4章 天秤の星18―失うばっかりじゃない―
俺が駆けつけた時には、ヘレとスピカは幾人もの人間と戦うことを迫られていた。
「アスク、どうすンだ。アレ」
マルフィクが俺に問いかけてくる。わかってる、二人を助けなきゃいけない。何かあってからじゃ遅い。
「早く助けに行かなきゃ!」
「おい!」
マルフィクが止める声を無視して、人ごみの中を中央に向かって駆け降りる。早く、助けなきゃ。
けど、いきなり腕をぐっと掴まれて、前につんのめった。
「わっ! マルフィクなに――!?」
「オレじゃねェ」
止めたのはマルフィクだと思った。でも、振り返ったら金色の瞳と目が合った。金髪に、額の傷、見慣れた顔。
「レグルス!?」
「そんなに急いでどうした、アスク」
にやっと笑って、手を挙げて挨拶するのは紛れもないレグルスだった。その手には賭け事に使われているであろう紙をいくつも握りしめていて唖然とする。
どうしてレグルスが? 賭け事してる? なんで?
疑問で目の前が白黒する。
すぐに止められたことに、頭がかっとなった。
「呑気に見物してる場合!? ヘレもスピカも今ピンチなんだよ!?」
揚々としているレグルスに、捕まれた腕をぶんぶんっと振って抗議した。
「あのなぁ、ヘレちゃんもスピカちゃんも二人とも強いでしょうが。このくらいで負けやしないって」
飄々としているその態度が気に喰わない。焦りから来る苛立ちに唇を尖らせた。
「でも、二人とも戦いづらそうにしてるっ!」
二人が負けやしないのはわかってる。でも、ヘレやスピカは人を殺さないように立ち回ってるみたいで。このまま戦い続けたら決着がつかずにヘレもスピカも体力を削られる。
それに、どうして二人がそんな立ち回りをしてるのかオレにはわかる。
だって、たぶん俺も同じ状況になったら戸惑ってしまったと思うから。
「ヘレやスピカは人を殺すのは望まないよ……」
ぐっと手に力が入る。ヘレもスピカも理不尽な選択を迫られてるに違いない。なんとかしたかった。
「やっぱり、どうにかしなきゃ! 矢の雨!」
気持ちが焦って、俺は牡羊の矢の名前を唱える。けど、それは発動しなかった。一緒に今までの熱が霧散した。さっと血の気が引いていく。
レグルスに再び手を掴まれて引きずられるように後ろの方に連れてかれる。
頭の中はどうしようという言葉で埋め尽くされていた。
「……アスク、どういうことだ?」
「エスカマリさんが、また俺の加護を奪ったんだ……」
ぽそぽそと話す。目頭が熱くなる。牡羊の星の頃のようにまた何も使えなくなったらどうしよう。
上手く言えない俺の代わりにマルフィクが話してくれる。
「エスカマリッていうヤツが、アスクの力を神の天秤にかけやがッた。制約の”天秤の星の利益になるかどうか”で利益にならないと判断される度に黒い皿が沈む。ンで、アスクの加護が奪われるンだ」
「なんだそれ。お前らのがよっぽどやばいじゃんか」
レグルスが頬を引きつらせた。
「確認しただけでも蠍、双子、牡羊は奪われてンな」
「どんどん減ってるってことか? 帰属の加護はどうなんだ?」
帰属での加護は、スピカとマルフィクにもらったやつだ。俺はマルフィクを見た。
「たぶん、取られるだろ。アイツは加護だけでなくアスクの力をすべてもらうッて言ッてたからな」
「帰属の加護を取られたら、みんなには影響ないの?」
不安が頭を擡げる。帰属は、お互いに認め合ってもらうことのできる加護だ。奪われた場合、与える側のデメリットはないのかな?
「繋がりがアイツの方に移るッてだけじゃねェか。お互いの位置がわかるぐらいしか帰属のメリットはねェしな」
「そっか」
ほっとした。もし取られてしまってもマルフィクにもスピカにも影響がないんだ、良かった。
「なら、ちょうど良かった。アルディから預かってきたんだ。帰属の契約書を」
レグルスは懐から巻物を三つ取り出した。
たしかに、アルディさんが後で帰属の書類を寄越すと手紙をくれたけど、まさかレグルスが持ってくるなんて。
「牡牛、水瓶、蟹の加護の契約書だ。帰属の許可をサインすれば、お前に加護が帰属する。もちろん獅子の加護も俺から渡すぜ」
「ああ、持つ加護を増やすッてことか」
契約書を開いて、レグルスは俺にペンを手渡してくれる。契約書にはアルディさん、サダル、タルフの文字で帰属をしたい旨が書かれている。
「キャパを増やせば奪うのに時間がかかる。そのうちにどうにかしようぜ」
心強かった。どうにか、しよう。気持ちを引き締める。
俺は契約書にサインをした。契約書はパッと光って、その光が俺の腕に入った。
「俺のも受け取れよ」
「うん!」
頷いた。余裕が出来たことで、焦りが少し緩和した。
「それで、ヘレとスピカが大変なのはわかった。あの二人はまだ上手く立ち回ってくれてるみたいだけど、どうやって助けるべきか話し合おう。試合を止めるだけでいいわけでもないだろう?」
そうだ。試合を止めても、助けに入ったとしても、ここから逃げなきゃいけない。それに、俺たちにはまだ解決してない問題がある。
「あのね――」
「こんなところでのんびりしてて良いのですか?」
声に振り返れば、最初にあった時と同じようににこっと笑いながら、エスカマリさんが俺たちの後ろに立っていた。俺たちを追いかけてきたんだ。じりっと一歩下がる。
「お前――レーピオスのとこにいたっ!」
レグルスが驚きながらも、俺たちとエスカマリさんの間に入って、警戒するように腰の銃に手をかけた。
レーピオスの名前に俺はマルフィクを見た。エスカマリさんのことを知ってるとは言っていなかったはずだ。
マルフィクは口元に手を当てて頭を振って見せる。エスカマリさんのことは知らなかったようだ。
「あら、レーピオスさんとお知り合いなんですね。私は天秤の加護を持つエスカマリと申します。貴方、誰ですか?」
「会っただろうが! レグルスだ!」
エスカマリさんは落ち着いた様子でレグルスを見る。レグルスに名乗られてもわからないように首を傾げている。
「レグルス……レグルス……どこかで聞いたことがあるような」
「獅子の加護を持つレグルスだ!」
いい加減にしろよと、レグルスが大きな声で威嚇する。
「あ、ああ~! 落ちこぼれの、あのレグルスですね」
「はっ?」
思い出したのか手をぽんっと叩いて、エスカマリさんはにこにこしている。今度はレグルスがぽかんとして彼女を見た。
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