第24話. 固まる意思、それぞれの居場所
(──お兄ちゃん、ケッコンするとは聞いていたけれど・・・そうだったなんて──!)
「はっ・・・!」
(しまった・・・!)
驚愕の事実に思わず驚嘆の声を上げ、その身を曝け出すシーネ。
処置室内、奥にいる負傷兵からも視線が集まり、周囲の者はただ固まっている。
「団長の妹さん、シーネ=カリナだ」
オルサスはそれ以上一切何も挟む間を許さず、間髪入れずにそう告げた。
完全硬直しかけていたその場が再び動き出す。
(おい、あんた教会にいるんじゃなかったのか!さっき俺がシーネのことや能力の話を皆に伝えたとはいえ、その出て来かたは妙な誤解を招きかねん!)
「やぁ、シーネ!無事だったのか」
「こ、こんばんは!カミーノさん」
守秘として騎士団のメンバーにはその素性を詳しく伝えることはなかったが、カミーノだけはかねてから医師としての面識があった。
「妹さんなのね、あなたが!彼はよくあなたの事を──」
「その節は兄がいろいろとご迷惑を──」
「・・・!団長にこんな可愛いらしい妹さんが!!」
ミレイアとシーネが互いに向かい頭を下げているところ、フーカが両手を広げ、駆け寄る。
一方、ピクシスは放心状態のまま、行き場も無くただ呆然と突っ立っていた。
(な、なんなんだ……これは。……すまない、ナスタジオ。騒がしいと思うが、瘴気を祓うためだと思ってくれ)
カミーノは、顔を体を純白の布で覆われたナスタジオに対し、申し訳なさそうに目をやった。
混沌とした光景。重々しかった雰囲気が見事に崩れ。オルサスとフィリベルトはともに男子禁制の様相を眺める。
そんな中、カミーノはマスクの下でふと柔らかな笑みを浮かべた。
(だが……)
(──きっと、いい兆候だ……下を向いているよりかは)
(どうにもならなかった瘴気が薄まり、焔の勢いが強まった。やはり、地上の人々の母数が減った分、我々の雰囲気が上向くことで瘴気が薄まりやすいという仮説が裏付けられている)
(だが、通信端末は沈黙したまま。・・そして時間がない・・・行動を進めなければ──)
「いつっ!」
カミーノが一同に声をかけようとした所──突如、負傷した兵士フィリベルトの口から痛みを訴える声。
「大丈夫か?」
「はぁ・・はぁ・・・す、すまん、体勢を変えようとしたら、痛みが・・・!」
彼は顔を苦痛に歪め、動く方の右腕で福木で固定され包帯で巻かれた脚を庇っている。
その様を、フーカに戯れつかれながら、シーネはふと目撃していた。
(この人……骨が……私の力なら)
シーネはフィリベルトの元へ近寄ると、手のひらを向かい合わせるようにする。
「そのまま、力を抜いて、呼吸を楽にしていてください」
「・・・うん?君は・・・」
“支え抜く血嶺石の立体魔法陣“
“蜜蜂の巣──!”
彼女の両手の間に編まれた紋様は、連なる六角構造体を作り出し、それはまるで蜂の巣のような網目を形作っていた。
「完了ですっ」
シーネが手を下ろすと、フィリベルトは自身の手足を交互に眺める。
そして、ハッとした顔で目を大きく見開いた。
「な・・・これは・・・!」
「フィリベルト?どうした!?」
カミーノが声をかけるが、負傷していたはずの兵士は、しきりに何かを確認するかのようにその身を動かす。
「馬鹿な・・・!!これは・・・信じられん!」
「おっおい!何してる!君は骨が折れてるんだ!!」
慌てて制止するカミーノだったが、四肢が折られる前のように固着していることに気づき、兵士は驚愕する。
「嘘・・・だろ・・・君は、折られた私の骨を治したのか!?」
「──繋ぎ合わせ、支え、そして固めました。傷ついた血管も保護しています。腫れもあるし、筋肉や見えないくらいに小さい血管は、自分の力で直すのが一番です!しばらくは安静にしていてくださいね」
「そ、そうか・・・!しかし驚いた。魔法の力で、ここまで精密に治せる者がこの国にいるとは思わなかった。それも、その歳で・・・」
(これは・・・私が知っているよりも、能力が進化している・・・!?)
カミーノはシーネの能力を知っているつもりでいた。
だが、実際にそれを目にする機会はほぼ無いに等しく、構造体を積み上げ、覆う程度のものだと思っていた。
しかし、彼は確信する。これは、団長であるアヴィオール=カリナを支え続けることにより、磨き抜かれてきた力だと。何度も何度も試行錯誤を重ねられ、そのうちに細やかな血管の走行まで把握し修復するまでに至ったのだろう、と。
(誇るべき、素晴らしい能力だ。しかし、彼女はこれだけの特技を持っていながら表に出ることはできなかった。かつての腐敗したガルフィスではそれは不可能……危険だろう)
(何故なら、ヤツ……貴族司祭ペレトルドの悪事は、特別な能力を持つ血筋を持つ者──子供の情報を闇で売買していたのだから──!)
(団長は、この子が胸を張って活躍できるような、相応しい地にするために国を改めようとしていた……)
一方で、彼の中で葛藤する想いが交錯する──
(・・・本来であれば、彼女は巻き込むべきではない。だが、この能力・・・間違いなくこの戦いにおいて無視できないレベルまで到達してしまっている・・・。オルサスの話通りなら、この状況を打開する鍵になりうる能力だ)
(私は・・・団長が守りつづけて来たこの子に、一緒に戦って欲しいと思ってしまっている──!)
「シーネ、そんなことまで出来たのか!」
「舐めないでくださいね!これでも沢山練習したんです。戦う準備はいつでもオッケーです!」
「あのな、こっそりついてきやがって・・・」
「そ、それはすいませんでした」
(シーネ君・・・彼女は既に戦う覚悟が出来ている、ということか・・・。そうだ、彼女はこれまでずっと──)
(ならば、尊重しよう。その意思を)
語り合うシーネとオルサスの様子を見て、カミーノは心を固める。
「──みんな」
「カミーノさん……!」
「どうやら、瘴気はある程度薄まったようだ。そして、奴らは動いている。私たちにも時間がない」
「そうですね、急ぎましょう」
「重要なのは、今のうちに紅の銀の焔をできる限り拡散することだ。これだけでも私たちにとって有利になるのは間違いない……問題はそれを誰がやるかだが」
「それなら、私がやります」
すぐに名乗り出たのはミレイアだった。
「ミレイア……君の体は!」
「お願いします。私なら、襲われることはありません」
その表情には、揺るぎない意思──固い決意が力強く表れている。
(……ヴェスパには、決して襲わず、拐いもしないものがある。その者には、ヤツらは完全に“無視“する)
(1つは、ファルメルクの手紙にあった、“猫“……そしてもう1つ──)
「……流石に君一人、というわけにはいかない」
「私が一緒に向かいます。遠距離で火をつけれますし、隠密道具ならじゃんじゃんあります。見つかった時も、すぐに帰れますよ!仲間と一緒での逃げ足なら任せてください!」
名乗り上げたのは、疾風の刃 フーカであった。
(そうか……彼女になら、ランタンを持ちながら気付かれずに行動することができる。そしていざという時、特定の場所に仲間と即座に帰還するための風の魔法道具の護符。魔法道具の中でも誰にでもできるわけではない、高度な技術が必要になるが、あれを扱える彼女であれば……)
「わかった、二人に任せたよ」
「あとは、残る仲間の位置だが・・・笛吹のファルメルクが鼠で探ってくれているとは思うが、時間がかかるかもしれん……私はここで残りながら、彼とやりとりしながら治療に専念したい。うまく“探せる“といいが」
(う・・・・・・さが・・・・・す?)
「居場所・・・ですか〜」
(あれ、そういえば特定の居場所を見つけてきた人物が、一人いたような……)
フーカがふと考え込む。これまでのそして、閃いた内容を口にした。
「あのわっるいおじさんの端末を奪い取っちゃえばいいんじゃないですか?」
「元貴族司祭ペレトルド・・・あいつが持っていた端末のことか!」
「ペレトルドだと?」
その名を聞き、オルサスは眉をひそめ反応する。
「オルサスは途中から来たんだったな。この町には、あの腐り果てた下賎の輩が来ている。おそらく瘴気の元でも個人を探索できる特殊な端末と、そして携帯可能な遠距離の武器を持ち、ナスタジオを撃った」
「・・・そうか・・・」
(ナスタジオ・・・)
カミーノ、そしてオルサスは、寝台で永き眠りについた彼の方へ目をやる。彼の顔、そして体は純白の布で覆われていた。
「奴がどこへ消えたかはわからないが……ヤツが持っている端末を使えば、この状況でも騎士の居場所を追跡できるかもしれない」
「探し出す必要があるな」
「もし見つけたら、捕らえてやります!」
「人探しか〜」
(さが・・・す・・・)
(この人たちは“探しもの“をしている?)
(私の能力は、他人の探し物、お願いをきかないと自分の探し物もできない・・・)
脳に過剰な負荷がかかり、呆然としていたピクシスに、ようやく意識が結ばれ、気がついた。 朦朧の最中にあったピクシスは自身の唯一にして最大の能力を発揮させるべく、それを口にする。
「なにかお探しですか?私なら、探し出すことができます。どんなものでも──」
(え〜〜っと、お願い・・・私は何を対価にしようとしていたんだっけ?)
そこに最早、深い打算はなかった。
AI非使用




