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お母さんは今日も豪華なお弁当を作ってくれた。

いつもと違うお弁当箱はなんだか違和感がある。

毎日だとちょっときつい。

でもたまには嬉しいお弁当だ。

食べるのが今から楽しみ!


「頑張りなさいよっ!」


ってお母さんは言う。

お弁当を豪華にして気合を入れてくれるのは嬉しい。

でも私は……


「それなりにね」


ちょっと気の抜けた返事をした。

今年は早く負けてカナと合流するのもいいかもって思ってる。

もちろん手を抜くつもりはないけど。

わざと負けるなんてことはやるつもりはない。

でも手を抜かなくてもあんあり役に立たないのが私の実力。

一緒になった人達も

絶対に勝って優勝を目指そうっ!

っていう人はいないからなんだか安心してる。

元気よくして、楽しく負けるのが1番だなって思った。

もちろん勝って喜ぶのが1番いいのは分かってるけど。

でもそれはさすがに高望みしすぎだなって思う。


「本当に運動とかはやる気がないわね」


お母さんはちょっと不満そう。

一体全体、私に何を求めてるんだろう……。

でも私はお母さんが自分が楽しみたいだけって知ってる。

だからプレッシャーとかはなくて、とっても気が楽だ。


「その分、文化祭の方頑張るからね」


「そうね。また部誌作るの?」


「その予定」


次の文化祭では新しい生徒会になってる。

いい部誌を作ってアピールできたらいいなって思った。

もっとも、部費を貰えても来年は3年生。

部活も引退したりするから、あんまり使うこともなさそうだけど。

今の感じだと私達で天文部はなくなるはずだし。

星はずっと輝いてる。

でも天文部は3年で終わる。

それはなんだか寂しい気もする。


「去年よりいいものを作るつもりだよ」


「それじゃ文化祭、楽しみにしてるわね」


「うん。期待しといて」


私が言うとお母さんは嬉しそうな表情。


「どうかしたの?」


「いっちゃんも自信が持てるものを見つけれたんだなって思っただけ」


「それが嬉しかったの?」


「嬉しいに決まってるじゃないっ!」


そんなものなのかって思った。


「もし小説家になりたいって言ったらどうする?」


なんとなく私は言った。


「小説家って、プロの?」


「うん」


もちろん私はなれるって思っていない。

そんな才能があるとも思っていない。

プロになれるのはきっとアイコみたいなのだって思うし。


「もちろん応援するわっ!」


「そうなんだ」


なんだか意外な感じがした。

こういうのって親は反対するものだと思ってたから。


「そんなに私に才能があるって思うの?」


「私には才能なんて分からないわよ」


あっさりと言うお母さん。


「いっちゃんの小説は面白いと思わったわ。予想以上にね。でもプロになれるかとかは分からない」


「じゃあなんで反対しないの?」


私の疑問にお母さんはすぐに言った。


「小説家は就職しても目指せるからね」


……なるほどなって思った。

小説家を目指すから学校を辞める。

小説家を目指すから就職しない。

なんてことは通用しないって感じみたい。


「それで本当に小説家になりたいの?」


「うんうん。分からない」


「ゆっくり考えるといいと思うわ」


「そうだね」


「とりあえず球技大会頑張りなさいっ!」


その言葉とともに受け取ったお弁当箱を鞄に入れて外に出た。

小説家か……。

なんとなく思ったこと。

でも実際に口に出してみると気になり始める私がいた。


……

…………

………………


「負けちゃったんだね」


制服姿のカナ。


「うん。すぐに負けた」


私も同じく制服。

私もカナもすぐに負けてしまった。

だから制服に着替えて合流した。


「どこに行こうか?」


「開いてる教室でいいんじゃないかな?」


外からはソフトボールをしている声が聞こえる。

何人もの声が重なっていた。

でもナツミの声ははっきりと分かった。

私達のチームは最初の試合で、ナツミ達とだった。

ナツミはピッチャー。

なんだかとても早いボールを投げていた。

私が打つ番になったらにやりと微笑んだ。

そしてとっても早いボールを投げてきた。

私はびっくりして振ることもできなかった。

あれが体に当たったらとっても痛そうって怖くなった。

クラスではこんなに早いボールを投げる人はいない。

なんだか別の競技をしているみたいだった。

そして私達のチームはほとんど打てなくて負けてしまった。

ナツミの勝ち誇った顔が思い浮かぶ。

今度の電話で文句を言ってやろうって思った。


「ここなんかどうだろう?」


とある教室でカナは立ち止まる。

あまり使われてない雰囲気。

誰かが来るってこともなさそうだなって思った。

がらがらって扉を開けて中に入る。

今はみんな体育館の中か外にいる。

だから教室は静かな感じ。

みんな学校にはいるのに、不思議だなって思う。

この雰囲気がなんだかいいな。


「まだちょっと早い時間だね」


カナは時計を見る。


「そうだね」


って私は言った。

お弁当はもう少しして食べようって思った。


「いっちゃんは最近読んで面白かった本ある?」


「うん。いくつかあるよ」


私は最近読んだ本を思い浮かべる。

その中でカナに言って問題なさそうな本を言った。


「逃亡くそたわけって知ってる?」


私が言うとふるふるってカナは首を振った。


「面白いの?」


「私は好き」


「どんな本?」


「えっとね、精神病の女の人と男の人が病院から逃げて車で九州を回る話」


「そうなんだねっ! なんだかロマンチックな感じがする」


「うん。なんだかそういう逃避行って憧れるよね」


もちろん私はそんなことをするつもりはない。

どこまで逃げたって地球からは逃げることはできないし。


「わたしもそういうお話好きだなっ!」


「今度持ってくるね」


「うんっ! 楽しみっ!」


カナは嬉しそうに微笑む。

カナも気に入ってくれると嬉しいなって思った。


「そういえばさ」


「どうかしたの?」


「いっちゃんってライトノベルとか読むようになったよね?」


「……うん。ちょっとね」


カナの前では読まないようにしてたんだけど……。

でも気づいてたみたい。

どうしてだろうって思う。

もしかしたら鞄に入れてるのに気がついたのかもしれない。


「ちょうど去年ぐらいは全然読んでなかったけど、でも夏休みぐらいから読み始めてあれ?って思ったんだ」


カナは笑顔のままで言う。


「急にライトノベルを読み始めたのは誰かの影響なのかな?」


「うんうん。ネットで見て面白そうだって思ったんだ」


私は嘘をついた。

本当はナツミに影響されて読むようになった。

でもここでナツミの名前を出すのはあんまり良くなさそうだなって思った。


「イリヤの空って知ってる?」


「……知らない」


「そのヒロインがカナって言うんだよね」


「……わたしと同じ名前なんだね」


「うん。だから気になって読んでみたら面白かったから色々読むようになったんだ」


「そうなんだねっ!」


信じてくれたみたいでなんだかほっとした。


「でもなんでライトノベル読んでるの隠してたのかな?」


「ちょっと恥ずかしかったからかな」


半分本当、半分嘘の言葉。


「恥ずかしかった?」


「私って子供っぽく見られるのとか好きじゃないから、大人っぽい小説だけ読んでるって思われたいんだ」


私が言ったらカナは納得したみたいに言った。


「いっちゃんってそういうところあるよねっ!」


凄く嬉しそう。

なんだか複雑な気分になった……。


「でもライトノベルだからって恥ずかしがらなくてもいいって思うよっ!」


「そうなんだ」


ライトノベルに偏見を持ってる人は多いってナツミが言ってた。

でもカナはそうじゃないみたい。


「おすすめの本があったら読んでみたいなっ! わたしと同じ名前のとかっ!」


「うん。それも今度持ってくるよ」


「楽しみにしてるねっ!」


なんだかほっとした気分になった。


「カナは何か最近読んだので面白い本はないの?」


だから今度は私が言った。


「わたしはね……」


ってカナは嬉しそうに話す。

そんな感じで私とカナはのんびりと話をした。

静かな教室の静かな時間。

でも……


「本当に分かってるのっ!」


「!!」


そんな大きな声で静かな時間は終わった。

廊下の方で誰か大きな声を出してる。

とても怒っているような声。

びっくりして心臓が止まるかと思った。

まだドキドキしてる……。


「何があってるんだろう?」


私が言うとカナは凄く不満そうな顔をしてた。


「本当に大きな声って迷惑だねっ!」


どうやらお話を邪魔されたのが嫌だったみたい。

でも廊下の大きな声は止まらない。


「あんたのせいで負けたんだからねっ!」


どうやら怒っている人は球技大会で負けたことで腹を立ててるみたい。

負けて嫌な感じになる。

1番嫌なパターンだなって思った。

一生懸命頑張ってたかもしれない。

でも誰かを怒鳴るのはひどいって思う。

ナツミなら絶対にそんなことしない。


「別のところに移動しましょう」


「そうだね」


私達は気づかれないようこっそり廊下に出た。

廊下の奥の方で3人の女子が1人の女子を取り囲んでいた。


「あれは……」


取り囲んでいる1人は美香。

そして怒鳴られているのは……たまこだった。

負けて制服姿のたまこは真っ青な顔で震えている。


「あんたがあんなミスばっかりしたせいで負けちゃったじゃんっ!」


美香が怒鳴るたびにびくってたまこは反応する。

目には涙が浮かんでいる。

私もあんな風に怒鳴られたら何も言えなくなるって思った。

たまこの気持ちが痛いほどよく分かった。


「あんなのって高校生になっても本当にいるんだね」


カナは冷ややかな声で言った。

本当にくだらないものを見ている。

そんな感じ。


「何か言ったらどうなのっ!」


美香のたまこへの追求は続く。

本当に悔しかったの?

本当はただたまこをいじめたいだけじゃないの?

私はなんだか胸の奥から嫌な感じが湧き出てくる。


「いっちゃん、行こう」


カナは私に言った。

こんなとこには1秒もいたくないみたいだ。

私もいつもならそう思う。

でも……


「いっちゃんっ!」


カナが私の手を握った。

その手はとても強く握られている。

この前の手をつないだ時とは全然違った。


「もしかして助けに行こうって思ってる?」


「……うん」


「駄目だよ」


はっきりとカナは言った。


「いっちゃんは優しいから助けに行きたいのは分かる」


カナの手はどんどん強くなっていく。

絶対に離さない。

そう主張しているように思えた。


「でも助けに行って、目立って、正体がばれるかもしれないんだよっ!」


「だけど……」


その言葉を聞いて私は助けに行くのが怖くなった。

正体が、秘密を知られる。

それは何よりも怖いことだから。


「お願い。我慢できないならわたしが行くから」


しばらく私とカナは見つめ合った。

そうしている間に声は聞こえなくなった。

見てみると3人はどこかに行って、たまこだけが取り残されていた。

泣いているのか、目を拭っている。

そのたまこも私達に気が付かないまま、歩いて立ち去ってしまった。

なんだかすごく長い時間が経過した気がした。


「……ごっ、ごめんなさいっ!」


カナは慌てて手を離す。

カナが強く握った手がちょっと痛かった。


「強く握りすぎちゃったね」


「うんうん。大丈夫だよ」


私は言った。


「あの4人、みんな同じクラスの人だったんだ」


「そうなんだね」


「ああいうのって嫌だって思う」


「うん。わたしもそう思うよ」


カナは遠くの方を見ているようだった。


「わたしもね、中学生の時に色々言われたからね」


「そうなんだ……」


「自分達の方が人数が多い。だから偉いし正しいって思ってるのよ」


なんだかカナは本当に怒ってるみたいだった。


「くだらないと思うわ」


そして私を見る。

とても真剣な目で。


「だからわたしはいっちゃんにあんなことに巻き込まれて欲しくないの」


「もし巻き込まれたら?」


「相手を後悔させてやるつもり」


言いながらにこりと微笑む。

その笑みは

冗談だからなのか、

私を安心させるためなのか、

それとも別の何かなのかは分からなかった。


「それは大丈夫だって思う」


私は言った。


「やっぱり私にはああいうのを止める勇気はないって思うからね」


「それを聞いて安心したっ!」


言いながらカナはまた教室にの扉を開く。

うるさい声がなくなったから移動する必要がなくなったから。


「安心したらお腹すいちゃった! お弁当にしようっ!」


「そうだね」


これをきっかけにたまこはあのグループと付き合うのを辞めてほしいな。

私はそう思いながら教室の中に入った。

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