8――紋章
「あぁ~っ!遠いよぉ~!」
レッソが駄々をこねだした。あれから丸一日かかってまだラファスに着いていない。
レッソは優秀な騎士だが、心と体はまだ子供なので、この言い訳はしょうがないように思える。
「もう少しで着く。頑張れ」
ザットが励ます。俺も行ったことはあるが、正確な距離まではわからない。何せその時は馬車で行ったからだ。あのゴブリンの襲撃が無ければ今頃ラファスにも寄らず港に着いていただろう。
「さて、お喋りはそこまでのようだぞ」
シェリーが真剣な面持ちで言う。前方には猿に羽が生えたようなドラゴン。気持ち悪い、ドラゴンはつくづく悪趣味だ。
どうやら前方を円形に展開しているらしい。俺たちをここから先には行かせまいとしているようだ。
「……とば…」
「?」
レッソが何か言った。
「どうしたんだレッ…」
「もう!ずっとずっとドラゴンばかりの相手ばかり疲れたの!偶にはレッソも暴れる!!」
いきなり喚いたかと思えばこう言った。
「ラキーフェオ!こいつら全滅にして!」
そうレッソが言うと、レッソの前方に大きな魔法陣が展開され、何かが召喚された。
大きさは俺の五倍ぐらいだろうか。見た目は限りなく人間に近いが、頭に角が二本生えていた。おまけに肌は赤い。
召喚されてすぐにその巨人は言った。
「全く…相変わらず人使いの荒い奴だ」
低く渋い声だった。
そう言った巨人は手のひらから炎を作り出し、ドラゴン共に投げつけ攻撃していく。
その一撃一撃でたちまち奴らが爆散していく。
もの数十秒で猿型のドラゴンの群れは片付いた。やはりレッソは天才だ。こいつを敵には回したくないと思った。
「へっへーん!すごいだろぉ!」
得意げに言うがそこにツッコミが入った。
「すごいのは俺だけどな」
巨人が言う。
「うるさいうるさい!レッソがいないと現界できないじゃないかぁ!だからこれはレッソがすごいの!」
「へいへい、そういうことにしといてあげますとも」
ザットとのやり取りとはまた違っている。ここまで軽口を叩けるというのはお互いに信頼しているということだろう。良い信頼関係だ。
「お、あれがラファスかぁ…って!おい!町が燃えているぞ!」
キースが叫ぶ。
「やべぇ!メビウス一人では対処しきれずに死ぬかもしれない!」
「町の住人も心配だ!行くぞ!」
俺たちは走った。
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結果を言うと、町は先ほどの猿型ドラゴンで大方占拠された状態だった。十人いなければやられていたかもしれない。
「やっと戦いにも慣れてきましたぁ~」
言う通り、ネリスの動きは良くなってきている。潜在能力というのも侮れない。
住民の半分ぐらいが殺されていた。悔やまれるが、俺たちはメビウスを探し出して北へ行かなければならない。
そして考える最悪の事態を予想した。
「…この死体の中にメビウスがいるということは無いか?」
リゼが言った。確かにその可能性は十分にある。
「それは無いわ」
アインスはきっぱりと言った。そしてこう続ける。
「マスターが死んだら私にもわかるわ。この紋章は封龍の紋章のコピー…つまり本物が無くなればこれも消えるわ」
アインスの言っていることが本当だとしたらまだメビウスは生きている。生存者の中にいるかもしれない。
「ぐぎゃあああ!」
しまった!まだ死んでいない奴がいた!間に合わない!恐らく俺かアインスの腕が一本無くなる!
「しょうがない奴らだのう」
声がしたかといえばそのドラゴンがたちまち分解され、水になった。
声の方向を見ると、魔術師メビウス・レイロークその人がいた。
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状況を説明すると彼はすぐにアインスのと同じ、右腕の手首にある封龍の紋章を見せてくれた。
「全く、素直すぎる子に育ってしまったなぁ!アインスよ!」
「ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないぞアインス。それはいいことだ」
親子関係がそこにはあった。彼は創り出した命だとしてもアインスのことを実の娘のように思っている。
他にもホムンクルスが二人いた。アインスと全く同じだった。
「とにかく、これでアインスの疑いは晴れた。それでいいな?シェリー」
「認める以外無いだろう。いやでもこの中に裏切り者がいるのかと思って冷や冷やしたぞ」
これでこの件はおしまいだが、メビウスに聞きたいことがあった。
「でもそもそもなんで貴方じゃなくて、紋章を複写したアインスが来たのですか?」
カリィが先に言った。そう、自分でああいう結論を出しながらもそこはずっと疑問だった。
すると彼はあっさり言ってくれた。
「…紋章には魔龍を封印するほどの魔力が込められていることは知っているな?」
「それはもちろん」
「そこで私は考えたのだ。この紋章を使って、ドラゴン共をより効率良く倒す兵器は作れぬものかとな」
「そ、そんなことが…」
「可能だ。もうそろそろ完成に近づいているが…これを作るからといって、行かなければ殺されるだろう?そこでピーンと来たのだ。ホムンクルスが行っても人数さえ良ければいいのではないかとな」
発想がぶっ飛んでるぞこのじいさん。この年齢でまだ新しいものを作って、しかもホムンクルスで人数合わせをしたのだ。
「でもあれだぞ。どうやら私にはこの紋章の魔力を解放はできない。恐らくアインスに複写したことで、本来の役割はアインスに移ったのだろう。だから私はコレの研究を続けようと思っておる」
なるほど。つまり封龍の騎士を無限に増やすなんて芸当はできないわけか。
それとメビウスは興味深いことを言ってくれた。
「そうそう。その紋章は魔龍を封印することに使うのが第一目的だが、『他のドラゴンを封印するのにも使える』というのは覚えておくと良い。まぁ、特異点で魔龍が封印されていない状態でそれを失うと本人は数時間で死んでしまうだろうがな」
つまり、自分が死ぬことを悟ったときにドラゴン共に一矢報いる目的で使えということか。
そうならないのが一番良いが、ならないとも限らないしな…
過去の戦いでは半分以上の騎士が犠牲になっているとも聞くし、むしろこれまでの襲撃で一人も欠けていないのが奇跡だろう。
「わかりました。ではその兵器が完成次第連絡を下さい」
「あぁ、アインスがわかるようになっている」
見送りは先ほどの二人のホムンクルスがやってくれた。名前はツヴァイとドライらしい。
そして俺は思ったことを口にした。
「メビウスさん…あなた、地球人ですか?」
「……おお、お前さんも地球から来た口か。そうだ、私は地球人だ」
なぜわかったかというと、ドイツ語だ。
ドイツ語で1はアインス、2はツヴァイ、3はドライというのだ。アインスがホムンクルスでマスターがいると言われたときから思っていたが、ツヴァイとドライを見て確信を持てた。
「ちなみに西暦何年に飛ばされましたか?」
この質問によってこの世界と地球の大体の時間軸を知ることができる。ちなみに俺が飛ばされたのは2015年、俺が18歳のときだ。
なぜこんなことを聞くのかって?完全に自己満足だ…ったが、この時のメビウスの答えは予想外だった
「私の飛ばされた年か?それは…」
なぜなら
「2047年、私が16歳の時だ」
なんとメビウスは俺の年下だったのだ。
プロットはあるんですが、細かいところはいきあたりばったりなんで大変です(笑)




