前日譚、もとい当日譚
春休みが終わった。つい先ほどのことである。机の上にあるデジタル表示式置時計はすでに、三時間ほど前に昨日が終わったことを告げていた。
明日の、いや、今日の入学式に備えもう寝床に入っていてもおかしくはない時間なのだが、今の俺にとっては冴えない地元高校の入学式よりも、優先させねばならない事態が発生していた。
一カ月前、俺はとある通販サイトでとある商品を購入した。が、一週間以内で届くはずのその商品は入学式前日、つまり昨日になっても届かず、仕舞いにはその通販サイトまでが消失、もうこうして五時間ほどパソコンに噛り付いて捜索作業を続けている。
これは死活問題だ。なんたって、俺の昼飯代一カ月分を投資していたのだから。
それに比べ、高校の入学式など取るに足らない些細なことだ。何故ならその高校、俺が通っていた中学から目と鼻の先にあり、学力も中の下という特に将来設定を決めていない無頓着な中学生共が選ぶのにはおあつらえ向きの学校となっている。
すなわちこれは、同級生のほとんど全員がそこへ進学し、また顔を揃えることを意味している。
だから、入学式で運命的な出会いだとか、新生活へのトキメキだとか、そんなロマン溢れる展開は期待できないし、期待できなくてもいいとさえ思っている。俺の中で高校進学なんてものは、中学四年生に進級する程度のことでしかなかった。
いや、それだけだったのならば、まだこんなにも高校生活に悲観はしていないだろう。一番の問題はあいつらだ。人の顔を見れば、「不幸だ」の「不運だ」のと罵り、俺の聞こえないところでは「あいつは疫病神だから近付かん方がいい」と悪い噂を垂れ流す迷惑極まりない阿呆共のせいだ。
名誉棄損で訴えれば確実に勝てる自信がある。ただ、誰を訴えればいいのかいささか不明瞭な点がある。何故なら、誰の名前を挙げればいいのか分からないほどの大人数が寄って集って俺を袋叩きにしているのだから。
こんな現状を打破するために、俺は一万円を賭けてある商品を購入した。はずだった。
結局、俺に残されたのは高校生活への絶望と、一万円分軽くなった財布に、その財布の中にあるATMの振込証明書だけだった。
そんな現実に打ちひしがれながら俺は、パソコンの電源を落とし、「これは夢だ、悪い夢に違いない」と自己暗示をかけながら、睡眠という最も手軽で簡単な現実逃避を始めた。
願わくは、この凶夢から醒めることを。