目覚めたら……すべてが……
うぅぅん……頭が痛い……またいつもの頭痛かしら?お父様に知られたらまたベットからさえ出して貰えなくなってしまう。さすがにそれはイヤよ。重く鈍痛のする頭に手をあて、熱がないことを確認して一安心する。
『大事な話があるんだ。明日朝食後にリュウと三人でお茶会をしよう』
今日は中庭の東谷にお花を見にゆくの。ユウが誘ってくれた。とても嬉しかったわ。リュウも一緒だと約束したの。最近よく二人で言い争っているから、ケンカをしているのかと心配していた。でもリュウは……『ケンカなんてしていないよ。ユウはまだ子供だからね。兄代わりの私が叱ってるんだよ』なんて言いながら、ダメな子を宥めるような優しい眼差しでユウをみていた。確かにユウはリュウに突っかかっているだけに見える。最近のユウはなんだか怖い。いつもの笑顔は変わらないのだけど、なぜか私を見る視線に恐怖を感じてしまう。なぜかしら?でも笑顔のユウにそんなことを聞けやしない。なんて聞いたら良いかすらわからないわ。でもユウはお兄さんに甘えているの?そうね。私にも甘えているもの。ユウは末っ子の弟分なのね。男の子はワンパクな方が良いと聞くし、年上に反抗したくなったりするわよね。そうよ。そう考えたらなんだか微笑ましいじゃない。
頭痛なんていっていられない!早く起き出さなきゃ朝食が運ばれてきちゃう!今日こそは食堂で食べるの。食べられなくちゃお茶会に行けなくなっちゃう。さあ起きなくちゃ!
私は思いきり布団をはいだ。さっ寒い……布団に戻りたい。お父様が特注してくれた、黄金スカイバードの羽毛布団。本当にフワフワのお布団なの。やはりもう少し眠りたいかも……なんてダメよ!『食堂で食事を出来ない日は安静にすること』これはお父様との約束だから。さあ起きるわよ!
大事なお話……それは父から私の容態を聞いたこと。特効薬はなく長生きは出来ないこと。しかしユウとリュウのいた世界はこの世界より薬学が進んでいる。もとの世界に戻り二人で薬を探してくるという。私の病気は二人の世界では、すでに不治の病ではなくなっていると……私はまだ生きられるの?赤ちゃんも望めるの?それは嬉しい。でも……二人に危険なめにはあって欲しくはない。
だから……
*****
そうよ……私は二人を止めた……なのに二人は行ってしまう。しかもなせが戻ってきたのはユウだけ。リュウは一人狭間に落とされて……ごめんなさい。ごめんなさい。リュウ……本当にごめんなさい。私にこんなに酷いことをするユウが憎い……でも……私に出来るなら支えてあげたいとも思ったの。許してあげたいとも思った。きっと私もユウが好きだった。なのにユウの気持ちをわかってあげられなかった。二人を止められなかった。そんな私の罪であり罰なのね。だから私は命をかける。私が死んでもユウに希望を与えたいから。きっとリュウがいても、生んで良いといってくれたわよね?私はこの子たちに未来を託せて幸せだったわ。
だからユウ……私が死んでも……後悔なんとしないでね。お願い幸せに……双子とともに生きて……
…………ってふざけんなー!己だけ不幸ぶっているんじゃないわよ!気持ちをわかってあげられなかった私が悪い?そんなの言われなきゃわからないじゃない!きっと好きだった?そんなの刷り込みか同情よ。思いを伝えもせず卑怯な手でライバルを葬り、逆ギレして女性を手込めにする。体が弱い女性に無体を強いたなら、それがどんな結果に繋がるかも思いつかない。己の欲望を優先し愛する女性の体を労れない。そんな奴に慈悲はいらないから!地獄に落としなさい!
神様だって罪は裁くわ。ユウは裁かれて当然のことをしたわけ。己から愛を伝えることも出来ないバカを庇う必要はないの!私も好きだったからどうなの?そんなのは後付けの気持ちよ!なんのために人には言葉があるの?互いに意思の疎通をするためよ。私なら絶対に許さない!子供に会わせる前に暴行と殺人未遂で処刑させるわ!甘すぎるのよ!この深窓のご令嬢がー!!でもこの女性も私なのよね?なぜか当たり前のようにわかる。だからこそ甘ちゃんなのが許せないのーー!!
愛していたと言うならばなおのこと。ただ許すだけじゃ駄目だった。だからユウは後を追った。貴女の思いも命をも無駄にしてね。キチンと罪を償わせるべきだったのよ。しかもよ!貴女ってば性格も顔も今の私とまったく違うじゃない! なのにアイツはクリス! クリス! クリスティーネ!と煩いのよ!アイツも今の名前で呼ばずに、ユウ!ユウ!ユウマ!と呼んでやろうかしら?
でも貴女を己だとわかるのがキツいわね。実は私って自虐趣味だったのかしらね?しかもこの夢と今の屈強な体は、前世で弱かったお詫びですって?極端すぎるのよ!人間普通が素晴らしいのよ!しかもこんな夢なんて要らないわよ!ややこしくなるじゃない!どうせならエドワードの記憶を消せ!神様のバカー!エドワードのカスー!!
でも……まさかよね。己は自虐より加虐に近いと思うわ。うつらうつらしている脳が段々と覚醒してくる。
うーん…………布団が固いわ……スカイバード狩りにでも行こうかしら?残念だけどさすがに黄金は探すのが大変すぎるわ……スカイの胸毛なら一日も有れば私の分位は……
痛む頭を擦りながら布団の中でグンと伸びをする。さあお茶会の為に急いで着替えをしましょう。その前に軽く湯浴みをしなきゃ。朝食はいらないわ。侍女に声を……
「…………なんて訳はなーい!! 二度寝する所だったわよ。もしかしなくても私ってば気を失っていたの? いったい何日寝ていたのよ! 起きがけに頭が痛いなんて寝すぎたに違いないわ! 私は健康が取り柄なのよ! それ以外の選択肢はなーーい! 湯浴みだって一人で出来るわ! 湯浴みに侍女付きっていったいどこのお嬢様よ! 」
ついつい大声をあげてしまったようで、すぐに大きな足跡が複数聞こえてくる。
いやだ……はしたなかったかしら?一応元はお嬢様よね。しかも王家につぐ公爵家のお嬢様よ。たしかに侍女に傅かれていたわ。扉が開き数人がなだれ込んできた。マリエンヌにロジャースとリーダーね。みんな無事で何よりだわ。
「お姉さま!良かった……本当に良かった……もしかしたらもう二度と目を覚まさないのかと……本当に心配しましたわ!お姉さま…………」
マリエンヌが私の手を握り、ハラハラと涙を流す。はて?そんなに大事になることだったかしら?
「なんだその間抜けズラは! マリエンヌを泣かせやがって! さっさと起きろ! どうせお前は魔物を追っかけ回すか、スイーツでも食いまくる夢でも見ていたんだろうが! 」
………………ロジャースってば酷い言いぐさね……
「まあまあ。とにかく起きて良かったよ。俺が各方面に知らせてくる。さすがに腹が空いたんじゃないか? 妹さんが沢山用意してくれているぞ。じゃあ俺はひとっ走りしてくるから」
リーダーよね?その顔はどうしたの?めちゃ似合わないんですけど?
「リーダーありがとう。でもその不精ひげ? キチンと剃りなさいよ。いつもヒゲなんてないのに変よ? 」
「おっおいよせ! それは禁句だ! 」
「何故よ? だってヒゲがない方が断然男前じゃない」
「おっお姉さま! 正直なのは美徳ですがそれ以上は言わないであげて下さいませ……」
何故よ?男前が勿体ないからと、私的にはほめているつもりなのよ?
……ってあらやだリーダーってばどうしたのよ?プルプル震えているの?
「エリー!オーマーエーはー! お前がノンビリと寝ているから、俺は! 俺は! 寝る間もなく朝晩皇太子様にコキ使われて……飯だって! マリエンヌさんがお弁当を持たせてくれなければ食う暇もないんだ! しかもヒゲを生やせとまで強制される。まあ起きたならいい! しかし俺は結婚したい! このヒゲでは女性も逃げてゆく。嫌だ! お前の専属護衛は絶対に嫌だーー! 」
リーダーが半泣きしながら駆け出してゆく。はて?なぜリーダーが皇太子様にコキ使われているの?ヒゲと結婚の因果関係は?私の専属護衛?とにかくまったく理解が出来ません。
「ごめんなさい。まったく意味がわからないわ。とりあえず何か食べさせて貰えるかしら? お腹が空きすぎて死にそうだわ」
マリエンヌが嬉々として用意にと向かってくれる。
「ロジャース? とりあえずありがとう。ここはコメコメ大商会の客間よね? 私は自称聖国のパーティーのラストで倒れた後、こちらに運ばれたのかしら? 」
ロジャースが顔をしかめている。なによ?聞いてるんだから話なさいよ。
「とりあえず用意は出来ているから風呂に入って着替えてこい。毎日清拭とクリーンはかけさせていたが、やはり体内から温めるのとでは違うだろう。問題は一つを除きすべてが片付き、既に新しい体制で機能している。だから心配はするな」
その一つってのは……
「ほぼすべてが片付いたの?ずいぶん早いわね。もしかして私ってばそんなに寝ていたの? 確かにリーダーのヒゲは伸びていたけど……」
「はあ…………」
意味深な溜め息ね……
「聞いて驚くなよ。真面目な話だからな。ふざけてもいないぞ。心して聞けよ」
まったくもう……なにをもったいぶっているのよ!早く教えなさいよ!
「お前は……一年も寝ていたんだ」
えっ?えーー……本当に?なぜそんなことになってるの?
「眠りの理由はわからない。倒れた当初は王宮で、医師がかかりきりで検査をし養生させた。しかしまったく目覚める気配がない。そのまま王宮に置いておくとある方がヤバいからな。実家の公爵家にも乗り込んでくるから、マリエンヌのいるコメコメ大商会で預かったんだ。まあある方もすぐには来ない。そこは言い聞かせてある。エリーをクリスティーネと呼ぶなら会わせない。エリザベートだと認識するまで修行に行かせているそうだ。ニヤリ」
修行ってなに?ロジャースの笑いが黒く見える……
「とにかく休め! 寝たきりだったが、筋肉や体に異常はないそうだ。本当にただ寝ているだけ。食事も排泄もしていないのにと、医者たちは不思議がっていた。だがいきなり風呂で倒れても困る。見張りと言うか使用人を置いておく。出たらその使用人に伝えてくれ。部屋から出ずにベッドで大人しく待ってろよ」
はいはい了解です。確かに髪の毛がのびている。でも爪はのびていないわ。もしかして夢のことが関係しているのかしら?
「はいはーい。大人しくしています。私も話したいことがあるし、聞きたいことも沢山あるからね。宜しくね」
ロジャース頷き手を振りながら部屋を出ると、代わりにお仕着せを着た年配の女性が入室してきた。彼女にお風呂に案内され、着替えその他を用意して貰う。
ふぅ……なんだかよくわからないわ。確かに沢山夢は見ていたけど……あれがクリスティーネの人性。そして前世の私なのね。それはなぜかしっくりすると言うか……不思議と理解出来るのだけど……
コンコンと注がれるかけ流しのお湯が、女神が持つ瓶から流れ落ちてくる。心が落ち着くわね。見た目も性格も顔も今の私とは全く違う。その私に過去のクリスティーネを求められても困る。エドワードは夢と現実が違うということに気づけないのかしら?前世としてしっかりと思い出した彼にとっては、夢ではなく掴みきれなかった過去になるの?その柵に囚われている?ううん。少しは同情はするけれど、それはエドワードの心が弱いせいよね?マリエンヌだって前世は前世だとキチンと理解している。ユリウス様でさえ!私とクリスは違うと……私はエリザベートだから悲しい前世を思い出す必要はないと言ってくれた。そうよ!皆は前世を昇華し己の糧にし未来へ進んでいるの。なのにエドワードは……
流れるお湯を眺めながら一人ゴチる。しかしこんなにお湯を張るなんて、コメコメってば儲かってるわねー。なんて考えていたら…………
あまりの気持ち良さに逆上せてしまいました。起きた時……大集合していたみんなの視線が怖い……




