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幻想へ逃げた嫌われ者  作者: イレイナ・スカーレット
【第一章】星降る幻想の楽園
3/3

【1話】始まりの終わりと終わりの始まり

れいが名乗りをあげて1分、静寂がスキマを包んでいた


「…なんで急に黙るのさぁ…怖いじゃん…」


「…いえ、あなたは苗字を名乗らないのね、と思って」


「meに苗字はないよ」


「────」


静かな圧を込めながら、紫と正面から目を合わせる。

…紫を見つめていると、歳を考えなければ普通に美少女という感想が出る。

声は初めて聞いたので、ミステリアスな年上探偵風という、自分でも何を言っているのかよくわからない感想になる。

──それよりも、話題を変えなければ


「えーっと、紫ぃ…様?の名前をどうしてmeが知っていたかとか気にならないの?」


敬称を付けて自分がなぜ紫を知っていたかの話題に移す。

幻想郷へ来た時のイメージトレーニングは既に済んでいたので、その説明なら何百回だってできる。


「──そう、ね。まぁとりあえずそっちを聞かせてもらおうかしら」


「東方Project…っていうZUNっていう人間の神が作り出した作品があってね?」



     ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー



「なるほど…外の世界に送り戻す時に完全に記憶を消せなく、夢のような記憶として残ってしまったのかもね。──そのZUN?って人間は人間の神と言っていたけど現人神なの?だとしたら外の世界がかなりまずいことになっていると思うのだけれど」


「あぁえっと褒め言葉として神と言っただけで本物じゃないよ。…でも神って言い方は間違えたかも。言うなれば…空想上の神、的な?」


「?」


「気にしなくていいよ」


自分の言葉に疑問を抱かれながら、話を逸らす。

正直言って、自分の最高価値観が『空想上の神』であることもこの幻想郷に来たので更新されるかもしれない。──外の世界を管理していた神は誰だったんだろう、それが幻想郷にいる神ではない事を祈る。


「にしても幻想入りかぁ…最後の最後まで信じてたっちゃ信じてたけど信じてないと言えば信じてなかったしなぁ…」


「信じてるのか信じてないのかどっちよ…まぁ、いいわ。そういえばあなた何歳なの?明らかに言動が私が記憶してる歳とは違うんだけど」


「なりたてほやほやの13歳だけどそんな言動おかしい…?」


歳を聞かれるとまだ13歳になって1ヶ月がギリギリ経ってない程度なので、誕生日の事を思い出してしまう。

…今年の誕生日なんて、最悪だったが。


「流石に装飾だけで他に何もないってのは辛すぎた…」


「?──というかあなたそんな目を輝かせてるけど、別に妖怪にすぐに食べられる可能性だってあるのよ?不安とか恐怖とかないの?一応私だって大妖怪だしもう少し恐れ慄いてくれてもいいのだけれど」


「ん〜元がアレだったから正直死んだっていいし、普通に幻想郷への期待がめちゃくちゃあるからね!」


「────」


「んえ?なんで沈黙?」


なぜだか紫が神妙な顔をして黙ってしまった。

『死』、という単語を挟んだからだろうか。


「──とにかく、れい、あなたを忘れ去られた者が集まる楽園、『幻想郷』へ歓迎するわ。せいぜい妖怪に食べられないようにね〜」


「えっちょっと待って能力──」


──景色が、変わった。

不思議な音がして、その音には聞き覚えがあった。

当然、『東方Project』と『幻想郷』は完全に同じものではないはずなので、その音が全く別の物の可能性はあった。

だが、景色が変わった。

あの距離感を掴みにくく、大量の目のような物が蠢く『スキマ』から幻想郷内の森──恐らく『魔法の森』辺りへと、紫が持つ『境界を操る程度の能力』によって転移させられた。…能力についても語られずに、妖怪が蔓延る『魔法の森』へと


「これはぁ…マジでやばいかもしれない…ここが魔法の森だと仮定して、一番近くの安全圏は魔理沙の家の霧雨魔法店…叫んでへるぷーってしても先に妖怪に見つかるし…こんなことなら幻想郷の地図読みまくるか、筋トレしまくるんだった…」


れいは東方Projectが大好きだが、詳しいというわけではない。

いわゆる東方にわかという奴だ。

そしてれいの握力は右左両方13kg──おまけに不登校+引きこもりだったという運動神経最悪確定の烙印付きだ。

つまり、妖怪と遭遇しても戦うことも逃げることもできないというわけだ


「ワンチャン今後の能力で大幅な再生能力が手に入ったりすることに期待して、定期的に腕とかを捧げる条件で…いや、妖怪とか妖精ってバカだし話が通じるわけ──」


「誰がバカなのだー?」


──────────。

────────。

──────。

────。

──最悪。

最悪、それが現在の状況を一言で表した物だ。

遠くから気配や声がしたわけでも、疲れて幻聴がしたわけでもない。

声がしたのだ。

背後から、『闇を操る程度の能力』を持つ人喰い妖怪、ルーミアの声が。


「急に黙ってどうしたのだー?怯えてるのかー?…そ•れ•と•も…大人しく食べられる気になったのだー?」


「あ、いや…ひぅ」


咄嗟に言葉が出ず、情けない悲鳴が漏れる。

ルーミアは『私』を食べることしか眼中になく、きょとんとしている。

落ち着け、落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け──


「…る、ルーミアさん可愛いね?仲良くなりたい、から…る、ルミちゃんとかってよ、呼んでもい、いい?」


──落ち着いた後の咄嗟に出た言葉が、それだった。

敵に殺されないためには、まずは仲良くなる。

聞いたことはないが偉人かなにかが歴史に残していそうなフレーズだ。

だが、下手をすれば相手の激昂を買いかねない選択。

『私』──自分は今、かなりの大博打を打っていた。

ルーミアは笑みを浮かべて──


「…お前、面白いやつなのだー。別にルミちゃんとも呼んだっていいし、仲良くなったっていいのだー。…お前、名前はなんていうのだー?」


──賭けには、勝った。

ルーミアは『私』に興味を持ち、仲良くなることを承諾した。

仲良くなれることは例え相手が人喰い妖怪だろうと嬉しい。

──自分は、話が合って自分を理解してくれる誰かと話せるだけでいいのだから。

そして、笑顔で自分の名を名乗ろうと──


「──待つのだー、…なんで、お前は私の名前を知ってるのだー?」


「ぁ」


──やらかした。

よく考えてみれば、ルーミアはまだ名乗っていない。

なのに、『私』──私?…自分は『東方Project』を知っていたから、ルーミアの名前を知っていた。

本来、ルーミアが名乗るまで相手の名前を呼んではいけなかった。

ルーミアがもう目の前までふわふわと浮きながら迫ってきて、怪しむようにじーっと自分の目を見つめている。

ミスだ、ミス、ミスミスミスミスミス──無駄だ、そんなことを考える暇はない。逃げるか、話を誤魔化さなければ──


「ほ、ほら。ルーミアって人里では有名だし?金髪に赤目で赤いリボンつけてて小柄で可愛いなって有名で…だ、だから仲良くなりたくて!」


「──嘘つきなのだー。お前、手が震えてるのだー」


「ふ、震えてなんかっ──」


「そもそも、生きるために人を食べる嫌われ者の妖怪と仲良くなりたい人間なんているはずがないのだー」


「っ──!それ、は違う!!」


どこか寂しそうに話す目の前のルーミアに手の震えを抑えながら、掴み掛かって地面に押し倒す。

ルーミアは驚いたままで、手足にまだ力を込めていない。

そのまま馬乗りになって、首を絞めればこの体制なら勝てる──はず、だった。


「人を食べるからって嫌われてなんかない!!生きるためって言ってるじゃん!ならしょうがないでしょ!?ルーミアは人喰い妖怪である前にたった1人の女の子なの!!だから…だからっ…」


「ぁ、ぇ」


──できなかった。自分にはルーミアという少女を傷付けることなんてできなかった。

ルーミアは困惑している。当然だ、捕食対象の人間に押し倒されて、しかも攻撃すらしてこないのだから。


「meはっ…ルーミアが大切だしっ好きなんだよっ…元々知ってて憧れとか嫉妬とかそういうのがあったのもあるしまだ出会ってから数分しかない…でもっ、こんな傷付いてる女の子を嫌いになんてなれるわけないでしょ!?」


「ぁ──」


ルーミアが人を食べる事に抵抗感を持ち、傷付いている事に『私』は気づいていた



     ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー



──人間を食べるのが嫌だった。

美味しいけどそれで嫌われるのが嫌だった。

でも、食べないとお腹が減って死んでしまう。

だから、積極的に食べなくてはいけなかった。

それで傷付いているのは隠していた。

隠していた、なのに──

自分を押し倒している人間は気付いていた。

まだ出会って数分しか経たないのに。

しかも、人間である彼が妖怪である私を好きと言ったのだ。

──────────。

────────。

──────。

────。

──滴が、頬に落ちてきた。

気付けば、自分を押し倒している彼が泣いている。


──彼は私を大切に思ってくれた、それだけで私には十分だ。

──。──手を、伸ばした。


「泣か、ないでよ…友達、なるんでしょ…」


気付けば、自分も泣いていた。泣きながら、彼の涙を指で拭っていた。

友達、とまでは言っていなかったかもしれない。でも、彼とは仲良く──友達になりたいと思った。


「当たり前っ…じゃんっ…なって…くれる…?」


「いい、のだー!」


目の前の彼が疲れたのか、意識が落ちて眠りに着いた。

それをしっかり受け止めながら、自分も泣き疲れて眠りに着いた。

私と彼は魔法の森のど真ん中で、涙を流しながら笑顔で眠りについた。


それが幻想入りして初日の、れいに幻想郷で最初の友達が出来た日だった。


本当はこんなにルーミアをメインキャラクターにするつもりなかったんだけど可哀想な設定持たせるかと思って付けてたらいつの間にか1話埋まってた…

by作者

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