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09

秘密を告白した1周年記念日。

そのお祝いをしたい。

そうカナに話したらぜひやりたいって言ってくれた。

だから日曜日の今日はお出かけの日。

カナとあの喫茶店に行く予定。


「今日はお昼ごはんいらないからっ!」


私はお母さんに言った。

いらないことはちゃんと言わないと、無駄な手間をかけさせることになるから。

お父さんは急に要らなくなったっていう。

もう作った後だとお母さんは不機嫌になることが多い。


「分かったわ。お父さんもいないしお寿司でも頼もうかしら」


「贅沢っ!」


「たまにはいいじゃない」


とっても嬉しそうにしているお母さん。

これは本当に頼む気だなって思った。

好きなもの食べていいって思うけど……。

でもお母さんはなんか高いお寿司を食べそうな感じがする。

実際、お母さんは


「特上にしようかしら……。あっ、こっちもよさそうね」


って感じで選んでいる。

なんだか目がきらきらしているように見えた。


「ねぇ、お母さん」


「どかしたの?」


「これで大丈夫か見てくれない?」


変な格好になってないかお母さんにチェックしてもらった。

変な汚れがないかとか、そういうの。


「大丈夫だと思うわ」


お母さんは笑いながら言う。


「なんだかデートに行くみたいね」


「デートじゃないけど、似たようなものかな」


実際、私はなんだかドキドキしていた。

夜もあんまり眠れなかった。

カナとは毎日のように会ってる。

喫茶店だって何回か行った。

でも今日は不思議とドキドキしている。

多分、あの日のことを思い出してるのかもしれない。


「それじゃ行ってくるね」


「いってらっしゃい」


私は家を出る。

待ち合わせ場所は駅の近くの公園。

去年と同じ場所だった。


……

…………

………………


待ち合わせ場所には30分前に着いた。

いつもは10分前に着くように出る。

でも今日は特別な日。

正確には違うんだけど、多少の誤差はしょうがない。

私は去年、カナに告白した。

自分が地球人じゃないって思わず言ってしまった。

そしてカナに呼ばれて、ここで待ち合わせをした。

子供が公園の中を走っていて、それを母親が見守っている。

なんだかのどかな風景。

ちょっと行けば駅に向かう人達がたくさんいる。

私は人がたくさんいるところが苦手。

とある出来事で自分が思ってた以上に苦手だって分かった。

本当にここが待ち合わせ場所でよかったって思う。


「あと20分ぐらいかな」


って私はスマートフォンを見ながらつぶやいた。

私は去年ほどじゃないけど、緊張してる。

でも頭の中はすっきりとしていた。

私は去年の自分を思い出す。

ここで待ち合わせをしていた私。

カナを待っていた私。

不安で、不安でたまらなかったことを思い出す。

その時の私に教えてあげたいって思った。

告白する相手は間違ってなかったって。

不安になる必要はないって。


「お待たせ」


カナの声が聞こえた。

私は嬉しくなって声の方を見た。


「遅くなってごめんね」


「うんうん」


私は嘘をつく。

30分前に来てたなんて言う気もなかった。


「私も今来たところだから」


自然と笑顔になる私。

カナに会えてやっぱり嬉しいって思った。


「なんだか懐かしい感じがするね」


カナは周りを見ながら言った。


「私も去年のこと思い出してた」


「去年か……」


カナはなんだか懐かしそうに呟く。


「ここに来たらいっちゃんが泣いてて、とってもびっくりしたなっ!」


「あっ! あれは……」


とっても恥ずかしい思いで。

何で泣いたりしたんだろうって思う。


「忘れて欲しいな……」


「うんうん。忘れない。大事な思い出だからっ!」


「意地悪だね」


「わたしは意地悪だからねっ!」


思えばカナには私の恥ずかしいところばかり見せてる。

逆にカナの恥ずかしいところは見たことがない。

カナは凄いんんだなって思った。


「それじゃ行こっか」


「うん」


カナが歩く。

私はその横に並んで歩いた。

カナの横。

私はこの1年間で自分の居場所を見つけた気がした。


「いい天気ね」


カナは微笑んで言う。

私も空を見た。

カナの言うとおりとってもいい天気。


「うん。そうだね」


私は言った。

声も自然と明るいものになる。

今日の天気みたいに。


「今日は綺麗な星空が見えそうだねっ!」


「絶対に見えるって思う」


私とカナはゆっくりと歩いた。

何人もの人に追い抜かれた。

でも全然気にならなかった。

カナの手がすぐ近くにある。


「ねぇ?」


私は言った。

ちょっと恥ずかしいけど……


「手をつないでもいい?」


「うんっ! 喜んでっ!」


カナが私の手を握る。

温かくて柔らかいカナの手。

とっても安心する。


「なんだか本当にデートみたいだね」


私は言った。

するとカナは笑顔で言う。


「わたしはデートだって思ってるよっ!」


「そ、そうなんだ」


「いっちゃんとお出かけするときは全部デートだって思ってるっ!」


「それは嬉しいな」


私をからかってるのもあるだろうって思う。

それでも私はそう言ってもらえて嬉しかった。

私も今度からはそう思うようにしよう。

そうしたらなんだかいつもドキドキするかもしれない。


「ここがわたしのお気に入り」


カナが立ち止まって行った。

手をつないだまま。


「知ってる。私もお気に入り」


他の喫茶店には行く気がしなくなるぐらいに。


「今日も個室をあけてもらってるよ」


「いつもありがとう」


「うんうん。わたしが好きでやってるんだからね」


そして私とカナは喫茶店に入った。

ひんやりとした喫茶店の雰囲気。

私はすっかりお気に入りになっている。


……

…………

………………


私とカナは隣り合って座る。

これはいつもの普通になっていた。

ファミレスとかでするなら恥ずかしい座り方。

でもここは個室だから全然平気だった。


「やっぱりオレンジジュースが好きなんだねっ!」


「うん。これが一番美味しい気がする」


カナはコーヒー。

私はオレンジジュース。

いつもの2つ。

私はオレンジジュースを飲んだ。

やっぱり美味しい。

店の雰囲気がいいからだって思う。

ここはなんだかすごくリラックスできる。


「私ねずっと悪夢を見てないんだ」


最後に見たのはいつだろう……。

思い出せないぐらいに見てない。


「それはよかった。安心する」


「うん。過呼吸にもなってないよ」


「そういえばあの時が最初の出会いだったね」


「そうだね」


私は思い出す。

過呼吸になって、カナに助けて貰った時のこと。

カナもきっと同じことを思い出してるって分かった。


「こうやって仲良くなれたのは、あのおかげなんだね」


「うん。でもあれがなくても今こうやって話してたと思う」


「そうかな?」


「そうだよ」


カナは力強く言う。

なんだかとっても説得力がある感じがした。


「わたしといっちゃんが出会うのは運命だったの」


運命……。

なんだかロマンチックで甘い言葉だなって思った。


「だから絶対に何があってもわたしといっちゃんは出会ってた」


「それでこうやって仲良くなれてた?」


「うん」


カナの言葉はなんだか自然に受け入れることができた。

すんなり心の中に入ってきた。


「わたしはいっちゃんと出会うために生まれてきたからねっ!」


きっとそうだって思う。

だから私はこんなにもカナのことを信頼できる。


「そうだっ! そろそろいいかなっ!」


「どうかしたの?」


カナはスマートフォンを操作する。

何かメッセージを送ったみたい。

誰に、どんなメッセージを送ったかは分からなかった。

何があるんだろう……。

わくわくしながら待っていると、箱を持ってオーナーが入ってきた。

そして箱を真ん中に置く。


「開けてみて!」


「うんっ!」


私はゆっくり箱を開けた。

何が入ってるんだろう。

なんだかすごくドキドキする。


「これって……」


箱にはケーキが入っていた。

手作り、でもとっても美味しそうなケーキ。


「カナが作ってくれたの?」


「うんっ! 昨日の夜から作ってここの冷蔵庫に置いてもらってたんだっ!」


カナの手作りケーキ。


「いっちゃん、果物が好きだからたくさん載せたんだよ」


「本当に嬉しい……」


なんだか涙が出そうって思った。

嬉しすぎて、嬉しすぎて、泣いてしまいそうだって思った。

カナは一緒に持ってきてもらった包丁で綺麗に切っていく。


「はい」


そしてお皿にのせて私の前に。

ケーキはとっても綺麗で、なんだか宝石みたいに見えた。

とってもきらきらしてる。


「なんだか食べるのがもったいないね」


「いっちゃんのために作ったから食べて欲しいなっ!」


「うん。分かってる」


私は1口ケーキを食べた。

甘いけど、でもとっても優しい甘さだった。

生地もふんわりとしている。

果物の酸味もちょうどいい。

なんだか優しく包み込んでくれてるみたいな味。

まるでカナみたいなケーキだなって思った。


「どうかな?」


ちょっと緊張してるのが分かる声だった。

きっと私が気にいるのか不安なんだろうって思う。

そんなカナに私は言った。


「こんなに美味しいケーキを食べるのは初めて」


その言葉に嘘はなかった。


「これからもこんなに美味しいケーキを食べることはないって思う」


「そう言ってもらえて嬉しいなっ!」


カナは新しいケーキをお皿に載せる。


「たくさん食べてっ! これ全部いっちゃんのだからっ!」


カナは本当に嬉しそうに言った。

ケーキはそんなに小さいわけじゃなかった。

でも全部食べれそう。

それぐらいカナの手作りケーキが私は大好きだなって思った。


……

…………

………………


私はちょっとふらふらって感じで歩く。

でもカナと手をしっかりつないだままだった。

喫茶店は次の予約の人がいたから出る必要があった。

それがちょっと不便ではあった。

でもあんないい席を私とカナだけが独占するわけにもいかない。

優先的に予約できるだけ本当にありがたいって思う。



「お腹いっぱい……」


なんだかちょっと膨れている気がするお腹を見る。

明日からはダイエットしようって思った。


「ケーキ全部食べてくれて嬉しかったっ!」


カナはすっごく嬉しそう。

ずっとにこにこって感じで微笑んでいる。

食べている途中も、食べ終わった後も、お店を出る時も。

こんなに喜んでくれてるなら頑張ったかいがあったなって思う。

さすがに1人でケーキ1つは多い量だった。

最後までケーキは美味しかったけど……。

でもしばらくはケーキは食べなくていい気分がする。

ケーキどころか甘いもの全部。

今日の夜ご飯も入らないかもしれない。


「また作るねっ! 今度はチョコレートケーキっ!」


るんるんって感じでカナは言った。

チョコレートケーキ……。

きっととっても美味しんだろうなって思う。

カナがこんなにケーキ作るの上手だって知らなかった。

もしかしたら今回が始めたのかもしれない。

私のためにすっごく頑張って作ってくれたのが分かった。

だから全部食べることができたんだって思う。

チョコレートケーキももちろんとっても楽しみ。

でも……


「次は一緒に食べようね」


私は言った。


「一緒に食べた方が絶対に美味しいって思うから」


「それもそうだねっ!」


「……なんだかカナにはいろいろもらってばっかりだね」


安心とか、勇気とか、居場所とか、ケーキとか……。

出会ってから1年で本当に色々なものをもらった。


「私は何かあげれてるかな?」


「うん。すっごく大事なものをもらってるよっ!」


「それって何かな?」


「それは……」


カナは少し考える。

そして嬉しそうな顔になった。


「いっちゃんっ!」


「わたしっ!?」


なんだか予想外っていうか、予想の斜め上を行く答えだった。


「こうやっていっちゃんと過ごす日々がわたしにとって宝物」


だから……。

カナは嬉しそうなまま言葉を続ける。


「いっちゃんにはもう返せないぐらいのものをもらってるんだっ!」


それは私の台詞なんだけどなって思った。

私もカナからもらったものは数え切れないぐらいある。


「来年も、そのまた来年もずっとずっとお祝いしようねっ!」


「うん。そうだね」


私が秘密を告白した日。

カナが私を見つけてくれた日。

私とカナが大事な人同士になった日。

何度も、いつまでも祝えたらいいなって私も思った。

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