ヨウカイノミコ
「ささ、どうぞどうぞ」
巫女に促され、社務所のほうへと上がる二人。建物の中は至って普通だった。
「こちらへどうぞ。少々散らかっていますけど、まぁおくつろぎくださいな」
そういうと巫女は、廊下のさらに奥のほうへと歩いて行った。
二人が案内された和室は、二十帖ほどで、かなり広々している。が、しかし・・・
「これは・・・少々散らかってるっていうレベルじゃねーぞ・・・・・・?」
そこらじゅうに散らばっている衣類や小説、漫画の類を見て、吾一はそう言った。中には一昨日発売されたばかりの漫画の最新刊もある。
「キレイな人なのに、片付けできないのか・・・・・」
「そうみたいですね・・・。ちょっと残念です」
吾一も燐も同意見なようだ。
「ほんとに巫女なのか?あの娘は」
「さぁ・・・。多分、そうだとは思うんですけどねぇ・・・」
そんあ話をしているうちに、巫女がお茶とお菓子を乗せたお盆を持って戻ってきた。
「お待たせしました。疲れたでしょう、お茶とお菓子をどうぞ」
巫女はそういうとニコッと笑い、お盆をちゃぶ台らしきものの上に置いた。
「あ、こりゃどうもすみませんね」
燐はそう言ってちゃぶ台の近くに移動する。吾一もそれに続いた。
「さてさて、ではとりあえず、奉納品をいただきましょうか~」
手をパンとたたき、巫女がそう言う。
「奉納品か・・・。えっと、これ、どうぞ」
指定された品が入っている袋を巫女に渡す燐。巫女は満足そうに微笑むと、奉納品・・・?を傍らに置いた。
「確かに頂戴しました。で、今日はどうなさいました?」
赤く光る眼を吾一へと向ける、巫女。
「いや、大した用はないんですけど・・・・・・。あ、そうだ、妖界の巫女さんは人間だって話、本当ですか?」
「私ですか?ええ、人間ですけど・・・」
「そうなんですか・・・。じゃあ、その赤く光る眼は・・・?」
「これですか?これは私にもよくわかりません・・・。でもまあ、特に不自由は感じないしいいかな~って感じですかね」
「しかし、アレですね、人間の割には妖怪臭いですね、巫女さん」
燐も話に入ってきた。
「そうですか・・・?まあ、妖界で暮らしてるわけですから、だんだん妖怪化していってるのかもしれないですね」
「妖怪化?」
吾一の表情が曇った。
「はい。いくら人間といえど、長い間妖界で生活していれば、自然と妖怪のようになってしまうというもの、らしいです」
落ち着いた様子で巫女がそう答えた。
「ま、でも私は自分が人間だろうが妖怪だろうがどうでもいいんですけどね」
そう言って部屋をゆっくり見渡す巫女。
「私には、ゲームと漫画があればほかには何も・・・」
「巫女さん、結構なクズ野郎なんですね」
吾一、失礼なことを言うな。
「そうですね。そうおっしゃると思ってましたよ」
巫女は特に怒るようなそぶりも見せず、にっこりと笑った。
三人はしばらくの間、雑談を楽しんでいた。いつの間にか、吾一の腕時計は午前三時を回っていた。
「・・・そういえば、妖界の時間と外の時間ってどうなってるんだ?」
隣にいる燐にそう聞く吾一。
「時間ですか?時刻は違いますが、時間の流れる速さは同じなので、妖界で一時間が経てば外、つまり人間界でも一時間経ちますね」
「ってことは、もう午前三時って訳か。そろそろお暇しようかな・・・?」
吾一はそう言うと巫女の顔を見た。
「そろそろお帰りですか?でしたらその前に、少々お告げを差し上げましょう」
巫女はそう言うと、二人を本殿の方へと案内した。
さっきまでいた部屋から二分ほど歩くと、大きな畳の間に到着した。部屋の真ん中あたりで、襖で仕切られている。
「では、お一人ずつ・・・。まずは燐さんからどうぞ。ささ、こちらへ」
巫女はそういうと燐を襖の向こうへと案内した。そのあとに続き、巫女も向こうの間へ移動する。
「いいですか吾一さん、絶対に覗いちゃダメだから、ね!」
そう言って襖が閉められる。吾一は何かグッとくるものを感じていた。
それからどれほど経っただろうか・・・。一瞬のような気もするし、無限に時が経ったような気もする。しかし時計を見ればまだ十分しか経っていないのが分かった。
襖が開いて、燐が出てきた。
「おう、どうだった?」
「ヒミツですよ~」
吾一の問いかけにしれっとそう返す燐。まあお告げは人にやすやすと知らせるようなものでもないな。
「次の方どうぞ~」
開いた襖の向こうから、正座している巫女がそう呼びかけた。
「うわぁ・・・病院を思い出すな」
そういうと吾一は、襖の向こう側へと足を踏み出すのだった。
巫女のいる部屋に一歩入った途端、後ろの襖がゆっくりと閉まっていった。襖が閉まった途端、無音。赤く光る二つの目が、吾一をじっと見つめている。巫女の表情は穏やかではあるが、吾一にとっては緊張感を与えるものだった。
巫女の前、二メートルほど離れた座布団の上に、足を正して座る。
「あ、楽にしていいですよ」
巫女はそう口を開いた。
「吾一さんには、特にこれといっていう事はないのですが・・・。ただちょっとお伝えしておきたいことがあります」
巫女の顔が真剣みを増した。
「それは燐さんについてのことです。今は特に異常は見られませんが、あなたはもうじき彼女の行動に違和感を覚えるでしょう。そうしたら、私のところへもう一度来てください。あっ、その時の奉納品は不要です」
「・・・・・・なぜ、そんなことが?」
イマイチ、巫女の言葉が信用できない吾一。
「フフフッ。信用してませんね、その顔は」
「すみません・・・」
「いいんですよ。信じられないのも無理はありませんから。実は私、未来が分かるんです」
「えっ・・・?」
「と言っても、不確定な未来ですけど。必ず起こることも、もしかしたら起こらないことも見えるんです」
「なんと・・・・・」
「ですから吾一さん、今、私が予知している最悪の未来を回避するためにも、私の言ったことをしっかりと覚えておいてくださいね・・・?」
巫女はそう言って立ち上がると、懐からお守りを一つ取り出し、吾一に握らせた。
「これは私がお呪いを込めて作ったお守り。あなたを悪いものからきっと守ってくれるはずです。これは肌身離さず持っていてください。シャワーとかで濡らしても大丈夫ですから」
吾一は黙ってお守りに視線を落とした。ごく普通のお守りだ。が、神社の刺繍は入っていない。
「さ、これでお告げはお終いです。出ましょうかね。ほらほら」
巫女に背中を押されながら、お告げの間から退散する吾一。頭が混乱しているが、じきに整理もつくだろう。
襖の外では燐が正座で待っていた。
「あ、吾一さん。結構長かったですね。どんなお話してたんですか?」
燐がそう聞いてくる。
「えーっと・・・」
アレ・・・?いったい何の話をしたんだっけ・・・?全く思い出せないぞ?どうしたんだ一体・・・。と、頭の中に、巫女の声が聞こえた。吾一はその声に従う。
「・・・・・んと、何を話したか、だったな。それは俺と巫女とのヒミツさ」
境内に出た三人。外は相変わらず気持ち悪い景色が広がっている。
「じゃ、今日はどうもありがとうございました」
深々と頭を下げる燐。吾一もそれを見習う。
「いえいえ、こちらこそ楽しかったです。機会があれば、またいらっしゃってくださいね」
巫女はそういって愛嬌のある笑顔を見せる。依然として目は赤く光ったままだが。
「あ、そうだ」
いざ、鳥居をくぐろうとしたとき、吾一が突然振り向いた。
「巫女さん、名前は何と言うんですか?」
「名前、ですか・・・?」
巫女の表情に一瞬戸惑いが見えた。が、すぐに元の表情に戻り
「さあ。昔はありましたけど、今はもう忘れちゃいました。私はただの『妖界の巫女』ですよ」
巫女はそう言って、笑顔で二人に手を振った。




