14.
謁見の後、離宮へと案内されたのだが……。
「帰りたい……」
「まだ来たばかりだよ」
隣を歩くリュシオンは楽しそうな足取りで歩きながら、笑っている。
今、わたくしは盛大に後悔をしている。
来るんじゃなかったと。
なぜなら、目の前に聳え立つものが原因だった。
「こちらが皇女殿下の離宮でございます」
案内役の宮廷侍従が誇らしげに胸を張る。
「……離宮?」
「はい」
「それにしては規模が違うのではなくて?」
「離宮でございます」
皇宮内にある皇子や皇女が住まう宮殿より広く、使われている建築資材も桁違いのものだと分かる。
離宮の敷地内に小さな街が入るのではないかという広さだ。
「父上は何を考えているのかしら?」
「娘を愛しているのだろうね」
「重いわ」
歩くのも大変なので、離宮の見取り図を広げて侍従が説明をしてくれる。
「こちらは皇女殿下専用図書館でございます」
「図書館にしては広いわね」
「蔵書三十万冊でございます」
「多いわね」
いくら読書好きと言っても、読むのに何年かかるだろう?
「欲しい本がございましたら、遠慮なくお申し付けください」
「希少本でも?」
「どのような手を使ってでも取り寄せよと陛下より仰せつかっております」
さらりと侍従はとんでもないことを口にする。
「そしてこちらは温泉施設でございます」
「温泉まであるの!? 離宮の中に?」
「左様でございます」
しかも天然温泉らしい。どうやって源泉をひいているの? 帝国の技術がおかしい。
◇◇◇
ひととおり離宮の説明を聞いた後、巨大な温室へ案内され、そこで休憩をしていた。
温室には色とりどりの花や珍しい果樹が植えられている。
「疲れたわ」
用意されていたお茶を飲みながら、椅子の背もたれにぐったりと体を預ける。
「本当にセシルは愛されているね。少し妬けてしまうよ」
「重すぎるわ」
この温室も昔「お花が大好き!」と言ったわたくしの言葉を父が覚えていて、作らせたらしい。
「帝国に引っ越して来たら、ここに住もうか?」
「本当に帝国に貴族籍を移すの!?」
「前からそう言っているじゃないか」
いや、そうだけれど。
今はグリンデル王国内にわざわざ改装した屋敷もあるし、領地もある。
それらをどうする気だろう?
「心配はいらないよ。王都内の屋敷も領地もシルヴァード公爵家のものだからね」
わたくしの心を読んだようにリュシオンが答える。
経営とか管理とかどうする気なのか?
「管理は家令に任せるから大丈夫だよ」
本当に心が読めるのか!? いや、怖いわ。
「経営は僕がこちらからする。いずれグリンデル王国が崩壊した時に困るからね」
いや! 今、さらりと怖いこと言ったよ!?
やはり父と組んでグリンデル王国を征服する気なのか!?
「リュシオン、あなた……」
言いかけた時に「セシリア!」と元気な声が響く。父だった。
「父上、ごきげんよう」
「離宮はどうだ? 気に入ったか?」
「広いです」
「そうだろう!」
なぜ誇らしげなの。
「正直に申し上げます」
「うむ」
「広すぎて迷子になりそうです」
父が固まる。ショックを受けたのだろうか?
「もっと大きくしようと思っていたのだが……」
「やめてくださいませ!」
これ以上、どこをどう大きくしようと言うのか!?
父はコホンと咳ばらいをする。
「今夜は歓迎式典だ」
「聞いております」
「楽しみだな」
「気が重いだけです」
率直な気持ちを述べてみた。
「ドレスは作らせてあるぞ」
人を話を聞いていない。うん! 分かっていたけれどね。
「婿殿の分もセシリアのドレスに合わせて作らせてある」
「感謝いたします」
リュシオンは胸に手を当てる。感謝の意だろう。
「うむ。五十着ほど作らせてあるから、好きなものを選ぶと良い」
「五十着!?」
「おや? 送ったデザインのものを全て作ったのですか?」
送ったデザインって何!? 聞いてないんだけれど!?
「どれもセシリアに似合いそうだったのでな」
それだけの理由で国庫のお金を使うな!! いや。帝国はお金持ちだけれど、限度というものがあるでしょう!
「良かったね、セシル。ドレスを選びに行こうか?」
「良くないわ!」
しかし、父もリュシオンも人の話を聞いていない。二人とも上機嫌だ。
わたくしはがっくりと肩を落とした。




