最後にひとつ
渦の中に跳びはねながら追いかけて来たダレイオスは、
『最後にひとつだけ。』
そう言って後ろ足で立ち、一度拍手をした。その小さな手から鈴の音のような音が辺りに響き、延々と廻り続ける渦を止め、千縁に視線を向けた。
『君はこの世界で何を求める?』
千縁はどこからぼうっとした様子で話しだした。
「優しい人になりたいです。人の気持ちに気づけて寄り添える様な。
勇気のある人になりたいです。いつかあの時のあの人の様に決断めたことに真っ直ぐ進める様な。
賢い人になりたいです。世界のありのままを知って、それをそのまま受け入れられる様な。
強い人になりたいです。上手く、巧妙く、秀逸く生きていける様な。
そんな人になれたら、俺は、僕は、自分を許せる様になると思うのです。こんな世界を許せる様になると思うんです。
別に未来が知りたいわけでも、魔法を使いたいわけでも、幻想を味わいたい訳でもないんです。
只、全てを赦せる様になりたいのです。
いつかのあの時みたいに目に見える現実を全て、愛せるようになりたいのです。」
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……私のまだ知らない何かが彼を縛り付けている。彼が執着していると言えるかもしれない。それを彼は取り去ってあの時とやらに戻りたいと。
ここで彼の『自我』の一端に触れられたのは僥倖であろう。これは本人も気づけていない様だが、物語にどう関わってくるのか。非常に楽しみである。
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『うーん。なるほど。君の気持ちは確かに君の心片に記録された。君は忘れてしまうだろうが安心して欲しい。この記録は君のためにしか使われない。心は世界や神ですら干渉できない不可侵で神聖な領域だ。』
その時、ダレイオスは別の何かになった。無数の羽毛に包まれそれでもなお大きく見える黄色い瞳が爛々と輝いている。何処か神聖なオーラを纏っていて、神と言われても納得しそうである。
『世界を作りし人々の子よ。特異点よ。吾輩達は君たちの事をいつも見ているよ。だから安心して笑い、悲しみ、喜び、苦しみなさい。君たちの旅路に幸があらんことを。』
そう言うと、羽毛と瞳の何かは
これから彼の旅が始まる。
「うん?なんで……すか?」
千縁はどこか間抜けな声を発しながら辺りを見回した。




