表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/54

自覚の芽生え◇それぞれの

 ――運命の日は、明日。

 キオウ父子が眠りについた深夜。デスティニィ号の仲間達は厨房に集まっていた。

「…明日で全てが終わるな」

「皆しっかりやってちょうだいな。ご馳走作って待ってるからさっ」

 留守番のカイとインパス。

 ジークはケッと毒を吐く。

「賢者がいるんだぜ? 俺らがわざわざ出る必要なんざねぇと思わねーか?」

「確かにキオウは賢者だけど、キオウは一応まだハタチだよ? 齢を重ねた賢者サマとは違うよ。

 …それに、キオウは限界だ。ショウカに行くだけでもかなり消耗するのに…、無理を重ね過ぎちゃったんだよ」

「出だしではりきり過ぎただけだろ。オヤジにいいトコ見せようとして」

「ミもフタもないことを言わないで」

 やれやれと笑うレイヴ。

「でも…。キオウがダウンしたあたりからさぁ、いろいろあったよねぇ」

 しみじみとしたインパスの言葉に皆が頷く。

「いろいろあったけど…、楽しかったなぁ」

「うん」

「アゼルス様と一緒にいるときのキオウ、子供みたいな雰囲気だったよねー。まさに『チビキオウをデカくしました!』って感じ」

「12年も離れ離れだったんだからな…」

 そう呟いたカイの顔は、どこか寂しさを感じさせた。

 カイの複雑な内心を想い、レイヴは表情をくもらせる。

「――…ねぇ」

 それまで黙っていたキーシの声には、深い何かが宿っていた。

 それを感じ、全員がキーシを見る。

「あたし…、記憶を元になんて戻したくなくなっちゃった」

「え?」

「キーシ?」

「あたしが本当は誰で、どこで生まれて――…、本当なら今頃はどこにいたのか」

「…キーシ…」

「だって、あたし…。ずっとずっとこの船にいたいもん。みんなから『キーシ』って呼ばれて、ラティをこき使って、一日中ずっと見張り台で海を見てるの。

 これからもずっと、そうしていたい…」

「ちょ…ッ! ボクをこき使って、って――…はぁ…、まぁいいけど。

 でも、キーシは前からずっとそう言ってるじゃん。キオウさんが記憶を戻してくれるって言ったときだって、記憶があってもなくてもこのまま船にいるんだ、って言って――」

「ラティ、そういう言い方はあまり良くはないぞ」

 カイにたしなめられてしまい、ラティは不満から口を尖らせてキーシに視線を戻し――…絶句した。

 うつむいたキーシが拳を握り、目に涙を溜めていて――。

「………」

 …キーシの涙ははじめてだ。

 今ここにいるキーシは、普段のあの気丈な少女ではない…。

「あたしね…、思うんだ。知らなくてもいいこと、思い出さなくてもいいことが、世界にはあるんだ、って」

「キーシ…」

「記憶がないってわかったとき、とても不安だった。だけど、記憶がないおかげで皆と一緒にいられるんだって思うようにして、毎日を楽しく生きようって決めたの。

 アゼルスさんが前の王さまだってわかったときは『もしかしたらあたしもお姫様だったりして!』とか想像して楽しくなったりして。

 ――…けど…」

 そばかすの頬を絶え間なく伝っていく涙。

「…最近はこう思うようになったの。

 あたしの記憶喪失は、アゼルスさんみたいに魔法のせいじゃない。

 あたしは、あたしが、あたしの記憶を消したんだ――って」


 ――…自分で。


「何か…嫌なことがあって、それから逃げたくて、忘れたいと思って――…。それで、本当に記憶が消えて…。

 …あたしはそんな場所にいたんじゃないかって…、そう感じるの」

「………」

「ジーク、どうしたの? 顔色が…」

「…なんでもねーよ」

 ふと、全員が思った。――何故ジークは暗殺者などしていたのだろう、と。

 ジークは喜々として人を殺す人間では決してない。それは全員がよく知っている。なのに、何故――?

 しかし、誰もその疑問を口にはしなかった。

「キーシはここにいればいいんだよ。でないと、ボクもつまらないもん。キオウさんだって、ずっといていいって言って――」

「…だって…。キオウさん、いなくなっちゃうかもしれないから…」


 ――全員の思考が、止まった。


 それは、全員が考えないようにしていた可能性だった。

 キオウはショウカを混沌の時代から救った英雄王アゼルスの、唯一の実子。この事実だけは覆せない。

 アゼルスは何があったとしても、キオウを守り続けることだろう。それこそ――、国そのものを敵に回したとしても。

 だが、キオウ自身はどうするだろう…?

「キ、キオウさんはずっとこの船にいるよ。ボク達と一緒にいるよっ」

「そう…そうだね……」

 だが――…、アゼルスと一緒にいるときのキオウはとても幸せそうだった。アゼルスが来てから、その記憶を戻してから、キオウはずっと生き生きとしていた。

 輝いていた…。

「……キオウ…、帰っちゃうのかな…」


 ――本来いるべき場所に。


「俺達がどうこう言って解決できる問題ではない」

「カイ…」

「それは、キオウが決めることだ。俺達が決めることでも、アゼルスが決めることでもない。

 キオウ自身が決めるべきことだ」

 ――…みんなだってそうだ。

 この船に乗ったのは、自分自身の意志。

 そして。


 この船から降りることも――。


「………」

 深く舞い降りた沈黙。

 誰ひとり、言葉を発することができなくて…。


 ――――ジークが動いた。


 厨房の窓を全て開け放っていく。冷たくも心地良い夜風。慣れ親しんだ潮の香り――。

 最後の窓を開けてしばらく外を眺めた後、ジークはゆっくりと振り返った。

「…俺はキオウがショウカに残ることは絶対に認めない。絶対に、だ。お前らは?」

 間が空き、インパスが口を開く。

「…皆の批難を覚悟して言うよ。

 俺はキオウが欲するのなら、アゼルス様と一緒にいて欲しい。俺はアゼルス様を知ってる。ショウカを知っている。

 だからこそ、思うんだ。キオウが望むなら、そうしてほしい」

「俺はあいつの意志に任せる。10年近くも一緒にいたんだ、情は当然ある。

 だが…、あいつはあいつだ。俺はあいつがいなくなったとしても、この船の舵を辞めるつもりもない」

「…俺は…、そのときにならないと、まだよくわからない。マジでわからない。

 うわーっ、なんて優柔不断なの俺っ! 言っとくけどさ、生死を賭したトレジャーハント中は躊躇は皆無だよ俺ッ。人間関係絡みだとグダグダになっちゃうのッ」

「ボク…、ボクはキオウさんと一緒にいたい! 一緒にここにいたい!」

「あたしも…、キオウさんがいなくなるのは嫌!」

 ジークはニヤリと笑い、全員を見回した。

「俺は、それでいいと思う。それで、アイツに言うんだ。自分の意見をさ。それで、アイツと話し合って、いろいろ言いまくって――…それでいい。

 それで決まったことには、文句はねぇだろ?」

「…ジークってホントにいいヤツだよなぁ。俺よりしっかりしてるよ」

 レイヴは自分に苦く笑い、うん、と頷く。

「悩んでいるのは俺達だけじゃない。閣下も悩んでいるんだ。キオウだって…、悩んでいると思う」

「とにかく、明日だ」

 カイが力強く頷いた。

「全ては明日を終えてからだ。さっさと寝て、明日に備えろ」

「一番悩んでいるのは…、俺達でもアゼルス様でもなくて、キオウだよ。俺達がうじうじ悩んでいても仕方がないんだ」

「そうだね。

 ――…んー…。インパスってば、たまにはマトモなこと言うなぁ」

「たまにには、って酷いなぁ」

 厨房に響く明るい笑い声。

 全員、いつもの調子を取り戻したようだ。



 ――…厨房の外でこの会話を聞いていたキオウは、ギュッと強く目を閉じた。

 仲間の優しいあたたかさを、キオウはしっかりと刻み込む。

「………」

 そして――もし自分が他の《分岐路(みち)》を選んでここまで来ていたとしたら、この感情を一生知らないままだったのだろうな…、と――。

 そう、感じた…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ