86話 信用する理由
更新遅くてすみません。
城内に案内されてる状況を見るに、オベスは会談を受諾してくれたようだ。
「こちらです」
前を歩く兵士が立ち止まり、部屋の扉を指差す。
部屋の扉を開けたら総攻撃なんて事もあり得るので、中を探っておく。
『中の反応は2つ。周りに兵士が控えている様子はない。特に魔法の反応もないな』
『問答無用の可能性は無さそうですね』
俺の報告を聞き、アリスもそう判断する。
「どうぞ」
兵士に促されるままに、部屋の中に入る。
そこには、オベスとカミルの2人がいた。
「案内ご苦労だった。ありがとな。もう下がって良いぞ」
オベスにそう言われ、「失礼します」と言って、兵士が出て行った。
「立ち話もなんですし、お座り下さい」
カミルに言われるがままに、席に着く。
『対応は優しい感じなのですが、完全に警戒されてますね』
『まぁ、当然だな』
伝言の主が合成魔だと言い切れるまでは、邪険に扱う事はしない、かと言って油断もしていない。
そこからは、カミルという人間の慎重さが伺える。
「本日は、私のワガママに付き合っていただき……」
貴族として、ラントヴィルトの者として、最低限、挨拶とお礼だけはしたいとお願いされたので任せたのだが、
「そういう御託はいらねぇよ。さっさと本題に入ろうぜ? 合成魔」
アリスの挨拶は、最後まで言い切る前に、オベスによって中断を余儀なくされた。
心なしか、妹様も落ち込んでいるように見える。
確証がない状態で言い切るオベス。
「勘違いだったらゴメンなさい。貴女の伝言の内容に気になる部分があったから……」
明らかに失礼な態度のオベスに、カミルがすかさずフォローを入れる。
オベスは良い部下を持ったようだ。
「いや、気にしなくて良い。ちゃんとあってる」
まぁ、いつまでも気を遣わせておくのも悪いので、自分が合成魔だと認める。
俺の言葉を聞き、2人の態度が敵意一色に染まった。
なんかこう言う反応をされると、自分の中にある何かが燃え上がる。
今まで、相手に嫌われるような話し方をする時は、何かしらの思惑があっての事だった。
しかし、今回は嫌われる理由はなく、むしろ険悪ムードの入室はお断りしなくてはいけないのだが、自分の中の何かはそれを許さなかった。
完全にただの悪ノリ。
「俺たちの敵討ち達成の為に、わざわざ殺されに来てくれた訳じゃないよな?」
オベスはそう言って、足元にあった大斧を持ち上げる。
ついでに、カミルも鞘から剣を抜いていた。
「1つ勘違いをしているかもしれないから訂正しておくよ。ここにアリーシア・ラントヴィルトは本物だ」
オベス達が早まらない為に、牽制をしておく。
「合成魔の言う事は、おそらく本当です」
アリスを【鑑定】で確認したのか、カミルはそう報告をした。
「じゃあ、テメェはどこにいるんだ? まさか、遠くから高みの見物って言うんじゃねぇだろうな?」
「安心してくれて良いよ。すぐ近くにいる」
「カミル、見つけられそうか?」
オベスは、近くに居ると聞き、カミルに【感知】使うよう指示する。
「残念ながら【感知】にはなんの反応も……」
今回も【暗躍】さんは、ちゃんと働いてくれているようで、カミルの【感知】には引っかからない。
オベス達が周りを睨む。
「姿は見えているはずだぞ? ちゃんとこの娘の着ている装備に成り代わってるし」
このまま隠れん坊をしていては話が進まないので、自分の位置を教えてやる。
敵意を向ける的が見つかった2人の視線が、自分に集まった。
「早まらないで欲しい。俺はこの娘の装備、つまり超至近距離に居るわけだ。この意味わかるか?」
「人質って事ですか……、さすが魔物……」
2人が恨めしそうに武器を下す。
「良い判断だ」
『兄さん?』
唐突に送られて来た念話は、ノリに乗った俺を止めることはできない。
「貴族という地位の、こんな年端も行かない少女を見殺しにするなんて出来ないよな?」
「く、そんな幼い子供を人質に取って……、テメェの良心は痛まねぇのかよ!!」
俺のあんまりな物言いに、オベスが怒りを爆発させる。
『兄さん』
「はっ、伝説の魔物相手に良心とか……」
『兄さん!!』
とっておきの悪役セリフは、アリスによって邪魔された。
『どうした? せっかく盛り上がってたのに……』
『変な演技してないで、さっさと本題に入りましょう』
あまりに冷静なツッコミは、自分の中の燃え上がる何かを消沈させるのに、十分な効力を発揮した。
………
……
…
「本当に、うちの愚兄がご迷惑をおかけしました」
諸々説明し終えたアリスは、頭を下げ、オベスとカミルに謝罪をする。
「アリーシア様、頭を上げてください。悪いのは全て合成魔です」
アリスに対しては優しく微笑みつつ、俺には人をも殺せそうな冷たい視線を送ると言う、器用な事をするカミル。
「アリーシア様の言うことは信じて良いのか?」
「はい、私が出会ってからの合成魔は、さっき話した通りの存在です」
その返事を聞いたオベスは、幾らか警戒心を解いたように見えた。
「恨まれこそすれ、そんな風に受け入れられる理由がわからないんですが」
思った以上にあっさりと、彼らから向けられる敵意を解かれたことに疑問を漏らす。
「俺達は、別にお前のことを受け入れた訳じゃない」
オベスから投げられる拒絶の言葉。
「その心は?」
「ラントヴィルト家は、領民からも高い支持を得ていて、王国からの信頼も厚い。さらに、アリーシア・ラントヴィルトと言う人間の評判も良いですからね」
「信用を得た理由の中に、全く俺が登場しない件について」
地竜の時に活躍したにもかかわらず、この扱いは俺が可哀想だと思い、話題に取り上げてみるが、
「お前のしてきた事を振り返ってみろ。信用される要素がどこにある」
オベスにバッサリ切り捨てられた。
「たしかに何度思い返しても、恨まれる要素しか見当たらねーな」
地竜の時も、俺が彼らを守る過程にセドルの犠牲がある。
それは簡単に流せることではないし、セドルの、皆からの絶大な支持率を知る者としては、彼の敵討ちの気持ちが勝ってしまうのも頷ける。
「アリーシア様に感謝しろよ?」
オベスの言う通り、今攻撃されないのはアリスのおかげであり、アリス様様なんて思いもしたが、そもそも俺がここに来る羽目になったのも、アリスが原因なわけで……。
うん、感謝する理由なし!
この結論に至った。
「問答無用で攻撃しない理由は、それだけではありませんけどね」
「どゆこと?」
「セドル隊長の置き手紙が見つかったんです」
カミルが差し出した封筒を受け取り、中の手紙を開く。もちろんアリスが。
手紙を差し出す時、「あ、合成魔は触らないでくださいね」と釘を刺されたのだ。
手紙には、隊員一人一人の長所短所など色々書かれていたが、一文だけやたら強調してあって目に付いた。
『俺は何があってもお前らを守る。その為なら喜んで合成魔に魂を売ろう』
「私は、あなたが隊長に『魂を寄越せ』と言ったのでは無く、隊長があなたに『自分の命を渡すから仲間を助けてくれ』と頼んだと予想しています」
「俺も同意見だ。そして、お前はセドルとの約束を守り通した。文字どおり身を挺して。」
2人は、まっすぐこちらを見てくる。
身を挺して……、多分地竜のブレスに突っ込んでいったのも見られていたのだろう。
「むぅ、こんな簡単に信用を得られるのなら、たまには人間の味方をしてやるのも悪くないな」
「安心しろよ。別に信用した訳じゃない。しっかり俺たちの共通の敵だし、いつか討伐してやる」
オベスが大斧をチラつかせ、笑顔で断言し、カミルも頷き、オベスの意見に賛同していた。
合成魔=共通の敵、の流れに逆らう一人の少女がいた。
「私は兄さんの味方です!!」
アリスが髪留めの内の一つ、俺の変身体の方を撫でながらそうフォローしてくれる。
「俺は、大きな流れに平気で逆らい、自分の意見を押し通しちゃうアリスの将来が心配になるな」
敵認定に関しては何とも思わないが、自分の味方と言ってくれる人が居るのは少し嬉しく感じる。
だが、それを認めるのはなんか気恥ずかしいので茶化す。
「むー、そんな返しは求めませんし、余計なお世話です」
そうアリスが不満の声を上げる。
「はいはい、ありがとな。さて、本題に入ろうか」
未だ不満を態度に示すアリスの頭を撫で、ここに来た理由、奴隷商人達の掃討についての話を始める。