4章 天秤の星24―近づく方法―
レグルスを見送ってから、俺はマルフィクに向き直った。エスカマリさんのところに行く方法を考えないと。
「空飛べたらいいんだけどなぁ」
「ムリだな」
俺の安直な考えは、すかさず否定される。エスカマリさんは軽々と移動できたのだから、俺たちだってできるのでは? と思ったものの、大きな天秤は現在、闘技場中央まで移動している。
やっぱり飛んでくしかなくない?
「傍まで近づいて飛び乗るとか?」
「高さがあるな。オレたちの跳躍力じゃ届かねェ気がする」
「じゃあ、マルフィクの槍で飛んでくのは?」
「正面から向かってッたら、撃ち落されんじゃねェか?」
「ええ……」
あれもダメ、これもダメ、どうしたらいいんだろう。ダメ元でもいい、何か案を出さなきゃ。
「じゃあ、真上辺りまで槍で飛ばして落っこちる。とか?」
マルフィクが肩眉だけ下げて、頬を掻く。
「着地を自分でなんとかできるンなら……可能性はあるンじゃねェか」
着地、できるかな? 双子の加護があったら、脚力強化してできただろうけど……。蠍と双子、牡羊の加護はエスカマリさんに持ってかれた。
他に使える加護は何だろう? オフィウクスの加護も山羊の加護も、身体強化するものじゃないんだよな。何か方法を見つけるなら、オフィウクスの加護で調べてみようか。
「ねえ、マルフィク。オフィウクスの加護使っても平気かな?」
山羊の星で暴走してしまったことが、どうしても気になる。不安だった。また使って仲間を傷つけないか。
「師匠の加護の気配はしない。大丈夫だろ」
マルフィクの返答にほっとした。
オフィウクスの加護を使うのは、ヘレの力を借りた時以来だ。あの時みたく上手く使えるだろうか。
「知識の本」
呪文を唱えると、いとも簡単に本が目の前に現れる。まだ奪われてなかった、良かった。
「で、何を調べるンだ?」
「山羊の加護について。かな。何か方法があればいいんだけど」
俺の言葉に反応して、本が勝手にパラパラとめくれる。開かれたページは山羊の加護について記載されているページだった。
「過去にも未来にも飛べるヤツか。他にもあンのか?」
「わからないから調べてるんだってば」
ページを読む。
「えーっと、山羊の加護は他に比べて強力な力を持つ。同時になんらかの不幸がもたらされる」
「不幸属性を持つヤツは大丈夫だッたンだよな」
「うん。山羊の加護は、過去や未来を視ることや、地震、地割れなど災害級の被害が出せる力を持つ」
「……ここでそれやったら洒落にならないぞ」
「人が多い場所で使う力じゃないね……」
残念ながら身体強化の項目はなかった。他に気になる項目といったら、不幸についてだ。目を滑らせる。
不幸は命に関わるものではないことがほとんどだ。不幸を持つ者には山羊の不幸がもたらされづらいが、一部不幸が強化される場合がある。
ということは、不幸が起きてれば命の危険はないってことじゃないか? 俺は巻き込まれ体質だと言われてたっけ。
「ねえ、自分から巻き込まれにいった場合って不幸のうちに入るかな?」
「自分から不幸に飛び込むンなら不幸なンじゃねェか?」
なら、命に関わる怪我はしない気がするな。うん、大丈夫。”確信”がある。
「じゃあ、たぶん着地は大丈夫」
知識の本をしまって、俺はマルフィクを見た。ずいぶんと険しく眉根を寄せていて、笑いそうになる。俺より不安そうだ。
「どうにかなるって」
「……オレは責任とらねェぞ」
「大丈夫。力を貸してくれるだけでいいんだ」
お願いと手を合わせれば、マルフィクはため息ひとつしてから槍を取り出してくれる。
「バレねェように、高度は高めで行くからな。上に飛ばした後急降下させる。ただし、相手は狙わねェ。気づかれ防止だ。降りる地点はオマエに任せる。どうにかしろ」
「わかった、ありがとうマルフィク」
「フン……サポートはするッつッただろ。槍に乗れ」
マルフィクは顔をぷいっと背けながらも、指示をくれる。俺は言われた通りに槍にまたがって乗る。
「しっかり掴まッてろよ。振り落とされるぞ」
「うん」
俺が前のめりにぎゅっと槍を掴むと、マルフィクが空に手を翳した。
その瞬間、ぶわっという風が全身を襲う。ビュービューと耳に風の切り裂く音が響いて、視界は空に向かって駆けていく。
くるっと視界が反転した。地面へと向かう急直下に足が竦む。真下ではない、斜め右の方に天秤とその上に座っているエスカマリさんが見えた。
足が、手が冷えて怖い。けど、降りなきゃ。ぐっと体に力を入れて、槍から手を離した。足で槍を蹴る。
さっきよりも遅い落下だった。景色がゆっくりになって、周りを見る余裕もできた。そしたら、地上でヘレが固まっているのが目に入った。エスカマリさんが何かヘレに言葉を投げかけている。
ヘレも、何か選択させられているに違いない。早く、助けなきゃ。
「ヘレ!」
思わず声が出た。ヘレが、エスカマリさんがこちらを見る。
ヘレがほっとしたような顔をして、動いた。エスカマリさんもヘレの動きに俺から一瞬顔を背けた。
「うわっ!」
「きゃっ!?」
ぶつかった。エスカマリさんに。




