第5話 最強ボスは謀略の限りを尽くす
「うそでしょ!?と、とりあえず回復を……」
メアリーが持っているHP自動回復(極大)は自分のHPを毎秒最大HPの0.1%を回復してくれるというもの。それだけでは回復が間に合わないのでさらに追加で回復しようとしたところ、プレイヤーから更なる一手がメアリーを追い詰める。
「させねえよ!『生命の呪い』発動!依り代は『吸血女王の飛翔』だ。」
その瞬間メアリーの自動回復が止まってしまった。自動回復は常時発動するタイプのため少しだけ回復したのは不幸中の幸いだが、ここまで体力を削られ、さらに回復手段を封じられたことのないメアリーは今までにないくらい焦っていた。
数秒前の自分をぶん殴りたくなるメアリーだが、今それをするのはただの自殺行為にしかならない。HP少ないといってもぎりぎり1000を超えているくらいで、今のプレイヤーと比較してもまだまだ多いほう、なはずだ。
メアリーは攻撃力が下がっていないことをプラスに考え、相手のスピードに警戒しながら守りではなく攻めの姿勢を貫くことにした。
「装備『屍王女の杖』『屍騎士のペンダント』。スキル『七色の舞い』。」
メアリーがスキルを唱えると、杖は空中に移動し、ランダムな場所に七色の属性弾を放った。この属性弾のせいで速度を上げて攻めることを主軸にしているプレイヤーにとってこの上なくやりづらい状況となった。プレイヤーが攻めあぐねている中、メアリーは被弾することを一切考えず攻めをつづける。
「剣技『血車』。」
「……っく!『超加速』!」
プレイヤーは一度メアリーから距離を取り、弾を避けながら打開策がないか様子をうかがう。メアリーは逆に杖の真上から一歩も動かず、相手の出方を待つ方を選ぶ。
そんな行動に不信感を抱いたプレイヤーは1つの仮説を思い浮かぶ。
「安置か。」
よく見ると杖の周囲10メートル前後には属性弾が一度も落ちていない。回復ポーションを飲んで全回復している今、思ったよりも威力が低い属性弾くらい十分に耐えられるだろう。
「おらおらおらぁ!」
「……っく!『血車』!」
「遅い!決死の一撃。」
激しい攻防の中、プレイヤーのスキルを聞いたメアリーは先ほどの大ダメージを思い出し大きく距離をとった。その隙にプレイヤーはメアリーの思惑通りに安置を奪いに行く。
「うそだよ!ばーか!」
相手の安い挑発にメアリーはにやりと笑い返す。これで、次はメアリーが弾に追われる状況となったと思われたが、メアリーの付近に一向に弾が落ちることはない。
「そういうことか!」
「そんな安い罠にかかるわけないでしょう?ば~か!」
プレイヤーは一瞬にして自分が嵌められたと理解し、その場を避けた。そうしたすぐ後に、属性弾がプレイヤーのいた場所に振り落ちた。
「さすがに当たらないか。残念残念。」
確かに安置は存在する。しかし、それは『屍騎士のペンダント』の周囲が条件であって杖の周りでも、メアリーの周りでもない。そうとも知らないプレイヤーはメアリーの周囲が安置だと確信をもって攻めに行う。
広大な自然のなか、10メートルという狭い空間で激しく戦闘が巻き起こっている。プレイヤーは得意の速度も十分に発揮できない一方、メアリーは狭い空間での戦闘を得意とするため互角に戦うこととなっている。
時間にして数十分。両者は一歩も譲らず激しい攻防を繰り返し行っている。しかし、メアリーは数回失敗して攻撃を受けている一方で、一度も攻撃を受けることなく反撃も行っているプレイヤーは神の所業としか言い表せないものである。
一見プレイヤー有利にことが進んでいるかのように見えるがその実有利なのはメアリーである。まず10発くらい当たっても何ともないメアリーと一発当たっただけでゲームオーバーのプレイヤーで大きな差が生まれている。さらにその差を広げるかのようにメアリーは自由に移動できる反面、メアリーの傍をぴったりと動かなければならないプレイヤーとでは疲労の溜まり具合がまるで違う。
メアリーは相手の速度が目に見えて落ちてきたところで、戦いに1つアクセントを加えた。
「装備解除。」
メアリーはあえて相手に聞こえる声でそう言った。相手が先ほど使った嘘の宣告。しかし、プレイヤーは気にしない様子で攻め続ける。
あまりにも予想通りの行動にメアリーは心の中でほくそ笑む。これが他の対戦ゲームでよくある古典的で今なお実用的な罠であるとしみじみ実感しながら。
メアリーはこの言葉に2つの目的をもって罠を仕掛けている。1つは引っかからなかったが一瞬でも隙を作るため。もう1つは『屍騎士のペンダント』を解除するためである。
そもそも相手はメアリーの周りが安置だと本気で思っている様子だ。これは10分間の攻防の中、何度も距離を開けようとしても私の傍を離れなかったのが証拠となる。
こうしてメアリーの思惑通り進むプレイヤーは迫りくる属性弾にぎりぎりまで気付くことはなかった。
「……!?くっそ!離しやがれ!」
直前で気づき逃げようとするが、メアリーはここぞとばかりに両手をつかみ、プレイヤーが逃げるのを全力で阻止する。
「さあ、一緒にダメージを共有しましょうか挑戦者。これはほんのささやかな私からのプレゼントです。」
メアリーの策略により、プレイヤーは容赦なく降り注ぐ属性弾の雨を真っ向から受け止めることとなった。
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