ここでも規格外だと?
魔法大国のお城の客間の一室で、私は公爵家のお仕着せの侍女服を着込む。流石に協力を仰ぐのに、魔法大国側に嘘は付けない。私は出奔したとはいえ公式にはまだ隣国の皇太子様の婚約者であり筆頭公爵家の娘。私だけは先にグレイシー様を頼り、魔法大国側に挨拶を済ませている。私の今回の滞在は、弟可愛さでした事。我が国へは内密にと頼んでいる。流石に皇太子妃予定の公爵令嬢のお忍びに、魔法大国側は青くなった。
しかしここは実力主義の国。私がグレイシー様と共に瞬間移動で謁見の場に登場。その場で王様方に夜空の花火を披露し、新作の魔道具を贈呈したら大層驚かれ喜ばれた。何やっているの?と怒らないで。謁見の間にいたお貴族様方が私が偽者だ、瞬間移動にはグレイシー様が魔力を貸してるとかいちゃもん付けるのよ。苛ついてならばと室内真っ暗にして、雷をパンパン打ち上げてやったの。だってある程度の魔力持ちなら、術者のどちらが魔力を使用してる位は解る筈。魔法大国の人々は殆どが低位以上の魔力持ち。解らぬ筈がない。王様や警備兵には伝えて有ったから騒動にはならなかった。静まり返った会場内。それを打ち破る王の許すとの一声。それに続き凛とした男性の声が響く。多分誰かが王に発言の許可を求めたのでしょう。
「全く王の御前で浅ましい。貴殿たちは実力主義をうたう我が国を貶めるのか? あれ程の魔力を身に纏う姿は神々しい位だ。まるで女神様の様な美しさ。私にさえオーラとして具現して見える位だ。私の魔力を微量だと嘲笑う貴殿らに解らぬ筈がない! 」
私を庇う様に前に立つグレイシー様。いつの間にかその隣に彼は出現していた。でも女神って……正直いたたまれないわ。
「ドレイク殿! それは幾ら何でも誉めすぎなのではないのか? 」
「何を言うか!我が国の聖女様と比べたら一目瞭然だろう。あれが天使ならば彼女は女神だ。尊い……」
嫌ぁ。拝まないでよ!この方は確か騎士団長よね。ウサギ穴で初めて会った筈。ん?ドレイク殿?騎士団?あー!攻略対象じゃない。なら彼ともイベントってのがあったのかしら?グレイシー様とエドワード様には、状況は違えど確かに有ったのよ。思い出せー。うーん。前回魔法大国に来たのは、確か三年前位よね?魔法大国の王太子様の、婚約披露パーティーだった筈。現在は既にご成婚なされていて、たしか昨年お世継ぎが誕生した。あ!この時もお祝いを届けにエドワードと来たわね。でもこの時は日中に昼食会をし、直ぐに帰国をしたはずだわ。
ならばやはり婚約披露パーティーで?あの時は確か夜会で、一曲踊ったエドワードがいなくなり大変だったのよ。婚約者を置いていなくなるのよ?しかも一曲しか踊らないから、お誘いが次から次へと来たわよ。パートナーが不在じゃ、己より身分の高い相手のお誘いは断れない。私は招待されていた他国の王族たちに囲まれてしまい、壁の花になるにも時既に遅し。そう言えばあの苛々の中で、こりゃ丁度良いわとバカップルで鬱憤晴らしをしたわね。
いやー。すっかり忘れていたわ!イベントが有ったじゃない。王家主催のお目出度い席で、婚約破棄何て事をしていたお馬鹿たち。私の目前で騒ぎだし煩い。しかも女がニヤニヤしながら私の為に争わないでみたいなポーズが気にくわなかったのよ。ならば何故ここで見せしめの様に婚約破棄をするの?そんな大事な事は個室でこっそりすべきよね?何なら外で決闘でもしたら?ってな怒りで、つい嫌味をタラタラ言ってしまったのよ。
ドレイク様ごめんなさいー。私はただあの女の態度が気に入らなかっただけなの!己たちの不貞を棚に上げ、悲劇のヒロインぶる女と正義のヒーローぶる男。そいつらが目前で騒いでいて邪魔だから、文句言って退かしただけ。深い意味はないんです。ゲームの様に美化しないで!私はお礼を言われる様な事はしていません。うー。考えなしの己に反省しなければ……
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この後王家には無礼を詫びられ、お礼の歓迎の宴をと言われてしまう。更には滞在中は侍女を沢山用意するとまで言われ、妙に歓待されてしまい、お忍びの意味が全くなくなってしまいました。まさか魔法大国でも規格外だと驚かれるとは……でもいざと言う時には亡命させて貰えそうね。自称聖国に亡命だけはしたくないからね。
流石に人外扱いはかかったから嬉しい。しかし魔法の研究者たちに素晴らしいと取り囲まれてしまい、まるで人体実験をされそうな勢いに思わず腰が引けてしまったわよ。思わず逃げ出してしまったわ。
予定の都合上、今回は魔法大国には宿泊はしない。次回は必ず宿泊してくれと、念をおされてしまう。まあ内緒とはいえ我が国の上層部にはバレバレなのでしょう。ブライアンの分の魔道具が有るからね。私もバレているならもう気にしないからそのままよ!
全くアヤツは変な所に目敏いわよね!
さて。隣の部屋でリーダーも着替え中。ブライアンだけは代表としてご挨拶に伺っている。まだ少し頼りなくて心配だけど下準備は済ませていたし、グレイシー様がついていて下さるから大丈夫でしょう。さて。お一人様でのお着替えも完了ー。
しかし我ながら中々似合うわ。でも流石にドリルヘアーなら一人では無理よね。あの髪型はさすがに一人でセットは出来ないわ。何でも一人で出来てしまう何て、ドリルヘアーからの解放が本当に嬉し過ぎる。手伝いの侍女は要らないとお断りをしたら、皆さま目を真ん丸にして驚いていました。当たり前よね。次期王妃が潜入捜査に行くだけでも不思議なのに、侍女は要らないなどというなんて。しかも己が侍女の振りですもの。普通の高位貴族の令嬢ならば到底無理でしょう。ほとんどの貴族令嬢には、着替えに湯浴みにと全てに介添えが付く。それらが侍女たちの仕事だから、もちろん私も否定はしない。臨機応変、見極めが大切なのよ。
しかも護衛がリーダーのみ。私が戦うとは思ってもいない貴族連中は、無理をし過ぎだと呆れているのかもしれない。だけとわざわざ教える義理もないし、主要な人物には伝わっている。諜報のグレイシー様が知っている。そう言う事なのよ。それらの情報を得られない。または与えられていない人物など、たかが知れてる訳なのだから。貴族社会とはそんな魑魅魍魎の巣窟なの。
でも私はもう戻らないから知らないわ。もしも本気で戻す気ならば、死ぬ気で挑んで来るのね。土下座ごときでほだされる訳がないじゃない。エドワード?私がゲームとやらの様に、簡単に落とせるなんて思わないことね!
さて。お片付けもしましょう。我が公爵家のお仕着せは中々お洒落なの。人間って年齢や容姿や体型によって、同じ洋服でも似合う似合わないって有るじゃない。それを見越して数パターン有る訳なの。勿論マリエンヌデザインのコメコメ大商会プロデュースだけどね。私は脱いだドレス類を手際よくたたみしまいこんでゆく。
お仕着せの基本は黒色の生地に白の落ち着いたエプロンドレス。ロングにミニ丈。フレアにノーマル。特にお尻回りに余裕の有るスラックスは大人気。動き易いし知的にも見える。頭にはベッドドレス。これも白のレースを用いてシュシュタイプにカチューシャタイプ。数種のブリムが用意されている。公爵家の侍女として決して恥ずかしい格好をするべからず。仕事場に相応しく臨機応変に装う事。高位貴族家の侍女には貴族の子女も多い。皆行儀見習いに来ている。羽目を外しすぎる事は、己の価値を下げる事に繋がるからね。
だからお仕着せにも正装が有るの。基本って奴ね。我が公爵家は黒地に白いレースを併せたもの。ロングのエプロンドレスに白いカチューシャタイプのブリム。お客様の訪問日や特別な仕事の時は、全員で揃って見せる場合も有るからね。公爵家の力をナメられても困る。もしお金がなくともそれを気取らせない。はったりも必要なのよ。まあ我が家は安心だけどね。そうでなくては私も出奔何てしなかったわよ。
生地やレースも極上な品を使用しているから、動き易いし痛みも少ない。しかしロジャースってば儲けてるなー。まあロジャースは次回の会議で男爵位は確定。まあ功績を考えたら遅い位なんだけど、中々空きが出なかったからね。
今回は侯爵が粛清された影響による、爵位剥奪と降格に返還でかなりの貴族が間引きされてしまった。たぶん今までの大商会としての功績で、数年もせずに子爵位位は直ぐにゆくだろう。今回の隣国の出方によっては、更なる功績にもなる。伯爵位位には到達するかも。まあこれはそんなに直ぐにはいかないでしょうが、将来的には間違いはないはず。まあマリエンヌの為にも、体張って頑張って貰いましょう。
あのニヤケ顔からするとリーダーはやはり、近衛騎士団辺りを打診されてるのかしらね。何を餌にされたのかしら?まあ私には害が及ばぬ様だから知らぬ振りをしてあげましょう。今わね!
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一台の馬車にブライアンと私とリーダーが乗り込む。通常ならば馬車数台で出発する為、使用人に当たる私とリーダーは別になる。しかし今回は馬車一台のみでの移動のため、皆が一緒の馬車にのる。因みに馭者が急遽変更になった。ドレイク様だ。この変更は魔法大国の宰相様曰く、魔法大国からの帰りと言う信憑性を持たせる為。またはニ国は友好的だと牽制する為。護衛にもなるので連れて行って欲しいとの事。こう言われてしまうと断れない。しかしそのキラキラした目で見ないでー。正直に説明したのにそれでも事実は変わりませんから!の一言だし……あーあ。頭が痛い……
馬車は昼過ぎに魔法大国を出発。私たちは魔法大国で最後に簡単な会談をし、昼食を戴き自称聖国へ向かっている。これから約一時間程で到着する。我が国から自称聖国へ向かうルートで一番近いのが、魔法大国を経由するこのルートになる。我が国と自称聖国との国境線まではかなり遠い。魔の森を突っ切るのが一番早いが流石にそうはいかない。また私の瞬間移動は、最後の切り札的な物の為使用はしない。
「では最終確認ね。私はエリー。伯爵家の次女でブライアン様お付きの侍女。婚約者募集中ね」
「私はブライアン様の護衛兼お付きの侍従。伯爵家の次男。婚約者はいない」
「僕はブライアン。公爵家の嫡男。今回は婚約者の姫君へのご機嫌うかがいに来国。魔法大国への親善の帰りに寄った」
後は馭者のドレイク様。今日と明日のニ日間、お城の客間に滞在する。と言っても一部屋だそう。主の部屋の続き部屋に侍女と侍従と護衛の部屋が個別に有る。全てが扉一枚で繋がっているから安心よね。ブライアン?だから心配しないの!ブライアンはブルブルと震えている。
「全く男らしくないわね。どんと構えておきなさいよ」
「だって……ローズマリーがいるって……僕怖いよ……ブルブル」
全く。魅了が切れてから、ブライアンはすっかりローズマリーがトラウマになってしまった。どうやらローズマリーはかなりの肉食令嬢らしい。ブライアンは抵抗も虚しく、朝まで色々なくしてしまったそうだ。
「ねえ? 男性にもなくす物って有るの? マリエンヌはエドワードの違う扉を開いて、私が奪い躾をしたら? と言うんだけど?
男性同士でも良いそうよ。リーダーの言っていた女王様って奴かしら? ムチで叩いてみてもよいかしら? 」
「ヤメロ! 洒落にならんわ! それは最終手段だ。因みに男性同士は駄目だ! 妹さんの前世は恐ろしいな」
「姉さん……マリエンヌの言う事は聞いちゃ駄目だよ。皇太子様が不憫過ぎる。ローズマリーに僕が散々ヤられたんだ!
下手したら尊厳すら全てを失っちゃうよ。男として役に立たなくなったら、皇太子様は大変だからね。絶対に駄目! 」
「男の尊厳すらなくなる凄い事……次期公爵様がトラウマに……大丈夫だ。可愛い婚約者と語らい辛い気持ちを癒せば良い。ローズマリーは俺たちが必ず成敗してやる!
男の敵だ! 」
ふーん。ではやはり……
「ローズマリーにはやはり、前世の記憶ってのが有るのね」
「多分ね。ゲームがどうの。攻略がどうの。ルートやイベントが違うと良く騒いでいたよ。でもマリエンヌみたいに他の事いっさいは話さなかったよ。他は覚えていないのかな? 」
うーん。それは解らないわね。別に話す必要もなし。隠す必要もなし。って感じなのかしら?それともゲームの世界とやらに入り込んでいるのかもしれないわね。
昨日の早朝にウサギ穴より助け出された三人。魔術師団長と息子と騎士団長の息子は、護送中に何者かに襲撃され連れ去られた。勿論襲撃したのは自称聖国。全ては此方側の奸計。三人はローズマリーと共に自称聖国へ逃亡した。しかし亡命として自称聖国は正式に保護を表明してはいない。
やがて馬車は国境を超え自称聖国へ入った。もう王都までは数十分もかからない。しかし静かすぎる街道には行き交う荷馬車も人の影もない。街道沿いにも係わらず、露天の一つも出てはいない。城下町に入れど同じく街並みは寂れており、街道となんら変わりはなかった。
「これはもう救いようもなさそうね」
そして直ぐにも見えてきた豪華な王城。その脇にはこの城下には不釣り合いなほどに、きらびやかな大神殿がそびえていた。
「バカみたい。器だけは立派なのね。信仰心は薄そうだけど。まあ自称聖国のお手並みを拝見といきましょうか? さあどの位足掻けるのかしら? 」
「エリーのニヤリが恐ろしい……」
「姉さん? その笑み黒いよ……」
「エリザベート様! 否。エリー様の微笑みは女神の裁きです! 是非ともこの腐れた国に女神様の鉄槌を! 」
はぁ……なんだか疲れてしまうわね……
やがて馬車が王城に到着した。本日は賓客としてゆっくり過ごし、明日の晩餐会と夜会までは自由行動となる予定です。さあブライアン。婚約者の姫君のご機嫌伺いに参りましょう。私は侍女として付き添いましょう。リーダーは護衛ね。ドレイク様にはこの部屋の警備をお願いしましょう。ではでは皆さま出発しますよ。
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