが訊ねると、アンジェロは認定証の話をした。

「へえ、そんなアイテムがあったんやねえ」

 マリエールが、今度は感心した風に言った。

「あ、すいません。私は知ってました、えへへ」

 セララが、申し訳無さそうに手を少し挙げて言った。

「認定証、何やら興味深いですわ」

 リーゼがぼそりと言った。エリッサが配膳を終えると、

「あのう、レイネシア姫」

 アンジェロが口を開いた。

「何でしょう?あと、レイネシアでよろしいですよ」

 レイネシアに言われて、アンジェロが言い直す。

「では、失礼して、レイネシア」

「はい、何でしょう?」

「あたしは今回、ケーキを8個用意して来た。8個目はエリッサさんの分なんだ。だから、エリッサさんも同席を許してあげて欲しいんだけど、駄目かな?」

 アンジェロにそう言われて、

「あの、私はあくまでも侍女です。主人と席を同じくするなんて」

 エリッサが控え目にそう言ったが、

「解りました、今回は特別に許します。エリッサ、貴女あなたもご一緒に頂きましょう」

 レイネシアは、その申し出をあっさりと了承した。

「はい、それでは恐れながら失礼して私もお言葉に甘えさせて頂きます。それと、私の事もエリッサで結構です」

 エリッサは、あくまでも侍女としての姿勢を崩さずに、それでいて、どことなくうれしそうにそう答えた。

 キャラクターの言葉遣いなど、どこかおかしい所に気が付かれたら、遠慮無く教えて下さい。

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