#84(最終話)
部活動を終えた結衣は誰もいない三年六組の教室にいる。
今の彼女は転生した「野澤 結衣」の姿ではなく、自殺する前の「木野 友梨奈」の姿で――。
友梨奈はこの三日間、様々なことでバタバタしていたが、やり残したことや後悔していることはほぼないに等しい。
彼女は「木野 友梨奈」としても「野澤 結衣」としても、嬉しかったことや辛かったことがあった。
しかし、友梨奈に関わってきた者達には感謝している。
彼女はもっと生きたかった……という本音を言えずに――。
「死ぬのは……嫌だよ……」
友梨奈の口からはその言葉しか出てこない。目から涙がこぼれる。
彼女は通学鞄を持ち、瞳から涙を零しながら昇降口まで走ろうとしたが、教室から出て少し走ったところで、見慣れた人物にぶつかった。
「友梨奈さん」
「ジャスパー先生……」
友梨奈は足元から徐々に視線を上げていく。
彼女の目の前にはジャスパーの顔があった。
友梨奈は彼に「すみません!」と頭を下げ、謝罪した。
ジャスパーは温かい両手で彼女の顔をゆっくりと上げる。
「友梨奈さん。今までお疲れ様でした。やり残したことはございませんか?」
「はい、ありません。これで私は「木野 友梨奈」及び「野澤 結衣」としての人生を終えても大丈夫です!」
友梨奈は彼にきっぱりと言い、「それでもよろしいのですか?」と問われた。
彼女は「本当はもっと生きたかったですが……」とようやく本音を漏らす。
このことは本当のことであり、友梨奈はまだ十四歳でやりたいことはたくさんあるから――。
「友梨奈さんは今日まで頑張ってこられましたが、ここは僕からさよならを告げなければなりませんね……」
「えっ!?」
ジャスパーが友梨奈の顔から手を放しながら呟いた。
しかし、彼女は状況が分からず、驚いている。
「まずは解析結果をご報告させていただきます。友梨奈さんは亡霊になる必要はございません」
「本当ですか?」
「ええ、本当です。前世……いや、現代に戻させていただきます。それに伴い、友梨奈さんが「野澤 結衣」として生きていたことと僕と会ったことはすべての人間の記憶から消去されます」
「消去だけは……いや」
「それは仕方ないのです」
「私、忘れたくないのです……」
友梨奈は彼のことはもちろん、「野澤 結衣」として生きてきたことなど、彼女に関わってきた者達から記憶がなくなるということに理解できなかった。
「たとえ、友梨奈さんが僕のことを忘れてしまっても、僕はあなたのことを忘れたりはしません」
「本当ですか?」
「ええ。では、これから時を戻させていただきます。大体いつぐらいにしますか?」
「私が学校の屋上から飛び降りた日だから……五月の下旬でお願いします」
「畏まりました。それでは友梨奈さん、またどこかでお会いする日まで……」
ジャスパーは友梨奈に微笑みかけながら、彼女の視界から姿を消したのであった。
「【原作版】」の「#50(最終話)」の後半部と「スピンオフ」の「#46(最終話)」の後半部部をベースに改稿。
2018/11/30 本投稿
※ Next 2018/11/30 書き終わり次第更新予定。




