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文化祭の日。

私はいつもより早く目が覚めた。

興奮しているのか、集中しているのかのどっちかだと思う。

なんだか初めて流星群を見に行った時のことを思い出す。

前の日から離島に行って、そこで泊まり夜に見るって感じの旅行。

あの時も予定の時間よりずっと早く起きた。

そして眠そうにしていたお父さんとお母さんを叩き起こした。

早く起こされてお母さんは不満そうだったけど、お父さんは嬉しそうだった。

そんな懐かしいことを不意に思い出した。


「気合が入ってるわね」


欠伸をしながら起きてきたお母さんが言う。

お母さんより早く起きたのは本当に久しぶり。


「別にそういうわけでもないと思うけど……」


気合を入れたからってどうこうなるわけでもない。

そりゃ呼び込みとか頑張れば人は集まるかもしれないけど。

でもそっち方面で頑張るつもりはなかった。

人には向き不向きがあるから。

っていう言い訳。

黙ってても来てくれる人が買ってくれたら嬉しいって思う。


「いいものできた?」


「うーん」


私は悩む。

小説は時間ぎりぎりまで書いた。

その分、作業する時間が減ってカナには申し訳なかったけど……。

だけどそれだけいい物は書けたって信じたい。

カナだって面白いって言ってくれた。

漫画研究部の先生も褒めてくれた。

だから自信を持ってもいいかもしれないけど、そこはなんだか難しい。


「ぼちぼちってとこかな」


「煮えきらないわね」


「お母さん買いに来るの?」


「もちろんよっ!」


「来なくても本は渡せるんだけど……」


「何を恥ずかしがってるのよっ!」


「別にそういうわけじゃ……」


と言いつつもやっぱりちょっと恥ずかしい。

でも書いたものを読まれることはそれ以上に恥ずかしいことのはず。

褒められても、貶されても、どう受け止めたらいいか難しい。


「そういえばお父さんは?」


「まだ寝てるわ」


寝室の方向を見ながらお母さんが言った。


「昨日、帰りとっても遅かったしね」


「文化祭のために無理して仕事休んでくれたんだよね」


「そうよ。感謝しなさいよ」


「もちろん」


お父さんもお母さんもとっても優しい。

もし違う人が親だったらと思うと、ぞっとする。

でもお父さんとお母さんだからこそ、秘密を絶対に守らないとって思っていた。


「今日はお弁当はいらないわよね」


「うん。何か食べるって思うし」


「いっちゃんのクラスは何だったっけ?」


「お好み焼き」


「お好み焼きかー」


「わりと美味しそうだったよ」


「それなら覗いてみようかしら」


「うん。おすすめ」


一応クラスの宣伝。

部誌の作業は先生に渡して終わった。

だから時間が余ったから、少しだけクラスの手伝いをした。

といっても足りなかったものの買い出しとかをしたぐらい。

カナもずっと一緒にいてくれた。

クラスの方は飾りをなかなか凝ってて、それで時間がかかったみたい。

あんまり手伝えなかった私とカナにも委員長がお礼を言ってくれた。

なんかとあるグループと委員長達が喧嘩して大変だったらしい。

委員長たちばっかり決めて、それが不満だったとか。

私とカナが天文部で作業している間に、教室でも色々あったんだなって思う。

それと比べたら天文部はとても平和。

人数が少ないっていうのはあるって思う。

それに喧嘩している暇もなかった。

そんな暇があるなら1行でも書けっ!っていう雰囲気。

私は人と揉めるより、黙々と作業をする方が好き。

それはみんなそうかもしれないけどね。


「でも嬉しいわ」


お母さんがポツリと言った。


「何が?」


「いっちゃんが部活動を頑張ってるみたいで」


「そうだね」


「とっても仲がいい友達もできたみたいだしね」


「うん。そうだね」


「やっぱり転校ばっかりが嫌だった?」


「どうだろうね」


私は思う。

もしすぐ転校していたらカナとはどうなっていただろうって。

今までみたいにすぐに過去の人になってた?

私はそうなるとは思わなかった。

そうなって欲しくなかったが正解かもしれない。

でもそう思うこと自体が今までとは違うこと。

やっぱりカナは私の中で特別なんだって思う。

私が秘密を打ち明けれる人なんて、もう会えないと思う。


「でも転校してきたからカナに会えたんだから、考えようってことだよね」


「それもそうね」


私がずっと転校してきたのも、カナと出会うため。

そう考えると運命的でなんだか素敵だなって思った。

今までのことが全部意味があったような、そんな風にも感じることができる。


「それじゃそろそろ出るね」


私は時計を見て言った。

いつもより早い時間。

でもなんだかそわそわして、早く学校に行きたいって思った。

待ち合わせ場所にカナはいないかもしれない。

でもたまには私の方が待つのもいいかもって思った。


「いってきます」


私はお母さんに言って玄関へと向かう。


「いってらっしゃい」


いつもの優しい声が、後ろから聞こえた。


……

…………

………………


「おはよう」


待ち合わせ場所に行くとカナがいた。

きっといないだろうって思ってたからちょっとびっくり。


「おはよう、いっちゃんっ!」


カナはいつもの明るい挨拶を私にしてくれる。


「もう来てたんだね」


「うん。早く目が覚めちゃって」


「私も」


「同じだねっ!」


「そうだね」


って私とカナは笑いあった。


「いよいよ本番だねっ!」


「売れるかな?」


「分かんないっ!」


「正直な答えだね……」


まぁそうだよね。

って私は思う。

作った本は50冊。

私とカナが1冊ずつもらって、3冊は部室に置いておく。

だから45冊を売るって感じ。

その中で30冊を天文部の部室で。

漫画研究部で15冊を置いてもらう。

逆に漫画研究部の部誌も20冊天文部に置く予定。


「1冊でも売れたらいいな」


正確にはたくさんの人が読んでくれたら嬉しいって思う。

特にカナが書いた絵はとっても可愛くて、上手。

だからみんなに見て欲しい。


「私はどっちでもいいかな」


「どっちでもいいって?」


「売れても、売れなくても」


「そうだんだね」


「いっちゃんと一緒に1冊の本を作れたってだけで、とっても満足だからっ!」


「カナらしいね」


カナがそう言ってくれてとっても嬉しかった。

なんだか私まで売れなくても、満足できそうって思えるぐらいに。

そうだよね。

って私は考えを切り替える。

作れたことがやっぱり嬉しい。

何かを頑張って作るって初めての体験だったし。


「文化祭って2日あるでしょ?」


「そうだね」


例年は1日だけだった。

でも今年から2日になったみたい。

去年からの生徒会が相当頑張ったって先生が言ってた。


「部誌を売るのは1日目だけでいいと思う」


「確かにそうだね」


私とカナの2人しかいない。

だから2人部室にいなくちゃいけないって感じ。

変わってくれる友達も、私とカナにはいないし。

だからカナが言うとおり、1日目だけ部誌を売って、2日目は色々見て回るのがいいって思った。


「2日目は一緒ののんびり周ろう」


「うんっ!」


私の言葉にカナは嬉しそうに言う。


「なんだか楽しみになってきたねっ!」


「私もっ!」


楽しい気分になったところで、私とカナが学校に向かった。

本は昨日届いてる。

でも職員室にあるから、まだ中は見てない。

どんな感じの本になっているか、とっても楽しみだ。


……

…………

………………


学校に行ってカナはすぐに職員室へと向かった。

私達の部誌を取りに。

でもカナは手ぶらで職員室から出てきた。


「もう部室に運んでるって!」


「そうだんだねっ!」


「重い物運ばなくてラッキーだったねっ!」


「うん」


50冊の本が入った箱はなかなか運ぶの大変そうだなって思った。

だから本当にありがたいなって思う。

運んだのは漫画研究部の先輩みたい。

会ったらお礼を言わなくちゃ。


「それじゃ部室に行こうかっ!」


カナは軽い足取りで歩きだす。

私もちょっと急いでカナの横まで移動。

きっと私もいつもより、軽やかな足取りになってるはずだ。

学校に来るにはわりと早い時間。

でも廊下や、教室にはたくさんの人がいた。

忙しそうに走り回ってる人も多い。

あれはどこにある。

まだ飾り付け終わってない。

あいつどこに行った。

なんて声があちらこちらから聞こえる。


「なんだか祭りって感じがするね」


思わず私は言った。

喧騒の中、のんびり歩く私達はなんだか別世界にいるように感じた。

前はこんなに音が大きい中にいたら、とっても不安な気持ちになっていた。

でも今日はそういうのが全くなかった。

何の心配もなく歩くことができる。


「そうだねっ!」


不思議とカナは機嫌が良さそうに思える。

なんだかこういううるさいのはあんまり好きじゃなさそうだから不思議だ。


「機嫌いいの?」


「うん。不思議とね」


自分でもその自覚があるみたい。

カナはにこにこな笑顔のまま言った。


「いつもなら本当にイライラっしてたって思う」


「カナもイライラすることってあるんだね」


「もちろんだよっ!!


ちょっと意外な感じがした。


「中学生の時なんてイライラしっぱなしだったしね」


「そうなんだね」


きっと私がすごく怯えてたころだと思う。


「でも今は不思議とイライラしない」


「私も前はびくびくしてたけど、そんなことないよ」


「いっちゃんが横にいてくれてるからだと思うっ!」


「私もカナがいてくれるから、怖くないんだって思う」


2人でいるから、私達はこの世界に立ち向かえている。

大げさだけど、そんな風にも思うことができた。


「ずっと一緒にいようね」


カナが言う。


「もちろんだよ」


って私も言う。

周りのは人がたくさんいる。

たくさん人がいる中で言うには恥ずかしい言葉。

でも平気。

みんな忙しいし、誰も私とカナの言葉なんて聞いてないから。


……

…………

………………


「ダンボールがあるよっ!」


「みたいだね」


部室には昨日まではなかったダンボールがあった。

あの中に部誌が入ってる。

そう思うとただのダンボールが輝いて見えた。


「なんか紙がある……」


「なんて書いてあるの?」


「予定通り部誌を15冊抜いて、代わりに20冊部誌を置いていきます」


「なんだか真面目な人だね」


「そうだね」


言いながらカナはダンボールを開ける。

それはまるでクリスマスプレゼントを開けている子供に見えた。


「見てみてっ!」


そして1冊の本を取り出して私に見せる。


「わたし達の本だよっ!」


「そうだね」


私も1冊の本を手に取った。

表紙は主人公とヒロインが手をつないで星を見ている絵。

その上に

ひとりぼっちの天体観測。

って書いてある。

カナがページをめくる音が聞こえる。

私も1ページ、1ページ開いてみていく。

私が書いた文章に、カナが書いてくれた挿絵。

やばい……。

私は思った。

目から涙が出てきそう。

なんだか見ていると、頑張ってきた思い出が蘇った。

部活に入ろうって言ったこと。

部活を作ろうって言ってくれたこと。

天文部ができたこと。

文化祭に出ることになったこと。

部誌を作ろうって提案したこと。

何を書こうかとっても悩んだこと。

カナが素敵な絵を書いてくれたこと。

ナツミに相談したこと。

小説を書こうって決めたこと。

夏休みも、放課後もずっと小説書いたこと。


「なんか凄いね……」


きっとカナも同じように感じたって思う。


「そうだね。こんなに感動するなんて思わなかった」


一生懸命に作った本。

頑張ったことに意味がある。

なんだかその言葉の意味が分かったような気がした。


「わたし達だから作れたんだよね」


「うん」


「いっちゃん、ありがとうっ!」


「私もっ! カナありがとうねっ!」


頑張ってよかった。

カナと出会えてよかった。

私はそう思いながら、カナが書いてくれた挿絵を見ていた。


……

…………

………………


準備を終えた私とカナは部室にいた。

この学校の文化祭では最初に体育館に集まるとかはないみたい。

私とカナはちょっとだけ泣いた。

だから顔を洗いにいった。

廊下で恥ずかしい会話をするのは大丈夫だった。

でも泣いたって分かる目で誰かに会うのは恥ずかしいって思った。


「もうすぐだね」


時計を見ながらカナは言う。


「でもなんだか終わったような感じもするね」


「そうだね」


私とカナの文化祭のピークは本を見た瞬間だった。

あの瞬間に今までの苦労が全部報われた気がした。

あと3分。チャイム音がなった。


「みなさんお早うございます」


放送の声。

しっかりとして、とっても聞きやすい声。

生徒会長の声だ。

会ったり話したりしたことはない。

でも顔とかは知っていた。

学校の有名人。

とっても凄い人みたい。

私のように学校のすみでこそこそ生きている人とは真逆の存在。


「今日と明日は文化祭です。体育祭がないので文化祭が最大のイベントとなります」


「今まで準備など大変だったと思います。喧嘩もしたし、辛い思いもしたかもしれません」


「しかし登るのが辛い山ほど綺麗な景色が見えると私は確信しています」


「今日はみんなで綺麗な景色を見る日です」


「最高の文化祭にしましょう。私達ならそれができると信じています」


「生徒会長。野々里志穂」


放送が終わった瞬間、あちらここちらから拍手をする音が聞こえた。

私とカナは2人で頑張った。

でも文化祭はみんなで頑張らないとできない。

そう思える瞬間だった。

地球人を怖く思う。

それは今も変わらない。

でも地球って素敵だなって実感できる。

私も周りに合わせて拍手をしようとした。

でもカナがする気配はない。

だから私も思わず手を止めた。

そして心の中でだけ、拍手をした。

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