書見台2 ~彫刻~
なんかいい感じの模様を、木材に彫ったり刻んだりしたい……! (挨拶)
そんなわけで本日のメインは「彫刻」となっています。
まず前置きしておくと、楽しいですよ。
すっごくすっごく、楽しい。
ええ、本当に。
嘘偽りなく。
……死ぬほど楽しいですよ。
公正を期すなら、ここが「今回の製作記を通して二番目にしんどかった部分」だと言うべきですね。
(※一番目と三番目は、本文の追加エイジングとアイロン)
……でも、"古書"の、表紙のへびさんを装丁したり、最後にコーヒーメディウムで全体を馴染ませて、古びさせていく作業と同じぐらい楽しかった……とも、言い添えておきます。
・やすりがけ。
一部、次の「彫刻」と前後しますが、全体にやすりがけ。
全体と言いましたが、最終的に『内側』になる部分は必要ありません。
使っているのは百均の紙やすりです。
240番
↓
400番
↓
800番
↓
1200番
↓
2000番
……という、一般的な順番。
(※紙やすりは、番号の数字が小さいほど目が粗く、大きいほど細かいです)
小型の板やすりで割れた角など、目立つ箇所は削ります。
今回の素材がほぼ廃材という事で、普段あまり使わない240番が大活躍。
……ボロボロですもの。
製材された板だと400番から……いっそ800番からでもいいかもと思う。
2000番は、最後にかるーく……。
実際に必要と言うより、これでやすりがけは終わり、という儀式めいた手順ですね。
紙やすりで表面がなめらかになった板を指先で撫でる時の、すべらかな感触が好きなんですよね……。
・彫刻
木工スキルがなくても彫刻がしたい時だってある。
そんなわけで、彫刻刀を握ります。
まずは、どんな模様を彫りたいかを決めます。
……なんか格好良くて、複雑で、でも彫りやすくて、いい感じのがいいなー、と漠然としているくせに理想だけは高い、とことん都合のいい事を思う。
色々考えて、見て……最終的にこんな感じ。
連なった円に規則性を見出そうとして、何の規則性も見出せず、けれどその不規則さこそが美しいのだと。
なんとなく、そう思えるような仕上がり。
作者の欲目はあれど、良い出来だと思う。
この模様を描くのは、一見とても面倒そうに見えますが、実はそうでもありません。
……これが何かと言うと、限界寸前まで使ったマスキングテープなのですが、これをガイドにして、鉛筆で円(同心円)を描く。
後は、それを心の赴くままに連結していくだけです。
参考にした、木工における彫刻技法を紹介していたとあるサイトでは、大事なのは「木のクセを読む」事だと書いておりました。
「素材の声を聞く」とは、料理から裁縫にDIYまで、よく言われる事の一つ。
私は、そういうの割と得意。
木材の声に耳をすませば、ほら……。
「私、彫刻に向いてないよ?」って言ってくれます。
……耐久性が限界まで落ちているのか、そもそも木材としての質が悪いのか……あるいはその両方か。
この彫り心地は、正直あかんやつ。
――テストは大事です。今回は、板を切り出した残りで試し彫り。
やりたい事ができるかどうかを判断する、大事な行程です。
試し彫りでこれはダメなんじゃないかとも思いつつ。
丁寧にやればカバーできる範囲だとも……思う。……多分。
多分、テストが大事だと言いつつ、テストの結果から目をそらしてるのが悪い。
「やりたいこと」と「できること」は違う。常識です。
……でも、「やりたいこと」の替えは利かないのです。
……普通は、予算の追加で「できること」を増やす事で対応します。
そうして下さい。
頼むから。
本当に。
とりあえず、砥石で彫刻刀を研ぎ直してみる。
……丸刀の研ぎがいまいちだと思いつつ、とりあえずメインで使う切り出し刀と平刀に関しては、「刃」が戻った感じがします。
なんか、使っていなくても、時間が経つと切れ味が鈍るという話です。
……彫刻刀って、使ってないと機嫌を損ねるらしい。
手順はこんな感じ。
1、目打ちで穴を開け、その穴を繋ぐように切り込み刀で切り込みを入れる。
2、平刀でライン際を彫っていく。
3、平刀・丸刀でライン際から中央に向けて彫り込んでいく。
4、平刀で大きく、平たく彫っていく。
5、平刀で表面を平らに。
※1、目打ちで穴を開け、その穴を繋ぐように切り込み刀で切り込みを入れる。
※2、平刀でライン際を彫っていく。
1→2。
最初に深めに彫れていると楽なのですが、2の過程で深さが足りない所は、また切り込みを入れます。
ラインをくっきりさせるようなイメージで。
※3、平刀・丸刀でライン際から中央に向けて彫り込んでいく。
※4、平刀で大きく、平たく彫っていく。
3→4。
最初はとりあえず、表面を削いで(剥いで?)いく事に集中した方がいいですね。
ラインをなるべくガタガタさせないように、ライン際から内へ向けて彫って(掘って?)いきます。
……小さいとかなり大変。平刀を使えない事もよくあります。
※5、平刀で表面を平らに。
平刀で表面を整えて完成! (後でまとめて紙やすりをかけます)
……っていうのが理想なのですが、心の赴くままにデザインしたので、彫刻刀が入らないほど模様が細かい所もある。
そういう所は仕方ないので、目打ちとかで『砕く』。
……彫刻?
・補修
……私の作業精度と、この道具、この素材。
三拍子揃って、事故が起きないわけがありませんね。
パキッ!
……っていう音が心臓に悪かったのは初めの頃だけ。
途中からもう、淡々と処理する。
画像上みたいに逝ったのを……。
こう、画像下のように、目打ちの先にボンドをつけて、ちょいちょいと。
この後、布ではみでた分をぬぐいます。
今回は、古書に合わせての『アンティーク風』という事で、ある程度のダメージは諦めるのがよろしいかと思います。
アンティークの定義は百年以上前の品物。
状態がいいものもありますが、もちろんそうでないものもある。
長年の間に、傷んだり、破損した箇所があってもおかしくない。
そう言い張れるのは、実はとてもありがたい事。
……多種多様な年月の重みによるダメージを、リアルタイムで再現中です。
・彫刻2
よし、ありえないミスの塊を処理する時が来た。
まず、定規と鉛筆で引いたラインに沿ってカッターで切り込みを入れて、ライン際を平刀で彫っていきます。
次に、中央を大きく抉っていくのですが。
……つらい。
何かがつらい……。
力が要る。
パワーが。全てをねじ伏せられるだけの力が……。
悲しい過去を背負ったラスボスの若き日のような事を思いつつ、しばし考える。
……今の手法でも「できるか」、「できないか」という二択なら、間違いなく「できる」。
ただ、……側面板の彫刻で、心というか、指が折れかけている。
休憩を多めに取らないと完成しない。
正直、休憩とかしたくない。というか、早く組みたい。完成したのが見たい。
……つまり、休憩なしで木を大きく抉る方法を考えろ……と。
一瞬「焼くか」と思ったのですが、さすがにそれはちょっとどうかとも思った。
(※焼いて削るのは本当にある手法です。木製の器の中央をくりぬく時とか)
このシチュエーションにどんな電動工具が適切かも分からない木工初心者だけど、電動工具が欲しいなー、としばし現実逃避する。
何が必要かどころか、何が欲しいかも分からないんですよね、初心者って……。
……最新鋭のテクノロジーは頼れない。
ならば多分、前に進むのではなく、さかのぼるべき。
よし、ゴムハンマー持ってこい。
ノミやタガネと、槌は、古代からの友達。
彫刻刀でやるにはグレーだけど……やってやれない事はない、はず。
板に、平刀を斜めに当て、ゴムハンマーで彫刻刀の柄の尻をそっと叩く。
コン。
コン、コ、コン。
……よし。いける。
同じような動きなのに、はるかに指に優しい。
正直、私にできるだろうか……と思っていたのですが、なんというか、思った以上に手に馴染む。
新しい技術を試した時、全然上手くいかない時と、これはいける、と思う時があって、今回はいける方。
むしろ使い方を思い出しているような自然さ。
でも、ハンマーでノミ(彫刻刀)を叩いた経験はない……はず。
あ、化石掘り……?
覚えたてで、手探りの技術が、自分の手に馴染んでいくのが好きです。
最初は、ただ叩いているだけだったのが、段々と理解し始める。
刃の角度。叩く強さ。そして、板がどういう反応をするか。
板の目が分かるようになってくる。どこまで割れるかを、刃の角度と叩く強さでコントロールできるようになる。
上手くすると、これぐらい一気にはぎ取れます。
圧倒的な効率化。
ゴムハンマー使うのを思いついて良かった。
ちなみに怪我をしやすいのもこの、自分で上手くなってきたなと思うあたり。
変な万能感あるんですよね。
でも、99%過信ですので、油断は禁物です。
……そろそろランクアップをギルドに申請しようかという頃の初心者冒険者が、普段そこにいない魔物に狩られる光景が頭によぎる。
『刃の前に手を置かない』を徹底して、怪我防止に努めましょう。
エラーやミスはいっそ笑えてきますが、怪我は笑えません。
最後は平刀を手で使う方式に戻し、5mmの深さになるよう掘っていきます。
とりあえず第一段階完成。
……第一段階ですよ。
この後、平刀で斜めに彫っていきます。
……としか言えないんですよね。
残った一カ所も斜めに彫って、完成!
とりあえずなんとかなった!
……片側が。
……リアルでも反転コピーしたい。
と思いつつ、もう片側も同様に彫ります。
文章だと一行なんですけども。
・延長戦
……面を彫るだけだと寂しいなって。
そんな事を思いまして。
また、細かい模様を彫ったり刻んだりしたい……!
ほんの数枚、板を彫っただけで、言いぐさが木工ジャンキーのそれですね。
指が痛くなるのと、時間が溶ける以外はすごく好みの作業。
……それは致命的なんじゃ? という気もしつつ、もう少しここにいたい。
良く言えば、指が痛くなるとか時間が掛かるとかどうでもいい楽しさ。
悪く言えば……いえ、言わぬが花ですね。
よし、延長戦だ。
……新しい模様を考えるのはまた今度にして、今回は統一感を重視する事に。
でも少しだけ変えて、ランダムではなく規則性を持たせる……よし、見たい。
切り抜いた厚紙をガイド代わりに、模様を鉛筆で描いていきます。
途中でガイドは二回切断され、描きやすくされます。
青い色鉛筆でライン取り。
これを、彫る……?
理性は、「やめとけ」って、言うんですけど。
理性は、いつも正しい事を言うんですけど。
でも、理性はいつも頑張ってるから、こんな時ぐらいお休みをあげてもいい気がするんですよねえ……!
そんなわけで、理性を旅に送り出した後、彫っていきます。
とは言え、最低限の理性は残っているので、今回はラインのみ。
今度の木は、節があって割れがあって表面がボロボロで、中は思ったよりひどくないけど、割れはかなり深い所まで到達していて、深く彫ったら中にダメになってる所もあって(幸運な事にえぐり取れる範囲で)……と、個性的な板なので。
単純に違う事をしたいというのもある。
インクの切れたボールペンでラインを彫り、ネイルの道具で深くします。
たまに筋っぽくて固い部分があるので、そういう所はちょっとだけ切り出し刀で切ったり。
……なるべく指に優しい方法を選んだつもりなのに、やっぱり指は痛くなる……。
・仮組み2
パーツを揃えたら、組み立て前にもう一度、仮組みです。
今回は、「削り」も兼ねる。
後ろの板(延長戦で彫ったやつ)が、はみ出していて(写真左上)、少し天板に当たるので、削ってやる必要があります。
でも、どれだけ削ればいいかは机上の計算に任せるのは不安だったので、現物合わせで。
とりあえず、天板を載せてみる。
側面に彫刻が施されると、ぐっと引き締まる気がします。
後ろから。
苦労した甲斐があったと思える苦労は、良いものです。
この後、天板を外したり、また載せたりして様子を見ながら、背面板をしゃこしゃことカッターとナイフとゴムハンマーと彫刻刀(平刀)と紙やすり(&かまぼこ板)で削って、高さを合わせていく。
・途中の振り返り
書見台の製作で大変だったのは、ノコギリもですが、やはり彫刻でしょうか……。
……死ぬほど楽しいですよ。本当ですよ。
彫っていると、思わず笑顔になるし、多分アドレナリンだかエンドルフィンだか出てました。
ずっとやっていたいぐらいです。
自分の手が木に紋様を刻んでいくだけの事が、どうしようもなく楽しい。
延々と続く、終わりの見えない作業が、どうしてだか幸せに感じる。
ただ、作業が終わった後、死ぬほどしんどいだけで……。
……このアドレナリン(仮)、興奮状態と言うより、体力が危険域に達した時に出るやつでは……?
笑顔も、変な笑いと言うやつでは……?
――それはそれとして。
ここまでくれば後少し、です。
ところで、「百里を行く者は九十里を半ばとせよ」って言葉が頭に浮かぶんですよ。
どうしてでしょうね。
次回は「書見台3 ~組み立て~」です。




