26
なんともう夏休み最後の日。
なんだか夏休みが始まったのはついこないだのような気がする。
夏休みの最中も、やっぱり夏休みは長いなって思ったこともある。
でも最後の日になったらあっという間に過ぎたように感じるから不思議。
地球滅亡の日もこんな感じかもしれない。
まだ大丈夫、まだ大丈夫って過ごしているうちに、明日が滅亡の日になってたり……。
って無意味な妄想をするのは私に余裕がある証拠だ。
最後の1周間は午前中に小説を書いて、午後に宿題をするって感じだった。
おかげで昨日には宿題は全部終わらせてしまった。
これで安心して夏休みを終えることができる。
2学期を始めることができる。
文化祭に向けて頑張ることができる。
今日は家でのんびりしようってことで、学校には行かなかった。
だから私は昼間で眠るような、ぐうだらした1日を過ごした。
なんだか懐かしい感じ。
カナも休めてるといいなって思う。
いつも頑張って絵を書いてくれてたし、勉強も教えてくれた。
カナがいなかったら、いつも通りの毎日がぐうだらな夏休みになってた。
そして今頃は慌てて宿題をしていたはず。
今年はなんだかとっても充実感がある夏休みになった。
ほとんど毎日学校に行っていた。
お母さんがなんだか夏休みって感じがしないって言うぐらいに。
でも普通の学校に通うよりずっと楽しかった。
自分が決めたものを頑張るっていうのはすごく楽しいんだなって分かった。
そして1番の思い出といえばやっぱり遊園地。
でも楽しかった遊園地の思い出から少しずつ遠ざかっていく。
そんなに前のことだったんだって思ってしまう。
でも思い出は全くすり減ったりしなかった。
キーホルダーを見るたびにはっきりと思い出せるから。
お化け屋敷の思い出も含めてだけど。
そして気になることが1つ。
自分の部屋に置いてあるラングドシャ。
ナツミにあげようって思って買ったもの。
でもまだ渡せていない。
本当に渡していいのかなって思ってしまって……。
どうしよう、どうしようって考えているうちに今日という日になってしまった。
いっそのこと私が自分で食べちゃったら楽なんだろうけどな。
4枚ぐらい食べたけど、とても美味しかったし。
それにナツミにお土産をあげたことをカナが知ったらって考えてしまう。
怒るかな?
悲しむかな?
呆れるのかな?
もしかして喜ぶのかな?
どんなに考えても分からなかった。
喜ぶことはないだろうってことだけは分かるけど。
そして私はあの言葉を思い出す。
迷ったら自分のわがままに従ったほうがいい
そんな感じの言葉。
ナツミの言葉だけど、なんだかすごく印象に残っている。
そして私はやっぱりナツミにお土産を渡したいって思う。
いつもお話をしてくれるし、部誌で小説を書くきっかけになったのもナツミ。
それに面白い小説とかアニメも教えてくれる。
安心感をくれるのがカナ。
そして刺激を与えてくれるのがナツミ。
って感じだ。
それにナツミは引っ越してきて初めてできた友達。
お土産をあげるのは普通のことのはず。
よしっ!
私は気合を入れる。
そして携帯電話を取り出してナツミに電話した。
なんだかコール音って私の心をどきどきさせる。
電話をかける時はいつも緊張してしまう。
早く出てくれないかな。
私はそう思いながらコール音を聞いた。
「もしもしっ!」
電話をかけて10秒ぐらいでナツミの声が聞こえた。
出てくれたってちょっと安心する。
「どうかしたの?」
「今って部活?」
「うんうんっ! 最後の日は休みって決まってるからっ!」
そこらへんはどの部活も同じなのかもしれない。
最後の日はゆっくり過ごそうみたいな。
「ちょっと会いたいんだけど、時間ある?」
「今から?」
そう言われて私は時計を見た。
今は15時を少し過ぎたぐらい。
「うん。今からがちょうどいいかな」
「いいけど……大事な用?」
「そこそこぐらい」
「愛の告白?」
「そんなわけないでしょっ!」
愛の告白だったらそこそこぐらいなんていうはずないし。
「この前にカナと遊園地に行ったんだ」
「いいなっ! 羨ましいっ!」
ナツミの明るい声が聞こえた。
どっちが?なんて野暮なことはもちろん聞かない。
多分、両方が答えだろうし。
「あたしずっと部活で、休みの日はばたんきゅーって感じだったからね」
「ナツミでもそうなるんだね」
どれだけハードな練習なんだろう。
なんだか考えただけでも吐き気がする。
私じゃ1日どころか、半日どころか、ウォーミングアップでダウンしそう。
「色々と揉めたりもしたしね」
珍しいナツミのため息が聞こえた。
バズケット部はそこそこ人数がいる部活。
楽しく頑張ってバスケットをすればいいってものでもないんだろうって思う。
「文化祭に出るか出ないかとかね」
「運動部も模擬店やるところ多いからね」
「そうそう。でもそんなのに時間を使ってる暇はないって人もいるしさ」
「それでどうなったの?」
「補欠の人が中心で準備して、レギュラーは部活専念って感じ」
なんだかちょっと不満そうな言い方だった。
ナツミは多分、レギュラー。
だから文化祭にがっつり絡めなくなって、そこが不満なんだろうって分かった。
「残念だったね」
「部活の方が大事といえば大事なんだけどねっ!」
「3年生になってのお楽しみにしとけばいいんじゃないかな?」
その時には部活も引退してるだろうし。
あっ、でも受験勉強とかあるのか……。
そう考えると何だか嫌な気分になった。
将来の仕事をどうするかの前に、卒業後の進路も全く考えてない。
進路調査の紙を書いたこともあるけど、とりあえず進学って書いた。
そう書けばあんまり突っ込まれたりもしないし。
「そうだねっ! 3年になったら模擬店するっ!」
って明るくいうナツミもあんまり進路のことを考えてないのかもしれない。
私と同じなら、考えたくない、だけど。
「そういえば用事って何だっけ?」
ナツミに言われてはっとした。
雑談をしたくて電話したわけじゃない。
ナツミに言われなかったら、このまま流れで電話を切ってしまいそうだった。
「えっと……どこまで話したっけ?」
「カナさんと遊園地に行ったってとこまでかな」
「そうそうっ! そうだった!」
「いつきって案外天然なところがあるよねっ!」
「天然じゃないからっ!」
どっちかって言ったらしっかりしてる方だと思ってる。
それに気を抜いたらまた雑談になりそうだったから、
「遊園地でお土産を買ったから渡そうって思って」
って要件だけ言った。
「お土産っ! 嬉しいっ! ……でも」
「……でも?」
「あたしがもらっていいのかな?」
「何言ってるのよ」
ナツミが遠慮するのはなんか予想外。
すぐに受け取るって思ってた。
「部誌のことで相談にのってくれたお礼もしたかったし、友達ならお土産ぐらい渡すのが普通だと思う」
「それなら喜んでっ!」
「時間は今から大丈夫? もし無理なら学校……」
「大丈夫っ!」
私が言い終える前にナツミが言った。
「お土産早く欲しいし、学校でより違うところでもらった方がいいなっ!」
「お土産ってちょっと荷物になるしね」
「それもあるけど……えっとそれじゃ4時に公園にでいい?」
「うん。ちょっと遅めだね」
今からなら30分には行けそうだけど……。
「筋トレしてたら汗かいちゃったからシャワー浴びて行くのっ!」
「最後の日ぐらい休めばいいのにっ!」
やっぱりナツミはナツミなんだなって思った。
きっと部活休みの日も同じように運動して、それでばたんきゅーってなってたんだと思う。
「なんか動かしてないと不安っていうか……」
「それって大丈夫なの?」
「オーバーワークは駄目なんだけどね。先生に怒られてる」
「だよね」
練習しない人に練習させる。
練習しすぎな人に練習をさせない。
この2つなら後の方がずっと難しそうだなって思う。
「とりあえず急いで準備するねっ!」
「うん」
「お土産楽しみにしてるっ!」
「楽しみにしといて」
そこで通話が終わった。
私も準備しようかなって思う。
でもまだ時間はあるからのんびりっていう感じで。
……
…………
………………
時間の10分前に公園についた。
そして時間の10分後にナツミはやってきた。
「ごめんっ! 準備に時間がかかったんだっ!」
なぜかナツミは部活のユニフォームで来ていた。
しかも急いで来たのかとっても汗をかいてる。
これじゃまたシャワーを浴びなきゃいけないぐらいに。
「歩いてきても良かったのに」
待つのは嫌いじゃないし。
「早くお土産が欲しかったからねっ!」
「はい、これ」
私は袋に入ったお土産を渡す。
「ありがとうっ!」
「大したものじゃないけどね」
「いつきにもらえるならなんでも嬉しいっ!」
なんだか思ったよりも喜んでる。
しかもなんでもって。
もしかしてナツミって私のこと大好き?
……なわけないかな。
ナツミは私やカナと違って友達たくさんいるし。
単純にお土産が嬉しいんだろうって思った。
「中はラングドシャだから」
「ラングドシャってクッキーみたいなのだっけ?」
「そうだよ」
といっても私はラングドシャって詳しく何か知らない。
箱にラングドシャって書いてあるからラングドシャ。
それぐらいの認識。
「帰ったら大事に食べるねっ!」
「普通に食べていいと思うけど……」
「あたしもいつきになんかお土産を用意すればよかったねっ!」
「でもずっと部活だったんでしょ?」
「遠征試合もあったからっ!」
「遠征試合ってなんか凄いね」
「合宿も兼ねてだけどねっ!」
「合宿っていいね」
「超楽しいよっ! 修学旅行みたいな感じっ!」
天文部でいうと冬に行く天体観測が合宿みたいなのになるのかな?
あれは部活として行くか微妙だけど……。
もし文化祭の出し物が評価されて、部費がもらえたら合宿してもいいかなって思う。
でもその時は学校の先生が引率しないといけないとかありそう……。
「いつきの方は部活どんな感じ?」
「順調だよ」
一応予定通りには行ってる。
でも明日から使える時間は短くなるから、もっと頑張らないといけない。
カナの方は大丈夫みたいだけど。
「でも製本の仕方とかよく分からないから、そこらへんを教えてもらうって感じかな」
「なんだかすっごく楽しそうだねっ!」
「そう見える?」
「とってもっ!」
ってことは実際にそう見えるんだろう。
本当に楽しいしね。
「部活っていいでしょっ!」
「うん。何かを頑張るってなんかいいね」
「でしょでしょっ!」
頑張らないのが悪いことだとは思わない。
でも頑張ることはいいことなんだなって実感できた。
「ナツミはなんでバスケットを始めたの?」
「えっとねっ! お姉ちゃんの影響かなっ!」
「お姉さんがいるんだ」
通りでなんかナツミは妹って感じがするなって思った。
カナはなんとなくお姉さんっぽい。
私は……お姉さんの方かな。
「年は離れてるけどねっ! お姉ちゃんがバスケットしてるのみて、カッコイイって思ったんだ」
「それで自分もやりたくなったの?」
「だねっ!」
「でも……」
私はスポーツをしているナツミの姿を思い出す。
見るのは体育の時間だけ。
部活をしているナツミを見たことはない。
それでも思うことはあった。
「ナツミもとっても格好いいって思う」
上手にしている姿はもちろんそう。
それ以外でも運動得意じゃない人に声をかけたり、どんな時も楽しくやっている姿がちょっと眩しく見える。
「ナツミが憧れたみたいに、ナツミに憧れてバスケット始めた人も多いんじゃないかな?」
「そっ、そんなことないよっ!」
「私だってカッコイイって思うことあるしね。たまにだけど」
「いつきって人を褒めるのが上手だねっ!」
「その言葉はなんか褒めてない気がする……」
「そっ、そんなことないよっ!」
なんかさっき聞いた言葉をナツミは言う。
「えっとそのそういうつもりで言ったんじゃ……」
「分かってるっ!」
思わず笑い声が出てしまった。
ナツミと話すのは本当に楽しい。
なんで私は地球人じゃないんだろう。
なんでナツミは地球人なんだろう。
そのせいで私はナツミに対してあと一歩を踏み込むことはできない。
きっと本気の悩み事は、ナツミにはできない。
もし、ここで告白したらどうなるんだろう?
拒絶される?
嫌われる?
嫌がられる?
みんなに告げ口される?
……やっぱりネガティブな想像しかできない。
カナには思わずできたことも、ナツミにはできない。
「そういえばなんでユニフォームを着てるの?」
「これはその……急いで手に取ったらユニフォームだったの!」
「慌てすぎでしょ……」
「待たせちゃいけないって思ったからねっ!」
「でもすっごく似合ってるね」
ユニフォーム姿のナツミはすごく様になってる。
きっと私が来てもあんな風にぱしっと決まらない。
そうだ。せっかくだし……。
「ついでだしこれからご飯食べに行かない?」
「ふ、2人でっ!」
そこっ!
思わず心の中で叫ぶ。
「そりゃそうでしょ……」
「あたしって2人でご飯行ったことないんだよね」
「ナツミって友達多いしね。……というかユニフォームで行くことには何にも思わないの?」
「この格好でご飯食べに行ったこと何度かあるからねっ!」
「あるんだっ!」
むしろそっちをからかいたくて提案したのに。
なんだか負けた気分がする。
「それに今日はお姉ちゃんが帰ってくるから一緒に食べに行くんだっ!」
「楽しみみたいだね」
「うんっ! 久しぶりにお姉ちゃんに会うからっ!」
本当にお姉さんのことが好きなんだなっていうのが伝わってくる。
私は兄弟も姉妹もいない。
だからちょっと羨ましくも思えた。
でも結局は姉とかがいても地球人。
ナツミみたいにはなれなかっただろうって思う。
「それじゃ帰ってまたシャワーを浴びないとね」
「だねっ! お母さんに何回シャワー浴びてるんだって怒られるけどっ!」
「それじゃまた明日、学校で」
「またねっ! ばいばいっ!」
ナツミはランニングする感じで家に帰っていく。
来たときもきっとああいう感じだったんだろうって思う。
あれならたくさん汗をかいてたのも納得。
でも夏休みの最後にナツミと話せたのはなんかよかった。
ずっとお礼も言いたかったし。
本当にいい夏休みだったな。
私はそう頭の中でまとめて家に帰った。




