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十八ページ目『夢を食べる』

これまでのヒーローの鏡:初めてちゃんとしたマインスイーパーが戦うところを目の当たりにし圧倒されてしまう鏡。しかし、自分を奮い立たせ、彼の戦いが始まった。

 ボクは華麗に大月穿だいげっせんを振り回し、オークの前でビシッと戦闘の構えに入るのだった。

 律儀に待っていたこのオーク、わかってるじゃあぁないか。

「…………」

 ヒヒッ? ……こいつ、今までのオークに比べてなんかでかくないか?

きょう君! そいつ今までのオーク血雷ぢらいとは違うみたい!」

「ハァ?

「ホンマや……金か……」

 金? ……想力そうりょくのカテゴリか!

 今まで読み取れなかった想力が分かったって事?

 しかも、金ってやり辛いな……っと!

 いきなり攻撃してくるとか、この野蛮人……野蛮血雷め!

『プルギュギギギギィィッ!』

 こいつがオーク血雷の親玉ってことなのか?

 ボク自身のカテゴリは水だが、大月穿は月だぞ……相性は微妙だな。

 オーク血雷は右手に槍を左手に石斧を装備していた。

 近づくと石斧が迫り、離れると槍での突きが来る。リーチで言えばそこまで大差ないがホントにめんどくせぇな!

「あぐっ……」

 思い切りマントを引っ張りオレは地面へ叩きつけられる。ちとマント長す過ぎるのかな?

 そして、容赦なく踏みつけてっ!

「ガ……」


「はぁ、もうお終いやな」

「そうですわね。やっぱり私が処理った方が良かったわ?」

 聞こえてるっての! ったく……こんなピンチは想定の範囲内よ。

 ボクは大きく息を吸い込む。

「待てよ……まだだぜ」

「は?」

 イメージは万全だ。特訓の成果を見せてやる!

 醜い腹に向かって右手をかざす。

 ボクの右手に想力が集まる。青い光は水カテゴリの証、そして、ソフトボール大の想力の塊になった辺りで右手を握りしめる。すると、一気に縮こまり大体ビー玉くらいの大きさにまで圧縮された。


『……夢志斬バクー


 つぶやくようにその名を口にし握った手を開く、ビー玉クラスにまで圧縮された想力が一直線に向かって射出された。それは、水のレーザービーム! オーク血雷の醜い腹を突き抜ける。

『ゴポォ』

 少し血を吐きやがった。勿論、コレで死ぬような奴じゃないだろう。想定通り、こんなちっちゃい穴が空いたくらいで処理できりゃ楽だわ。しかし、夢志斬の真骨頂はここから……

 夢志斬が出たままの右手を更に振り上げる。

『ギュピピピュュルルゥ』

 ボクが手を払うと夢志斬は消えてしまう。

 そして、オーク血雷の上半身は真っ二つに裂けていき、そのまま後ろへ倒れなが霧散していった。

 コレにて、処理完了!


「なるほどですわ。さながら”ウォーターカッター”と、言った所かしら?」

 まさにその通り。最近、夕方の報道番組で特集をやっているのを見たんだ。なんでも、ダイヤモンドも切ることができるらしい。

「それにしても、植君大丈夫か?」

「ハイ……なんとか」

 雪里せつりに起こしてもらい、鉄の味がする唾を吐く。この程度、戦闘になると毎回だ……鎧装がいそうのおかげでダメージは最小限に抑えられている。

「ふん! ”妥協点”って所ね」

 ケッ可愛くない奴!


   ×   ×   ×


 ヒッヒッヒッ、いよいよ、このダンジョン探索も出口に到着したようだ。

 ボクの倒したオーク血雷がこのダンジョンの親玉だったんだろう、アイツを倒した後一体たりともオーク血雷は出てこなかった。普通こんなダンジョンだと、コウモリ系のモンスターが出てきても良さそうなものだけど……

 今、ボク達の目の前には、来るときに使ったものと似たハシゴが、地上に向かって伸びていた。

「よっしゃ、俺が先に登んで」

「いや、今回はボクが行きます」

「なんや、植君ヤル気満々やな!」

「それほどでもないです」

 入るときはダサイ感じになっちまったからな。なにより、セリの奴、ボク相手に本気になってくれていることがわかった。それなのに罠だなんだと思っていたのが恥ずかしくなったんだ……

「ま、いいですわ。先に行ってちょうだい」

 小脇に大月穿を抱えハシゴを登って行くのはしんどいので一旦雪里に返却。出ていきなり戦闘とかなったら洒落になんないけど……


「三人ともどうやらここを開ければいいみたいです」

 ボクの頭上には取っ手の付いた扉が行く手を阻んでいた。この扉を開くのは骨が折れる。何より滑ったら終わりだ。

「オッモイ!!」

 全身を使って押し開ける!


 大木の窪みにあった入り口の扉は薄かったにもかかわらずこっちの扉はかなり重厚だった。やっとの思いで扉を開け頭を出すとそこは厨房のような場所であった。

 なるほど、こんな所に抜け道への出入り口があるとは思わないよな。

「お客陣はやっと到着かい? 全く、待たせるんじゃないよ……」

 ボクの目の前にいたのは、銀色のボウルと泡立て器を持った「葉中新明はなかしんめい」だった。


「こっちはケーキを作って待ってたんだ。生クリームは鮮度が命だからね。ほらお食べよ」

「ほらな? ケーキ作ってたろ?」

「よくこの状況でそんなこと言えるね」

 ヨダレ垂らしてる雪里には、言われたくないなぁ……ボク達は逃げることはできず、葉中の部下に捕まってしまった。しかし、縛られたりするわけではなく、通されたのは、如何にもお城なんかで食事会するような長テーブルの置かれた部屋だった。長テーブルの一角に着かされ、目の前にはホールで人数分のケーキが振る舞われた。

 ボクはいちごのショートケーキ。

 そして、ボク達四人の向かいにシェフ的な格好をした葉中。

「大丈夫、毒なんか入れちゃいないから。そんなことする意味ないから」

 そう言うと、身を乗り出しボク達のケーキを一口づつ摘んでいった。毒味アピールか……

「で? 君達は何しに来たんだ? と言うか、ここ二日ほど家の前に張り込んでたみたいだけど?」

 バレてるのかよ……

「率直に聞きます……モグモグ」

 雪里さんまじっすか……平然と出されたブッシュドノエル食ってるよ……ある種凄みがある。

「チョットその前に、味はどうですか?」

 …………は?

「……私は良いと思います。具体的に言うとまず周りのチョコ。少しビター目なのがグッド。なんでかって言うと中のロールケーキ、生地に包まれているのは、芋……安納芋かな? ビターにすることで甘さがかなり引き立っている。そして、フォークがさっくり刺さるかと……」

 ……何を真面目に回答してるんだよ! 葉中の奴も律儀にメモ取ってるし、品評会に来てるんじゃないんだぞ!

「とまぁこんなところですかね? 改良の余地はまだあります。コレはまさしく、伸び代ですねぇ」


 勢い良く立ち上がり、ズカズカと雪里の元へ葉中がやってくる……オイオイ、失礼なこと言ったんじゃないのか?

 しかし、二人はがっしりと握手を交わした。

「お嬢ちゃん、よく言ってくれた。うちの者は気を使って、そこまで言ってくれる奴はいなかったんだ……」

「いえ私は思った事を言っただけです」

 何やってんだこいつら……拍子抜けだなぁ。きっと、葉中は特別悪いことをしてたわけじゃないんだろうな、ダンジョンに出てきたオーク血雷は、あそこに生息してたかなんかだろう。で、ここの出入り口が重厚だったのは、奴らが入ってきて襲われない為だ。

「いい加減にしてくださる!!」

 テーブルを叩きセリが声を荒げる。

「こんな、おふざけの為に来たわけではなくってよ! 葉中! あなた、血雷を操っていますわね?」

 叫んだ彼女は、鎧装を身に纏っていた。

「……何だ、やっぱり君達はマインスイーパーだったのか……」

 これが鎧装だとわかり、マインスイーパーの事も知っている。と、言うことは……この人もマインスイーパー?

「あなたの周りには想力の流れがありますわ……」

 はぁ、やっぱり本物のマインスイーパーは見ただけで想力が分かるのか……

「只の人間が血雷とつるんで、何をやっていますの!?」

 葉中は少しの沈黙の後、ニヤリと笑い。ボクらの残していたケーキを一口で食べていき、元の席に戻っていった。

「わたしの事を何も知らないで、ここまで来たってのかよ? ゲッフゥ……まぁ、冥土の土産に教えてやるよ。ここの地下で豚の血雷にあっただろ? アレはわたしの創りだした血雷だよ」


 !!!


 ボク以外の三人はすごい驚いたような表情をした。

「一体でかい奴がいただろ? アイツをベースに、オーク血雷を複製し、人為的に血雷を寄生させ、強制的に覚醒させたって所だ。しかし、まだ不完全でな、想力がからっきしなんだ。言う事は聞いてくれるからまだいいけど」

「んなアホな! 血雷を複製やて! ……いや、それだけちゃう、人為的にて……あぁもうツッコミどこ多過ぎや!」

「別にツッコんでもらおうなんて思ってないさ」

「仮にそれができたとして、なんで人間のあなたがそんなことを? 血雷は人を襲うはずです!」

「そんなの答えは簡単だよ……」

 すると、空気が震えるのがわかった。その感覚を三人は察知したのだろう、一斉にテーブルから飛び退いた。

 それとほぼ同時に、雪里と近田はバスターを起動させ、鎧装を纏った。

 ボクは何が何やら解らなかったが、雪里に襟を掴まれ一緒に移動させられている。何が起きているんだ

 確かに、ただならぬものを感じたが……そして、部屋の中に響く爆音。


 ……踏音……か。


「わたしはさっき、毒は入れていないって言ったよね。加えて、そんなことはする意味ないとも言ったよなぁ……」

 葉中は語りだすと、着ていた服が全て弾ける。

 その目は何倍にも大きくなり血走り、全身には赤黒い血管が浮かび上がった。そして、肌はウロコのように変わっていき、後頭部から背中にかけて棘のようなものが生えてくる。


 体長一メートル程の小柄なソイツを、ボクは見たことがある……

「何だ、こいつ……『チュパカブラ』?」

 葉中だったソイツは牙を見せつけ、ニンマリと笑った。

 世間を騒がせたUMAチュパカブラが、ボク達の目の前に姿を表したのだった。

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