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君がいるだけで2

 

「あんたには本当に呆れたわ!」


 翡翠は、溜め込んだものを吐き出すように私に罵声を浴びせた。

 店内の隅っこに紙袋が見えて、這うようにしてそれを手にする。落とした衝撃で、壊れてなければいいんだけど。


「深紅、帰るわよ!」


 乱暴に腕を引っ張られて、立たされる。


「帰る?どこに?」

「アテナリアに決まってるわ!」


 翡翠の迫力に圧倒されて、店内にいた人は皆、呆然として私達を見ている。その視線を浴びながら、ズルズルと引き摺られるようにして外に連れ出される。


「なんであんたなんかの為に、私がこんな所まで」

「ひ、翡翠、もしかして私を気にしてくれたの?」


 憧れの銀色のさらさら髪を見ながら聞くと、「おめでたい子」と溜め息と共に言われる。


「あの魔族はどこ?」

「え」

「アテナリアに戻すのよ。服従の術掛けてるのよね?だったらそのまま…」

「もう逃がしたの」


 店のドアを開閉すると、取り付けられた大きな鈴がカランと鳴った。


「またそうやって誤魔化す!」


 強く掴まれた二の腕が痛い。


「飼いきれなかったの。私のこと舐めるし、直ぐに噛みつくし、食べようとするし」


 半分は嘘じゃないもの。


「そうなの?」


 翡翠が疑わしげに、私を振り返った時、外に人だかりができているのに気が付いた。


「ク…!」


 クロのいるベンチに女子達が群がっていた。


「きゃあ、可愛い!」

「お姉さんと握手して!」

「名前、何て言うの?!」


「……キャワン」


「きゃああ!ワンコ少年だ!ふわあ、萌え!」


 クロが女の子達に抱き締められて握手されてもみくちゃにされている!

 しかも、今すんごい可愛らしくわざとらしく鳴いた!


 ぐぐっと掴まれている腕を逆に引っ張って人だかりに歩み寄る。


「わ、え、深紅、何なの?!」


 人だかりの間から垣間見えたクロの、ニヤニヤと満更でもなさそうな顔を見て、カチンときた。


 翡翠をズルズルと引き摺ると、女の子を掻き分ける。


「くろおおおぉ」

「キャ、キャオン」


 私の顔を見たクロは、引きつったような顔をして目を泳がせた。

 後ずさろうとするクロの肩を、片手で引き寄せた私は周りで文句を言う女の子達をきっ、と睨んだ。


「この子は私のモノです!勝手に触らないで下さい!」


 やっぱり首輪付けないと、盗まれちゃうよ。


 翡翠が手を離したので、両手でクロをぎゅっと抱き締め、周りを睨んで威嚇する。


 白けた女の子達が、呆れた顔をして、一人二人と離れていった。

 皆がいなくなって、クロを抱き締めていた力をやっと緩めた。


「クロ君。君は私のモノなの。他の人に触らせちゃダメだよ。また触られるようなら私のモノっていう印(首輪)付けちゃうからね」

「ハアハア」


 私が怒っているのに、なんだかクロは息を荒くして頬を赤く染めて、プルプルと体を震わせている。


「クロ?」


 ニマニマと口元を緩めて、ご機嫌そうだ。


 脇を掴んで、胸に耳を押し当ててみると、思った通り鼓動が速い。

 最初は、魔族はこれが平常かと思ったけど、なんか違う気がしてきた。


 病気、だろうか。


 昨夜、気になって聞いてみたんだよね。

 どこか具合が悪いところがあるのかと、一緒に布団に入って眠る時に。


 そうしたらクロは黙って考えていたが、私が彼の気になる状態を詳しく説明してみせたら、手で顔を覆ってうずくまっていたなあ。

 長いことそうしていて、やっと顔を上げたと思ったら、目を反らしたまま胸を擦っていた。


 心臓が悪いのかと、慌ててクロをベッドに押し倒して乗っかるようにして胸に耳を当ててみたら、やっぱり鼓動は速くて、表情もどこか苦しそうだった。


「……やっぱり一度、お医者さんに診てもらおっか?」

「ワ、ワウワウ!」


 ベンチに座っているクロが、大きく首を振る。何でそんなに必死な顔をしてるんだろう。


 お医者嫌いかなあ


「………深紅、あんたはやっぱりバカだわ、バカ」

「……………あ!」


 すっかり忘れていた。


 私達の背後で、翡翠はずっと立って様子を見ていたらしい。


「これが、あの時の上級魔族ね。少し見た目が変わってるけど」

「ち、ちがっ、クロは私のイヌなの。いつも舐めて甘噛みしてくれるぐらい懐いてくれてて、食べちゃいたいぐらい可愛いペットなの!」

「グハッ」


 クロは、やっぱり苦しそうに呻いて、顔を隠した。



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