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二十ページ目『孤独の戦い』

これまでのヒーローの鏡:チュパカブラ血雷だった葉中は町の人々を血雷に変えるため消えてしまった。行く手を遮る無数のオーク血雷をセリの強力な想力により全滅させることができたが一緒に鏡は気絶してしまったのだった!

 ボクが目を覚ました時、目の前には瓦礫がうず高く積まれた山があった。

 未だに頭がぼんやりする……なんで、ボクこんな所で寝てるんだっけ?

雪里せつりごめん、ボク……」

月代つきしろちゃんじゃなくて、ごめんなさい」

 意外にも聞こえてきたのはセリの声だ。

 てっきり雪里が残っているのかと思ったのだが。

「セリ……なのか、雪里は?」

「月代ちゃんと近田ちかだは、先に葉中を追って行きましたわ。セリは、あなたの無事の確認を頼まれましたの」

「アイツは怪我人だぞ、行かせたのか?」

「近田をつけたから平気よ」

「んなこと言ったって」

 あれ? 立てない……

「まだ動けるわけないでしょ? 鎧装がいそうも無しで、セリの技を間近で受けたんだから」

 …………

「お前は行かなくて良いのかよ?」

「セリは、しばらく想力(そうりょく)使えないもの、行っても仕様がないですわ」

 ボクは震える脚を抑え、近くの瓦礫を使いなんとか立ち上がった。

「…………もしかして、月代ちゃんの所へ行くつもり?」

「……あぁ」

「はぁ、あなたさっきの戦い見てなかったの? 月代ちゃんの骨折は完治してるのよ。あなたは必要ないの。だから、とっととお家に帰りなさい」

「…………お前は力があるのになんで行く気ないんだよ」

「だからぁ、セリはしばらく戦えないの、戦力にならないなら行ってもしょうがないわ」

「戦力になるならないの問題じゃねぇと、ボクは思うんだ……」

「ホントあなた、戦いって言うのをわかってませんわ」

「そうか……まぁいい、ボクは雪里の所、行くよ」


 セリに手を引かれる。

「あなたは必要ないのよ」

 ボクがそれを振りほどき。

「そう言う問題じゃないんだ。ボクは、行くんだよ!」

「子供じゃないんだから、いい加減になさい。あなたなら分かるでしょ? 想力()のない人間が行ってもなにもできないことくらい」

 確かに……セリの言うとおりだ。バスターを持ってなきゃボクはただの人だ。鎧装を纏えなきゃ、想力も操れない……だから、って……

「ボクはもう、部外者じゃないんだ。こんな事態になって『戦力じゃない(必要ない)から帰るぜ』なんて呑気な事言えない。きっと、ボクにだってできることがある……ッ!!」

 セリにビンタされた……

「ほら、こんなビンタで膝ついてるような子じゃ、行ったってなにもできませんわよ」

 確かにその通り、セリが言ってることがわからないボクじゃない。寧ろ、よく分かる。数多くの主人公達が、こう言う逆境に立たされてきた。

そして、打開してきた……だから、ボクも同じように打開できる! ……とは、言わない。

 言わないけど、そんなことが行かない理由にはならない。今だって雪里が苦戦してるかもしれないだろ? アイツは天然で、すぐドジッたりするからさ……

「ヒヒ……セリがなんと言おうと、ボクは行くよ」

「……呆れた。もう、勝手にしなさい。死んだって知りませんわ」

「死なないって……ボク、主人公だぜ?」


 非現実(ファンタジー)への案内人は女の子。これがボクの、人生哲学。現に月代雪里はボクをその世界に導いてくれた。ボクはまだ彼女に恩を返せていない……ボクが代わりに戦ってくれているのが、すごい助かっているって言ってたけど、そんなことで恩を返したつもりはない。ここに導いてくれた恩を返すのは一生かかるかもしれないけど……必ず返す。

 町が見えてきた、雪里に電話をかけてみるが当然出ないよな……

「探すの骨折れるぞ」

 スマホで時間を確認する。

「……こりゃ、母さんにかなり言われるなぁ」


   ×   ×   ×


 なんとか走れるくらいにまで回復してきたぞ。

 今ボクは泉心(せんしん)高校の校門前に来ている。行くときは想力のおかげで楽だったなぁ。無くしてわかる想力の有り難み!

 流石にもうかなり遅い時間だ外を出歩いている奴はいないよな、コレなら血雷ぢらいがいても騒ぎにはならなそうだな。

「あれ? カガミじゃね?」

 この声は……

「オーやっぱりカガミじゃん! どうしたんだよ。こんな夜中に?」

「ハルカスこそ、何してんだよ? イタ、殴るなよ」

「誰がカスだ……俺はほら、コレの家から帰ってるとこ」

 ニヤつきながら小指を立てて見せてきた。まぁだいたいそんなこったろうと思ったよ!

「にしてもおめぇ着てるもんボロボロだけど何してたん? ……もしかして、魔王を倒す為の、秘密の特訓とか?」

「……イヤ、そうじゃないけど」

 クソこいつ邪魔だな、ボクは雪里を探さないといけないのに。

「だよな。そんなことしてたら大草原だぜ」

「あぁそうだな。じゃあボクは行くから」

「んだよ。釣れねぇなぁ今日の話聞かせてやりたかったのに」

 聞きたかないっつーの。


 踏音(とういん)が聞こえたのはボクが、ハルカスと別れようとしている時だった。

「おわっ! なんだ? 雷?? こわっ!」

 今のはかなり近いぞ。ボクは戦えないし……ハルカスも居る。

「どっか落ちたかも、危ないから早く帰れよ」

「こんなに天気いいのに? おかしくないか?」

 良いから帰ってくれよ…………!!

 ハルカスの向こう側に血雷がいた。人の形を保っているので一瞬見間違えたが、目は血走ってるし、肌には血管が浮かび上がっている。紛うことなき血雷だ。多分、凡血雷あたりだろう。

 ボクはハルカスの服を引っ張り校門の影に隠れる。

「何だよカガミ。急に?」

「シッ! 静かに!」

「は? お前なんだよ気持ちワリィな。俺にそのケはないぞ」

 何少し赤くなってやがる。ボクにだってないわ!

 事情を説明できないのが辛いな。

 早くどっか行ってくれよ……ボクはここでこんな事をしてる場合じゃないんだ

「もう! いいかげんにしろよカガミ!」

 体格では分があるハルカスは力づくでボクの腕を振りほどいた。

「おい、バカ行くな!」

「はぁ? お前より頭良いわ……あ? 何だアイツ?」

 やばい、まだそこに血雷いたのか。

 血雷は、ボク達の方を血走った目で睨みつけている。しかし、その口元はニタニタと笑っていた。

「カガミ、アイツ見ろよ。やばくね? 目ヤバ! キッショーマジ草、草だわ」

 ったく、なにわろとんねん。

 やべ! こっち来たぞ。

「行くぞ、ハルカス。関わるなって」

「ビビってんのカガミ? ヘーキだって、おっさん何こっち睨んでんスカ?」

「声かけるなよ!」

「は? だから、何ビビってんだよ?」

 !! こっちを向いたハルカスの真後ろには腕を振り上げた血雷が迫っていた!

 ボクはとっさに、ハルカスの胸倉を掴み引き倒した。

「イッテー! 何すんッ! ……だ……よ。」

 ハルカスの立っていた場所にはクレーターができていた。勿論この血雷がやったわけだ。それを見たハルカスはようやくこいつのヤバさがわかったようだ。物分りの良い友人を持って助かるよ。

「ヒッヒィィ!!」

 あんな事言ってたくせに、ボクを置いて逃げちまうんだからな……本当、良い友達を持ったよ。


 さぁて、こいつをどうするかが大問題だ……ハルカスを追わなかったから、次の狙いはボクだろ?

 日々の特訓のおかげか、雪里の教え方が良いのかわからないが、大月穿だいげっせんなくても結構避けれるもんだな。

 だけど、全くボクの攻撃は聞いてる様子はなかった。そうだよなぁ、こいつらにはバスターが必要不可欠。

「そこ行く少年、お困りのようやなぁ」

 !!!

「この似非関西弁は!」

 目の前にいた血雷は、突然垂直にすっ飛んでいき空中で霧散してしまった。

 そして、鎧装を身に纏った近田が腰に手を当て現れたのだった。

「誰が、似非関西弁やて? 怒るでしかし」

 はぁ、なんとか助かった……一時はどうなるかと思った。

「にしてもよく来れたな植君。バスターもなしに何ができると思っとんねん」

 こいつもそれを言ってくるのか……

「セリさんにも似たようなこと言われたやろ? あの人の事だから、もっとキツイ事言ったと、思うけど」

「まぁね……でもやっぱりボクは、あの場で逃げ出す訳にはいかないです。今みたいに、友達が襲われたならなおさらね」

「…………言うやんけ。まぁ、植君の気持ち、俺はわからんでもないで。女の子達にはわからん感覚かもな。アレやろ? 勇者にでもなったような気分やろ」

 ……本当にこの人とは話が合うなぁ。初めて……いや二人目か。ボクが、苦手としている女子の顔がチラつく。

「そうです。よくわかりますね」

「あったりまえやん。俺ら男やで? こないな状況なったら、そう思うやろ普通」

「ですよね! あっそうだ。同じ男のよしみで聞きますが、ボクのヒロイン(雪里)がどこに居るか知ってます?」

「月代ちゃんのとこ行くんか? あの子なら葉中邸にいるで」

 なるほど葉中の野郎自分の家に帰ったのか……ここで二つの踏音が聞こえた。

「なんやまた踏まれたんか……まぁしゃあないか、豚が結構町に放たれてるからなぁ。あれ見たらショックやわそら」

「……じゃあボクは雪里のとこ急ぐので!」

「おーい植君!」

 少し走った所で近田が呼びかけてくる。

「そない生身でホンマに月代ちゃんのとこ行くんか? アブナイで?」

「あたりまえじゃないですか。ボク、主人公ですよ?」

 それだけ答えボクは葉中邸へ向け駆け出していった。

「そやな……」

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