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「何かいいことでもあったの?」
夕ご飯を食べた後。
ぼんやりしてたらお母さんが言った。
私の頭の中は今日の出来事でいっぱいだった。
だからちょっとだけ反応するのが遅くなった。
「それにいつも以上にぼんやりしてるわね」
お母さんは楽しそうに言う。
普段の私ならちょっとむってなってなって思う。
でも、今日は違う。
どんなこと言われたって平気。
それ以上に嬉しいことがあったから。
でも、なんでお母さんは気がついたんだろう。
「嬉しいことはあったけど……」
そんなこと一言も喋ってないのに。
「何で分かったの?」
私はそうたずねた。
するとお母さんの表情が変わった。
今度は何だか呆れたような感じ。
「そんなの分かるに決まってるわよ」
次はまた嬉しそう。
こんなに表情がころころ変わるのは珍しいと思う。
まるでお父さんみたい。
「帰ってきてからずっと嬉しそうにしてるしね」
「……そう見えたの?」
「そうにしか見えなかったわ」
「私ってそういうのが分かりやすいかな?」
「とってもね」
やっぱりお母さんは嬉しそう。
なんでそんなに嬉しそうなのかはいまいち分からない。
でも、分からないでも。
お母さんが嬉しそうなのは、私も嬉しい。
「ここ最近はとっても落ち込んでるみたいだったしね」
「それも分かってたんだ」
心配かけてたんだって分かった。
知らないうちに。
だからこそこんなに嬉しそうなのかもしれない。
私も。
お母さんがとっても落ち込んでたら心配する。
その後に元気になってたらとっても嬉しい。
「いっちゃんってとっても素直だから」
「私、自分のこともっとクールな性格だって思ってた」
実際にそう言われてた。
小学生のころとか、中学生のころとか。
でも、今は違う。
学校でも私をクールな感じって見る人はほとんどいない。
「私って変わったのかな」
「それもあると思うわ」
お母さんは立ち上がる。
そしてお茶を飲む用意をする。
急須にお茶っ葉を入れてお湯を入れて……。
「でも本質的なところは変わってないわ」
「……そうかな?」
「だって家ではとっても分かりやすい子だったから」
「そうだっけ?」
「私が言うんだから間違いないわよ」
なんだか凄く説得力がある言葉。
「今までは転校が多かったからじゃないかしら」
「関係あるかな?」
「だって今より仲がよかった友達っている?」
「友達?」
「そう。カナちゃんとかね」
「そう言われたら……」
そうとしか言えなかった。
それはカナだけじゃない。
今の私には。
たくさんの友だちがいる。
それは中学生の時と1番の大きな違い。
「それだけいっちゃんの本質を分かる人が増えたのよ」
「ちょっと複雑に思っちゃうけど……」
「クールって思われたかったの?」
「そうじゃないけど、ギャップみたいな……」
「いっちゃんって私に似てそういう容姿をしてるしね」
小さい頃からよく言われること。
お母さんの小さい頃に、若い頃にそっくりだって。
「だから余計にそう思われてたのよ」
「お母さんもそうだったの?」
「私は違うわ」
そうばっさりと言う。
すっきりするぐらいに。
「いっちゃんの性格はお父さんに似てるから」
「そうかもしれないね」
お母さんの容姿。
お父さんの性格。
私は宇宙人で。
お父さんとお母さんの本当の子供じゃないかもしれない。
でも、そういうのは。
ちゃんと受け継がれてるんだなって思えた。
お母さんとお父さんには。
きっと自分が宇宙人だって。
言えるはずがないって思う。
その言葉は少なからず2人を傷つけるって分かってるから。
でも、今の私は。
以前の私よりずっと。
2人のことを信じれるって確信してる。
「私のお母さんとお父さんが2人で良かったって思ってる」
私が言うと。
お母さんはびっくりしたような表情。
その後に笑顔。
でも、目の端に小さな涙が見えた。
お母さんは慌ててその涙を拭う。
そして変わらない表情で言った。
「いっちゃんがそんなことを言ってくれるなんてね」
「たまにはね」
もし2人がお母さんとお父さんじゃなかったら。
きっと……ううん。
絶対に私はもっと酷いこどになってたって思う。
2人の子供で本当によかった。
「私もいっちゃんで良かったって本当に思ってるわ」
「私はいい子だからね」
「そうね」
言いながら。
くすりって微笑むお母さん。
何だか凄く恥ずかしいと思えるような会話。
でも、そういうのもたまにはいいかもなって思った。
……
…………
………………
お母さんとの話が終わって。
私はアイコに電話をすることにした。
そういえばって思ったから。
今日のことをアイコに伝えなくちゃって。
私はスマートフォンを操作する。
そしてアイコのところをさわって電話をかけた。
少しのコール音。
アイコはすぐに電話に出てくれた。
「どうかしたの?」
過剰なぐらいに声を抑えた感じ。
いつものアイコの声。
アイコも電話が苦手なのかもしれない。
電話でのアイコの声を聞くたびにいつも思う。
私もそんな感じになっちゃうし。
でも今日は違った。
「えっとねっ!」
思わず大きな声を出してしまう。
前のめりになっちゃう。
「何を興奮してるのよ……」
呆れたような声が聞こえた。
何だかその声で冷静になれた。
少しだけだけど。
「何かいいことでもあったの?」
「うんっ!」
「それをアタシに聞かせたいわけね」
「そうっ!」
「……あんまりいい予感はしないんだけど……」
いい話って言ってるのに。
いい話に決まってるのに。
アイコの声は浮かない感じ。
どうしてだろうって思う。
聞いてもらえれば分かってくれるはず。
「でも一応聞くだけ聞いてみるわ」
「うんっ!」
そして私は話をする。
今日の話。
ジカナを説得するために。
たまこに告白をした話。
たまこと会って。
そして迷ったけど秘密を告白した。
たまこはすぐにそれを受け入れたくれた。
その後にカナに会って……。
カナもたまこと友達になってくれた。
そんな話を一気にしてしまった。
「これでアイコもまた学校で話できるよっ!」
それにまたアイコとカナが友達になれる。
もしかしたら。
ナツミとカナも友達になるかもしれない。
こんなに嬉しいことは他にないって思う。
きっとアイコも喜んでるだろう。
そう確信していた。
でも……
「そういうことね」
違った。
何だかため息も一緒に聞こえてきそうな声だった。
とっても意外な反応。
正直言って動揺してしまうぐらいに。
「そんなことだろうって思ってたわ」
それは完全に突き放すような言葉。
どんっ。
何だか崖の上から押された様な気がした。
真っ逆さまに海へ落ちていく感覚。
「何でそんな風に言うの?」
何だか今日の興奮が一気になくなっていくのが分かる。
「アイコだって嬉しいはずじゃないの?」
何だかまた泣きそうな気分。
油断したら涙がこぼれそうだった。
最近の私はとっても情緒不安定だ。
「……ごめん」
そんな雰囲気を感じ取ったのか。
アイコは言った。
「いっきの気持ちを考えてなかった」
「……アイコはやっぱり私と学校で話したくないの?」
「そうは言ってないでしょ」
今度ははっきりと聞こえた。
大きなため息が。
「話せるなら話したいわよ」
「それじゃ!」
「でもまだ難しいって言いたいの」
「でもカナは……」
「それぐらいでカナが考えをかるって思えないの」
「でもたまこと仲良くするって言ってた」
「本当にあんたは人を信用しすぎるわね」
「だってカナが言ってるんだもん……」
「アタシはあんたほど信用できないってこと」
「またカナに脅されるかもって?」
「言ってしまえばそうね」
アイコは少しの間を開ける。
そして強調するように言った。
「その通りよ」
アイコがカナにどんな風に脅されたか分からない。
でもとてつもない拒否反応を感じた。
「そもそもカナはあんたを守るためにって言ってるけど」
「それはその通りだと思うんだけど」
「もちろんそれもあるわ」
「違う考えもあるってこと?」
「うん。だからそのたまこって人も気を付けた方がいいかも」
「…………」
「本当にごめん」
心から謝ってる声。
「できるならいっきの言うとおりにしたい」
「でも無理なんだね」
「今はね。でもいつかはきっと来るって分かってるから」
また学校で話せるようになれる。
アイコはそう言ってくれた。
もしかしたら私を慰めるために言ってるのかもしれない。
「その時までこうやってお喋りしながら待ってるわ」
「……分かった」
カナにアイコのことは話せないなって思った。
もし話してしまったら。
こうやって電話で話すこともできなくなるかもしれないから。
それだけは絶対に嫌だって思った。
「今日は喜んでるところに本当にごめん」
「ううん」
私は言った。
「私もちょっと浮かれすぎてたかも」
「でも嬉しそうな声が聞けたのはアタシも嬉しいから」
「ありがとう」
「……このまま雑談って雰囲気でもないね」
「そうだね」
「今度はこっちから電話するね」
アイコがそんなことを言ってくれるのは初めてだった。
「分かった」
「だから泣いたりしないでよ」
「泣かないってっ!」
思わず大きな声を出した。
一緒に涙も奥に引っ込んだ。
「それだけ大きな声を出せるなら安心ね」
言いながらけらけらって笑う。
私もちょっとだけ元気がでた。
「それじゃまたね」
「うん。またね」
そうやって電話が終わる。
思ってたのとは違う会話。
でも今日の出来事が無駄になったわけじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
たまこに告白できた。
たまこに受け入れてもらえた。
たまことカナが友達になれた。
それで十分すぎるはず。
最後にちょっとつまづいたからって。
あんまり落ち込む必要もないって自分に言う。
きっとすぐにみんなと話せる日がくる。
そう信じようって思った。
……
…………
………………
「いってきます」
そう言いながら家を出た。
朝起きて。
できるだけいつものようにすごした。
でも思う。
きっとお母さんには分かってるだろうって。
私が少し落ち込んでるって。
でもそれを前面に出すのはやっぱり難しい。
「おはようっ!」
色々考えている間に。
いつもの待ち合わせ場所に到着した。
「うん。おはよう」
カナはいつもの笑顔。
アイコはカナを信用できないって言った。
でも私はカナを信じたいって思ってる。
カナがいなかったら。
絶対に今の私はないって確信できるから。
「……あんまり元気ないの?」
「ううん。そんなことないよ」
「よかったっ!」
「……昨日はありがとう」
「昨日?」
「たまこと友達になってくれて」
「ううんっ!」
カナは小さく首をふる。
「わたしも友達ができるのは嬉しいしねっ!」
「だよねっ!」
私を受け入れてくれる人なら。
カナも友達になってくれる。
やっぱりそうだって分かった。
「たまこと仲良くして欲しいなっ!」
「もちろんだよっ!」
ってカナはすぐに言ってくれた。
悩む時間とか全然なかった。
心からの言葉だって信じることができる。
「でも本当に昨日はびっくりしたよ」
「そうだよね」
だってたまこに告白したって言ったから。
カナからしてみれば。
何で勝手なことをしたって怒ってもいいって思う。
もしたまこが私の敵で。
私が宇宙人だってみんなに広めたら。
今までカナが守ってくれてたのが台無しになっちゃうから。
でもカナはそんな私を責めずにいてくれた。
「でもなんで秘密を話したの?」
「……何だかそうしなきゃって思ったんだ」
本当のことを言った。
でも全部のことを言ったわけじゃない。
「わたしの時と同じ感じかな?」
「ちょっと違うかも」
カナの時は本当に思わずって感じだった。
「でも感じてたものは同じかもね」
「いっちゃんってたまこさんのことが好きなの?」
「うん。好きだよ」
だから告白することができた。
でも同時にだから告白できないって考えもある。
そこらへんのバランスはとっても難しい。
「カナと同じぐらいにだけど」
「そうなんだねっ!」
相変わらずカナは嬉しそうに言う。
前なら何だか複雑そうにしてたのに。
でもたまこが仲間だって分かったから。
カナも素直に嬉しそうにしてる。
「わたしもたまこさんと仲良くなれるように頑張るねっ!」
「ありがとうっ!」
3人で仲良くできれば。
きっとアイコも分かってくれる。
そしてナツミにも告白して……。
それで4人で部室でお弁当とかを食べれたらいいな。
私はそんなことを夢見ながらながら学校へ向かった。




