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半分終わりと半分始まり

気づいたらここにいた。一昔前の駅のホームの様でいて、何もかもが決定的に異なる不思議な空間。

線路はあれども一列のみ。車両の姿も無ければ人の影もナシ。

そういえば音も一切聞こえてこない。


私感だが何となく思考にもやがかかっている気がする。


僕はその場所で何となく椅子に座って、何となくぼーっと列車を待っていた。

時間の経過は起こらないのか、日が暮れる事は無いため、どれぐらいの時間が経ったのかは分からない。

数分だったかも知れないし、はたまた数時間、数日、もしかしたら年単位で時間が過ぎていたのかも知れない。

そんな折、「彼」は現れた。


少し古くさい紺色のスーツに黄色と黒のストライプのネクタイ。携えた鞄は普遍的なソレよりも薄型で、書類が数枚入るかどうかというくらいの見るからに不便そうなモノ。


笑っているようにも、嗤っているようにも見えるニッコニコスマイルを浮かべた彼は、少しホーム内を見渡した後、さも今し方こちらを見つけたとでもいうようなあからさまな演技をしてからこちらへゆっくりと歩いてきた。


つい先ほどまで無かった筈の僕の対面にある椅子に腰を下ろして彼はこう切り出した。


「一つ、私と商談をしませんか?」


と。


ーーー


「一つ、私と商談をしませんか?」


そう問いかけられた僕は何も反応を返さなかった、言葉自体は認識していたので返せなかったのでは無い。今にして思えば少なからず時間が経過した事によって思考にかかるモヤが深くなっていたのが原因だと思う。


「おっと、これはこれは、失礼いたしました」


僕の反応が無いのを見て、彼は露骨に申し訳なさそうな演技をしつつ僕の思考にかかったモヤを取った。どうやったのかは知らないが、知っても仕方のない様なことな気がして、僕はソレについて詮索することはしなかった。


「あの、貴方は?」


変わりと言っては何だが、僕は彼に質問を投げかける。


「重ね重ね申し訳ありません。ワタクシ、こう言うモノになります」


僕の質問に対する彼の返答は差し出された名刺、その顔に浮かべる表情に似つかわしくない、悔しいが憧れすら抱いてしまうような誠実で美しい動作で差し出されたソレを僕は自然に受け取った。いや、受け取らされたと言うべきか。


一拍おいて、僕は自分の愚かしさに思い至る。確かに可笑しな状況なれど一社会人としてこれはどうなのか、と。

誠実に接してくれている人間に対して、相手の質問にも答えず、逆に怪訝な顔で質問をしかえした挙句、名刺を渡されておきながらぼーっと呆けている自分。

これはマズい。上司に知られたら場合によっては即クビ、良くて減給は堅いだろう。


「こちらこそ大変失礼を致しました。僕は、えーと……」


深く頭を下げるのと同時に自分の名刺を探ってみるが、見つからない。

最悪だ。状況を鑑みれば限りなくworstに近いworseと言えるだろう。


「あぁ、名刺は結構です。私は貴方の事を良く存じておりますれば」


困惑顔の僕に優しい口調でかかる声。訂正。worstだこれは。


「失礼ながら、以前どこかで面識がありましたでしょうか?」


「失礼、気になさらないで下さい。私が一方的に貴方を知悉しているというだけです」


一方的にというのがブラフであれば最悪。ブラフで無くてもそれはそれでアウト。泣きたい。

僕は判断に迷った挙句、失礼を承知で、先程受け取った名刺に目を通す。


   仲介人

 リズ・クルウェル


それを見て、僕は少しの安堵を手にすることに成功する。面識が無いというのが事実だと確信を抱けたからである。

しかし同時にそれに釣り合わない程の困惑も手にする。名刺の書式からして一般的では無い上に、明らかに日本名では無いのにカタカナ表記のみだったり。

そして極めつけは仲介人という職業。

一時期転職を視野にいれていたこともあり、職種についての知識はある程度持ち合わせていると自負している僕だが、こんな職業はついぞ聞いたことが無い。よしんば存在するのだとしても、個人でやっていけるのだろうか。

第一、僕と誰を”仲介”するというのか。

少なくとも僕の側には心当たりが無いのだが。


「それについては追ってご説明致しましょう。先ずは話を聞いていただけますか?」


困り顔の僕に再び声がかかる。顔を上げると視界に飛び込んで来たのはそれはもう嬉しそうにニッコニコスマイルのクルウェルさん。心なしか先程よりも嗤っている割合が大きくなった気がするソレ。

思わず拳が固くなってしまうも、彼には負い目があるので理性で我慢。

こちらも営業スマイルを浮かべて続きを促す。


「ええ、お願いします」

「まず、肝心の商談の内容ですが、簡潔に申し上げるならば、貴方にゲーム制作の手伝いをしていただきたいとのお話を先方から預かっております」


仲介人はあらためて姿勢を正すと、そう切り出した。どうやら彼は“僕”と“先方”とやらの仲介をしてくれるらしい。


「ゲーム制作、ですか?お言葉ですが、僕のゲームについての知識のレベルは一般程度であると自覚しております。失礼ですが、何かの手違いではございませんか?」


ゲームについては本当にメジャーなものしか触れてこなかった僕は、お世辞にもゲームに詳しい、などとのたまえる立場にはないだろう。強いて言うならゲーム好きの友人から近いうちに世界初のVRMMOが~云々と一方的に聞かされていたと言うぐらい。

それだって、その友人に頼めばいい訳だし。


「いえ、先方からは確かに貴方に、との事でした。ご丁寧に写真まで添付されていましたから間違いありません」


何故先方とやらが僕の写真を当たり前のように持っているか、そんなことは今更問題じゃない。問題なのは。


「……何故、僕なのでしょうか?」

「先方からは特に、その辺りの事情については説明を受けてはいないので、これは飽くまで私の推測なのですがね、一番都合が良かったから、だと思いますよ」

「都合が良かった、ですか?」


断片的な情報から推察するに、なんとなくそうだろうな、と納得できなくもないが、まぁそれはまだ飽くまで想像。確定ではない。


「はい、そうです。先方の定めた条件に当てはまる方が貴方だった。色々と複雑な背景はありそうですが、究極的にはその一点に限るでしょうね」

「条件、と、言うのは?」

「条件は三つです。一つ、状況に適応出来るだけの冷静さがある事。二つ、交渉できるだけの理由がある事。そして三つ、仮死状態にある事。いやぁ、なかなか見つからなくて大変でしたよ。期限が決まっている上に運要素もあるので、ヒヤヒヤしましたよ。全く、先方も無茶を言うモノです。貴方がいてくれて良かった。これも神のお導き、ですかね」


一つ目は恐らく幼い子供や、精神に異常を来している方を排除するための条件。二つ目については後で説明があるだろう。無ければ質問すれば良い。そして三つ目。

しかし、仮死状態、か。実は自分は既に死んでいてここが所謂あの世なのだ、という事なら既に、考えていた事であるし覚悟も出来ていたのだが。


「仮死状態ですか。死んでいるのは覚悟していましたが、それは少々予想外でした。まだ生きていると喜べば良いのか、消えて亡くなる事が自由に出来ないのを悲しめば良いのか判断がつきませんね。何分、仮死状態というのは他に経験がないもので」

「ハハハ、なかなか面白い方だ。失礼ながら、もう少しお堅い方だと誤解していました」

「咎める上司はここにはいませんし、多少は失礼も許されるかと思いまして。それに酒の代わりにジョークでも交えてないと聞けないような話でしたので」

「それもそうですね。……さて、空気が和んだ所で、商談を進めましょう」


お互い苦笑いを浮かべつつ、示し合わせたようなタイミングで、いつのまにか二人の間に出現していたテーブルに、これまたいつの間にか用意されていたカップを手に取り口をつける。紅茶、だろうか。

カップを戻して一息ついたところで、自然と話を戻していく。


「ええ、お願いします」

「商談と言うからには勿論、貴方にも益のある話です。貴方がこの話を受けた場合、先方が貴方にもたらす益は主に二つ。仮死状態からの回復と、期間中の貴方の家族の生活と身の安全の保証です。勿論、回復についてはゲームの開発、運営の協力が終わってからになりますし、保証についても元々の寿命が延びたりなんてことはありませんが」


一瞬思考が停止仕掛ける。営業スマイルも崩れ、端から見れば今の僕はきっと“鳩が豆鉄砲を食らったような顔”のお手本のような表情をしているのだろう。

先ほどの仮死状態宣告については半分予想していただけに納得と諦観とともに素直に受け入れられたが、宿命論を信じている身としては運命を改変するかの様なソレは想像の埒外であった為に。


「補足しておくなら、私はこの仕事で多くの方々を仲介してきておりますが、その私から見ても破格の報酬だと思いますよ」


そう。破格だ。要は仕事をこなせば生き返らせると言われているのだ、しかもその間家族の生活が苦しくなることが無い。

確かに破格だ。本当であるならば。


「い、いくつか質問よろしいですか?」

「ええ、どうぞ。できる限りお答えしましょう」

「まず、先方とやらに、その条件を達成するだけの能力はあるのでしょうか?」


確かめねばならない。半ば脅迫観念にも似たものに突き動かされ、言葉を紡ぐ。


「それについてはある、としか。信じて貰う他ないですね。少なくとも貴方が契約を履行する限りにおいて私は貴方の味方です。仲介人の誇りにかけて先方に契約を守らせる努力をすると誓いましょう」


保証は出来ない、か。反故にされる危険性はある。がしかし、そのリスクに目をつぶってでも手を伸ばすだけの価値のある莫大なリターン。ギャンブルはやってこなかったが、きっと今なら僕はギャンブラー達の気持ちが理解できるに違いない。


「では、それについてはお願いします」

「ええ、承りました」


言外に信用しますからね?と軽く念押しておく。といってもこの状況下ではどの道信用するしか無いのだから気休め程度。

そうして気持ちにワンクッションを置いてから僕にとっては大事な質問を投げかける。


「では、次に、変な質問なのですが、僕には家族がいるんでしょうか?」


十人いれば十中八九全員が首をかしげるだろう変な質問。だが僕にとっては至極真剣な質問。

ここに来てからなのだろう。僕には記録はあれど思い出は無かった。

『ゲーム好きの友人がいた』はというのは覚えている。だが彼の名前も顔も性別すらも思い出せない。否、思い出せないのではなく、残っていないのだ。

それは家族や、果ては自分ですらも例外では無い。確証は無いが、寧ろ関係の深かった人の情報ほど入念に削られている、のだと思う。

家族構成すらも覚えていないと言えばその程度が伝わるだろうか。


「はい、いらっしゃいますよ。ご両親に奥様、そして可愛いお嬢様が二人、現在も貴方の病室を訪ねてこられています」


結婚して、娘が居たのか。それも二人。どんな子だったのか。いや、どんな子なのか、活発なのか大人しいのかはたまたやんちゃだったりして。

残っていない筈なのに不思議と喉の奥から込み上げてくるモノがある。


「そうですか。娘達はいくつ、なんですか」

「名前はお伝えできませんが、長女様は十六才、次女様は十三才ですね」


その年頃なら丁度思春期の辺りだろうか。だとしたらちょっと反抗的だったりするんだろうか。パパと一緒に洗濯しないでとか言われてたのかな。

好きな男の子とか居るんだろうか。娘が欲しいなら私を倒してからにしなさい、とか言いたかったな。もしかしてもう言ったのだろうか。嗚呼。


「そう、です、か。娘達は今、幸せそう、ですか」

「いえ、悲しいお顔をされていますよ」


顔を上げる。自然に溜め息が溢れる。


ダメ押しだった。


「…………」


「…………」


「……分かりました、そのお話、是非とも受けさせていただきたい」

「かしこまりました。ただ正式な承認をいただく前に、二点だけ注意点をお伝えしておきます。まず、契約後はここでのお話の一部の記憶を消させてくとともに、仕事の方に必要な知識をいくらか付け足させていただきます。消させていただくのはご家族様の情報が主要な要素になります。ご家族様がゲームをプレイした際にゲーム内でのバッティングを防ぐための処置ですのでご了承下さい」


一度は経験したことだし、今更になって否やは無い。


「了解しました」

「それから契約期間はゲームが誰かにクリアされるまで、となっております。場合によっては十数年と時間をいただくことになりますが大丈夫でしょうか」


否やは無い、が時間がかかるのはあまりうれしい事では無い。


「そんなに難しいゲームなのでしょうか」

「そうですね、私はゲームの内容については伺っていないのですが、こちら側に干渉できる程のお方が作るゲームなのですから、かなりの規模になるでしょうね。少なくとも数年は覚悟していただいた方が賢明かと。以上が契約の条件になりますが大丈夫でしょうか」


家族を待たせてしまうのは申し訳ないが、生き返らせて貰う様なものなのだから、それに比べればたいした時間では無いなと直ぐに考え直す。


「はい、問題ありません。寧ろ回復と保証の対価としては軽すぎると内心驚いてしまったぐらいです」

「そうですか。貴方が納得されるのでしたら私からは何も言いません。では、こちらの書類に拇印をお願い致します」


正直今は一分一秒も惜しいぐらいなのだが、僕にとって、それから僕の……家族にとって大事な契約書類であるからして、幾度となく真剣に読み返し、それから親指を押しつける。


「これで、大丈夫でしょうか」

「……はい、問題ありません。では最後に“どうか貴方に幸運が訪れますように”とだけ」


彼ことリズ・クルウェルさんはそう言って、さっきまでのニッコニコスマイルでは無くとても優しい微笑みを向けてくれた。

思えば、少し疑心暗鬼になっていたのかも知れない。


「ありがとうございます。それではまた、何処かで」

「ええ、また何処かで」


僕もできる限りにこやかに微笑み返す。感謝を込めて。


意識が遠のいていく………………。







『僕』が消えた駅のホームで、仲介人は物憂げな顔で独りごちた。


「これがあのヤローのマッチポンプとかでしたら最悪ですねぇ」

こんにちは。ボロ……じゃなくてロロ雑巾です。

実は今回、会話だけ先に書くという書き方をしてみたんですが、違和感は無かったでしょうか?

最後の方はちょっと力尽きてしまいましたが、いつもよりモチベを維持して書けたので僕としては満足でした。

腰が痛くて早く横になりたいので誤字脱字確認はしていません。多かったらごめんなさい。報告してくれると嬉しいです。Mじゃないよ?

直前まで幼〇戦記よんでたのでわざと迂遠な表現している所とかも入って……たと思います。そこについては余程変では無ければ直すつもりはありません。文章が丸いとつまらないですしね。

まだ17の小僧なので敬語は曖昧です。間違っていましたら尊敬の念とともに直させていただきますのでこれも言ってくれると嬉しいです。


~諸注意?~

二人とも「私」だと読みにくいかなと思って今後の為にも主人公は「僕」で通しました。


~予告~

暫くは主人公ターンが続く予定(:HP4/5 状態:毒)です。

時間が経つと予定が死にます

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