表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/96

幕間 ???の星ーついてないー

 エスカマリは目を閉じてサダルについて行くように指示する。動けなかったタルフの身体は、意思とは関係なく目を閉じて歩き出した。

 気味が悪いがどうしようもなかった。身体が止まって目が開いた時、タルフは一つの部屋の前に居た。

「ここ、アルディさんとレグルスさんと僕の部屋だから」

 むすっとしながらサダルは説明をする。すぐに部屋から離れようとしたサダルだったが、去りかけた足は止まり、なぜか戻ってくる。

「……ねえ、なんで人魚になったの?」

 目を合わせずにサダルはタルフに問う。

 タルフはいままで人に人魚の姿を見せることはなかった。その行動が、人魚の血が嫌いだという感情からきていることをサダルは知っていた。だから、タルフが人魚になってまで反撃してきたことが気になっているのだ。

 タルフは言われて、魚の星の血を嫌悪していた気持ちに区切りがついていることを自覚した。

「魚の星をこの目で見たやざ……」

 マルフィクが人魚だったことと、魚の星を通ったことで人魚がまったく知らない何かから、同じ人間だと知ったことは大きいとタルフは思う。だけどそれよりも、マルフィクが人魚になった時のアスクの反応が頭をよぎった。驚いていたが怖がるわけでも気味が悪いとも言わず、彼の過去話を聞いていた。そんな相手であれば自分もこの姿を見られてもどうともないし、誰に何を言われても気にならないだろう。そう感じたことを思い出す。

「それに……うらが半分人魚だって、おめえは何も変わらないと思ったらどうでもよくなったやざ」

 皮肉にもタルフのことを受け入れた人物は対峙していたサダルだった。

「…………」

 サダルはくしゃっと顔を歪めて踵を返して駆けだし、タルフを残して去ってしまう。タルフは彼の背中を見送るとため息を吐いた。

「……はあ、ついてないやざ」

 サダルを殺せずに腕を吹っ飛ばしただけで、捕まってしまった自分の不甲斐なさを嘆く。

「……落ち込んでても仕方ないやざ。レグルスさんとアルディさんに話を聞こう」

 タルフは立ち上がってきょろきょろと辺りを見回す。通されたのは広い雑談室のようで、この部屋を囲むように五つほどドアがあった。

 一つのドアを見るとアルディと書かれた札がかかっており、アルディの部屋だとわかる。

 タルフはトントンと扉を叩いた。

「あの、アルディさん?」

「はーい」

 小さくか細い声が返事をする。

「えっと、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、大丈夫……ですわ~!」

 無理やり出したような高い声が返ってきてタルフは戸惑う。もしかしてなんかの病気で喉がやられているのだろうか。出てきもしないし、寝込んでいるのかもしれないと心配になった。

「あの、うらタルフやざ……なんか栄養つくものでも――」

「タルフ!!」

 大きな低い声が響いて扉がバンっと開かれる。

 目の前には金色の髪と瞳、印象的な額の傷跡、アルディとは真逆のキリっとした大人の男性的な顔、タルフはレグルスだとすぐに理解した。しかし服装はアルディさんが来ていたフリフリの女性用の服で頭が混乱する。

「え? なん、やざ?」

「タルフ無事だったんだな、よかったぜ!」

 タルフの戸惑いを気にもせず、快活な声でにこにこと笑うレグルス。普段の格好と違いすぎて、タルフの頭の中を?マークが埋め尽くしていた。

「いやー、アルディとサダルに置いてかれるし、借金の肩にアルディの代わりやれとか無茶ぶりされるし、タルフが来てくれてよかった」

「うらは帰りたいやざ……」

 聞いてもいないのに現状を説明するレグルスに、遠くを見るタルフ。ぽつりと気になったことを突っ込んでしまった。

「身代わりやるにしても恰好まで揃える意味は……?」

「聞いてくれよタルフ~! それがさー、アルディのヤツがどうせ演技も下手なんだから恰好だけでもどうにかしたらいかがかしら~? って強制してくるし、お前のサイズムリだろとか言ったらなんか入るサイズ出てくるし、どうにもできなくてよー」

 レグルスの話したい欲を踏み抜いたらしく、怒涛に話されてタルフは閉口してしまった。なぜかさっき無理に演技している時よりもアルディに口調を似せていてイラっとさせるのもあり、タルフはこれ以上その話題を聞くまいと思った。

「えっと、レグルスさんはここがどこだかわかるやざ?」

「いや、どこの星かすらわからねぇ」

「じゃあ、敵が何人いるかわかるやざ?」

「アルディとサダル以外見てないな」

「この建物の構造は、どうやざ?」

「この部屋から出てないからなぁ……」

 レグルスの返答になんの情報も持ってないことを知ると、タルフは死んだ魚のような顔で立ち尽くしたのだった。

「おい、タルフ!? なんだその目は!?」

 考えるのを放棄したタルフをレグルスが揺さぶったところにアルディが帰ってきて鉄槌を下すまで、タルフはついてないやざ、と頭の中でぼやいていた。

シリアスからの小休憩になります。

温度差…!と思いつつ、書いてて楽しかった……!

次回からはアスクに視点が戻ります。

七月は週一更新目指します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ