第2話 最強ボスはプレイヤーがいる世界を楽しむ
「よし!今日も張り切りますか~って空気悪っ!」
メアリーがログインした場所は、空気は澄んでいるどころか毒々しい空気でいっぱいになっている呪王龍討伐の跡地のど真ん中だった。
木々は腐り果て、大地は紫色に変色し、川は少量の水を残し枯れ果てている。プレイヤーがいないことは承知だが、ほかのモンスターや動物すら付近に存在しないのは驚きだ。まさしく死の土地へと変化したこの土地は、状態異常耐性を取得している私ですらダメージを食らうほど強力な毒が蔓延っている。
せっかくリリース後のPFOの世界にログインしたのに最初がこんな文字通り最悪の空気の場所なんて。まあここで遊んでたの私せいなんだけどね!
私がこんな場所に籠っていたのはとある理由があったから。それは私が装備している夜王の外套の強化。この装備は推奨レベル168〈ユニークボスモンスター〉夜潜者エラー・ハイドという黒魔術師を討伐した際手に入れたアイテムである。効果は状態異常の無効化。防御力は皆無だが単純で強力な効果で、前回の龍討伐において十分な活躍をしてくれた防具だ。
ユニークボスモンスターを討伐すると、そのユニークボスモンスターを象徴するユニークアイテムを手に入れることができるというシステムとなっている。ちなみに私もユニークボスモンスターである関係上『メアリー』を象徴するユニークアイテムを持っている。
ユニークボスモンスターは希少なうえに討伐難易度がとんでもなく高い。しかし、それに見合った強力な装備をドロップしてくれるのだ。ユニークアイテムすべてに共通しているのは『壊れない』『譲渡不可』『成長できる』ということ。私がこの1年の間に倒した『ユニークモンスター』は全部で7体でありそのどれもがこの3つだけは共通していたので間違いないだろう。
ついでに私の武器『嬢王の鎖針』について少しだけ。推奨レベル50〈ユニークモンスター〉吸血嬢王蜂クイーン・ビーを討伐したとき手に入れたアイテムで、その扱いの難しさに私の心が動かされた結果、自分のユニークアイテムよりも使う頻度が高い装備となっている。この武器は10本の鎖針からなっており、魔力を操作して自由に操ることが出来る。攻撃が当たった際、一定確率で毒、麻痺、混沌の状態にしたり、STR(攻撃力)を基準にして移動速度が上昇し、更に魔力を使用することで別の形態に変化したり、状態異常を確定でかかるようにしたりと使い続けた結果驚きの性能に変化しているのだ。
何が難しいって10本全部を別々の操作をしようとすると脳にとんでもない負荷がかかるってところ。最初のほうなんて1本しかまともに動かせなかったから全部束にして動かすことしかできなかったんだよね。全部自由に動かせる今となっては懐かしい思い出だけど。
こうして手に入れた戦利品たちを見ると、今まで戦った数々の強敵たちが脳裏に浮かび上がる。
初めて戦ったのが大きい蜂で、次に戦ったのがシンプルに気持ち悪いカタツムリ。特に後者はいい思い出がないけど間違いなく心の成長には繋がったと思う。次に戦ったのはロイ・デュラハンとシア・ホーリーという騎士と王女様のペアか。あまりにも二人の関係が尊すぎていつこのアイテムを見ても限界化しそう。次が死ぬほどめんどくさかった夜潜者。三日三晩張り込んで攻撃の度隠れて逃げて回復されてぶち切れたのもいい思い出だ。その次は私の先代ヴァンパイア女王さん。一切の小細工が通用しないし、過去戦ってきたどんなモンスターよりも頭が切れるわで本当に強かった。正直後の呪王龍さんのほうが簡単まであった。
「おっといけない。また物思いにふけるところだった。今日はやりたいことがいっぱいあるし、ここともおさらばかな。『吸血女王の飛翔』。」
私のやりたいこと、それはプレイヤーに会うこと!最初から中盤にかけてはやることが多すぎて一人でいることを気にすることなんてなかったけど、いざリリースまで日読みとなるとSNSとかわちゃわちゃした雰囲気でみんなよりも進んでいるはずなのに取り残された気分になったから。あれほど寂しい気持ちは久々だったな。あれ、思い出したら目から汗が出てきたぞ。
沈んだ気分を入れ替えてメアリーは吸血女王の飛翔を使って空高くまで飛んだ。目指すは四方を塀で囲まれた大きな城がそびえ立っている街、の付近の森だ。
残念ながらモンスター扱いの私は特別な事情がない限りあそこのような街には入ることが出来ない。それは運営からの説明にもあってちゃんと了承もしているので、今回は初心者が最初に向かいそうなポイントを回って他のプレイヤーたちの楽しそうな表情を楽しむことにする。
呪王龍討伐の跡地を抜けて少しすると、さっそく戦っている音が聞こえた。早いなと思いつつ、折角なのでばれないように近づいてみると5人組のプレイヤーが協力し合ってモンスターを倒していた。
あそこまで楽しげに遊んでいるプレイヤーを倒せようか。いや倒せない!
私は五人組のプレイヤーを置いて、ほっこりとした笑顔のまま次なる目的地へと向かう。
ゆっくり飛んでいると今度は一人で遊んでいるプレイヤーを発見した。このプレイヤーもモンスターと戦っており、こちらに気付く様子がなかったので再び近づくことにした。
「うおおおおおおお!」
おお、倒した。おめでとう!じゃあ次は私だね。いやまあ冗談だけど。
男は掛け声とともに剣を振り下ろし見事モンスターを討伐することに成功した。陰ながら応援していたメアリーは心の中でおめでとうと拍手を送った後、次の目的地に向かう。
次の地点へ空を飛んでいると崖の傍の見えずらいところで何やら揉めているのを発見した。プレイヤーの一人を注視すると私のスキルの1つである『執行者の責務』が反応した。
執行者の責務とは目視した相手のカルマ値を測定し一定以上ならば悪と定め、粛清を行うことができる。さらにカルマ値が溜まっていると対象の場所を教えられ、責務を果たさなければひどいペナルティーが与えられるのだ。
まだリリースして間もないということもあって場所が通知されるほど高いカルマ値を持っているプレイヤーはいないが、こういう陰湿ないやがらせを止めるのも私の役割の1つだろう。
「よ~し、メアリーちゃんの初出勤頑張るぞ~!」
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