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オフィウクスの謎―加護を受けたと思ったら存在しない神だった―  作者: 桜皐ゆるり


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4章 天秤の星25―天秤の神への問いかけ―

「いてて……」

 多少痛いところはあるけど、着地位置は完璧だった。エスカマリさんを巻き込んだことで、落下のダメージは減ったみたいだ。

「な、なんですか!?」

 視界が揺れる。エスカマリさんががばっと起き上がったせいで、転がり落ちたせいだ。起き上がって、エスカマリさんに対峙する。エスカマリさんは動揺しながら乱れた髪を直して、立ち上がった。

「アスクさん、まさか私をクッションに飛び降りてくるなんて思いませんでした」

「俺もこんなうまくいくなんて思わなかったよ」

 ふうっと一息ついて、エスカマリさんは冷たい目を俺に向けた。威嚇されている。言い知れない恐怖に喉がことりとなった。次の行動だって俺にはうまくいく自信はない。けど、やってみなきゃ。可能性がある限り。

「こんなところまで何のようです?」

「抗議……しに来たんだ」

「あら、抗議だけですか。お可愛い」

 ふふっと笑ってから、エスカマリさんは俺に手を伸ばした。一瞬にして鎖が出現して、じゃらりと俺に絡まる。鎖の重さにぐっと前のめりになった。

「それで、どうやって? 貴方、攻撃できる加護をもう持っていらっしゃらないでしょう?」

 見透かされている。エスカマリさんが俺の首に手をかけた。ひんやりとしていて細い指が絡まる。

「なのに、ひとりで、私の前に来た。勝算があったのですか?」

 目を見開き、笑いながらエスカマリさんは顔を近づけてくる。そんなのわかってる。力では敵わない。加護の力を使われたらひとたまりもない。だから、怖い。怖いけど、俺はやらなきゃ。って思う。

「まあ、勝算も何もかも奪ってあげますよ。ほら天秤が動いた」

 ズンっと黒い天秤がひとつ動いた。また何かを奪われたんだ。俺の加護の力でどうにかはできない。だから、俺がしっかりしないと。

 口を開いた。

「これって本当に公平?」

 また黒い皿が下がる。すべてを奪われてしまうかもしれない恐怖に舌が渇く。でも、俺は話し続けなければならない。希望を捨てたらいけない。そうしたら、次はヘレたちが迫られる。この恐怖に。

「公平です。天秤の星にとってはですが」

「本当に?」

 カタン。しゃべる度に黒い皿が落ちていく。後、何回猶予があるだろうか。帰属した加護は乙女、魚、獅子、牡牛、水瓶、蟹で六個もらったはずだ。まだ猶予はある。

「ええ。黙った方がよろしいのではないでしょうか? しゃべる度に、天秤が傾いておりますよ?」

「エスカマリさんに言ってない!」

 カタンという音。気になる。焦る。でも、呼びかけなきゃ、あの人に。

「天秤の神! 貴方はどう思ってるんだ!」

 カタン。

「天秤の神は私にすべてを委託しました」

「ちがう! まだ天秤の神は生きている。考えろ、貴方が何を大切にしていたのか」

 カタン。まだ、反応はない。でも、呼びかけなきゃ。目の前にはいない彼に。

「ふふ、気でも狂ったんですかね。貴方も天秤の神を見たでしょう? もう彼は、動けないんですよ」

「俺は見た、貴方が天秤の星を大事に思っていることを。天秤の神! これが貴方が望んだ世界なのか!?」

 カカカ、天秤が小刻みに揺れる。エスカマリが驚いて天秤に向かって「何やってるんです!?」と叱咤している。けど、そんなことはどうでもいい。俺が話しているのは、天秤の星と繋がっている神、天秤の神だ。

「これが、貴方が望んだ天秤の星の姿なのか!?」

 がっしゃーん! という大きな音を立てて、天秤はんまったく真逆に動いた。白い皿から鎖が千切れて地面まで落っこちていく。

「そ、んな……」

 エスカマリさんの顔が真っ青になる。エスカマリさんからふわっと白いかたまりがいくつも浮かんできて、俺の身体に溶け込んだ。加護が戻って来た。そう思った。

 エスカマリさんが、キッと睨みつけてきた。けど、空に現れた人物に俺は目を奪われていた。骨と皮だけの身体をローブに包み、悲しそうに奥まった眼でこちらを見ている彼。紛れもなく天秤の神だった。

 エスカマリさんが俺の首を掴もうと手を伸ばす。しかし、俺の周りが金色の光に包まれた。バチンとエスカマリさんの手を弾く。俺を縛っていた鎖は脆くなっていて、立ち上がればボロボロと崩れ落ちていった。

「まだ私に反抗するつもりなのか!」

 エスカマリさんが天秤の神に向かって吠えた。悲しそうな瞳をエスカマリさんに向けつつ、天秤の神は俺の傍へと降り立った。

「私の星が迷惑をかけた。ここは私が受けもつ。其方たちは射手の星へ送り届けよう。そこで彼から――射手の神から話を聞くのだ」

 俺の他にヘレやスピカ、レグルスが金色に包まれる。マルフィクだけはそのままだった。マルフィクに顔を向ければ、手を振られる。ここでお別れだと言われたみたいで、目を瞬いた。なんで?

「私はもう一度、がんばってみようと思うよ。君の未来を見てみたい。私の加護を与えよう」

 天秤の神が俺に向かって言葉を発したかと思うと視界が金色に包まれたのだった。

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