私は前世持ち。
私には生まれた時に決まったと言う婚約者がいたの。私が五才のお誕生日に初の顔合わせが行われたわ。お相手はどんな方かしら?侍女に素敵な王子さまの様な方ですよと言われ、お姉さまの婚約者を思い出す。キラキラとした本物の王子さま。私は新調したばかりのピンクのドレスを着つけられ、嬉しくてワクワクしながら到着を待っていた。
事前に私は料理人に手伝って貰い、マフィンとスコーンを焼いたの。それらはすでにケーキスタンドに盛り付けて有る。これから庭園の東屋でニ人だけのお茶会。もちろん遠目にだが、護衛や侍女は控えている。
私の王子さまは喜んでくれるかしら?
既に着席していた婚約者に私が挨拶をする。すると彼は突然立ち上り、テーブルの上のケーキスタンドを片手で薙ぎ倒した。
「ど……どうして? 」
驚き泣き出しそうになる私。
「公爵令嬢がお菓子を作るなんて可笑しい! 貴様は頭がいかれてるのか! こんな物を口に入れられるか! 僕の婚約者でいたいなら、僕の嫌がる事はするな!
以降僕に一切口答えをするな! 」
庭に散らばるお菓子を見つめ、私はヘナヘナと座りこんでしまう。私の目の前に転がるマフィンとスコーンを、踏みつけ更にはグリグリと踏み潰す婚約者の姿。
「解ったか? ニ度とするなよ! 」
「…………」
「返事をしろ! 」
私が無言でいると思いきりお尻を蹴りあげられた。バランスを崩し転がり庭石に激突する。額を打ち付け頭から血を流す私に、慌てた侍女が飛び出して来た。
「お嬢様! 大丈夫ですか! お嬢様! 」
何か叫んでるけど聞こえない。意識が無くなる。世界が白くなる。途端に何か膨大な知識と映像が、己の脳裏に走馬灯の様に流れ始めた。
女子高生だった私が、アルバイトで初めて貰ったお給料。そのお給料で有名店のケーキを家族分購入した事。その味に一目惚れして、製菓の専門学校へ行った事。有名ホテルの製菓部門に入社し、脇目もふらずに日々お菓子作りに励んでいた事。そんな私を見かねた同僚からのプレゼント。恋愛に興味を持つ為にもと、恋愛シミュレーションゲームとやらを貰った事。所謂乙女ゲームと言う物らしい。ゲームは初めてだったが、プレゼントなので私は一通りクリアをした。
そしてとある製菓のコンクールで地区大会まで行けた日。早朝の横断歩道で、居眠り運転で横転したトラックに潰された。呆気ない死に様だった。
そう私は一度、車にひかれて死んだのよ。全てを思い出した。これは走馬灯なんかじゃ無い。私の前世の記憶だ。魂は輪廻転生すると言う。しかし記憶は消去されるのでは無いの?私が思い出した理由はなんなの?
その日から約一週間、私は高熱を出し寝込んだそうだ。その間原因となった婚約者は、見舞いにすら来なかった。
公爵令嬢がお菓子を作る。それがそんなに可笑しな事なの?頭がイカれてるとまで言われなきゃならない事なの?お菓子はキチンと毒見だってしている。お菓子作りと言ったって当時五才の私では、殆どが手伝いみたいなもの。女の子の可愛らしい手遊びじゃない。
ううん。それよりあの婚約者は……
いやー!
あの侯爵子息はサドなのよ!女性を痛めつけるのが趣味だった。婚約者の私は小さい頃から生意気だからと、ずっと虐待されて続けていた。それも外部にはバレぬ様にと、見えぬ所を痛めつける。体だけでは無く精神的にも追い詰められる。己より私を価値の低い人間と詰り貶める。私はすっかり卑称になり、己に自信が持てなくなる。彼奴の言いなりのお人形状態にされてしまう。
なのに突如真実の愛を見付けたとか言い出し、私は冤罪で断罪される。悪役令嬢として国外追放になる。
ローズマリーの取り巻きに、姉の婚約者の皇太子様もいたから。だから私の罪はたして調べられもせずに重くなった。そして私が罪を犯したからと、姉と皇太子との婚約も破棄になる。
正直これは助かる。お姉さまをあんな目にあわせたくはない。
皇太子は実はもの凄い変態なの。ストーカーにヤンデレを拗らせてる。幼い頃からの婚約者である、美形なエリザベートに執着している。胸フェチで腰フェチ。部屋は盗撮させた絵姿で埋もれているの。等身大の人形を作らせて、毎日撫でながら着せ替えをしている。お姉さまのサイズが変わったからと、人形を作り直させる。前の人形はお姉さまの成長記録だといい、全てを保管しているのよ!何故サイズが解るのよ!正直気持ち悪くて鳥肌が立つわ。
なのに何故かいきなりローズマリーのとりまきになる。そして恋人になれば婚約破棄よ。それは何故か?答えは簡単。単にお姉さまに焼きもちを焼かせたかっただけ。でもお姉さまはムカついていて即時に解消。だってお姉さまは全てを知ってるもの。一族郎党の為にと我慢しているだけ。ヘンタイ何て嫌に決まってるじゃない。
「…………」
だから私は決心をした。私が引きこもれば婚約者のサド野郎に虐待される事は無くなる。両親は私を心配して婚約破棄を申し込んでくれた。私は彼奴と婚約破棄が成立するまで絶対に外には出ない。流石に王家主催の物には出たけど、お姉さまが守ってくれた。
彼奴は学園内で、徹底的に下僕を扱う様に私を辱しめた。夜会に誘っては人前で貶め、私を肉体的にも精神的にも追い詰めてくる。なのに最後にはポイ捨てなのよ。何が真実の愛よ。
我が公爵家は王家の血筋なのよ?私が引きこもった為か、彼奴の後ろ楯になりうる皇太子も居ない。私は学園にもいない。何故かお姉さまも学園には行かなかった。更には私の趣味を、お姉さまはマーガレットブランドとして立ち上げてくれた。しかしこの変化したシナリオの中でも婚約破棄は起きた。
元婚約者はどうするつもりなの?本当に男爵令嬢のローズマリーと結婚するつもりなの?
侯爵はマーガレットブランドの資産を宛にしてるのだろう。バカね。とらぬ狸の皮算用よ。我が公爵家への支払い何て出来る筈が無い。あのお目出度い親子はどうするつもりなの?まあ私はもう全く関係無いのよね。支払いを楽しみに待ちましょう。領民の為の学校を2つは作れそう。お父様にお願いしなくちゃ。勿論給食付きね。
だって当たり前じゃない。
ローズマリーは、マーガレットブランドの代表ではあり得ないのだから。
*****
「つまりこの世界はマリエンヌが前世で遊んだという、ゲームの内容と同じなんだね? 」
「そう。ヒロインのローズマリーが学園で、攻略者と呼ばれる沢山の男性たちから声をかけられるの。その中から好みの男性選び、仲良くなりハッピーエンド。その仲好くなるのを邪魔をして、花を添える当て馬が婚約者たち。所謂悪役令嬢よ。私たちは断罪されて国外追放よ」
「ゲームについては良く解らないけど、ローズマリーは侯爵子息を選んだ。つまりヒロインのローズマリーにとっては、侯爵子息が攻略者でマリエンヌが悪役令嬢な訳だよね?
もし皇太子が攻略者なら、エリザベートが悪役令嬢になった訳? 」
「そうよ。でも皇太子様だけは、ローズマリーに完全には墜ちてはいなかった。想いは不純だけど、お姉さまを本気で好きだからね。でも最後には結局ミイラ取りがミイラになるのよ。ローズマリーは魅了の魔道具を身に付けている。相手が思い通りにならぬと使うわ」
「攻略対象者は王子を足して五人だけ? 」
「…………」
「でもヒロインとやらは侯爵子息を選んだ。これでハッピーエンドじゃない。なら後の攻略者は関係ないよね」
「…………」
どうしよう。全てを話しても大丈夫なの?
*****
実はこのゲームには、所謂ハーレムエンドと言われるエンディングが有る。しかしこの世界には多重婚は無い。だから此方は大丈夫だと思う。不倫関係にはなれても、皆で仲好く暮らしましょうのエンディングは有り得ない。
しかし変わりになるのが隠れキャラ。第六の攻略者だ。先の五人を全て攻略すると出現する。
この世界でも貴族世界では、愛人や不倫は罷り通っている。ヒロインは侯爵子息と婚約した。しかしこのゲームの攻略基準はベッドインだ。彼奴は意外に頭が古いらしく、私にも最後まではしなかった。
もしローズマリーとも最後までしていなかったら?侯爵子息は攻略済みにならない。攻略済は初夜まで持ち越しになる。一人で満足してくれれば良いけど……
もし隠れキャラ出現を狙うなら、五人全てとベッドインしなければならない。うーん。兄以外のニ人は既に惑わされてる感じだった。もしかしてもう攻略されているの?幾らなんでもそれは無いわよね。
何て考えたんだけど、それ以前に何故かどんでん返しが起こってるの。
五人全ての攻略者とベッドインすると、隠れキャラが出現する。
それが私が一番好きだった人。だからゲームでも、好きでも無い攻略者をも全て攻略した。しかしそれはあくまでもゲームだから。この現実の世界で同じ事は出来ない。会いたくても、まさかヒロインにそんな行為を強いる訳には行かない。
だから…。
私は彼には会えないと思っていたの。諦めていたのに……そんなある日、お姉さまが商人を連れてきた。異国の珍しい品を扱っているから、ぜひ私にも見せたいからと。
!?!?!?
何故?何故今ここにいるの?学園に通わなかった私には解らないけれど、時期的には既にゲームは始まっているのだろう。でも何故隠れキャラの彼がもういるの?
彼はヒロインが挙式前に、五人全てを攻略していた場合にのみ現れる。ヒロインが大商会にウェディングドレスを発注する為に呼ばれるのだ。そして二人は恋に堕ちる。
因みに五人全てを攻略して無い場合は、大商会の父親がやってくる。隠れキャラの彼は色々な国をまわり、商品の目利きをしているからだ。その為国内にはほぼいない。しかし隠れキャラとして出る条件を満たすと、珍しい極上のシルクの生地を見付けたからと、たまたま国に一時帰国をするのだ。この生地がヒロインのウェディングドレスに使われた。
そしてヒロインの結婚式。第六の攻略者で有る彼は、教会に飛び込みヒロインを強奪する。そのままニ人は愛の逃避行に出発した。
そうなの。この私の目前のロジャースこそが隠れキャラ。第六の攻略者。私が前世で一番好きだった人。爽やかな見た目に似合わず、ゲロ甘溺愛な人。束縛系監禁要注意な微ヤンデレ。
ゲーム自体が成人向けだったし、ヤンデレ好きからのプレゼントだったからね。気を付けないと、この世界では直ぐに監禁されちゃう。色んな意味でね。
「考えは纏まった?
ならすべて話しちゃいなよ。大丈夫。絶対に信じる。だってコメコメ大商会の創始者には、未来予知が有ったんだ。本人は前世の記憶だと言っていたらしい。日記も有る。我々には読めない字だけど、君には読めるんじゃ無いかな?
私はマリエンヌの料理を食べて感じていた。何だか懐かしいとね。お味噌汁に卵焼き。我が家にも伝わっているよ」
突然の言葉に息が詰まる。
「ご先祖様は生まれた時から、前世の記憶が有ったらしい。それで先々におこる事を言い当てたりし、不気味な子供だと親に捨てられたんだ。前世では歴史の先生をしてたそうだよ。彼は各国を商人として旅をしながら、かなり苦労したらしい。だからもし己の様に苦労してる人がいたら助けてやれと、必ず信じてやれと、代々コメコメ商会には前世持ちの話と日記が受け継がれている。だから安心して話して欲しい」
ロジャース様……
「でもそれだけじゃ無いんだよ。私が君を救いたいんだ。マリエンヌを愛してるから。お願い。私にも君の辛さをわけて欲しい。ニ人なら軽くなる筈だよ。ね? 」
「ありがとう……」
涙が止まらない。嬉しい。私は一人で悩んでいた。自分で何とかしないとと意気込んでた。でもそうじゃない。
少し手をのばせば……
私は全てを話した。泣きながら話した。彼はゆっくりと焦らずに、しっかりと私の話を促し聞いてくれた。
「頑張ったね。マリエンヌ」
優しく頭を撫でてくれる。私は子供じゃ無いのよ?
「そうよ! 何で言わないのよ! 頭の可笑しい妹だなんて思う筈が無いじゃない! せいぜい夢見がちな夢子ちゃん位よ! 一人で悩むなんてバカよ! 」
お姉さま?!
「ごめん。情けない兄のせいで、マリエンヌを余計に惑わせたね。僕はもう大丈夫。これからは魅了の魔道具を持ち歩くよ。肉擬き美味しかったよ。ご馳走さま」
お兄さま……
「おニ人共に覗きですか? 何時から? 」
「…………」
「姉さんはさすがに言い難いよね。盗み聞きしてごめん。皇太子様は変態辺りからだよ。等身大の人形辺りの、姉さんの顔色の変化が楽しかったよ。さすがにそこまで変態だとは思わなかったんだって。やはり知ってはいても、人の話で聞くとキツいよね。姉さん?
痛いよ! 止めて? 頭叩くな! バカになる! 」
「ほぼ最初からですか。では話は早い。これからの作戦会議といきましょうか? 」
「「「はい? 」」」
何故か馬車にて、大商会の客間へと移動する事になりました。
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