書見台1 ~計測・カット・仮組み~
書見台って、いいですよね。(挨拶)
中世ヨーロッパの僧院とか図書館にありそうな、斜めに本を置いて読める台が、書見台/Lecternです。
英語読みでレクターン。成り立ちや来歴、文化など色々あるのでしょうが、まあ漢字の通り、書を見るための台です。
現代ではスマホスタンドやタブレットスタンドも流れを汲んでいる気がする。
もちろん、古書や魔導書に最高に似合うブツですよ。
そんなわけで、書見台を自作します。
・素材の選定
ものづくりに関して、よければ一つだけ覚えておいて欲しい原則は、
「デザインは素材に左右される」
というもの。
素材の特性やサイズ・価格によってデザインは、ある程度絞られます。
逆に作りたいデザインを実現可能な素材も、ある程度絞られます。
一番重視するのは、価格かな……。
予算無制限なら、大抵のものが作れるような気がします。
……私の場合、予算の制限はいっそ悲しく思えるほどなのですが、精一杯ポジティブに考えれば――
「それは創造の際の制約ではなく、適切な答えを得るために必要な膨大な取捨選択プロセスを省いてくれる、重要なフィルターである」
……という所でしょうか。
「お金がなくて素材や技法に制限がある」とも言います。
さて、今回は「書見台」という事で、材料は木材と釘、それにニス。
少しだけ固定にグルーと、木工用ボンドを使用しています。
費用の内訳はこう。
・書見台、費用
木材(計上なし)
真鍮の釘、約2円×17 =34円
ニス、110円×1 =110円
グルー、5.5円×7 =38円(端数切り捨て)
木工用ボンド(計上なし)
合計=182円
ちなみにニスは、個人的な慣習で、使用量ではなく「そのために購入した金額」ベース。例えば半分残っていても、50円と計算はしません。
そして、次回に少量使う時、(計上なし)になったりします。
グルースティックは費用に計上しない事も多いのですが、今回は、本数がだいたい分かったので計上しています。
ボンドのような接着剤、塗料なども、高額な品ではなく、かつ、一回の使用量がそれほど多くない場合は計上しません。
人件費も計上していません。
……時給を計算して、費用に計上したら、この愛らしい費用は途端におぞましいものになると思います。
数字で見るのが怖いのと、そんな無駄な時間を使う余裕がないので、作業時間は、きっとこれからもずっと闇に葬られる。
小説もそうですね。
……なお、この費用の合計額を愛らしい物にしているのは、主に木材部分です。
メインの構造体である木材が(計上なし)なのはミスではありません。
なんで、木材を計算に入れていないかと言うと。
……拾ったから……でしょうか……。
うん、拾いました。
河原で拾った木の板。
かわらでひろったきのいた。
……ホームセンターの木材コーナーとか、いいですよね。
最近はカットサービスも充実してますし。
購入者に開放されている作業スペースなんかがあったりして。
そこにいる人は、楽しそうで。
……あっちは華やかでいいですね。DIYの記事が、え、その台にその予算掛ける? という値段を平然と出してくるの憧れですね。
物を作る事の理由が、『安くあげるため』ではなく『ものづくりを楽しむため』である幸福。
きっちり出された数字の美しさ。
図面があれば、その通りに作れるという、道具と技術への信頼。
――『規格化された材料』という贅沢。
……ワンカット50円ぐらいで、寸法通りにカットしてくれるサービスが、ある記事ではリーズナブルで手軽なサービスとして紹介され、ある製作記では高嶺の花で憧れなサービスとして紹介される……そういうものです。
うちの場合、材料がアレすぎる。
古材と言えば聞こえはいいのですが、ほぼ廃材。
……というかゴミを通り越して漂着物の域。顎が取れたウバザメか。
野外での入手品なので、丁寧に下処理をします。
入手場所が河口流域で、かなり長い時間塩水に浸かっていたと思われるので、とりあえず水で洗いましょう。
そして、雨風に当て、太陽の光に当て、最後は日陰で乾かします。
拾ったのは夏だったので、三ヶ月ほど……でしょうか。
なお、正確に言うなら「天日で乾かしてたら雨に降られた」です。
洗って乾かすだけでいいですよ。
一応、こういう素材の乾燥期間を、長めに取りたいのは本当です。
ちなみに室内に取り込んでからも放置してました。
乾燥してから、計測に入ります。
・計測
まず、板の枚数を数えるところから。
……そこから? と思われるかもしれませんが、目についた『なんかいい板』を拾ってきて、適当に数ヶ月乾燥させたりしてると、記憶が曖昧で仕方ありません。
次に、板の幅・長さ・厚みを計測する。
今回はとんでもなくボロいので、ひどい傷やひびわれ、節、釘など、作業中の「割れ」に繋がりそうな要素だけは簡単にスケッチして記録していく。
古材特有の「古び」が欲しいというのもありますので、ある程度は割り切る。
ちなみに古材は意外と高かったりします。
……うちのよりは衛生に気を遣われてまともな管理をされているでしょうから当然ですね。
※メモ。1枚を抜粋して紹介。
とても地味な作業ですが、設計にはデータが必要です。
ちなみに左上の「×0.2」は縮尺。5倍すると原寸になるという事です。
右下の「A」は「ATUMI」(厚み)のAです。
・設計
板を組み合わせて行く……脳内で。
一番大きいのを天板にして、たまたま厚みが同じ2枚の板を左右に配置……。
こんな風にしたいなあ、と思ったのです。
(※これは設計用ラフではなく、脳内の再現画像です)
計測した数字を元に、実際に組めそうか考えてみる。
その結果、明らかに板が足りない。
箱形を諦めようかなと思いつつ……この素材でそんな『贅沢』は出来ない。
箱という構造は、それだけで一定の強度を確保してくれます。
正確な重量は(この時点では)分からねど、支えるべきは、かなり分厚い大判本。
強度の確保は至上命題です。
素材に替えはない。補充もない。
つまり、今ある材料だけで箱を作り、天板を支える必要がある。
この条件から導き出される結論は。
……小型化しか、ない。
だいたいこんな感じ。
赤い矢印の所で、板が減っています。
拾ってきた板から「まともな板」を取れる限界を探りつつ、箱を小型にして、その上に天板を載せる。
「天板」用の大きい板は、縮めずに組み込んだ設計です。
……一番目立つ板なのに、合板かつ端がボロボロなので、縮めようとしたら壊れる気がしたというのもあります。
・3Dテスト
本当に組めるのかな? と気になったので3Dで組んでみました。
使用ソフトは「Blender」。
初心者の味方だけど初心者泣かせ。
折に触れて何度も挑戦し、挫折し、技術的にはまだ初心者。
何が分からないかも分からない所からは抜け出したのですが、ほとんど何も分からないという事が分かるようになっただけなのつらい。
でも、今回は簡単な形ですし……。
初心者らしく、パラメーターをぽちぽちと手打ちし、座標を合わせて組んでみる……。
マテリアル・テクスチャや、ライティングにレンダリングなど、3Dは沼が深すぎるので、浅瀬で溺れつつ妥協します。
設計の数字は満足。
形状にサイズなど、イメージ通りです。
なお、『この』材料を本当にデータ通り切り出せるかは定かではありません。
……自分が立てた予定通りにものづくりが進んだ事なんてまずないんですけど、それでも、こんな風に予定を立てて物事を進めたくなるのです。
そういう人こそ、規格化された材料を買うべきなのでは? と思う事もあります。
・ありえないミス
まず、カットの下準備としてシャーペンとえんぴつでラインを描いていきます。
定規を色々使って、数字を測ってチェックしながら……。
……ん?
理解不能な事象にぶち当たり、思考が止まる。
板の長さが、メモより、10cm短い。
ゆっくりと現実を認識し、噛み砕いていく。
……うん。メモに50cmと書いてある部分が40cm、49cmと書いてある部分が39cmしかない。
10cmずつ……短い……だと……?
ここは絶対に長さが「42cm」必要なのに。
……これはひどい。
ありえないミスを見つけた瞬間は心がきしりと軋む。
……数字には、余裕を持たせて設計してあったんですよ。
端とかボロボロですからね。
そこは切って、まともな所だけを抜き出したり……そういうのも加味した設計だったんですよ。
でも、そもそも、数字がまったく足りてない場合はどうしろと。
……再設計を迫られている。
デザインごとやり直すか、「どこかから」資材を調達するか。
脳内で、プランを立案し、手順をざっと検証し、ゴーサインを出す。
決定:延長用パーツをでっち上げる。
手間は増えるけれど、資材に限りがあるのだから仕方ない。
単純に、端に板を足す事に。
パーツは増えるし、多分見栄えも悪くなるけれど、そこはどうにかする。
材料は、この板の隅から取る。
あまり見えない部分とは言え、見栄えをなるべく悪くしないように頑張る事に。
ただ、増えた手間と、落ちた強度に、少しだけ泣きたい。
・カット
ライン引きして……。
金属定規を当てたラインに沿ってノコギリをひいて……。
「まともな板(古材)」を手に入れる。
おおむね、まともだったんですけど。
何枚か、ですね。
……水平が取れて……ない……。
私はノコギリが下手だ、という事が分かりました。
そう言えば、以前ノコギリを使った時は、作りたい物が"ねじくれた魔法の杖"だったので、数字や水平はあんまり関係なかったな……と、以前のクラフトを懐かしく思い返す。
仕方ないので、カッターナイフでしゃこしゃこと削ります。
または、コンクリートブロックに押し当ててゴリゴリと削る。
そして、ステンレス製の金属定規で、表面を薄く削る。
低予算リカバリーしか選択肢のない現実。
かんなが欲しい。
もしくは切削力が高いやすり……。できれば電動の……。
でも多分、まずソーガイド(ノコギリを固定し、直角・直線を切れるようにする道具)を欲しがるべき。
リカバリーしなくていい腕か、それを補える道具が欲しかった……。
一番欲しがるべきは、もっと丁寧にノコギリを扱う思慮深さなのでは? という疑惑。
……でも、ノコギリひくの好きなんですよね。
だからこそ、なおさら思慮深さは必要だと思う。
多分、なんか楽しくなって手元が狂うんだろうな、としみじみ。
たくさん撮ったので、もう一枚だけ。
斜めカットは、気を遣った……。
でも気を遣った所はかなりまとも。
……つまり、気を抜いている所があるのでは?
製作記という形で、製作工程を辿りつつ記録していくと、課題が次々と浮かび上がってきて打ちのめされがち。
完成品だけを見せて、ミスなんて何もしなかった、と完璧を装いたい気持ちも、少しはあるんですけど。
……ミスをしない人なんているものか。
なんか、人より多い気もするんですけど。
……リカバリー……するから……。
・仮組み
まずは、切り出した板を並べてチェック。
ここで「割れ」などがないか丁寧にチェック……するのが理想なのですが、最初から、ところどころ割れているので。
今回は新たに生まれた「致命的な割れ」がないかをチェックすればOKです。
これを、とりあえず仮組みしてみる。
……うん、悪くない。
このあたりから、頭に浮かんだビジュアルが、現実になっていきます。
……本当に大変なのはこれからなのですが。
本を置く「天板」を外すと、こう。
後ろ側は、後でもう少し削る予定です。
悪くはない。
……ただ、やっぱり延長板の不格好さが気になる……。
・普通はやらないありえないミスのリカバリー
ミスは、常に起きるものです。
それが「計測誤差10cm」という、『何がどうして起きたのか分からないのがつらい』レベルのミスだったとしても、です。
……数字を見間違えたのか、メモする時に書き間違えたのか、定規やメジャーの使い方がおかしかったのか……どれか分からない上に、このどれでも、再発防止策さえ思いつかないレベルのありえないミスなのが本当につらい。
多分一番効果があるのは、ダブルチェックなのですが。
……なのですが。
まあそれはそれとして、今回のミスは、とりあえず、パーツを1つ追加する事で対応されました。
……が。
見れば見るほど、この『取って付けた感』が我慢できない……。
取って付けたから当然なんですけども。
……追加資材は、ない。
そんな予算はないし、また拾いに行くのも、もう一度乾燥させて切り出すのも大変。
そもそも大きな板は割とレア。
今回、書見台をでっち上げるだけの板が足りたのは、ドロップ運が良かったと言えます。
板の『まともな』部分の長さは、39.5cm。
42cmの必要量に応じて、幅2.5cmの角材っぽいパーツで延長している。
これが不格好な理由を考えてみると、端に足したのが丸分かりである事、木目の向きが合わない事……などが上げられるでしょう。
そもそも板の陰になってあまり見えない部分、かつ、後である程度誤魔化すつもりだとは言え。
多分、これからずっと、これを見る度に、嫌な気持ちになる。
……つまり、この角材の存在が『取って付けたよう』ではなく、『必然のよう』に見えればいい。
一度置いたノコギリを再び手に取る。
――板にノコギリを入れたら、やり直しはできない。
今は、不格好とは言え、『ほぼ設計通り』になっている。
でも、それが『ほぼ』でしかないなら。
それを、今できる最善と思えないなら。
それは、設計の方が間違っている。
中央で切断します。
そして、角材共々、ドリルで5,5mm径の穴を空けます。
5,5mmの丸棒……という名の割り箸で接続します。(費用計上なし)
だいたいこんな感じ。
割り箸を削っているのは、案の定、ドリルが斜めに入ったから。
穴を拡大するのも考えたのですが、板の負担を考えて、小技で対応。
……ミスをリカバリーする小技の引き出しばかり増えていく。
ミスは手を変え品を変え現れるので、その引き出しがもう一度開けられる事はまずないのが寂しい。
新技術を好奇心だけで採用しているからでは? という気もするのですが、新技術を試せない世界よりはミスがある世界の方がいい。
そんなわけで、木工用ボンドを、穴にたっぷり入れて、3パーツを合体。
……キメラ感してきた。
「そんなもん最初からしてただろ」とかそういうのは、どうか、言わない方向で一つ……。
次回は、「書見台2 ~彫刻~」です。




