54
とっても気分良く起きれた朝の日曜日。
起きて私はのんびりとした時間を過ごしてる。
昨日は大変だったな。
ぼんやりとした頭。
それでなんとなく昨日のことを思い出す。
アイコの家に行って無事、説得できた。
アイコが学校に行くって言ってくれた。
それが目標だった。
そのためなら何だってするつもりだった。
私が学校に行かなくなってもいいとすら思えた。
でも実際は思っていた以上。
私とアイコがまた友達になれた。
もう話せないって思ってた。
あの時で終わりだって思ってた。
だからこそそれは何よりも嬉しいこと。
学校では話とかはしない。
電話だけの関係。
ナツミと一緒。
カナと私の関係をどうにかするまでは。
でも電話でも話すことができて一安心。
そのことを藍姫にはアイコから説明してもらった。
もちろん、本当のことを話すことはできない。
私が宇宙人だってことも。
アイコがカナに脅されたということも。
だからそこらへんはきっとアイコが上手く誤魔化したんだろうって思う。
そういうの得意そうだから。
実際、アイコの説明で藍姫も納得できたっぽい。
「いつきも色々大変ね」
アイコの部屋から出てきた藍姫に言われた言葉。
どんな説明をしたんだろう。
とっても気になってしまった。
そうはいっても藍姫に聞くこともできない。
それにアイコは頑なに教えてくれない。
でもいつか分かることだろうって思った。
なんとなくだけど。
その日はそれで終わり。
藍姫とアイコの家を出て帰宅。
後は家に帰ってのんびりするだけ。
そのつもりだった。
でも、そうじゃなかった。
本当に大変だったのはそれからだった。
帰宅途中。
藍姫が泣いてしまったから。
何気なく話している途中。
藍姫の目から1粒の涙がこぼれた。
自分でも気が付かなかったみたい。
あれ?
そんな表情をして涙を拭う。
でも涙は全然止まらなかった。
まるで宝石のような大粒の涙。
「藍姫っ! どうしたのっ!」
私は慌てて言った。
本当に泣いた理由が分からなかったから。
でも藍姫は何も言わずに泣き続けた。
言葉を出そうとおもぅても出せない。
そんな雰囲気。
私は近くの公園まで藍姫を連れていった。
そこは初めて入る、小さな公園。
子供が遊ぶ遊具もほとんどない。
ただベンチが2つだけある。
私はそこに藍姫と座った。
藍姫の涙は止まらなかった。
私は藍姫に何もできなかった。
言葉さえかけることもできなかった。
どれくらい泣き続けたか。
隣にいたはずなのに分からなかった。
いつの間にか藍姫の涙は止まっていた。
赤くなった目。
藍姫は無理やりな笑顔を作っていった。
「ごめんね。安心したら涙が止まらなくなって」
それは本当に本当っぽい言葉。
泣く理由はそれ以外に考えられなかったから。
でも私は藍姫が何だか無理に言ってるような気がした。
無理に私に心配させないようにしてるんじゃないかって思った。
でも私はやっぱり何も言えない。
本当の理由を教えて?
そうたずねる勇気はない。
だから……
安心したら涙が止まらなくなって
その言葉を信じることしかできない。
それから私と藍姫は朝の待ち合わせ場所で別れた。
泣き止んだ藍姫は何だかさっぱりした感じ。
泣き腫らした目で明るく話してくれた。
「また学校で」
「そうだね。またね」
そうやってその日は別れた。
そして私はご飯を食べてすぐにお風呂に入って。
布団の上で横になってたらいつの間にか眠ってた。
眠るつもりじゃなかったんだけど……。
もしかしたら自分で思っていたより浮かれてたかも。
本当に色々なことがあった気がするから。
おかげで今日は早起き。
早起きと言ってもたっぷり10時間以上は眠ってるけど。
昨日はいろいろあった。
その分、今日はのんびりしよう。
そう思ってた時だった。
「携帯電話が鳴ってるわよ」
考え事をしてたせいかも。
私はスマートフォンが鳴ってることに気が付かなかった。
お母さんに教えてもらってやっと気づけた。
音はメッセージじゃなくて電話。
誰からだろう……。
私はよく電話がくる人、それにアイコの顔を思い浮かべる。
でも、スマートフォンの画面に表示されてるのは違う人だった。
カナからだった。
カナは相変わらず電話とかあんまり好きじゃない。
だから電話とかあるのは本当に用事がある時だけ。
どうしたんだろう。
私は思いつかない用事を考えながら電話に出た。
「おはようっ!」
すぐにカナの声が聞こえた。
とっても元気な声。
ちょっとだけわざとらしい感じ。
電話だから緊張とかしてるのかもしれない。
私も慣れるまではそんな感じだったから。
「おはよう」
「起きてた?」
「うん。今日は珍しく早起きだったからね」
「調子いいんだっ!」
「そんな感じかもね」
「もしかして何かいいことあったのかな?」
……何だか探るみたいな言葉。
ううん。きっと気のせい。
そう思ってしまうのは昨日のことがあったからかもしれない。
「夜に凄く眠かったから早く寝ちゃっただけ」
「そうなんだねっ!」
「今日はどうかしたの?」
「えっとね。今日の夜は何か用事とかあるかな?」
「別に何もないよ」
「それじゃ映画行かない?」
「何か見たいのあるの?」
「うんっ! 面白そうだなって思うのがあったんだけど」
「分かった。前と同じ時間ぐらい?」
「うんっ! ありがとうっ!」
本当に嬉しそうな声が聞こえた。
きっととっても見たいって思ったのかも。
どんな映画とかは全然分かってない。
でも絶対に面白い映画だって分かった。
「公開がもうすぐ終わるみたいだから」
「ちょうどよかったんだね」
「だからとっても嬉しいっ!」
何だかわくわくが伝わってくる。
私もすっごく楽しみになってる。
「待ち合わせの時間とかはすぐにメッセージで送るねっ!」
「分かった。待ってるね」
「うんっ! またねっ!」
「またね」
それで電話は終わり。
カナとはあんまり電話でお喋りはしないから。
お喋りは部室でいくらでもできるしね。
ちょっと待つとカナからのメッセージが届く。
集まる時間が書いてある。
それにまた一緒に夕ご飯を食べたいっていうお願い。
私はそれに返事を返した。
もちろん、私もカナと一緒に夕ご飯を食べたいって思ってる。
楽しみが1つ増えた。
「お母さん、今日は夕ご飯いらないから」
「何かあるの?」
「カナとデート」
「あらいいじゃない」
お母さんの嬉しそうな声が聞こえる。
「今度、うちに遊びに来てもらったら?」
「うん。言ってみる」
「そうだっ!」
「どうかしたの?」
「2月に私とお父さんで旅行に行くじゃない」
「うん」
本当は10月とかそこらへんの予定だった気がする。
でも色々あって2月に伸びた。
2月の沖縄ってどうなんだろう?
泳げたりするのかな?
「その日に泊まりに来てもらうのもいいかもね」
「そうだね」
それならカナも来てくれるかもしれない。
「そうしてくれると私とお父さんも安心だしね」
「……私が一人じゃ不安ってこと?」
「ちょっとだけね」
「もう高校生だから大丈夫だって」
「泣いて電話とかしそうだしね」
「しないってっ!」
いつまであの時の話を引きづるんだろう……。
きっと大人になっても言われるんだろうな。
私はあの時の自分を思いっきり恨みたい気持ちになる。
「でも話だけはしてみてね」
「そうだね。今度聞いてみる」
といってもまだまだ先のこと。
大事なのは今日のこと。
カナと会ってご飯を食べて映画を見る。
それはとってもいいこと。
すでに楽しみでわくわくしてるぐらいに。
でも……。
昨日の話をカナにした方がいいかな?
そんな考えもあった。
もちろん、そのまま話すわけにもいかない。
……相談してみようかな。
私はスマートフォンを操作する。
そしてアイコへ電話する。
そういえばアイコと電話で話すのは初めて。
何だか緊張してきた。
ちょっとだけだけど。
……
…………
………………
映画館の中は暖かかった。
思わず上着を脱いでしまうぐらいに。
夜の20時過ぎからの上映。
だからなのかあんまり人はいなかった。
前より人がたくさんいるのに慣れてきた。
でも、やっぱり人が少ないところの方が安心する。
「もうすぐ始まるね」
「そうだね」
私とカナは小声で話す。
まだ上映時間前。
だからまだ明るい。
スクリーンでは映画の予告とかが流れてる。
あれが面白そう。
これは見に行きたいね。
そんな風にカナと話すのは楽しかった。
それに夕ご飯もとっても美味しかった。
今日も夏休みと同じ場所。
ポムの樹のオムライスを食べた。
今回はちゃんと適量で。
だから最初から最後まで美味しく食べれた。
デザートのアイスも食べちゃったぐらいに。
「もうすぐ始まるね」
小さなカナの声。
でも、凄くわくわくってるって分かった。
「うん。そうだね」
きっと私の声も同じ。
どんな映画なんか聞いてない。
それにわざと調べなかった。
そっちの方がきっと楽しめそうだから。
映画が終わったら。
カナに言わないといけないことがある。
昨日の話について。
アイコと相談したことについて。
そこで私は嘘をつく。
その準備をしとかないといけない。
時間になって暗くなる。
私とカナも小声のお喋りは終わり。
次に話すのはエンドロールが流れ終わってから。
今はこっちに集中しよう。
私はわくわくしながらスクリーンを見た。
……
…………
………………
昼間とかはたくさん人がいた。
でも今は私とカナしか歩いてない。
そんなキャナルシティの中。
前にこの雰囲気が好きってカナが言った。
私もすっかり好きになってる。
まるで人がいなくなった廃墟を歩いてるみたいな感覚。
静かな空気も、なんだか特別なものに思える。
「映画、とっても面白かったね」
「うん。すごくよかった」
そんな雰囲気の中をカナと歩くのは幸せ。
夢見心地。
きっとこういう時に使うんだろうなって思った。
「やっぱり家で見るのとは違うよね」
「でしょっ!」
「でもやっぱりちょっと高いのが……」
映画館デート。
ご飯に使うのも考えたらちょっとどころじゃない。
毎月1回も厳しそう。
「そうなんだよね」
それにはカナも同意してくれた。
「でもね。だからこそこうやって特別って感じがするって思うんだ」
「……それもそうかもね」
きっと当たり前になったら。
こうやって夢見心地に思うのも。
何かに特別感を抱くのも。
きっとすっごく減ってしまうって思う。
「何でも手に入るって不幸じゃないかもしれない」
カナは言う。
「でも幸せでもないかもしれない」
「そうだね。幸せになるにはどうするのがいいんだろうね」
「簡単だよ」
「そうなの?」
「わたしはいっちゃんが隣にいてくれれば幸せだからっ!」
「……うん。私もだよ」
やっぱりって思う。
私はカナを絶対に嫌いになれない。
どんなことをしたって。
カナがアイコを脅した。
どんな手段を使ったのかとかは知らない。
アイコはとっても怯えてた。
多分、ナツミにしたみたいに。
手紙を机の中に入れたとかより怖いこと。
でも、それを聞いても。
カナが悪いってどうしても思えない。
「昨日ね。アイコの家に行ったんだ」
何でこのタイミングなんだろう。
自分でも不思議に思った。
でも気が付いたら言葉が出てた。
「アイコ、学校に来てなかったみたいだね」
「うん。知ってた」
同じクラスだしね。
「それで頼まれたんだ」
「藍姫に?」
「うん。説得してくれって」
そして私は昨日のことを説明した。
藍姫と一緒にアイコの家に行った。
私は1人でアイコと話をした。
そしてアイコが学校に来てくれることを約束してくれた。
それは本当のこと。
でも、説得の方法。
なんで学校に来なかったのか。
そこは嘘をついた。
私はアイコに何もするつもちはないって。
ただひっそりと暮らしたいだけだって。
だからアイコが来てもらわないとそっちの方が困る。
今まで通りにしてもらわないと。
そんな風に言ったって。
「そうなんだね」
カナは言う。
納得したのか、してないのかは分からなかった。
「うん。仲直りとかはできなかったけど……」
「それは残念だね」
「ううん。でも学校には来てくれるみたいだから」
「実は藍姫さんに聞いてたんだ」
「そうなの?」
「うん」
カナが藍姫から昨日のことを聞いてた。
もしかしたら驚いてしまうようなことだったかもしれない。
カナと藍姫が連絡を取り合ってるって知らなかったから。
でもアイコはそう予想してた。
だから自分から言った方がいいってアドバイスをくれた。
「でもどうやって説得したかとかはちょっと違って驚いてる」
「アイコに頼んだからね」
「頼んだ?」
「だって正直に話せないでしょ」
「そうだね。いっちゃんの秘密を話すことになるからね」
「だから嘘のことを言ってもらったの」
「そうなんだねっ!」
「でも、1つ気になることがあるんだ」
何だか胸がどきどきする。
映画が始まる前のどきどきとは違うもの。
嫌な感じのどきどき。
「アイコってどうやって秘密を知ったのかな?」
本当は知ってる。
カナがアイコに教えたって。
「それはどうしても教えてくれなくて……」
「難しいね」
「カナも分からない?」
「ごめんね」
「ううん。でも気を付けないとね」
「だねっ!」
カナは私を守ろうとしてくれてる。
カナがナツミを、アイコを脅したのはそれが理由。
やっぱり原因は私。
だから私を守らなくても大丈夫。
もう私はみんなと仲良くできる。
そう分かってもらわないといけない。
アイコだって私の秘密を知った後もまた友達になってくれた。
この学校には、この世界には。
やっぱり私の味方になってくれる人はたくさんいる。
私は1人じゃない。
1人ぼっちの宇宙人じゃない。
そのことをカナに伝えたいって思った。
でも、どうすればいいのか。
それはまだ分からなかった。




