表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
第1章 -目覚めの朝ー
1/43

朝、起きたら……。

 橙乃ままれ先生の作品「ログホライズン」の二次創作です。「もしも、シロエ達にもう1人仲間が居たら」という妄想設定で書いています。時系列的には、原作の「ノウアスフィアの開墾」頃からのお話しになります。

 かなり多くの原作キャラクターが登場しますし、彼(彼女)らとの描写も多数あります。原作に無理矢理割り込む形になっていますので、その点もご容赦下さい。

 また、原作では明確にされていない設定や、どこかで聞いた様なものなど、アレンジ要素が多分にあります。その上、厨二病的で無双とチート要素もあります。

 かなり好き勝手に書きましたので、無茶ぶりもかなり多いです。細かい修正を加えながら書き続けますので、長い目で見て頂けると幸いです。

 何か原作の設定と違う事があれば、遠慮無くご意見頂けると有り難く思います。

「ふあ~あ、良く寝たなあ」

 そう言いながら、その者はベッドから身を起こした。最近は冒険者としては暇になりつつあったので、この世界へ来た頃に比べると、比較的のんびりとした日々を過ごしている。

 そして、いつもの様にまず顔を洗う為に洗面所に向かおうとしたのだが……、

(……あれ?)

 何か違和感--と言うよりは疎外感ーーを感じた。

(どこだ、ここ……?)

 その部屋は、明らかにその者が前日に眠りに就いた、自分の部屋では無かった。まず、家具の配置も種類も全く違うし、今眠りから覚めて身を起こしたベッド自体が、すでに自室の物では無かった。

(寝ぼけているのか?とりあえず顔でも洗うとしよう)

 そう思って洗面所を探し、やっと洗面台に付いて蛇口に手を伸ばした。

 まだ半分閉じた目をしたままバシャバシャと顔を洗って、備え付けのタオルで顔を拭き、同じく洗面台に備え付けられた鏡を見た。

(あ……)

 その者は、自分が写っている鏡を、まじまじと見た。そして……

「な、何じゃこりゃあ~!?」

 思わず大声を出してしまった。……が、周囲の部屋は空き部屋なのか、幸いにしてその声に反応する者は誰も居ない。

(お、おい……。何だよ、これ……?)

 鏡に映った顔は、明らかに前日の自分の顔では無かった。しかし、実はその顔には見覚えがあった……と言うよりは、明らかに自分が一番良く知っている顔だった。

(まさか……な)

 そう思ったけど、他には考えられなかった。とりあえず、今この状況をどうするか、それが今は最優先事項だと思い、行動を起こす事にした。

 まず、荷物をチェックして、魔法のかばんーー冒険者のアイテムで、かなりの重量と容量を無視してアイテムを収納出来るーーから、フード付きの茶色いローブを取り出すと、なるべく自分の姿が見えない様に身に付けた。

 それはただのローブであり、装備というよりは普段着や外出用のものだった。首の後ろに付いているフードを目深に被り、周囲の布をかき合わせるとボタンをしっかりとかけて体の前で閉じた。

 まるで、漫画のお化けの様に頭からすっぽりと布を被っている状態だったが、今の自分の姿を出来るだけ他人に見られたくなかったので、まずはこれで良しとした。

(やはり、間違い無い……)

 改めて部屋を見回してそう思った。自分が起きた部屋は、前日に寝た自分の部屋とは違う、別の誰かの私室だった。しかし、それがどういう部屋かは知っている。自分の記憶通りに歩を進めてドアを開け、左右を見て誰も居ないのを確認してから部屋を出ると、廊下を進んでその建物を出た。

 最初に行く場所は決まっている。「あそこ」しか無い……。


 勝手知ったる何とやら。住み慣れたアキバの街に出ると、時間は少しかかって遠回りになってしまうが、なるべく人が少なくて目立たないルートを選び、やがて1つの建物の前にやって来た。

 巨大な古木が建造物の中央にそびえており、建物というよりは木が服を着ている感じがする1つのオブジェにも見えるそれは、


「冒険者ギルド ログホライズン」


 の拠点だった。

 参加メンバーは少ないながら、「腹ぐろ眼鏡」「茶会(これについては後述される)の名参謀」などの二つ名で呼ばれる、「シロエ」という名の若者がギルドマスターを務めている冒険者ギルドだ。

 同時に彼は、現在アキバの街を統率している集団「円卓会議」の幹部の1人でもある。「切れ者」という評価はあるが、あまり良く無い噂(本人は気にしておらず、むしろ甘んじて受け入れている)も、ちらほら聞かれる人物だ。

 しかし、そんな噂は無視出来た。なぜなら、彼がどういう人物かは良く知っていたし、自分が今置かれている特殊な状況では、早急にして確実に頼れる存在として他に心当たりも無かった。

 そして、その者はドアの前に立って少し深呼吸をすると、やや遠慮がちにノックした。


「ん……誰か来たみたい」

 ギルドホールで留守番をしていたミノリは、ギルドの入り口のドアが、確かにノックされたのを聞いた。

 ギルドマスターのシロエは、「執務室」に篭り切りでまた何か難しい事をやっているし、アカツキはレイネシア姫の護衛に行っている。にゃん太とセララ(正確には、彼女だけギルドの正式メンバーでは無い)は買い物に、弟のトウヤは彼が師匠と仰ぐ直継と稽古に、五十鈴とルディ(本名:ルンデルハウス=コード)、それに「てとら」は、それぞれどこかに出かけていた。

 状況は、彼女が敬愛するシロエと広いギルドの中で2人きりなのだが、多忙を極めるシロエの邪魔はしたくないと思って、お茶を入れる以外の事では、ほとんどシロエの執務室には近寄っていない。

 彼女のそういう年齢不相応な思慮深さは、「姉」というもののさがなのかも知れない。

 ところで、彼女やシロエなどのギルドメンバーはともかく、ここのギルドメンバーの友人知人ならば、わざわざノックなどしなくても、ズカズカと無遠慮に入って来るのがいつもの事だし、おそらくは面識の無い者かーー彼女には心当たりはあまりないのだがーーかなり礼儀正しい人物だという事は、およそ見当がついた。

 何せ、ログホライズンのギルドホールには、特に入場制限がかけて無いからだ。逆に言うと、ここに来る人間は、ほとんど顔が知れているからである。

「はーい、今開けますね~」

 ミノリはそう言って、座っているソファーから立ち上がると、玄関ーーと言う単なる入り口ーーのドアへ向かった。

「どちら様ですか?」

 彼女がドアを少し開けて来客を確認すると、そう声をかけた。

 ドアの前に立っていたのは、全身をすっぽりとローブで覆った人物で、彼女が少し見上げるくらいに背が高かったーーもっとも、彼女の身長設定が低いだけなのだがーー。おそらく、この人物がノックをした本人で間違い無いだろう。

 その人物は、体を覆ったローブの中央にある合わせ目から、持っている指もぎりぎり見えるかどうかというくらいにメモを差し出した。

『緊急の用件にて、大至急シロエに会わせて欲しい』

 そのメモを見て、ミノリは考えた。

(シロエが間違い無く今ここに居る事を知っている。つまり、全くの他人では無いかも知れない。だけど、素性の良く知れない人を簡単にギルドへ招き入れて、シロエに会わせてしまっても良いものだろうか。何より、シロエは今とても忙しい。彼の邪魔になる様な事は、なるべくならしたくない)

「あの……、シロエさんに何のご用でしょうか?」

 とりあえず、彼女は謎の人物にこう聞いた。当たり障りの無い、模範的な回答だ。あえて言うと、シロエがここに居る事を肯定している事になってしまうが、そこまで考える人はまず居ない。

 ミノリにそう聞かれた人物は、少し困った様な感じでメモを持った手を引っ込めると、ローブの中でごそごそやり出した。音からすると、あらかじめ何かを書いてあるメモをめくっている様だ。

『頼むから、会わせて欲しい』

 新しくミノリが見せられたメモには、短く簡潔にそう書いてあった。相手が急いでいる事はメモの文面からも解るが、彼女が困った顔をしていると、その人物がまた違う事を今度はメモに書いて見せた。

『ものすごくこまっている たのむ』

 見せられたメモが全て平仮名で書いてある事から、ミノリにもその人物の必死さが伝わって来る。

「と、とりあえず中でお待ち下さい」

 ミノリがそう言ってドアを開けると、その人物は軽く会釈してギルドの中へ入って来た。

 その人物が入るのを確認してから玄関のドアを閉めると、彼女は少し息を吐いて思った。

(必死そうだったから、思わず言っちゃったけど、どうしよう……?)

 とりあえず、客人を立たせっ放しという訳にも行かないので、ミノリはソファに座る様に勧めると、自分も反対側へ腰を下ろした。

 本当なら、客に対してお茶の一杯も出すべきなのだろうけど、今はサブ職が料理人のにゃん太が居ないので、ミノリには何もする事が出来無い(彼女がシロエに運ぶお茶は、にゃん太が用意していたものなので、新しく別のお茶を入れる事は無理)。

(「新妻のエプロン」は、台所にあったかしら……)

 そのアイテムは、装備者の料理スキルを一時的に上昇させる効果がある。それがあればお茶くらいは余裕で入れられる様になる。さも無ければ、上等な紅茶が見るも無残な泥水になってしまうのだ。

 そんなミノリの胸中を察したのか、謎の客人はまたメモを見せた。

『お構いなく』

「あ、どうもすみません」

 彼女は思わず謝ってしまったが、良く考えればさっきからあちらからの会話は全て筆談で行っており、直接この謎の客人とは言葉を一切交わしていない。

(何か、喋れない理由があるのかしら?)

 ミノリはそう考えた。それと、もう1つ気になっていた事があった。この人物、「名前が見えない」のである。当然だがパラメーターも解らない。

 そんな彼女の考えが解るかの様に、また客人がメモを見せた。

匿名とくめいにしてますから』

「あ、そうなんですね」

 ミノリは客人にそう言うと、謎の客人は黙ってうなづいた。MMORPGであるエルダー・テイルは、個人のパラメーターが解らないと、HPやMPの残量に加えて毒や麻痺まひなどのバッドステータスが表示されないなど、デメリットの方がはるかに多いので意図的に匿名にする人が滅多に居ない。その為に、PK(=プレイヤーキラー。他のプレイヤーを攻撃する事やそれを行う者自体を指す。迷惑行為だが、特定のエリア以外では可能)ですら名前を隠す事はしない。なので、ミノリは匿名というコマンドがある事をすっかり忘れていた。

 匿名にするメリットと言えば、せいぜいストーカーから身を隠す事くらいだが、そういったハラスメント行為はGMを通して運営に報告すればすぐ対処されるので、ゲームの場合ならば匿名を続ける意味は無いと言っても良かった。つまり、現実世界となった今では、匿名にする理由がミノリには解らない。

 そうこうしているうちに、出かけていたメンバーが何人か帰って来た。


「お?何だ、客か?」

 ソファに座って居る人物を見るなり、直継が言った。

「ミノリ、誰?この人」

 自分の姉に向かってそう言ったのは、彼女の弟のトウヤ。姉だが双子という事もあって、トウヤは姉の事を名前で呼ぶ。

「むむむ、何だか怪しい匂いがするよ」

 物怖じせずに謎の客人に近寄ったのは、てとらである。

「まあまあ、皆さん。初対面の方にあまり失礼があってはいけませんにゃ」

 年長のにゃん太が、興奮気味のメンバーをなだめる。

「やっぱり、不意のお客様に備えてお掃除は大事なのです」

 そう言ったのは、サブ職に家政婦を持つセララだった。

「それで、どういう用なんだ?この人は」

 直継がミノリに聞いた。

「それが、シロエさんに会いたいそうなんですけど、理由を教えてもらえないんです。ただ、困っているのは間違いないみたいなのですが」

「会わせてやればいいじゃん。シロ、居るんだろ?」

「ええ、居ます。皆さんが出かけてからも、ずっとお部屋から出て来ていないんです」

「そんなら、丁度良いから連れて来ればいいさ。ずっと引き篭って居ると、あいつ息が詰まっちまうぜ」

 直継がいつもの調子で言った。

「だが、正体が解らない者を、簡単に主君に会わせて良いのだろうか」

 アカツキがそう言うと、謎の客人がメモを出した。

『彼に会わせてくれたら匿名を外します』

「出来れば、今すぐ外して頂きたいのだが、それは駄目か?」

 アカツキがそう言うと、その人物は首を横に振った。

「しっかし、何で喋らないんだろうな。ローブも脱がないし」

 直継がそう言うと、謎の客人がまたメモを出した。

『キャラがバレますので』

 そして2枚目を見せた。

『今はまだ無理です』

「バレると困る事でもあんのかねえ」

 そう言ったトウヤに、アカツキが言った。

「私には少し解るぞ」

 声というのは結構大事な要素なのである。ゲームの時のエルダーテイルでは、アカツキは全くボイスチャットを使用していなかった。それに使用キャラの外見も今とは全然違っていた。それは女性だと解るのを嫌っていたからであり、それと同じ事がこの謎の人物にも言えるのかも知れない。

「この者にも、それなりの事情があると見た。私が主君を連れて来よう」

 今のやり取りで、謎の人物に少し共感したのか、アカツキがそう言った。そして、言うが早いか一瞬でその姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ