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ドリルは乙女の戦闘服。


私はエリザベート。十六才。フローラ公爵家の長女。下に弟と妹がいるわ。弟のブライアンはまだ十四才だけど、秀才との誉れも高いの。宮廷のお偉方にはやがてお父様の後を継ぎ、次期宰相になると囁かれている。これで我が家は安泰ね。


そして十三才の妹のマリエンヌ。妹は食べる事が大好き。小さい頃から自分でも厨房に入り、火を使わないデザート等を作ってしまう。幼いのに怪我でもしたら大変だと心配したお父様が、マリエンヌ専用のキッチンを作ってあげたの。子供の背丈や手に馴染む様に改良してね。しかしそれが天啓だったようで、妹は齢十才にて料理の神様と呼ばれたの。しかし公爵令嬢が料理の神様……正直貴族社会では浮いてしまったの。あれでは嫁の貰い手は無いぞと……


でもね!


噂なんて何のその!天晴れ妹よ!妹は専用キッチンを改良してくれた、大商会の跡取り息子のハートをガッチリと餌付けしていたの。お相手は商会の後継者で十八才。中々の美男子。私はコイツを是非にと、妹の婚姻相手に推しているのよ。


しかし妹には婚約者がいるの……


そうあのいけすかない婚約者。なよなよしい貴族のボンボン。婚約後の初対面で妹にトラウマを植え付けたクソ野郎。商会の跡取りはあのボンボン婚約者とは一皮も二皮も違う。爽やか風なお顔に程よい筋肉。実は少し腹黒なのも私は知っている。でもそれ位は商人なら必要よ?さあさあ遠慮なく交際しなさい。姉は二人にエールを送りたい。


しかしダメ婚約者がいるのよ……


実は私と商人は大の親友なの。もちろん恋愛感情は無い。まったく無い。マジにノーサンキュー。私の好みは魔法剣士タイプなの。腹黒商人タイプはムリムリ。親友の力強い妹への恋心。私は彼に全面協力いたしたい。


でも表立ってはなにも出来ない……


実は妹もきっと彼が好きなのよね。でも当然ながらその辺は弁えている。なぜなら私にも妹にも弟にも婚約者がいるから。我が公爵家の家族構成は、現当主で宰相でもある父と現国王の妹たる母。そして私たち一男ニ女。公爵家を興した初代は臣籍降下をした王族。数代毎に王家の姫君が降嫁する血筋なの。又は皇子が婿養子に入る血筋。つまりは私たちの婚約は完全なる政略結婚。ほぼ生まれた時には決まっていた。政略結婚でも愛は無くとも信頼関係は育める。そんな結婚でも良いじゃない。互いを尊敬しつつ支えあう。歩み寄りたがいに相手を思いやれる夫婦。そんな夫婦になれたなら大丈夫。私は今の今までそう考えていました。

だから我慢していたのに!


婚約破棄したい?上等よ!しかしなぜこちらが悪者なの?しかも晒し者ですか?


ぶざけないで!


何故穏便に出来ないの?キチンと手順を踏みなさい。さすれば喜んでお受け致しましょう。熨斗を付けて差し上げたいくらいです!因みにここは妹の誕生パーティーの席です。婚約者は招待しましたが現在妹を貶めている、周囲の方々は呼んでもいません。家族と身内だけのパーティーに乱入とは、この方々はいったい何様なのでしょうか?これはもう全面戦争しかないでしょう。商会に制裁措置を発動させましょう。私のネットワークを甘く見てはいけません。妹の料理と器具のプロデュースを手がけ、しっかりと人脈を繋いでるのです。贅沢な食事に慣れ親しんだ貴様らの胃袋は、料理の神様と崇められる妹に敵対したらどうなるのでしょうね。さあ無様に泣いて詫びなさい!


私は絶対に許しませんよ。


ちょっと何よ?背中をつつかないで!耳元でブツブツ煩いわね!妹のフンドシで相撲をとるな?フンドシ?それってどこの言葉よ?妹に便乗して利用してるって?それがどうしたの?貴様らが私たち姉妹の何を知っていると?婚約者なんて妹に会いにも来ないじゃない。まあ来ても妹は会わないでしょうけど。まったく貴様らこそ知ったふりしないで!私は私でしっかり働いています。貴様らの様な脛かじりでも、そこで舌だしてる脳内お花畑とも違うのよ!さあまとめて成敗してあげましょう。


***


妹は本当に素直な良い子なの。変り者だと言われるけれど、食べることとお料理が好きなだけ。公爵家に生まれたから変な子扱いされるだけ。平民ならお料理上手な良い奧さまになれるじゃない。だから私的に妹の旦那様には、あの商会の腹黒位が丁度良いと思うのよ。アイツも最初は商人根性丸出しだったの。妹が何も言わないからと、妹の料理を勝手にレシピ本にして売り出したり、便利だからと自作して作る調理道具を売り出したりしていたの。私はそれを城下町にお忍びで出かけていて知ったのよ。だから妹に私がプロデュースしても良いかと頼んだわけ。妹は全てを私に任せてくれたわ。私は妹の作った新しい料理のレシピや道具を、商業ギルドに持ち込み商談をまとめた。商業ギルドではそれらのすべてを、商品登録するように勧めて来たの。なぜなら商業登録してしまえば、他人が勝手に製作したり売り出したり出来ないからだそうよ。


その後はもちろん彼は大慌て。私は彼が私に気づく前に、彼の父親に面会を求めたの。今回の件は商会の意思なのか、彼の独断かを知るためにね。

結果、彼の大敗。全ては父親に認めて貰いたいがための独断だったわけ。しかも認めて貰いたい理由が笑えちゃうの。

妹の功績を横流しして得た地位で、妹に愛を請おうなんて情けなさ過ぎるじゃない。妹が好きすぎて頭がいかれポンチになっていたのね。まあそれから彼は私の下僕な訳よ。否。言い方が悪いわね。大の親友よ。大親友と妹の為になら、私は一肌でも二肌でも脱ぎましょう。私は彼を巻き込んで、一大プロデュースを始めたわ。


さあ先ずは妹の料理のレシピと調理器具を、キチンと商品化しましょう。一目でわかる様なロゴをつけ、ブランド化しましょう。これで偽物の流出防止になるわ。ロゴはそうね。妹のイメージの花柄が良いわね。


「花ならマーガレットが似合います。本人もお好きだと……」

はいはいご馳走さま。ならば全てマーガレットのデザインにしましょう。デザインを統一すれば高級感が出るわ。カラトリーや食器にテーブルクロスにランチョンマット。現在は白が基本だけど、さりげなくマーガレットを配置したら素敵じゃない。

ロゴは妹のイニシャルのMにしましょう。マーガレットの頭文字もMでちょうど良いわよね。ロゴもイニシャルにマーガレットをアレンジした飾り文字にしたら素敵ね。小さな品にはロゴだけでも素敵じゃない。材質やデザインで庶民向けと高級品に分けたら良いわ。


「まずはこれ等のサンプルを作ってみて。後ね。子供用のスプーンとかって特別にはないでしょ? 小さな子たちは大きなスプーンにお皿で食べにくそうよ。トレイにセットする形で、大人より小振りな物が作れないかしら? 妹が小さいスプーンを自作して料理しているの。あれなら子どもでも楽に使えそうよね? これらは庶民向けに色違いで作ると良いかも。家族それぞれで色違いならば、間違えないわよ」


結果、彼は中々良い仕事をしてくれました。ブランド化しデザインを統一した事で、高級感が増しました。お金持ちは纏め買いしてくれるし、庶民向けも手軽だと大人気。記念日に少しずつ集めようと、高級品を単品買いする人々も増えたそうです。そして大ヒットしたのが子供用食器なの!マーガレットシリーズでセットした品は、お貴族様の出産祝いに大人気。ならばと赤ちゃん用や恋人用。ペアのカップ等のセットも売り出しました。


庶民向けの普段使いのカラトリー類(←正しくは『カトラリー』です。ネット等でも間違いが広まっているようですが、どちらが正解かもネットで確認出来ますのでお調べの上修正なさってください。)は、色違いを沢山用意しました。それらは価格を抑えシンプルに。子供は兎に角割るし壊すから、それを見越しての価格設定。子供たちは色で自分の食器やカラトリーを見分ける事ができ、それらが自分専用だと理解し大切にする。子どもたちに物を大切にする気持ちが育ち、情操教育にもとても良い商品だと大人の方々にも大変喜ばれています。

もう新商品を出せば出す程売れるのよ。笑いが止まらないわ!しかも他国にも人気なんですって。でも生産に余裕がなく、中々他国にまでは流通していかないそう。しかしこれでは大商会の名が泣くわね?予約ならば捌けている。ならば私が一肌脱ぎましょう。


「大親友よ。国一番の大商会を目指しましょう。そして妹を幸せにして! さあ後は任せたわよ! 」


「後は任せろって、お前は死ぬのか? 」


「死ぬかアホ!言葉のあやです! 」


「しかしお前って公爵令嬢だよな? 最初のころの面影がまるでなくなったぞ。名残はそのドリル頭だけ……」


「まあ! この無礼な男を牢屋に引き立てなさいな。王家の血を引く私に、不敬を働き生きていられるとお思いなの? 何て下衆な男なのかしら? 大商会の人間とは言え流石に平民ね! おーほほほ」


「悪い……めちゃ似合うわ。特にそのドリル頭とのマッチングがな……しかし何でその頭なんだ? せめてその頭を止めて妖艶な公爵令嬢で攻めろよ」


「誰を攻めるのよ! 私の婚約者はあのボンクラ皇太子なのよ! 私は絶対に結婚したくないの。この髪型は私の意地なの! 乙女の戦闘服なのよ! 私はこれでも必死に、婚約者の良い所を見付けようとは努力をしたのよ。そこだけ見て一生己を誤魔化し頑張ろうと……」


「悪い……努力はしたんだな。その気持ちは俺でも分かるわ。あれはちょっと方向性を間違えているからな。だから資金を貯め色々と画策してるんだ? 先日の夜会で、ドリル頭じゃないお前を初めて見たぞ」


「私だと気付いたんだ? 」


「そりゃな。未来のお義姉様だからな。しかしその頭のインパクトは凄いな。髪型を変えただけでまるで別人だ」


はいはい。別人に見える様にしてるのよ。


「あの髪型の時はマーガレットブランドの代表なの。だから貴方もその様に接してね。今は私が手渡ししているけど、先々は無理になるからね」


「だからの後は任せてか? 」


「…………」


「そうよ。あのボンクラ皇太子が、中々婚約破棄をしてくれないのよ。流石に私が逃亡したら、お家取り潰しの一族郎党公開処刑でしょう? 流石にそれは出来ないわ」


「何も出来なくてすまん」


「それは仕方無いじゃない。貴方にそれを求めたりはしないわよ。でも最後まで足掻くわよ! あのね? 実は私には魔法の才が有るの。これをいかしたいの。この国では女には何もさせてくれないから、難しいんだけどね」


私は掌を広げ炎の球を浮かせてみる。


「へえ。凄いな。魔力持ちか」


「そうなの。夜会で知り合った隣国の魔術師さんが教えてくれたの。私にはかなりの魔力が有るんですって。だから何とか国外追放にでもならないかなと画策しているのよ」


「国外追放って……もう少し穏便な方法を考えろよ……」


穏便な方法では無理なのよ!だから悩んでいるの!他に良い方法が有れば教えて戴きたいくらいです!


*****


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