真剣なんです◇全ては順調
青い空。白い雲。平和な波の音に、カモメの鳴き声が響いている。
そんな平和な船の日陰で――、無防備な寝顔で昼寝をしている賢者サマ。
丸まって追いやられた掛け物を直してやり、レイヴはやれやれと苦笑する。
「キオウってば、うらやましいなぁ」
あの幽霊騒動を起こす度に、城下のアゼルスファンから「戦利品」を戴いてくるキオウ。
今も初日にゲットした巨大なクマの巨大な足を枕に、スイカのようなペイント姿のまーくんを腕に挟み、まるでむさぼるように眠っている。
「てか、このクマとかその他諸々は、全部が閣下宛てのプレゼントってことになるんじゃあ…?」
「私も城下ではプレゼント攻撃をされたよ。うまく断って交わすにはコツが必要でね」
「愛されてますね、閣下」
アゼルスはレイヴの言葉に笑い、キオウの髪を優しく梳く。
「…無理はするなと言っているだろう…」
「俺達が想像している以上に、キオウにはハードなのかもしれませんねー…」
――キオウ、お疲れさま。
「ところで、叔父上達はどんなことをしているのかな?」
「俺が聞いた話では、古戦場でスケルトンの先鋭部隊が出たとか、笑うカボチャのお化けが飛び回っていたとか」
「…叔父上達も楽しんでいるようだね」
「俺は先日、絞首刑になった女の人にデート誘われちゃいましたよー」
キオウやまーくんと日々接しているおかげなのか、デスティニィ号の面々はそうしたモノへの精神的ショックには強いらしい。
アゼルスはくすりと笑い――、スッ…、と目を眇める。
「…さて、あの女はどう動くかな」
場合によっては、こちらが打つ次の手も変わってくる。そして万が一、どうにもならない状態に陥ったときは――。
――アゼルスがキオウを公の場に連れ出す。
退位したとはいえ、アゼルスを支持する声は強い。その息子が賢者であると皆が知れば、すべてがピタリと鎮まるだろう。
だがそれでは…、城から切り離して守ってきたキオウを巻き込んでしまう…。
「…閣下は絶対に回避したいんですね」
「私は…、この子にはこの子らしく生きて欲しいだけだよ。
――城は生き方を殺す場所だ」
「…ダンナには〔組織〕を使うって考えはねーの? そうすりゃ、キオウを巻き込む必要もねぇだろ?」
それまで沈黙していたジークだ。
この世界には戦争の介入から貴人の護衛まで請け負う集団〔組織〕が存在する。戦に〔組織〕を使う国家も確かに珍しくはない。
アゼルスは困ったように笑う。
「友好国との条約があるんだよ。どのような事態であっても〔組織〕を雇ってはならない、とね」
「ジークって〔組織〕苦手だよね」
ぶほっ!
今まさに飲み込もうとしていた水を噴き出したジーク。
その反応はアタリだね、とケラケラ笑うレイヴ。
「ななななんでッ?」
「最大ヒント。
俺は“探求のレイヴェイ・グレイド”、お前は“真空のジーク”。
以上っ」
「だから、なんでッ?」
鈍いなぁ…、とレイヴは哀れみの眼差しである。
「俺が酒場とかで“真空のジーク”を捜す人間にどれだけ遭遇してきたと思う? 中には〔組織〕も複数いたよ?」
「…」
「ま、それだけ追いかけられていれば苦手にもなるよねー。ご愁傷さま」
「…ヘコむからもう言うな」
「あはは、はいはい。
――…ん? ああ、ラティか」
上空でサーッと影が横切ったのだ。
「た…っ、たたた…ッ、大変だよぉぉぉッ!」
とてつもなく慌てて飛んできたラティは、墜落したのかと本気で見まがう着地をし、そしてそのままキオウの元へと――。
「あ、バカッ! 今キオウは寝て――!」
「キオウさん、起きて起きてッ! 一大事だよッ! 大変なんだよッ!! ホントのホントにどうしよ――…。
…ちょっとキオウさん、ホントに起きてよッ! ああッ、もう! ねぇッ、いいかげんに起きてってばッ!!」
ラティに飼い主をガクガクと揺さぶられ、まーくんがころころと転がり落ちた。
何度も何度もしつこく揺さぶられて、ついにうっすらと目を開けるキオウ。
「………あ゛?」
か、完全に目がすわっている…。これまでにないほどの不機嫌さだ。
ササッ…! とアゼルスの後ろに逃げるレイヴ。そこは一番の安全領域だ。
「………。なんだよ?」
「キオウさん、大変だよ! 今ね、渡り鳥達が言ってたんだッ。その渡り鳥達はショウカから来てね、それで――…!
んああぁぁぁッ、どうしようぅぅぅ〜〜ッ!」
「…んで? 何が大変だって?」
ラティは目いっぱいに息を吸い込んだ。
「キオウさん、どうしようッ! アグナルさんが殺されちゃうよぉぉぉ…ッ!!」




