自覚の芽生え◇青天の霹靂
城を混乱させ、王都中を騒がせ、さらには王都の外にまで発生した怪奇現象――。
これらすべての原因はアグナルだ、という噂が、不自然な突然さで沸き起こった。呪いだ祟りだと混乱が起こり、ついには「悪魔と契約した王の首をとれ!」と、兵と民が蜂起したのだ。
そう仕向けたのは間違いなく――…城にいるあの女だろう。
「どーしてこうなっちまうんだよッ!」
髪を掻きむしって叫ぶキオウ。
アゼルスが沈痛な面もちで目を伏せる。
「…キオウ、アグナルを連れ出せるか? これで弟の首が飛ぶとは…、さすがに私はこたえるよ」
キオウは様々なことを頭の中で計算して「…ああーッ、ムリムリッ!」と喚く。
「連れ出して終わる? 世間は次にウィズジーじいさんに目をつけるぜ。あのじいさんのことだから『自分で済むなら構わない』とかほざくはずだ。もしそうなっても、あの守護霊サンはウィズジーじいさんの意志を無視して強引に連れ出す真似はしない――つーか、出来ないッ。
俺なんかでは絶対に不可だ…!」
「…正気ならば、アグナルもそう言うだろうな」
「だろ!? ショウカ内から同意なしの相手を空間転移させるなんて、ショウカの《気脈》に総スカンされた俺には無理なんだよ…ッ!
ああッ、ちくしょうッ!」
自分の未熟さを恨まずにはいられない…! キオウはパニック状態で髪を振り乱している。
――ゆえに、彼は周囲が今どのような状況と化しているのかを理解していない。
「キ、キオウ…。落ち着きなさい」
手すりをつかんで突風をしのぎ、アゼルスは息子を見る。
キオウの苛立ちに触発され、船周辺には雨を伴った強風が吹き荒れていた。凶暴な風にラティが吹っ飛ばされ、海上に発生した竜巻にはまっている。キオウの守護がなければ、船自体も無事ではなかっただろう。
風雨と高波に、全員が手すりにしがみついている。魔力がないアゼルスやレイヴでさえ、賢者のこのめちゃくちゃな八つ当たりに精霊が悲鳴をあげている気がした。
「キオウ、落ち着きなさい。いい子だから、落ち着いて」
幼い頃にしたように、アゼルスはキオウの頭を抱いて声をかけた。キオウは迷い子のような目を父に向ける。
「父上、でも…――!」
「大丈夫だから、落ち着いて。
――ほら、ごらん。これでは、みんなが迷惑をするじゃないか」
「……あ…」
キオウはようやく自分がやっていることに気がつき――…愕然とした。
アゼルスは優しく我が子をなだめる。
「さぁ、この状況をおさめておくれ」
賢者をなだめるにしては、あまりにも手ぬるく無謀な言葉。
しかし――…父のそんな言葉だからこそ、キオウの胸には痛みを伴い、ズッシリと重く響く。
――…俺は…、本当にまだ…、未熟、なんだ…。
風がやみ、雲が晴れる。痛いほどの雨が赤子の肌を撫でるかのように優しくなり…、そしてそれも、消えていく――…。
「――…ごめん。みんな、怪我しなかった?」
「あぁ、俺らは平気平気。
でも…、ラティはどうかなぁ~…」
「え…?
――…うあぁッ!? 悪いラティ! マジで何やってんだよ俺ッ…!!」
海面にぷっかりと浮かぶラティの姿に絶叫し、キオウは慌ててラティを引き上げて水を吐かせた。
目を覚ましたラティが、みるみるうちに目に涙をためていく。
「んあああ~っ、本っ当にごめんなぁ…! 情けねぇよ、俺ぇ…っ」
泣き出してしまったラティに、キオウは半泣き状態で謝り続けた。




