プロローグ2 最強ボスの代わりに最強ボスが出現しました。
『プラス・フィクション・オンライン』、通称PFOのリリースまで1か月となったころ。とある動画配信サービスに1つの動画がアップロードされた。投稿主はプラス・フィクション・オンライン、つまり公式がアップロードした動画になる。これまで数多のプロモーションビデオを公開しており、チャンネル登録者数も500万人を超えるなど、他のゲーム会社の広告とは比べられないほど人気を誇っている。
投稿された動画のタイトルは『ユニークボス襲来』とだけ書いてあり、これまでの世界観の紹介や戦闘システムの動画とは一線を画す内容で、特にガチ勢、廃人と揶揄される者たちにとって心の踊る内容であった。
動画が始まるとすぐに巨大なドラゴンが現れた。テロップには推奨レベル216<ユニークボスモンスター>呪王龍カース・アポカリプス・ドラゴンと書かれており、腐り爛れた翼を大きく広げ、口からブレスを吐くとすぐ前の山々は腐食し、溶けていった。
あまりの迫力のある龍という存在。さらに初めて明かされる『ユニークボス』という特別なモンスター。これまでと大きく違うPVにこれを観ている多くの視聴者は息をのんだことだろう。プレイヤーが見守る中、龍は目の前にいる小さな存在に対し大きく咆えた。
そこで視点は変わり、龍と比べ遥かに小さい少女が映し出された。全身を覆うほど大きな黒い外套に、背中に生えている翼。手の代わりにいくつもの鎖が伸びており、先には大きな針のようなものがついている。テロップには推奨レベル???<???>メアリーと書かれており、先ほどと変わって可愛らしい姿に思わず目を奪われたプレイヤーも多いだろう。
時間にして僅か5秒。少女と龍が見つめ合った後、龍は少女を狙ってブレスをはいた。少女はブレスを避け、まるで生きているかのように鎖を動かし龍の頸、逆鱗を狙った。
大きい体に沿わず軽やかに避けた龍は大きな爪を振り下ろす。避けるだけでも一苦労する一撃だが、少女は呼吸をするようによけ、さらに鎖を伸ばし一進一退の攻防を繰り返す。
一切目を離すことのできない戦いに吞んだ息を吐くことも忘れ視聴者たちは画面を見守っている。
戦況が動いたのはそれから数分経った頃だった。少女の体に鋭く伸びた龍のしっぽが降りかかる。間一髪のところで避けた少女だったが、龍はその一瞬を待っていたかのように今までとは違い広範囲にブレスをはいた。
少女は避けることができずブレスに包まれる。
視点は少女を追っていたため画面全体にブレスが広がった。モロにブレスを食らい、少女の負けで戦いが終わったと思った視聴者たちは龍の恐ろしさを十分に感じ取った。
しばらく真っ黒の状態の画面だったが、横一線に白い線が凪ぎ、ついで2本、3本と白い線が増えていった。
「血刀『紅下黒』。」
可愛らしい声が響いたと思うとブレスの霧は晴れていった。光を取り戻した画面には全くダメージを受けた様子のない少女がそこにいた。あまりの一瞬の出来事に混乱したプレイヤーたちだったが、テロップが変更され推奨レベル327<ユニークボスエネミー>執行者メアリーと書かれた。
粋な演出に感動するとともに少女が龍よりも圧倒的に高いレベルなことに視聴者たちは驚いた。
再び向き合った少女と龍は一瞬の膠着ののち、龍が無差別に光線を乱射することから始まった。
無数ともいえる光線をいとも簡単にかわす少女。避けきれないと判断した光線は斬り捨て、着実に龍の傍へ近づいてくる。
龍は近づいてくる少女をどうにかしようと、光線に加えブレスも吐いてきた。少女は刀を構え、目にもとまらぬ速さでブレスを斬ると、素早く龍の頸へ向かい1つだけ逆さの鱗ごと龍の頸を切り捨てた。
あまりに一瞬の出来事に、驚くことすらワンテンポ遅れる視聴者だらけであった。動画は10分ほどのものだったがあまりにも多い情報量や、メアリーという謎の少女など動画は瞬く間に拡散され世界のトレンドを数日独占するほどであった。
動画のコメントには「何が起こったのかわからない。」「長いようで短い10分だった。」「メアリーちゃんかわいい!踏んで!」など日本語が多い一方で、「WTF!!!???」「Amazing!!!!!!」など海外圏でも多くの反響があった。
PFOはリリースまで残り1週間となっているが、この動画が多くの人たちに広まったおかげかVRゲーム機は品薄状態になり、すでに社会現象を引き起こすほどの大ブームを起こしている。その熱は弱まるどころか増していき、ついにリリース当日を迎えた。
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