87話 要らない存在
長い間更新できず、すみませんでした。
「たしかに、この三つは証拠になるでしょうけど、何分権力のあるお方が相手です。もみ消されて終わりになると思われますが?」
カミルは証拠となる小瓶と手紙を見て、そう推測する。
「やはり……」
アリスが落ち込んだように目を伏せる。
「そもそも、これでは奴隷商人達は捕まえる事はできても、元老院の連中は無理だろ」
オベスの言う通り、俺が証拠として渡した物は、毒入りの小瓶とその指令書、悪魔との取引の手紙。
元老院議長がアリスを買おうとしていた事も、悪魔アコンプリスが言っていただけであって物的証拠はない。
何か良い方法はないか考える。
「現行犯なら証拠とか要らないんじゃないか?」
ふとそんな事を思い付いた。
「なるほど、たしかに現行犯なら捕まえる事も可能ですが、やはり信用のある人間が目撃しないと……」
信用の無い人間が騒ぎ立てても、無視されるだろう。最悪、こちらが捕まりかねない。
「国王は? 立場的にも信用的にも、かなり適任に思えるが?」
「条件は満たしますね。でも……」
「魔物の前に国のトップ連れてくるわけねぇだろ」
オベスの正論のツッコミが入る。
危険生物がいるから連れてこれない。
逆に言えば、俺がここを離れたら良いだけなのだが、俺がやろうとしている、元老院議長を陥れ作戦には、自分の存在が必須。
席を外すわけには行かない。
「それに、彼女の言っている事が本当かどうかも怪しい」
信頼できるとは言っても、アリスの言う事を鵜呑みにする気はないらしい。
「アリスは身元もしっかりしているし、人格的にも信用に足りるって言ってたけど?」
さっきのオベス達の話が本当なら、アリスはそこそこな信用を得ているはず。
「信用があると言っても限度がある。両親の後ろ盾があれば……いや、それでも無理だな」
「それに、貴方が彼女を操っている可能性も十分にある。」
オベスが言うには、絶対的信用を勝ち取っている存在からのお墨付きじゃないと厳しいらしい。
ちょい家出状態のアリスだ。両親の力は借りれそうにない。
カミルが言うには、アリスが俺に操られている可能性がある以上、会わせるのは厳しいとの事。
お手上げかと思っていると、
「【神判の代行者】」
アリスがぽつりと呟いた。
ユーストレイアはこの世界の主神、しかも、正義と平等を司っている。
国王以上の信用を得ている事間違いなし。
そして、【神判の代行者】は、そのユーストレイアの加護スキル。
それは、主神ユーストレイアとアリーシアと言う人間に繋がりがある、という事の証拠になるだろう。
ついでに、【神判の代行者】が発動している間は、異常状態は無効化される。
それは、アリスが正常だという事の証明になる。
「アリスがやろうとしている事は、ユーストレイア様とやらから頼まれた、神託のようなものだ。その神託を受けた者を信用出来ないのは、神の行動を疑うのと同義だろ」
行動の大元が信用できるからといって、その行動全てを信用しろだなんて、無理矢理にもほどがある。
だが、そこは勢いに任せて誤魔化すしかない。
「本当なのか?」
魔物の言う事は信用ならない。
そう判断したオベスは、真偽をアリスに尋ねた。
「はい。ユーストレイア様とトーリウルス様に、王国内にある悪を一掃するよう命じられました」
「証拠はあるんですか?」
「ユーストレイア様から加護のスキルを頂きました。調べていただいても構いません」
ハキハキと答えるアリスは、嘘をついているようには見えない。
「嘘を言っている様には見えねぇな。カミル、わかるか?」
スキルは【鑑定】を使わなければ分からない。
オベスがカミルに【鑑定】結果を尋ねる。
「私の【鑑定】スキルでは、相手のスキルまではわかりません。城内にある鑑定石を取ってきます」
そう言ってカミルが部屋を出て行った。
………
……
…
「本当ですね。ユーストレイア様のみが与えることができるというスキル、【神判の代行者】をお持ちのようです」
カミルが鑑定石を覗き込み、そう報告した。
「それは本当か!?」
オベスが確認を取る。
「はい、どこかの誰かさんがレベル10の鑑定石を盗んでしまったせいで、スキルの詳細は分かりませんが……」
肯定しつつ、こちらへの嫌味も忘れていない。
「返す方法も無いし、諦めてくれ」
【吸収】した物はもう戻ってこない。それに、戻せても返すつもり何てない。
ザ開き直り。
「盗んだ本人の発言とは思えませんね」
カミルがジト目でこちらを見てくる。
「それより、これで信用は得られそうか?」
これ以上そこを掘り下げられても、自分の立場が悪くなるだけだし、無理やり話を変える。
「そうですね。神のお墨付きとあれば、信用する要素としては充分です。【神判の代行者】の効果も、アリーシア様が操られていないと言う証明にもなりますしね」
どうやら納得してくれたようだ。
レイアはこの事を予想して、この加護を与えたのかも知れない。
「…………そう言えば、加護を与える時、ユーストレイア様は合成魔を野放していたのか?」
オベスが、ふと思いついた疑問を漏らす。
まぁ、その疑問が出ても不思議では無い。
合成魔とアリスは行動を共にしている。
ユーストレイアは神託を下す為、加護を与える為にアリスと接触をした。
それならば、合成魔とユーストレイアは遭遇している。そう考えるのが当然だろう。
合成魔の伝説内での立ち位置が立ち位置だ。
世界の正義であるユーストレイアが合成魔を見逃すはずが無い。
それなのに、自分の目の前にいる合成魔はピンピンしている。
「それは……」
突然そんな質問をされ、アリスが言い淀む。
多分、俺とレイア達の関係を正直に言ってしまうと、二人の立場的に良くないと考えているのだろう。
それに、俺とのつながりがあるとバレると、ユールトレイアという存在の信用もガタ落ちになる事間違いなし。
まぁ、来るとわかっていた質問だ。
答えを先に答えを考えていない訳がない。
「あー、それは出会った順番の所為だ。アリスは、ユーストレイア様とやらに出会った後、俺と遭遇し行動を共にいているんだよ」
「なるほど、ユーストレイア様が世界悪と言われた合成魔を目の前にして何もしないわけ無いですしね。ちなみに、貴方が行動を共にする理由は?」
「ただの気まぐれだよ」
「気まぐれ……か、そう言えば、お前も手伝っていくんだよな?」
「ああ、元老院議長を陥れるところまでは手伝っていくつもりだよ」
「何言ってんだ? 最後まで手伝って行けよ」
オベスがそんな事を提案してきた。
「どゆこと?」
「アリーシア様が裁こうとしている相手は、証拠を突きつけられて、はいごめんなさいって捕まるような奴らじゃない。だからお前も手伝っていけ」
「は? 何言ってんの? 抵抗される可能性を考えたから王国軍の力を借りに来たんだよ? 異物の俺はさっさと退散して、後は人間達で解決オールオッケーだろ」
正直、オベス達がアリスを手伝うと進言してくれれば、やる事だけやってこの場を去るつもりだった。
この出来事は後世にも伝えられる偉業だ。
そこに俺がいては、合成魔という存在がいてはいけない。
「俺も魔物の手なんて借りたくはない。だが、今回相手にする元老院議長ベロドル。王国内でも有数の魔法の使い手だ」
「勇者様はどうしたよ? たしか召喚されたって聞いたけど?」
凄い昔に聞いた、忘れ去られていた設定を思い出す。
「我が王国にも、1人、勇者様が召喚されたのですが……」
「まさか、弱いとか?」
「いえ、実力で言えば歴代最強。彼女が負ける姿が思い浮かばないほどに……」
王国民として、召喚された勇者が強いのは喜ばしい事のはず。だが、そう話すカミルの表情は微妙だ。
「権力者が嫌いなのか、貴族や元老院への態度が最悪で、遠征に行かされてるんだよね」
勇者様は人格的に受け入れてもらえなかったらしい。
俺も、権力を振りかざす奴は好きにはなれないが。
「戦力的に不安だから俺の手を借りたいと」
「そうなるな。地竜と殴り合えるお前なら戦闘力的にも問題ないし、危険に晒す罪悪感も感じないしな」
オベスが良い笑顔でひどい事を言いやがる。
「ちなみに、拒否したら?」
「アリーシア様の目的の達成が困難になります」
「理由は?」
「貴方達が持ち込んだ証拠では、奴隷商人達を裁くので限界です。元老院を裁こうとすると、彼等がボロを出すのを待たなくてはいけない」
「そうなるな」
「アリーシア様と、ラントヴィルトの者が解放され、自由になったという事が広まるのは時間の問題だと思います」
「なるほど、今回捕らえられていた者は、言ってしまえば生きた証拠。その存在を知れば、彼らはより警戒し、ボロを出しにくくなる」
「理解が早くて助かります。それに、元老院側が何かしらの実力行使に出ないとも限りませんよね?」
カミルの言う通りだ。
アリス達が自由の身になったと知れば、元老院達の行動も慎重になり、現行犯逮捕が出来なくなる。
もしかしたら、証拠隠滅の為にアリス達に危害を加える可能性もある。
叩くなら今しかないという事だろう。
「わかった。手伝わせていただきますよ」
お前が手伝わないなら、義妹の目的の達成は困難、それどころか、アリス自身に危険が及ぶかも知れない。
そんな脅しを言われては、断るわけにはいかないだろう。
「賢明な判断です」
「それじゃ、ちょっくら国王様に頼み込んでくるわ」
そう言って、カミルとオベスが出て行った。
「で、妹様は何故、不機嫌オーラを振りまいているのでしょうか?」
さっきから一言も喋らず、顔を顰めているアリスに話しかける。
「……兄さん、もしかして、初めから私をこの人達に押し付けるつもりだったのですか?」
俺が、アリスを手伝う気が無いと言った事が気に食わなかったようだ。
「まぁ、あの2人、王国軍が率先して手伝ってくれるのなら、任せようとは思ってたな」
「ユーストレイア様にも頼まれてたのに? あの時手伝うって言った言葉は嘘だったんですか?」
痛いところをつかれる。
「いや、違くて……」
「何が違うんですか?」
アリスが、髪留め(俺)を取り外し、睨みつける。
あー、これは本音を言わないと納得してくれないやつだ。
「…………はぁ、わかった。ちゃんと話すよ」
「聞きましょう」
「お前がやろうとしている事は、素晴らしい事なんだ。主神から信託を受け、正義を執行する。これは今後のアリスの人生においてプラスに働く事は間違いない」
「それと兄さんが手伝わない事に、つながりがあるとは思えないんですが?」
「あるよ? 俺が手伝うと、この素晴らしい実績に汚点が残る。伝説の魔物とアリーシア・ラントヴィルトの間に何かしらの関係がある、と言う事実が残ってしまう」
「そんな事は……」
「無いとは言い切れないだろ。お前の手助けは王国軍が適任なんだよ」
「…………」
俺の言い分も納得する部分があったようで、アリスは黙ってしまった。
「あー、えっと…………」
微妙な雰囲気に耐えられなくなり、何か言おうと考えるが、いい言葉が思いつかなかった。
「兄さんの、自分の事より私の事を考えてくれる。それはとても嬉しいです。でも、さっきの兄さんの言葉は嫌いです」
アリスの言っている意味がわからず、首をかしげる。
「大切な人の悪口を聞くのは辛いです。それがその人自身の言葉でも……、魔物だから嫌われても仕方がない。いない方が良い。そんな悲しい事言わないでください!!」
そう話すアリスは泣いていた。大粒の涙をこぼしながら怒っていた。




