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賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


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自覚の芽生え◇過去の決別

 室内に自分以外の気配を感じ、ウィズジーは静かに目を開けた。

 夜明け間近の時間帯。カーテンの向こう、東の空にはうっすらと明るみが宿りつつある。

「…アゼルス、お前か」

「はい」

 甥の姿に、ウィズジーはゆっくりと体を起こす。

「やれやれ、今宵の冷え込みはちと酷だな。――ああ、助かる」

 目に見えない守護者が暖炉に火を灯し、ウィズジーは感謝に目を細めた。

 暖炉の近くにあるソファを甥に勧め、自身もまたその向かいへと座る。

「ん、お前だけか? キオウはどうした?」

「私を届けてから、私が再び喚ぶまで休む、と。

 ――見た目以上に疲れているのだろうな…。可哀想に…」

「お前をひとりにするとはあの子らしくもない。…いや、違うな。あの子がそれほどまでに辛いという証か。

 帰りはこちらが力をお貸ししよう。頼めるか?」

 守護霊は笑みを浮かべて頭を下げる。

「彼女は了承したぞ。キオウを想うのなら、素直に好意を受け取れ、アゼルス」

「…ありがとうございます」

 アゼルスは心遣いに目を細め、謝辞と共に頭を下げた。

「さて…、大変なことになったな」

「ええ…」

 アゼルスは苦吟に顔を歪ませる。

「何をどのようにねじれば、アグナルに非難が高まるのか…」

「…民衆は、現王(アグナル)前王(アゼルス)を弑したのでは、と思っておるようだからな。そして急激な態度の変動、内戦の勃発…。これでは王を疑うのは自然だろう」

「しかし、それらはすべてあの女が仕組んだことだ。

 アグナルは…、私の後をうまく継いでくれていた。私の補佐など必要がないほどに」

「そうだな。確かにアグナルは良い王だ。世界規模で見てもな。

 だが、あえて言うならば――…。お前の治世があまりにも素晴らし過ぎるものだった、ということなのやもしれぬな」

「…私はどのような反応を返せば良いのか、判断に困るお言葉ですね」

 アゼルスは目を伏せ、自分が王位を継承した頃のことを思い出していた。


 父王の死後、残虐王の血筋を根絶やしにしろという声も皆無ではなかった。民の不信は絶望的な大きさだった。諸外国もショウカから距離を置いていた。王命に従うべき家臣や貴族達は、父王時代に甘い蜜を覚えて腐敗しきった者達ばかり。

 正義を貫けばいつかは叶う、などという綺麗な理想とは現実は違う。自分は命を削るがごとき勢いで、ひたすらに挑み続けなければならなかった。

 すべてはショウカとショウカのの民のために――否、それも綺麗事だろう。真の理由は、自分達王族の首を繋ぎ続けるため。そして…、キオウの未来のために。

 通常の人間ならば到底続けられるものではない超激務を長年し続けられた理由は、アゼルスの人柄と力量だけではない。アゼルスを支える存在――城から離れてあたたかく迎えてくれる屋敷と、あの腐蝕した世界を知らない無垢なキオウの存在のおかげだ。

 あの子がショウカで過ごした年月は9年ほどだが、実際に自分と過ごした時間などはたしてどれほどになるか…。それでもあの子は寂しさを我慢し、自分を慕ってくれた。あの子がいてくれる――、ただそれだけで自分は救われた。あの子がいなかったら…、間違いなく自分は今生きていなかったと思う。

 だからこそ…、キオウを失った自分は退位を選んだ。今の自分がこのまま王位に留まっていては、今度は自分がショウカを堕としてしまう――。そう思い、自分は王座を弟に渡した。

 それはもちろん譲位への準備を整え、民も他国もショウカとショウカの王家を認めてくれたのだと――このタイミングで自分が退いても大丈夫だと確信したためでもあるのだが…。


「アゼルス、一体どうするつもりだ? 執行日は…、3日後だろう?」

 叔父の声に現実へと戻り、アゼルスは組んだ手に力をこめる。

「…弟を見殺しにはしない」

 ウィズジーはそんな甥を静かに見据えた。

「お前ならば私以上にわかっておるだろう?

 王族にとっての最大の敵はな――、民そのものだ。民に必要とされぬ王は長く続きはせぬ」

「だからと、アグナルを犠牲にする必要など皆無だ。

 ――それに、これは私の無責任が招いた結果でもある」

「…できうるかぎりに、力を貸そう。お前達兄弟が必要とする以上、私はお前の力となろう。叔父として、家臣として…」

「叔父上…、ありがとうございます」

 ウィズジーは深くソファに身を沈め、ため息をついた。

「――あの兄の治世下でも、その死後でも、お前には本当に助けられた。妻と子を兄に消された私は、お前達兄弟の成長を支え見守ることに幸せを感じていた。

 …なぁ、アゼルス」

 ウィズジーは甥を静かに見つめる。

「お前は、優しすぎるのだ。少しはあの父親のように振る舞ってみろ」

「…私に、アレのようになれ、と?」

 皮肉で痛々しい笑みに、ウィズジーは首を横に振る。

「何故お前がキオウを隠し続けてきたのか…、私にはわかる。我が守護者からあの子の存在を聞かされた瞬間からな。…私はお前が畏れている『それ』を痛々しいまでに哀れに思った。

 お前は…、あまりにも多くの死を目にしてきたからな。心許せる数少ない家臣、母親、兄弟達――…」

「………」

「お前は、あの父王とは別の存在なのだぞ? 同じ血を引くとはいえ、別の存在なのだぞ?

 お前はあの子を政争の道具にする真似はせぬ。ましてや、あの子を殺すなどするはずがなかろうて」

「……いや…、それは…」

「それこそがいかんのだ。過去の過ちに囚われるな。今のお前ならばせぬ。何があっても、絶対にな。

 いいか。はったりでも構わぬ。おもいきり吼えてやれ。案ずる必要などありはせんのだ。お前は、守られておるのだからな。

 ――お前が守りたいと強く思う、その者に」


『――…もう、大丈夫だから…』


 我が子の呟きを思い出し…、アゼルスはギュッと目を閉じる。

 あのときはその意味がわからなかった。

 だが…、もしかしたら、あの子は――…。


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