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あと7日

解放まであと7日


 平和であれば、毎日は仕事はないらしい。

 そりゃそうだ。毎日魔物が出る世界は恐ろしい。しかも、四聖が出動しなけりゃいけないほどの魔物、魔法事件なんて、大ごとなんだから。

 ちょっとしたちっちゃい魔物程度なら、僕の父や兄たちの出番であり、そんな事件でも毎日はない。

 にもかかわらず、今日も彼女は居眠りをしていた。

 灰色の髪がいつもより増してくすんでいるように見える。あちこちはねたままの寝ぐせ、まあ僕も人のことがいえるほど自分の身だしなみに気を付ける方ではないけれど、櫛を入れていなんじゃないかとさえ思わせる。絡まってはないけど。

 一応なりとも「警護」を意識しているうちに、つい彼女を見る癖がついてしまった自分に気が付いた。ちょっと気恥しくなったけど、一応国家レベルの一大事、我が家の平和案件、大事な仕事だ。


 今日は魔法の実習があった。「ろうそくに火をともす」から「ろうそくの火を5倍にする」「雷魔法への転化」「小さな雷を球状に保つ」までの連続技。

 魔法の転化はあまり得意じゃなかった。三回目でようやく成功し、得意の球化は一回ですんなりとできた。

 実習室は魔法の暴走に対応できるようになっていて、かなりの失敗も相殺魔法でなかったことにしてくれる。なので、黒焦げになるほどの雷魔法暴走があっても、小さな怪我で済むんだけれど、二つ向こうの班でテレンス・リーヴェが小さな黒焦げを作っていた。

 四聖だ。仮にも四聖と呼ばれるほどの魔法使いが、学校のこの程度の魔法実習で「失敗」をするのは不思議だった。珍しい光景でもなく、実際彼女はよく失敗する。

 思えば、発動しない失敗は少ない。

 もしかして…逆に大きすぎる魔法をあの程度に抑えることができない、とか?

 上目遣いでこっちを見られた。目と目が合うと失敗したのが恥ずかしかったのか、少し口をとがらせてすぐに目を背けた。

 次は恐る恐るながらも成功を収め、何とか実習点を獲得できていたようだった。


 母は僕が学校に行くようになると、週に何日か親戚のおじさんが経営するパン屋で働いていた。家族の晩御飯に支障がないよう昼だけの手伝いながら楽しいらしい。もともと愛想がいい、わが母ながらかわいらしい人なので、売り子は性に合っているだろう。

 僕の昼ご飯がほぼパンなのは、そのせいだ。

 今日はロールパンと、別の入れ物にハム、チーズ、レタスが入っていた。

 餌付けをするつもりはないんだけど、テレンス・リーヴェがお昼のパンを楽しみにしているのがわかった。僕としても、国の英雄が昼飯よりも寝るのを選んで消耗する姿を見るのは忍びない。

 迷わず手を出した彼女に少し「待て」をしつける。

 すぐに出てこないパンに首をかしげたが、パンをナイフで切り、間にチーズを挟んで渡すと、すぐさま口に放り込んだ。

 三回噛んで、口に味が広がるとしばらく味わいの余韻を楽しみ、後はきれいに食べ切った。

「お昼は食堂使わないの?」

「…行ったことがない」

 僕も大抵お弁当を持ってきているので、食堂に行ったのは二、三回程度だ。

「ご飯はちゃんと食べたほうがいい。明日は食堂に行ってみる?」

 ハムとレタスの入ったパンを受け取りながらも、パンに口をつけないので次の言葉を探しているようだ。少し長い間を、せかすことなく待っていると、

「どうやったらいいのか、わからない。混むのも苦手で…」

 そう答えると、パンの端からはみ出ているハムを少しかじった。

「お金、使ったことない?」

「それくらいはしてる」

「外食は?」

「夕食は宿舎で出るけど、夜にバルに行くこともある。…行けば座っていれば適当に出してくれるし、いつも同じ値段だから、そこしか行ったことない」

 つまり、出されたものを食べることしか知らないのか。おいしい店を探してみたり、何食べようか迷ったり、屋台で頬張ったりとか、

 いかにも、してそうにない。

「明日、一緒に行こうか。一度使えば、食堂の仕組みはわかるよ。お金の払い方も」

「…急な仕事が入るかもしれない」

「当日キャンセルOKだよ」

 僕の言葉に目を丸くして首を傾げた。

「約束は…できなく、ても、OKなんだ」

 なんだかすごく考え込んでる。

 もしかして、約束を絶対守らなければいけないと、ガッチガチに考える質?

「絶対な約束なんてないだろ? 僕の父さんなんか、自分の誕生日に急な残業になって、待ってた母さんを怒らせたけど、次の日に鶏の丸焼き1匹分全部食べ切って許してもらってたよ」

 あの時は、父さんを助けるべく、僕も兄たちもこっそり手伝った。もちろん母さんはそのことも知っている。

「用事が出来たら、じゃまた今度でいいと思うけど?」

 目は僕ではなく、手元の、かじりかけのハムを見ていた。

「また、があれば、いい、なら。約束、できる、」

 自分自身を説得するように、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。言葉が思いを伝えたがっている。

「じゃ、とりあえず、明日」

 軽く頷いて、彼女は食事を続けた。

「…あ、金貨使えないよ」

「え???」

 洒落のつもりだったんだけど、本気で彼女は驚いていた。まじか。

 一応食堂の相場(バルとさほど変わらない程度)と、両替の限界を簡単に伝えると、小銭を用意すると言ってそっとうなずいた。


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