第3話 最強ボスはチンピラをボコボコにしました
「おいおい、ここは俺たちの縄張りだぜ?ここに無断で入るってこたぁそれなりの覚悟ができてんだろうな!」
大剣を携えている大男が少年2人に向かって声を荒げている。さらに相手が武器を持っていないと気づくと否や1人の少年を殴り飛ばし、もう1人の少年の胸倉をつかんだ。大男のすぐ後ろには仲間らしき人影が3人ほど居り、その誰もが少年の哀れな姿を汚く笑っていた。
「す、すいません!ここがそうだと知らなかったんです!」
許しを請う少年に大男はゆっくりと顔を近づけた。
「頭がたけぇんだよ!謝罪はよぉ、こうするんだよ!」
「ぐふっ!あ……あ……ごめん、なさい。」
「もういいやお前。スキル『強撃』!」
少年は胸倉をつかまれたまま地面に叩き落とされ、そのまま大剣を体に突き立てられ絶命してしまった。痛覚の設定はオフにしているとはいえ目の前で友人が残虐な死を遂げたことにもう一人の少年はショックを受けてしまった。
「う、うわああああああ!」
あまりの恐怖に足がおぼつかない状態になりながら少年は懸命に逃げようとする。
「おいおい、友達が殺されたってのに逃げんのか?だっせえなぁ。おい龍二。せっかくだからあのスキル使ってみろよ。」
「へい!スキル『監獄』。これでもう逃げられないぜお坊っちゃん。」
「すぐに仲間のところに連れてってやるからよお。連絡でもしとくんだな!けひゃひゃひゃひゃ!」
龍二と呼ばれた男がスキルを使用すると半透明の檻が仲間と少年を囲んでいった。
「や、やめてくれ~!」
少年は懸命に逃げようとするが、足がすくんでしまい上手く立つことすらままならない。それでも逃げようとする姿に男は大きく笑い、少年の腹を蹴り飛ばした。
「ぐふっ!」
思い切り吹き飛ばされた少年は見えない壁に激突し、そのまま落下していった。
「さすがっすクーガさん!」
「だろ?よくわかってんじゃねえか。よし、龍一と龍三もこっちにこい!全員で死なねえレベルでボコボコにすんぞぉ。」
「はい!」
「了解っす!」
男たちが近づく前にログアウトの準備を整えようとする少年。しかし、それに気づいた男の1人が素早く少年の元へ掛けると、そのまま少年の手首をつかんだ。
「クーガさん!こいつログアウトで逃げようとしてました!」
「おお、そうだったのか。ナイスだぜ龍一。いやああとちょっとだったな坊っちゃん。ところでログアウトの条件って知ってるか?」
ログアウトができずに焦る少年をよそに大男は淡々と話し続ける。
「プレイヤー同士が接触している場合両者同意の上でないとログアウトできないってやつだよ。じゃあ龍一、お前はログアウトするか?」
「いえ!自分はもっとこのゲームを遊びたいのでログアウトはしません!」
「ふはははは!だ、そうだぞ坊っちゃん。おとなしく俺たちに殴られな!」
少年がもう駄目だと諦めたとき、少年の前に黒のフードを被った人が現れた。
「大の大人が情けない。そんなに相手してほしいなら私が相手してあげるわよ。」
【<ユニークボスエネミー>執行者メアリーが現れました。】
黒のフードを被った人が現れた瞬間、男たちと少年にアナウンスが流れた。しかもそのアナウンスはPFOを遊んでいるものならだれもが知っている最強のユニークボスエネミーである。
「あのガキおとりにして逃げるって言ってんだよ!龍二は檻で足止めしろ!その隙に全員で逃げりゃあいい!」
「わ、わかりました!スキル『監獄』」
自分たちと少年を囲んだ半透明の監獄がメアリーを包み込む。しかし、メアリーは何でもないかのように鎖を操作し、監獄を破壊した。
「嬢王の鎖針。もろすぎてスキルを使うまでもないわね。さあ、覚悟はいいかしら?」
10本の鎖針が男たちを狙って襲い掛かる。
大男以外の下っ端3人は鎖が体を貫通し、そのまま絶命し消えてしまった。
「よくやったお前ら。あばよ執行者!ログアウト!」
仲間の死をこれっぽっちも気にしない大男は、自分だけ生き残ろうとログアウトをしようとするが一向にログアウトすることができない。
不思議に思っている大男に、メアリーはあきれながらもログアウトの仕組みを教えてあげることにした。
「触れるだけでログアウトできなくなるわけないじゃない。ログアウトできない条件は、戦闘中や重要なクエスト受けているときなんかよ。たかが触れるだけでログアウトできなくなるわけないじゃない。」
「く、くそがああああああ!スキル『強……」
「遅い。」
大男がスキルを言い終わる前にメアリーは伸ばしておいた鎖で切り刻んだ。既に、メアリーにとっては声すら出す間もなく即死した大男よりもただ1人生き残っている少年をどうしようか考えるだけであった。
少年は恐怖のあまりか下を向いているためどんな表情をしているかわからない。
「あ……あ……。」
何か言いたげな少年をじっと見つめるメアリー。正直悪質なプレイヤーを討伐するために立ち寄っただけであり、この少年を無視して他のところへ向かいたいと思っている。それに対面している現在こそあまりよろしくない状況なのでサクッと殺して次に行った方が楽なのだ。
メアリーはもとに戻した鎖を再び戻し、少年に狙いをすまそうかとしたとき、少年から思いもよらぬ言葉が飛び出た。
「あ、ありがとうございます執行者様!」
うぇ!?さ、様呼び!?確かにあの子からすれば私はピンチの状況を助けたヒーローみたいなものだけれど、そんなキラキラした眼で見られると……なぜかよくわかんないけれど罪悪感が芽生えてくるわね。
一瞬フリーズしたメアリーに少年は更なる追い打ちをかける。
「僕は執行者様と一緒に仲間として戦いたいです!お願いします!どうか僕を執行者様の仲間にしてください!」
んんんんんんんんん?ま、まあこのゲームならできなくはないだろうけど私そんなやり方知らないよ!?ええっと、どうしよ。なんか言わなくちゃ。し、視線が痛い!
「や、やり方は自分で考えなさい。その時が来たら私の仲間として迎えてあげるわ。」
メアリーはそう言い残してその場を逃げるように飛んで行った。
メアリーが飛んだあと、少年の行方は分からない。ただ、間違いなくPFOのゲーム史に残る出来事の1ページ目はここから始まった。
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