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スペーストレイン [カージマー18]  作者: 瀬戸 生駒
第3章 小惑星「パラス」
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ドラッグストア

 パラスコロニーでの審査は、拍子抜けするほどにあっけなかった。

 俺とガキはライトスーツの上からジャケットを羽織っただけだが、手荷物検査もボディチェックすらなしときたもんだ。

 もっとも……貨物のデータリストと一緒に、おそらく俺たちのパーソナルデータも流れているだろうし、グラント軍曹らと3日も同じ船、同じ部屋にいて雑談を交わしてきた。

 俺たちの人となりもしっかり観察されただろう。

 それで「人畜無害」と判断されたわけだ。

 悔しがればいいのか安堵すればいいのか。

 バカヤロウ!


 コロニーの自転中心軸の延長線上に、宇宙港の桟橋はある。

 つまり「地表」に降りるためには、エレベーターを使わなくてはならない。

 わずか2.5kmほどの距離しかないが、降下速度は歩くよりも遅い。

 たっぷり1時間かかる。

 もっとも、これにも理由がある。

 コロニーは遠心力を利用して人工重力を得ている。

 つまり、中心部はほとんど無重力で、外に近づくにつれ重力が強くなる。

 その重力の変化に身体が慣れるために必要な時間だ。

 コロニーよりもはるかに小さなカージマーですら、自転で重力を作ったときは外壁に向けてしゃがまないと目眩を覚えることがあるのだ。

 船乗りですらこうなのだから、そうでない一般人のことを考えれば、2倍の時間をかけても足りないくらいだ。


 地表に降りた俺の第一印象は「どこのクソ田舎の辺境コロニーだ!」だった。

「メインベルトでも有数の、繁栄している商業コロニー」のはずが、寂れ果てていて埃っぽい。

 心なし、建物や空気もくすんで見える。

 看板に偽りありもいいところだ。


 それでも人影は見えるから、買い物くらいはできるだろう。

 ドラッグストアと病院は、人間の住むコロニーには必ずある。

 俺はガキの手を引いて、メインストリートを歩くことにした。

 客商売をする以上、ストアのたぐいはメインストリートに面しているハズ。

 それから何本かストリートを裏に入ったところに居住区を構えるのが常だ。


 はたして、ドラッグストアはすぐ見つかった。

 それなりの規模の店舗を構えていて、やはりそれなりの広さの駐車場もあるが、車は1台も駐まっていない。

 そういえば、メインストリートを歩いてきたが、車を見かけなかった。

 空気のよどみから想像するなら、対策として自動車の利用を制限しているのか?

 いや。それならば店舗に駐車場を構える必要もない。

 グラント軍曹のヤツ、まだ何か隠していたか……あるいはこれが「日常」になってしまっていて、わざわざ言うまで気が回らないくらいに鈍っていたか。


 ともあれ、ドラッグストアに入った。

 さて……。

 間抜けな話だが、生理用品はドラッグストアのどのコーナーにあるんだ?

 やたら広い店内にならんだ棚と、天井から吊されたパネルを眺めながら、俺は途方に暮れた。

「レディースコーナー」とあるから行ってみれば、化粧品がならんでいる。

 それらしいパネルを見つけていって見れば、ヘアカラーだったりする。

 ならばとガキを一瞥して「キッズコーナー」に向かうと、その先には玩具のおまけが付いたスナックがある。

「ホンマおっちゃん、役にたたひんな」

 呟くガキを1発殴って、意を決して店員を探した。


 ……うん?

 外が騒がしい。

 店の外から、店内BGMを越えるボリウムで、怒声のようなものが聞こえる。

 耳をすませるまでもなく、「自由」だの「格差是正」だのの妄言が聞こえる。

 俺はパラスの実情についてほとんど知らないが、それでも誰に咎められるでもなくコロニーを歩き、店に入れた。

 木星あたりのコロニーに比べれば、それができるだけで十分に「自由」だ。

 それ以上の「自由」が欲しいなら、俺のように宇宙に出ればいい。

 とっておきの「自由」と、それに見合うだけの「不自由」に浴せるぞ。


 外の怒声はどんどん大きくなり、遠くでは銃声のようなものも聞こえる。

 エプロンの制服を身につけた店員が走り出し、まだ客が残っているというのに店のシャッターを下ろした。

 バカヤロウ!

 と。怒鳴りつけるより早く、閉じたばかりのシャッターを外からガン! ガン! と叩く音が聞こえる。

 あるいは蹴っているのか。

 そして……一拍の間が空いて、ひときわ大きなグワシャン! という音がしてストアのガラスウインドウが割れ、その向こうにあるシャッターを貫いて鉄パイプが生えてきた。

 それも何本も。

 シャッターの穴が大きくなる。

 ガラスは砕け散り、フレームの周囲にギザギザが残るだけだ。

 ほどなく鉄パイプが生えて広げた穴から、足が入ってきた。

 そして何人もの、タオルで顔を隠した男達があらわれた。

 手に手に鉄パイプや角材を持って。

 バカヤロウ!

 グラントの野郎、何がデモだ!

 これは暴動って言うんだ!


 店員に誘導されて、俺たちは店のバックヤードに入るよう言われた。

 奥に子供や女性、真ん中あたりに男性で、最前列に店員が壁を作る。

 しゃがんで声を潜めていたが、赤ん坊の泣き声が台無しにした。

 バックヤードの扉を開けて、暴徒達がなだれ込んでくる。

 手に手に角材や鉄パイプを持ち、それで激しく壁や柱を叩いて威嚇してきた。

 開け放たれた扉の向こうでは、商品棚を総ざらえしている様子が見えた。


 こっちに来た連中は貧乏くじか?

 場違いにもそんなことを思ったりしたが、連中の狙いは別にあった。

 客の財布だ。

 ドラッグストアの商品なんざ、転売してもたかがしれている。

 それよりも、買い物に来た客は必ず現金を持っている。

 そちらが本命か。


 赤ん坊の泣き声に、商品棚をあさっていた暴徒達もバックヤードに押し寄せてきた。

 連中が増えるぶん、俺たちは奥へ押しやられ、しゃがむのもきつくなってきた。

 意を決したように数人の店員が立ち上がり、人間の壁を作る。

 ……たいしたもんだ。

 場違いなことを、俺は考えていた。

 もらっている給料など、たかがしれたものだろう。

 それでも客の安全を優先し、自らの身をさらすんだ。

 おそらくだが、普段からの「人間の盾」という訓練と教育のたまものだろう。


「おい、その赤ん坊を黙らせろ!

 それと店長、レジを開けろ!」

 赤ん坊を黙らせられるんなら、そもそもこんな窮地に陥っていない。

 それでも店長は、暴徒に向けて、レジのキーをポケットから出した。

 暴徒達の目がにやける。


「おい! おまえらも財布を出せ!

 それとも頭を割られて脳みそを出すか!」

 脅しのつもりだろうが、どぎつすぎると客は萎縮する。

 財布を出そうにも身体が動かなくなる。

 俺は固まった客の間をすり抜けて、最前列に出た。


「おっさん、いい心構えだ」

 内ポケットに手を入れる俺に、また暴徒達がにやける。

 が、俺が内ポケットから出したのは…………。


 暴徒達が俺の手元を見て驚愕の表情を浮かべるより、俺が拳銃の引き金を引く方が早かった。


 ぱん! ぱん!


 風船の割れるような乾いた音がして、手前の暴徒が腹を押さえてうずくまり、ヒキガエルのようなうめき声を上げた。

 その隣の暴徒は、足を押さえて前に、こちら側に倒れ込もうとする。

 その頭をぐいっと靴で押さえて、ごろんと向こう側に蹴り倒す。


「悪い。武器を弾こうとしたんだが、大砲じゃなくて豆鉄砲なんて久しぶりで外しちまった。

 次はちゃんと武器に当てるから、アンタらもう1回、鉄パイプ構えてくれ」

 が、暴徒は武器を構えるどころか投げだし、我先にバックヤードの扉を目指す。

 そこでつかえたところで、もう1度引き金を引く。


 ぱん!


 現金なもので、暴徒ばかりか店員や他の客まで俺たちから距離を取ろうと後じさる。

 俺は、さっきレジのキーを渡そうとした店長に言った。

「丁度いい。このガキの生理用品ってどこにあるんだ?

 3ヶ月分か4ヶ月分くらいでいい」


 言われて店員がバックヤードの棚をあさり、でかい段ボールを未開封で出してきた。

 俺たちの視界を遮ろうとばかりに。

「こんなに必要なのか? まあいい。いくらだ?」

 しかし店長は金額ではなく、質問を返してきた。

「アンタら……。いえ、お客様、船乗りの方ですか?」

「このコロニーじゃ、ファッションでライトスーツを着るのが流行っているのか?

 そうじゃなかったら、普段着でこんな格好をしてるのがいるなら教えてくれ。気が合いそうだ」

 店員達は、せっかくの支払いを拒否しやがった。


 バックヤードを出ると、暴徒は一人も残っていなかった。

 ガキに段ボールを抱かせ、銃はポケットに戻して、店を出た。

「鉄砲玉の支払いのがスムーズなんやな。

 てか。おっちゃん、拳銃上手いんや」

 感心するガキの頭を1発殴って、「バカヤロウ」をつけて独り言を装った。

「あれだけ的が固まってたら、適当に撃ってもどこかに当たる。

 俺が拳銃を撃ったのは前のカミさんと地球にリゾートで行ってから、20年ぶりくらいだ」

「あ……。したら大砲は?」

「俺たちの船にそんな物があるか? 生まれてこのかた撃った事なんてねえよ」

 小口径の機関砲ならともかく、宇宙船に大砲を積むバカはいない。

 反動で船がひっくり返るか、最悪船そのものが「折れる」から。

 だからこそ、宇宙船の主兵装はミサイルなんだ。

「なんや、ハッタリか……」

「うるせえ、バカヤロウ!」

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