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「今日の天気、大丈夫かな?」


私が言うとお母さんは嬉しそうな表情をしていた。

人がとっても心配しているのに、ひどいって思う。


「いっちゃん、そればっかり言ってるわね」


「そうでもないと思うけど……」


それに天気の心配をするのは当たり前だって思う。

だって今日はカナと天体観測に行く日だから。


「昨日の夜から天気予報をかじりついて見てたでしょ」


「見てたけど……」


「じゃあ今日の天気は私よりいっちゃんの方が詳しいはずよ」


「でも番組とか見るページとかで言ってることが微妙に違うし」


あるところでは晴れ。あるところでは曇り。

もしかしたら雨が降るかもしれないってところもある。

天体観測は雨が降らなくても、曇りだと星は見えない。

だから天気とか空模様が心配。

カナには今日、満点の星空を見て欲しいから。


「いっちゃんは相変わらず心配症ね」


「今日は心配するなって方が無理だと思うな」


言いつつ私はスマートフォンで天気を調べる。

……なんとも言えない天気。

今日は絶対必ず何があっても雨が降ります。

みたいに言われるよりはずっといいんだけど。


「今、心配してもしょうがないじゃない。予報は予報よ」


「それはそうだけど……」


「とりあえず学校に行って来なさい。カナちゃん待ってるかもしれないわよ」


「うん。分かった」


私はスマートフォンを鞄の中に入れた。

お母さんから受け取ったお弁当箱も。


「私がてるてる坊主作ってあげるから、安心するといいわよ」


てるてる坊主って……。

なんだか私がとても子供扱いされてるような気分になる。

子供といえば子供なんだけど。

でもそう言ってもらえるのは嬉しい。


「ありがとう。それじゃいってくるね」


だから素直にお礼を言った。

私も夜に作っておけばよかったなって思った。

天気が心配であんまり眠れなかったんだし。


……

…………

………………


「おはよう」


いつもの待ち合わせ場所に、いつものようにカナはいた。

私が声をかけるとカナはこっちの方を見る。


「おはよう、いっちゃんっ!」


カナの笑顔はいつものこと。

でもいつもより嬉しそうな声だった。


「とうとう天体観測の日だねっ!」


「うん。そうだね」


「楽しみであんまり眠れなかったんだっ!」


「私もあんまり眠れなかった」


でも私とカナとじゃ眠れなかったの理由は違う。

カナは天体観測が楽しみだから。

私は今日の天気は心配だから。

私達っぽいっなって思えた。


「いっちゃん、あんまり元気ない?」


私の表情とか声とかを察したんだろう。

カナは心配そうに私に言った。


「もしかして、あんまり楽しみじゃないとかかな?」


「そんなんじゃないよっ!」


慌てて私は言った。

むしろすっごく楽しみだから、今の気持ちになってる。


「ただ天気が心配で……」


私は空を見た。

すごく曇ってる。

太陽が見えないぐらいに。

今にも雨が降りそうな感じがした。

私の心の中のもやもやが一気に広がった気がする。

大丈夫かな……。

綺麗な星空が見えるかな……。

カナに素敵な思い出をあげれるかな……。


「いっちゃんは天気が心配なの?」


空を見ている私にカナは言った。


「うん。今すごく曇ってるし」


「いっちゃんはとっても心配性だよねっ!」


カナはなんだかお母さんと同じようなことを言った。

カナの声は天気とかそういうのをあんまり心配してなさそうなものだった。


「カナは心配じゃないの? こんなに曇ってるのに」


「だって天体観測の場所はここじゃないし、時間も今じゃないんだよ」


その言葉になんだかはっとした。


「今の天気とあんまり関係ないって思うっ!」


「それは……そうだよね」


私は今が曇ってるから、天体観測の時も曇りそうって思ってた。

でも関係ないって今気づいた。

なんだか恥ずかしい気分……。


「それにねっ!」


恥ずかしがってるとカナの明るい声が聞こえた。


「今日は晴れて綺麗な星空が見えるって決まってるからねっ!」


決まってる。

それはどんな番組でも、ページでも言ってなかったこと。

でもなんだかカナの言葉は信用できそうって思う。

曖昧な天気予報よりはっきりしたカナを信じたいって思えた。

心の中のもやもやから太陽が出てきた気がした。

空は相変わらずの曇り模様。

でもきっと星空は見えるはずだって、少しだけ前向きに思えた。

カナの言葉はやっぱり凄いなって思う。


「だからいっちゃんも明るくいこうっ! 今日は特別な日なんだからねっ!」


「そうだねっ!」


カナの言葉でなんだか私も明るい気持ちになれた。

今日はカナと初めて天体観測に行く、特別な日。

そんな特別な日だからこそ、最初から最後まで楽しい1日にしたいって思った。

あんまり天気の心配をするのもよくない。

心配したところで、何かが変わるわけじゃない。

でも晴れるって信じていれば、願いは叶うかもって思えた。


「今日は晴れるよねっ!」


私は声に出して言った。

言うと本当にそうなりそうって信じるこことができた。

私はカナのおかげで前向きになってきている。

だから今日はそんなカナにとびっきりのプレゼントをしたいって思った。


……

…………

………………


昼休み。

私とカナは部室で話をしていた。

お弁当を食べてすぐ。

いつもは何でもない雑談が多いけど、今日は違う。

雑談するよりずっとずっと大事なことがあるから。


「とりあえず電車に乗るんだよね」


私がたずねるとカナはスマートフォンで色々調べてくれた。


「うん。高速バスはあるみたいだけど、直接は行けないみたい」


「それなら電車の方がいいかもね」


バスってなんだか苦手だし。


「電車の後は……バスに乗らなきゃいけない」


「星野村まで電車で行けないんだね」


「通ってないね。えっと電車で1時間ぐらい?」


「けっこう遠いね」


電車で1時間。

そんなに遠出ってあんまりしたことがないなって思っていると……


「それで駅からバスで40分必要だって」


「とっても遠いんだねっ!」


星野村は予想以上に遠い場所にあった。

同じ県にあるけど、なんだか全然違う場所に行くみたい。

でも遠くにあるだけ、綺麗な星空が見えそうだなって思った。


「それにあんまりバスがないみたい。1時間に1つぐらい?」


「ちゃんと時間に合わせて行かなくちゃ駄目なんだね」


1時間待つのは流石にきつい。

田舎は車が必須ってこういうことなんだなって思った。


「そこらへんは私が調整するね」


「ありがとうっ!」


私はそういうのを調べた経験はあんまりない。

出かけるときは家族で行くことが多い。

そして家族で行くときはお父さんの運転がほとんど。

この前の遊園地もカナに色々調べてもらったなって思った。


「天体観測してると帰りのバスが難しいみたいだね」


「そうなんだね」


カナの言葉を聞いてよかったって思った。

帰りはお父さんの運転で帰る予定。

もしお父さんに頼めてなかったら、取り残されるところだった。


「今日は放課後は部室に残らないで、すぐに帰った方がいいかも」


「うん。余裕があった方がいいかもね」


「バスに乗り遅れないようにしないといけないからね」


少し前にカナが天体観測するところまで2人で行こうって言った。

その方がきっと楽しいって。

私は2人で行けるかなってちょっと心配だった。

初めて行くところだし……。

でもカナは自分がいるから大丈夫って言ってくれた。

そして私はそんなカナを100%信じることができた。

だから2人で行くことに決めた。


「大丈夫なのか?」


心配そうに言ったのはお父さん。


「大丈夫よ」


そう言ったのはお母さん。

これだけ聞くとお母さんが私のことを信用している。

そう思えたけど、


「カナちゃんが一緒だから迷子になんてならないわよ」


っていう言葉をしっかりと付け加えた。

信用してるのは私じゃなくてカナの方みたい。

それはしょうがないって私も思うけど。

カナの方がずっとしっかりしてるしね。

お父さんはちょっと迷ってたけど


「帰りはお父さんの運転で帰るなら」


という条件で許可してくれた。

帰りは夜遅くなる。

だから心配だったみたい。

でも今思えばそう言ってくれて本当に良かったって思う。


「天体観測で必要なものって何かあるかな?」


カナは話題を変えた。

電車の時間とか、バスの時間はもう大丈夫みたい。


「そうだね。とりあえずお金とあとは寒くないようにってことぐらいかな」


今回は泊まりじゃないから荷持は少なくていい。

でも今度は泊まりがいいなって思う。

なんだかすっごく楽しそう。


「ありがとうっ! なんだかいよいよって感じがしてきたね」


「そうだね。私、授業あんまり集中できなかった」


「国語の時間、いきなり指されて焦ってたもんねっ!」


「うん。あれはとってもびっくりした。カナはそんなことなかったね」


「わたしはそういうの得意だから」


「何かコツとかあるの?」


「コツっていうと難しいな……」


ちょっとカナは悩んでいる。

きっとカナは複数のことに集中できるんだろうって思う。

だから何か考え事とかしても、急なことに対応できるんじゃないかな。

私は逆に集中すると、他が駄目になるタイプ。


「でもそういう方がいっちゃんみたいでいいって思うっ!」


どうやら今の私のままでいいっていう結論が出たみたい。

私もきっとカナみたいになるのは無理だろうなって思う。

だから私の場合は授業の時は授業に集中する。っていうのが大事な気がした。

それがとっても難しいんだけれど……。


「もうすぐ時間だねっ」


時計を見てカナは言った。

そろそろ教室に戻らないといけない時間。

昼休みに色々調べることができてよかったって思った。


「それじゃ行こうか」


「うん」


立ち上がって部室を出る。

出る時にカナは言った。


「午後の授業はちゃんと聞かないとねっ!」


多分難しそうだけど……


「努力はするつもり」


って私は言った。

恥ずかしい思いはあんまりしたくないし、目立ちたくもないし。


……

…………

………………


授業終わり。

いつもは部室に行くところだけど、今日は予定通り家に帰った。

午後の授業は……予想通りって感じ。

窓の外を見るとなんだかそわそわして集中できなかった。

多分、午前中の授業より酷かったって思う。

幸いにも指されたりはしなかった。

でもノートは全然取れてない。

明日とかにカナに見せて貰わなくちゃって思う。


「晴れてきたねっ!」


空を見ながらカナは言った。

カナの言うとおり朝と違って空は綺麗に晴れている。

冬らしい、澄んだ空が見える。


「綺麗な夜空が見えそうだねっ!」


「そうだね」


こういうときは今の天気と天体観測の天気は関係ないって思わない方がいい。

今が晴れてるから、きっと綺麗な夜空が見える。

そう思うのが大事なんだって、カナを見てて思った。


「そういえば夕ご飯どうする?」


「そうだね。星野村につくのは遅くなるんだっけ?」


「うん。食べるところはあるみたいだけど、ちょっと高そうかな?」


「それなら駅で何か食べるのもいいかもね」


目的は天体観測。

食べるのが目的じゃない。

だからそんなにこだわる必要とかはなさそう。

お金もあんまりないしね。

これ以上、お父さんに甘えるわけにもいかないし。


「分かったっ!」


それから私とカナは少し早歩きで帰った。

ちょっと寒さを感じたけど、それは我慢。

私は早く歩くのとか苦手だから、なんだかぎこちない感じになる。

変に筋肉痛になりそう。

でもカナはなんともなさそう。

もしかしたらいつもこんな感じで早く歩くのかもしれない。

いつもは私に合わせてくれてゆっくり歩いているのかもしれない。

なんだかそういう優しさが分かって、嬉しい気分になった。


「それじゃ30分後にここで待ち合わせでいいかな?」


いつもの朝の待ち合わせ場所。

うちのすぐ前。


「うん。それじゃまた30分後にね」


カナは早足で自分の家の方に歩いて行く。

私はそれを見送って、家の中に入った。


……

…………

………………


家に入った私は少し休んだ。

早足でちょっと足が痛い。

運動不足をなんだか痛感してしまった。

そして疲れが取れた後に着替えをした。

着替えはお母さんが準備してくれてたんだけど……。

っていうか帰ってきたらすでに準備されてた。


「暖かいでしょ」


「うん。とってもいい感じ」


「マフラーはいらないの?」


「一応持っていこうかな」


「はい」


「ありがとう」


私はマフラーを鞄の中に入れた。

すぐにはいらないかもしれないけど、絶対に寒くなりそうだって思った。

ふと部屋の端に朝にはなかったてるてる坊主があった。

今晴れてるのはあのてるてる坊主のおかげかもしれない。

どうか効力がずっと続きますようにって心の中でお願いする。


「てるてる坊主本当に作ってくれたんだね」


「当たり前じゃないっ!」


お母さんはウキウキしながら言う。


「いっちゃんの大事なデートだもんねっ! 私だって晴れて欲しいぐらい思うわよっ!」


「デートじゃないんだけどね」


「照れなくてもいいのにっ!」


「むしろどこに照れる要素があるのか知りたいぐらい……」


まぁデートといえばデートって言えなくもないんだけど。


「私達もお父さんが帰ってきたらそっちに向かうからね」


「うん。ありがとう」


「温泉に入って待ってるわ」


なんだかお母さんも楽しみそうな感じ。

お父さんも同じだといいなって思った。


「それじゃ行ってくるね」


「うん。いってらっしゃい」


お母さんが小さく手を振る。

私もお母さんに手を振って家を出た。

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