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スペーストレイン [カージマー18]  作者: 瀬戸 生駒
第3章 小惑星「パラス」
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野蛮な銃

 ともあれ用件は終わった。

 これ以上もめ事に巻き込まれる前に、こんなクソコロニーは出るに限る。

 メインストリートをエレベーターの駅を目指して戻っていると、このコロニーに降りて初めて見る車がブロロロロというエンジン音と、ビー! ビー! というけたたましいクラクションとともに走ってきて、俺たちを追い越し、キュッ! というタイヤのこすれる音を立てて止まった。

 角張ったモスグリーンの装甲車だ。

 わらわらと武装した兵士が降りてきて俺たちに小銃を構える。

 本当にここは「観光で栄えている商業コロニー」か?

 暴徒は放っておいて、客にはこの仕打ちときたもんだ。


「止まれ! この先のドラッグストアで発砲事件があった! 身分証明できる物を出せ!」

 若い兵士が怒鳴るが、やや年かさの指揮官がそれを制した。

「ダンナじゃないか。どうした、こんなところで?」

 グラント軍曹だ。

「アンタこそどうした? アンタ宇宙軍だろ。警察でアルバイトか?」

 軍曹はふっと溜息をついて、他の兵士達に銃を下ろすように言った。

「俺の知り合いだ。安心していい」

 それからこちらを向いて、あえてお気楽を装って言った。

「パラスじゃ、軍と警察の境はない。看板の付け替えすらしていない。

 俺はダンナの船でコロニーに戻ったろ?

 そこで休暇でもと思ってたら、この騒ぎでかり出されたって寸法だ」

「この騒ぎって……これはデモとは言わねえ、暴動ってんだ!」

 グラント軍曹はカリカリとヘルメットの上から頭をかく仕草をしながら、つづけた。

「ああ。どうも銃を流してる奴らが混じっている。

 それでこっちも発砲には神経質になってるんだ。勘弁してくれ。

 と。ドラッグストアの発砲事件は……負傷者が被害届を出してきてから考えるとしよう」

 そう言うと、パチリときれいなウインクをして見せた。


「なぁ? 銃ってこんなん?」

 それまで黙っていたガキが、足元に落ちていた金具のような物をクン! と踏みつけた。

 散乱したガレキに半ば埋もれていた金具を、目敏く見つけたようだ。

 が…………。


 振動で「それ」はかすかに浮き上がる。

 間髪入れずにつま先を入れて蹴り上げると、上に被さっていたガレキをふるい落として、ぽーんと「小銃」が、銃口を上にして立ち上がった状態で浮き上がった。

 長さはおよそ70cmほどで、全体はグリーンをさらに黒く染めた硬質プラスティックか?

 若干弾倉が細い気もするが、突撃銃でなければ軽機関銃と誰もが思う、フォールディング式ショルダーストックにピストルグリップ、さらにフロントグリップにバナナマガジンと、間違えようのない形をしている。

 ガキが踏んだのは、このショルダーストックの金具だな。

 ガキはコロニーの重力で落ちてくるのを段ボールを抱いたまま、指を伸ばしてグリップをつかみ、チャキン! と 銃口をこちらに向けた。


 !!!


 次の瞬間、俺は拳を握って、ぶいんと手加減なしでガキの頬をぶん殴った。

 火星よりもさらに小さなコロニーの重力と軽量級のガキの体重で、ガキの足は宙に浮き、文字通り吹っ飛んだ。

「バカヤロウ!」

 怒鳴りつけて、もう1発入れようとする俺とガキの間に、グラント軍曹が両手を広げて割って入る。

「ダンナ、ダメだ! それ以上は虐待だ。現行犯だ!」

「バカヤロウ! 人に銃口を向けるって事は、自分が殺されてもいいって覚悟ですることだ!

 こいつはその覚悟もないのに遊びで向けやがった。

 これは絶対に必要な躾だ! 教育だ!」

「その躾なら、預けてくれるんなら軍で叩き込む! そうじゃないんなら、ここで止めてくれ!」

 そう言うと、軍曹は制服のホックを確かめてから俺に背中を向けてしゃがみ込み、目線の高さを合わせて、ガキに手を伸ばした。

 ちっ。趣味人が!


「お嬢さん。ちょっとお伺いしますが、まさかと思いますが……従軍経験はありませんよね?」

 言うに事欠いて何を……あ!

 今のガキの小銃さばきは、たしかに手慣れた人間のものだった。

 拳銃のトリガーガードに指を入れてクルクル回すのは、少し銃に興味があれば手慰みにやることもあるが、全身を使ってあの動きは、そのレベルを超えている。

 趣味人でも、さすがは軍人と言うべきか。

 軍曹は、ちゃんと銃全体を、その操作も含めて見て取ったんだ。


 ガキは目に涙を浮かべつつも、泣き声を上げるでもなく、唇を噛んで痛みに耐えていた。

 重力が小さかったのもあって、派手に吹っ飛んだわりには、ダメージが小さかったのかもしれない。

 とはいえ、しっかり時間を取って、痛みと気持ちが整理できるのを待っているようだった。


「……木星でな。戦争ごっこして遊んでてん」

「木星じゃ、実銃使って遊んでるのか!」

 つい怒鳴る俺を、左手を横に伸ばして、グラント軍曹が背中で制する。

「……銃っても、フリやん。削岩機やんか!」

「何言ってやがる!」

 軍曹が再び背中で遮る。

「この銃と削岩機が同じ?」

 ガキが無言でこくんと頷く。

「グリップとか肩当てとか、まんま同じ……」

「クソがぁぁぁ!」

 突然グラント軍曹が上げた叫びに、俺もガキも、彼の部下達すら思わずひるんだ。


 軍曹は激しくかぶりを振って大きな息を吐き、自らを落ち着かせるようにもう一度息を吐いてから口を開いた。

「お嬢さん、悪いが一緒に本部まで来てもらえませんか? ダンナもよかったらどうぞ。

 上の判断になりますが、あるいはゼロから見直しが必要になるかもしれません」

「なんのだ!」

 俺の問いに、軍曹は黙って首を横に振った。


 中心軸に上るエレベーター。

 1時間の間、俺たちは無言だった。

 中心軸ではムービングロードではなく、軍の専用車で軍用桟橋まで移動する。

 その一角にある詰め所に通された。

 真っ白の顎髭を豊かに蓄え、肩にモールをつけた、かなり上級の士官が待っていた。

 無言で敬礼するグラント軍曹に答礼を返して言った。

「間違いないのかね?」

 しかしグラント軍曹は応えず、ガキに、つとめて優しく言った。

「分解……手入れできるかい?」

 ガキの前のテーブルには、ついさっき手に入れたばかりの「小銃」が置かれている。

 コロニーの自転中心軸にあるため0.1Gもないが、全くの無重力というわけでもない。

 小銃はちょこんとテーブルに載せられていた。

 ガキは無言で頷いた。


 ガキが小銃のフロントグリップ後端にあるボタンを押して弾倉を抜く。

 サイドのセットハンドルを引いて、チャンバーが空なのを確認した。

 ついでセレクターレバーを、「×」から「・」と「…」を越えて、180度回す。

 そこでレバーの反対側を押すと、あっさりレバーは抜けた。

 それからフロントグリップを少し揺すってやると、グリップ兼ハンドガードが外れた。

 ガキの手つきによどみはない。

 外れたフロントグリップの奥にあったねじをくるくる回して、ガイドレールのような金具を引き抜く。

 それから隠れていたレバーを180度回すと、銃身まですっぽり抜けた。


 次は組み立てだ。

 別の軍人が、似たような部品を箱に入れてガキに渡した。

 違いと言えば、銃剣のように尖った杭の先端が出ていることと、弾倉の代わりにマッチ箱のようなバッテリーが詰まっているというということだけくらいか。

 もっとも、厳密には銃剣と違い、杭は銃身の下ではなく銃口から出ていて、発砲はできない。

 ガキがやはりよどみなく組み上げたものを受け取って、グラント軍曹が部屋の隅に置かれていた雑誌に銃口を当てる。

 セレクターを「・」に切り替えて引き金を引く。

 かすかなモーター音がして、さらに小さく短く、「カチッ」と留め金か何かが外れる音がした……気がする。

 それほどに、音は短く、小さい。

 続く「それ」に比べれば。


 ガン!


 重い音がして、雑誌を穿った。

 もちろん、弾が出た訳ではない。

 銃口にはまった堅い合金の杭が高速でスライドして、その先端が叩きつけられたのだ。

 削岩機はこうやって岩を砕く。


 セレクター位置を「…」に動かすと、ガガガガガ! と杭が雑誌を連打して、雑誌は粉砕された。

「軽石みたいなんの時はこれでもええけど、鉱床に当たって堅い物の時は、この……本体の一番後ろにピンがあるやろ?

 それ抜いたら針金みたいな肩当てが外れて、後ろの溝に丈夫なムクの肩当てつけて、ピンを戻して固定できるんよ?」


 しかし、ガキの言葉をグラントは無視した。

「戻してもらえる?」

 軍曹に言われて、ガキは頬を膨らませて、それでも頷いた。

 セットハンドルを引くと、カチンと小さな音がした。

 その状態で杭の先端を握りひねってやると、杭はあっけなく根元から抜けた。

 あとは全く同じ手順を繰り返し、最後に弾倉をカチリと納め、銃口の空いた、元の状態へと5分とかからず戻した。

 別の雑誌を取り出し、同じように銃口を当てる。

 セットハンドルをつかんで引っ張り、チャンバーに弾丸を送る。


 ダン!


 セットハンドルを引いて排莢をする。

 ぽーんと空薬莢が飛んだ。

 ハンドルを戻せば給弾ができる。

 そしてセレクターレバーを「…」位置へ、カチリと動かす。


 ダン!


 しかし連射にはならない。

 自動排莢システムがないため、弾頭を射出したあとの空薬莢を、モーターで引っ張られた内部のピンが叩くだけだ。

 雑誌には1発だけ鉛玉がめり込むが、貫通や、まして粉砕にはほど遠い。

 軍曹の読み違いか。

 しかし、軍曹も士官達も、さらに険しい顔をして銃を睨みつけていた。


「ハズレ、でいいのか?」

 俺の問いに、軍曹は首を横に振った。

「当たったから……頭が痛いんだよ」

「説明してもらえるか?」

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